南国を楽しむ

翌朝、食料を買い溜めしてから南下する。


イルサンの次はパンジャという街だ。その先から先住民達の土地になるとのこと。パンジャはシュベンタイン王国民と先住民達が混在する街らしい。


いくつかの村を超えてパンジャに到着。


「暑いなここ」


徒歩で3日程南下しただけなのにかなり南国気候に変わってきたので夏服を購入する。


「マーギン、海に行きたいっ」


ガキ共は元気満タンだ。


「海か、泳ぎたいのか?」


「海で遊びたいんだよ。ライオネルの海で遊べなかったじゃんかよ」


「なら水着も買わないとダメだな。ロッカ、お前達はどうする?俺達は明日海で遊ぶ事にしたけど」


「海か、私達も海で遊ぶか?こんな機会は初めてだからな」


ん?初めてだと?


「お前ら泳げるか?」


「いや、泳いだ事はないな。シスコ達は泳げるか?」


「私は無理よ」


「うちも泳いだ事はねぇ」


「私も海に入ったことはありません」


「うちも泳いだ事ないわ」


カザフ達も当然泳いだことなんてないだろうな。そういやミスティも海に入るの嫌がったっけな。水着が恥ずかしのかと思ってたが泳げんかったのかもしれん。この世界の人には水泳とかないのだろうか?


「マーギンは泳げるのか?」


と、ロッカが尋ねる。


「まぁ、人並みにはな。クロールと平泳ぎぐらいは出来るぞ」


「泳ぐのは簡単か?」


「その人次第かな。俺が生まれた国は泳げないやつの方が少なかったかもしれん」


「ほぅ、なぜ皆泳げるのだ?」


「学校で水泳の授業があるんだよ。だから最低限の泳ぎくらいは出来るようになる。それでも水が怖いやつとかは無理だったけどな」


「学校で水泳なんか習うのか?」


「泳げなかったら池とかにはまったら死ぬだろ?だから着衣水泳とかもやるんだよ。少しの間だけでも浮いていられたら助かる可能性が高くなるからな」


「ずいぶんと親切な学校だったのだな。この国だと学校は金持ちぐらいしか行かんからな」


そう、昔召喚されたアリストリア王国は15歳まで学校があったけど、シュベンタイン王国の学校は任意なのだ。シスコは初等部ぐらいは行ってそうだが、他は学校に行っていないのだろう。読み書きと簡単な計算は親から学ぶものなのだ。発展が遅いのはこういうのが原因なのだろうな。



全員明日は海で遊ぶということになり、水着を買いにいく。パンジャはビーチも近いのでちょっとしたリゾート地みたいな感じなのだ。


「マーギン、どんなのを選べばいいんだ?」


カザフ達も水着を見るのは初めてなので何を選んで良いかわからないようだ。


「サイズが合えば何でもいいんだよ。短パンみたいなのを選んどけ」


マーギンは短パンよりやや長めの半ズボンタイプを選ぶ。柄無しの黒色だ。カザフは紺、トルクは赤、タジキは黄色を選んだ。


「ロッカ達は選ぶのに時間掛かるだろうから先に帰ろうか」


「ならなんか食いに行こうぜ」


ロッカ達にごゆっくりどうぞと声を掛けてカザフ達と屋台街に行くことにした。



ー水着を選ぶ女性陣ー


「私はこれでいい」


ロッカが選んだのは黒のハーフビキニタイプ。


「私はこれにするわ」


シスコは花柄ワンピース。


「うちはこれにすんぜっ」


バネッサはオレンジのビキニタイプ。


「わ、私はこれにします」


アイリスはピンク系のワンピース


「うちはこれにしよっと」


ハンナリーは水色のボーダーのビキニ。



水着を選ぶ時にこんなに肌を出すのかと恥ずかしがった女性陣だが、パンジャではこういうのが普通ですよと言われて思い切って選んだのだった。



ー翌日のビーチー


「イヤッホー!」


早速海に入ろうとするカザフ達。


「ちょっと待て。準備運動してからな」


「えーっ、準備運動って何するんだよ」


「こうやって体操しとくんだ。あといきなり水に飛び込まないこと。心臓がビックリして止まるかもしれんぞ」


マーギンはカザフ達に準備運動をさせた後に水際で足から順番にチャプチャプとさせた。


「いいか、絶対に足の届かない所まで行くなよ。溺れたら助けられんからな」


「大丈夫だって。イヤッホー!!」


喜んで水の中に入るカザフ達はまるでゴールデンレトリーバーのようだ。水はまだそこそこ冷たいのにへっちゃらなんだな。


マーギンは波打ち際に座ってカザフ達を見ていることに。まだ早朝なので全身を浸けるには勇気のいる水温なのだ。


そして暫くしてからようやくロッカ達がテントから出て来た。


「あ、あんまり見んなよなっ」


いつものメンバーも水着になると女らしく見えるのが不思議だ。しかし、バネッサは強烈だな。ビキニとか着るなよ、目のやり場に困るじゃないか。


「マ、マーギンさん、どうですか?」


アイリスがモジモジしながら水着姿はどうかと聞いてくる。


「おー、可愛いぞ。海に入るなら準備運動してから入れよ」


「マーギン、うちの水着姿もなかなかのもんやろ?」


「ハンナも似合ってるぞ。でもトラ柄とかにすれば良かったのに」


「なんでやねんっ。獣に間違われるわっ」


シスコはお嬢様って感じだし、ロッカは見事に割れた腹筋がすごいな。日焼けしてオイルでテカらしたら似合いそうだ。


「マーギン、早速だが泳ぎ方を教えてくれないか」


「まだ水が冷たいぞ」


と、マーギンが言うと皆平気なようだ。俺だけがおかしいのだろうか?


マーギンは勇気を出して水に入っていく。やっぱり冷たいじゃねーかよっ。


ロッカが一番泳ぎをマスターしたいみたいなのでロッカから教えていく。


「まず浮く事からやろうか。大きく息を吸ってから目をつぶって水の中で浮いてみてくれ」


と、マーギンがお手本を見せると、皆は勇気を出してじゃぶんと海中へ。


皆は背中から浮いてくるがロッカはあまり浮かない。バネッサはくるんと回って胸から浮いて来た。ひょっこりしたひょうたん島みたいだ。


「ぷはっ マーギン。浮かんぞ」


「ロッカは筋肉量が多いから浮きにくいのかもしれんな」


そう言うとキッと睨まれた。男みたいだなんて言ってないぞ。


「もっと大きく息を吸って肺を膨らませてみろ。それで浮くはずだ」


「そんな事しなくても浮くじゃねーかよ」


「バネッサは大きな浮袋を持ってるからだ。お前だけ胸から浮いて来ただろうが」


「そんな目で見んなっ すけべっ」


「すけべ言うな。お前水着であんまりはしゃぐなよ。ポロリしても知らんからな」


そう言うと真っ赤な顔をして胸を手で隠した。ポロリしないようにTシャツでも着ておいてくれ。ほんとにこぼれ出そうだ。


ロッカは大きく息を吸って潜るとようやく浮いて来た。次は手を持ってやりバタ足をさせる。膝を曲げずにバタバタとするんだと教える。皆もやりたいと言うので交代でやっていった。


「次はどうすんだよ?」


「俺の補助なしに両手を前に伸ばしてバタ足で進んでみてくれ。それが出来たら手をこうして泳ぐとスピードが出る。息継ぎはそれが出来るようになってからだな」


カザフ達もこっちに来たので同じように教えていくと飲み込みが早い。もう勝手に息継ぎなしのクロールまで出来るようになってきた。バネッサも覚えるのが早い。シスコとアイリスは普通だ。ロッカが一番苦戦していて、ハンナリーは…


「ウハハハッ 見てみい。こうやったら顔を水に浸けんで済むわ」


のし泳ぎなんて誰も教えてないぞ。てっきり犬かきみたいな泳ぎをするのかと思ってたら古式泳法とは驚いた。


そして、平泳ぎを教えた所で昼飯を兼ねて休憩することに。


ジューーッ


海の昼飯といえば焼きそばだ。海の家よろしく魔導鉄板で焼きそばを焼いていく。他の人たちから注目を浴びるが気にしない。ここに知っている人はいないのだ。


「うちも食べてええねんよな?」


「食いたきゃ食えよ。ダメだと言っても食うんだろ?」


「当たり前やん」


ロッカ達の飯は別だと言っていたのにハンナリー以外も当然のように食いに来る。お陰で延々と焼きそばを焼くハメになってしまった。飯後もカザフ達は泳ぐらしいがもう冷たい海の中に入るのは勘弁して欲しいので波打ち際で見学する。


「マーギン、続きを頼む」


ロッカがマーギンの前に仁王立ちする。


「えーっ、また海に入るのかよ」


「私だけ泳げんのは恥ずかしいのだ」


というわけでまた勇気を出して海の中へ。朝より若干ぬるんだとはいえやはり冷たい。それにロッカは運動神経が悪いのではない。筋肉が重いのだ。これはどうもしてやれんからな。


ロッカの手を持ってバタ足の練習をひたすら続ける。推進力がかなりあるからビード板とかあればいいのにな。


皆がキャッキャウフフして海を楽しんでいるなか、マーギンはスポ根ドラマのようにロッカとバタ足練習を繰り返して一日が過ぎたのであった。



ー夜ー


泳ぎ疲れた皆は晩飯もそこそこにすぐに就寝。マーギンはロッカの手を持っていただけなのであまり疲れてはいない。


「たまには一人で飲みに行くか」


ポソっと呟いて夜の繁華街に出掛けることに。


ボラれても嫌なので客引きを振り切って賑やかな店に入った。


「お客さん、一人?」


「あぁ、この店の作りは変わってるな。前のステージでなんかやるのか?」


「うちの自慢の踊り子を眺めながら酒を楽しむ店だ。前払いで1万Gだよ」


そこそこ高いが後から目が飛び出るような金額を請求されるよりマシだ。酒は後にあるカウンターで好きなのを注文するスタイル。始めは軽くビールを頼んでテーブルに付いた。


そして客の男どもがピューピューっと口笛を吹いて盛り上がり出したら踊り子が出て来た。


おー、南国っぽいわ。


カラフルなビキニに薄地の服を纏った奇麗な人が踊り子で、よく日に焼けたような肌の筋肉質な男達が太鼓や横笛、ギターのようなもので演奏するみたいだな。


演奏は不思議なメロディーだが悪くない。同じ国なのに異国情緒が溢れてんな。


独特のメロディーに乗って踊り子は悩ましげに踊る。ここの客はこの踊り子を見に来てるんだな。


そして2曲程踊った後に踊り子がステージから降りて客席に来た。皆は俺とっ!俺とっ!とハイハイっと手を上げる。どうやら客の中から今夜の踊る相手を決めるようだ。金の持ってるやつは銀貨や金貨を持って手を上げている。なるほど、踊る相手はチップ次第なのだろう。


皆が立ち上がって踊る相手に立候補するなか、マーギンは座ったままその光景を眺めていた。


踊り子は客席をくるくると回りながらすべてのテーブルにサービスするように動いていく。そしてマーギンの所に来た時に手をすっと出した。


「え?」


「踊りましょ」


と、ウインク。


「いや、俺はダンスとか無理だから…」


と、断っているのに手を繋がれてステージに上げられてしまった。


そしてメロディーに合わないチャンカチャンカと踊る阿呆になるマーギン。選ばれなかった客からはブーイングが飛ぶなか、踊り子はクスクスとマーギンのダンスを笑いながら軽やかにステップを踏むのであった。



「はー、恥かいたわ」


マーギンは曲が終わるとそそくさとステージを降りて酒のお代わりを取りにいく。


「お客さん、変わったダンスだったね。どこの国のダンス?」


酒を渡すカウンターの女の子にクスクスと笑われながら話し掛けられた。


「本当は団体で踊るようなやつなんだよ。ダンスなんか踊れないから断ったのに…」


「ステージに上がった人は踊れなくてもいいのよ。マーイの腰に手を回してくっついてたらなんとかしてくれるもの」


「マーイって、あの踊り子のこと?」


「そう、みんなマーイの腰に手を回したいからステージに上がりたいのに、あなたは触りもしないで自分だけ変なダンスしてたからおかしくって」


と、クスクスと笑う。


「そんなの知らなかったからね」


「マーイも楽しそうだったからいいけどね。ハイ、ライム入のホワイトラム酒ね」


「ありがとう。酒飲み放題なのにあんまりみんな飲まないみたいだね」


「今日はマーイを見に来る客ばっかりだからね。他の踊り子の時はそうでもないのよ」


踊り子は日替わりらしく、今日の踊り子のマーイが一番人気のようだ。


「そりゃいい日に来たもんだ。もしかしてマーイは先住民の人?」


「そうよ。この街は先住民達も住んでるからね。悪さして揉めないでね。お兄さんよその土地の人でしょ」


「そう。タイベには初めて来たんだよ」


「何しに来たの?」


「観光ってところかな。あとは頼みたい仕事がいくつかあってね。米の生産とか」


「ふーん、生産なんか頼まなくても買えばいいじゃない」


「そうだね。王都には売ってないからたくさん買って帰るよ」


「えっ?王都に住んでるの?すっごーい」


「王都といってもそんなに良い場所に住んでるわけじゃないよ。家も小さくてボロいし」


マーギンは席に戻ると他の客に絡まれるかもしれないので、酒のカウンターの女の子としばらくその場で話しながら飲むのであった。


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