ヤバネッサ

「おいっ、さっさと出てきやがれっ」


モグラの穴の周りをぐるぐると回るバネッサ。


ボコっ


違う場所に穴をあけて出て来るモグラ。


「てんめぇっ 逃げんなっ」


素早いモグラはバネッサが攻撃をしようとするとピュッと穴に引っ込んで逃げては違う所に穴をあけて出て来る。それを繰り返して周りは穴だらけになっていった。


モグラはバネッサをからかうように出ては引っ込みを繰り返していく。


「はぁっ はぁっ なんてすばしっこい野郎だ…」


バシンっ


「痛ってぇぇっ」


疲れたバネッサが一息付いた所に後ろの穴から飛び出したモグラがバネッサのお尻を攻撃した。今の攻撃は叩かれただけだったが爪で攻撃されるとまずい。


「やりやがったなぁっ」


そしてバネッサはモグラ叩きのように追いかけては後ろの穴から飛び出たモグラに尻をバシンと叩かれる。


「ロッカ、あれまずいんじゃないかしら?」


「今どうなってる?」


「バネッサの周りに穴がたくさんあいて穴に囲まれてるわ。追いかけても逃げても後ろに回られて攻撃されてるわよ」


「矢で援護出来ないのか?」


「バネッサがあんなに動き回ってたら誤射するわよ。全然動きが読めないもの」


シスコにスコープを渡されて覗き込むロッカ。


「ヤバいな。私が助太刀に入る」


ロッカは走ってバネッサの元へ向かった。


「バネッサ、大丈夫かっ」


「こいつ何処から出てくるかわかんねぇっ。背中合わせになってくれ」


バネッサとロッカは背中合わせになり、背後を取られないように体制を整えた。


ズボッ


「うわっ」


モグラは二人の足元に穴をあけて足をはめて攻撃を仕掛けてくる。


「痛っぇぇえっ」


穴にハマった足をモグラに囓られたバネッサ。


「フンッ」


ロッカが振り向いてバネッサを穴から引き抜き投げた。


「死ねっ」


足元の穴に剣を突き刺すロッカ。


ザシュっ


「痛ってぇぇ」


モグラはバネッサの方に素早く移動して尻を攻撃した。今度は叩くのではなく爪での攻撃だ。モグラはバネッサを仕留めに掛かったのだ。


「くそっ」


ロッカが助太刀に入ろうとするとズボッと足元に穴があき足を取られた。なすすべもなくモグラに翻弄される二人。ロッカの動きが止まったらまたバネッサが狙われる。


「シスコっ 援護を頼むっ。こいつヤバいっ!」


シスコはバネッサの周りの穴目掛けて矢を射る。出て来ようが来まいかお構いなしに矢を射った。


「今よっ、こっちに逃げてきてっ」


ロッカははまった足を抜いてバネッサを脇に抱えてシスコの元へと走る。


もこもこもこもこもこもこっ


走るロッカの後ろに土が畝のように盛り上がって追いかけてきた。


「早くっ。後ろから追って来てるわっ」


ロッカは必死に走って逃げる。シスコはいつモグラが飛び出して来ても良いように矢を構えた。


「私を躱してっ」


ロッカはシスコの目の前でさっと避けて後ろに回った。


パシュっ


シスコはもこもこもと追い掛けて来る畝に向かって矢を射る。


ザクッ


矢が地面に刺さった所でもこもこと追い掛けて来た畝が止まった。


「やったか?」


その様子を見たロッカが呟いた。


ボコッボコッボコッ


その刹那ロッカ達の周りに穴があいていく。


「うわわわわわっ」


先程と同じ状況になったロッカ達は慌てた。このままでは獲物と認識されたバネッサがまずい。


「後ろに下がって下さいっ」


アイリスがロッカ達を後ろに下げさせる。その声と同時にバッとその場を跳ねのく3人。


「カエンホウシャっ!」


アイリスは穴の中に手を入れてカエンホウシャをお見舞いした。


ゴウウッゥゥゥウっ


アイリスから放たれた火炎放射の炎が穴という穴から吹き出る。その炎の中からモグラが飛び出して来た。


「今ですっ」


「フンッ」


パシュっ パシュっ


モグラは1匹ではなく3匹飛び出して来た。その内の1匹をロッカが斬り、2匹をシスコが矢で仕留めた。


「3匹居たのか…」


ロッカがそう呟いた。穴からはまだアイリスが火炎放射を出しているが出てくるのは炎だけだ。


「アイリス、もう大丈夫そうだ。助かったぞ。よくその攻撃を思いついたな」


「カエンホウシャは穴から敵を炙り出す時に使うものだとマーギンさんが言ってたんですよ」


「そうか。でもとっさによくそのことを思い出してくれた。あのままだと本当にヤバかったからな。バネッサ、大丈夫か?」


「大丈夫じゃねぇ…」


お尻を押さえるバネッサ。その手には血が付いている。


「爪でやられたか。ケツを出せ。止血する」


バネッサはモジモジしながらお尻を出した。そのお尻には爪で横一文字に斬られた傷から血が出ていた。


ジョロジョロっ


「痛ってぇぇっ。もっと優しくしてくれよっ」


「馬鹿者っ。傷口を洗い流さんとダメなのだっ」


ロッカが魔法で水を出してバネッサの傷を洗い、シスコが止血の薬をグリグリと塗り込んだ。バネッサが悶絶したのは言うまでもない。



討伐したモグラを持って領都に戻ることに。


「もっと早く歩きなさいよ」


「ケツが痛ぇんだからしょうがねぇだろっ」


バネッサの足取りは重く、領都への道のりは遠かったのであった。




ー翌朝ー


「ファイティングモールの討伐ありがとうございます。3匹も居たんですね」


「あぁ、かなり厄介な魔物だなこいつ」


「はい。討伐がとても難しいんですよ。でも皆さん無傷なんてさすが王都のハンターさんですね」


無傷と言われて目を背けるバネッサ。


達成金を受取り、一眠りしてからマーギン達が待つイルサンに馬車で向う事にしたロッカ達。揺られる馬車の振動がお尻に響くバネッサは座らずに立っていた。乗り合い馬車の他の乗客から変な目で見られるけど座れないから仕方がない。



夜にイルサンに到着して一番高級な宿を探してマーギンと合流した。


「思ってたより早かったな。モグラは倒せたか?」


「なんとかな。アイリスがいなかったらヤバかった」


ロッカは宿の食堂でマーギンにモグラ討伐の話をした。


「アイリスが火炎放射を使ったのか。シスコの矢で仕留められんかったのか?」


「すぐに逃げちゃうから当たらないのよ」


「あいつらは音に敏感だからな。シスコの矢でも難しいのか」


「あぁ、本当にヤバかったのだ。アイリスがいなければ全滅していたかもしれん」


「まぁ、討伐出来てよかったよ。しかしバネッサはなんで立ってるんだ?」


椅子に座らろうとしないバネッサ。


「バネッサが足とケツに攻撃を食らってな。座れん状態なのだ」


と、代わりにロッカが答える。


「叩かれただけか?それとも爪を食らったのか?」


「うっせぇえよっ」


答えたくないバネッサの代わりにロッカが答える。


「爪を食らった。一応、傷口を洗って止血はしてある。そこそこ深い傷だったんだ」


止血だけか…


「ちょっと見せてみろ」


「なっ、なんでマーギンにケツを見せなきゃなんねぇんだよっ」


「ほっとくと化膿してケツが腐っても知らんぞ」


「えっ?」


ケツが腐ると言われて驚くバネッサ。


「毒は持ってないが、大モグラはミミズとか食ってるからバイキンだらけなんだよ。痛いのが傷の痛みなのか化膿して痛いのか自分ではわからんだろ?今なら奇麗に治してやれる。化膿して肉が腐ったらその肉をこそぎ落とす事になる。そうなったら肉なしケツになるぞ」


「みっ、見ずに治せねぇのかよっ」


「そんな事出来るかっ。それに前にも俺に見せただろうが。今更恥ずかしがんな」


大勢の客がいる所でケツを見せろだ、前にも見せただのと言われて注目を集めたバネッサは真っ赤になる。


「バッキャローっ 見せてなんかねえしっ」


「どうすんだ?化膿してなくてもそのまま放置したら傷が残るぞ」


「そうよバネッサ、マーギンに治してもらいなさい。そうじゃないと十文字に割れたお尻なんてみっともないわよ」


「ケツが十文字になんて割れてねぇっ」


「バネッサ、いいから見せろ。ちゃんと奇麗に治してやるから。今治さんと本当に嫁に行けなくなるぞ。結婚相手にケツ見られて笑われたらどうすんだ?」


バネッサはオルターネンにお尻を見られて笑われる事を想像する。


「いっ、イヤらしい目で見んなよっ」


「誰がお前のケツをイヤらしい目で見るか」


食事途中だが宿の部屋に行ってバネッサの治療をする事に。


「あ、灯り消してくれよ」


「暗くちゃ見えんだろうが、それに暗くても俺は見えるから無駄な抵抗だ。早くベッドにうつ伏せに寝てケツ出せ」


バネッサはベッドにうつ伏せになり、ズボンに手をやるが中々下ろそうとしないのでマーギンはべっと脱がせた。


「キャァァっ 何すんだてめえっ」


なんか女の子らしい悲鳴を上げたバネッサ。


「お前がさっさと下ろさんからだろうが。あーあー、本当に横一文字にザックリいってんな。かなり痛いだろこれ」


パンツまで下ろされ、お尻丸出しにされて恥ずかしくて何も返事が出来ないバネッサ。


「止血薬を洗い流すからな。先に痛み止めの魔法を掛けるからじっとしとけ」


マーギンは痛み止めの魔法を掛けてから傷口をジャーっと洗い流す。ベッドもビシャビシャになるが後で乾かすので問題はない。


「やっぱり化膿しかけてんぞ。今診といて良かったな」


「そんなにじっくり見るんじゃねーよっ」


マーギンはバネッサのお尻にゆっくりと治癒魔法を掛けていく事で徐々に傷が塞がってきた。


「もうちょっと掛かるからな」


「わざとゆっくりやって見てんじゃねーだろうなっ」


「今更恥ずかしがんな。そんな色っぽい状況じゃないだろうが」


マーギンは治療としてお尻を診ているがバネッサが何度もイヤらしい目で見てるんじゃねーだろうなと言うものだから傷が塞がった時に


「お前、いい形のケツしてんな」


と、思わず口走ってしまった。


「やっぱイヤらしい目で見てんじゃねーかよっ」


ゴスっ


「痛ってぇぇえっ。なんで蹴るんだよっ」


「お前がイヤらしい目でうちのでケツを見たからだろうがっ」


「綺麗に治ったぞと言ったんだっ」


「嘘つけっ いい形と言いやがっただろうがっ」


バネッサは慌ててパンツとズボンを元に戻した。


「足も怪我したんだろ?早く見せろ」


バネッサは赤くなったままベッドに座り足を出した。


こいつ、足首も細いんだな。普通に女の子らしく生活してりゃさぞモテるだろうに。と思いつつマーギンは足も洗浄してから治癒魔法を掛けていく。


「ほ、本当にイヤらしい目で見てなかったんだな?」


モジモジしながら聞いてくるバネッサ。


「俺はパーティメンバーじゃないとはいえ仲間みたいなもんだろ。仲間をそんな目で見るか」


「本当かよ」


「本当だ」


「もし、仲間じゃなかったらイヤらしい目で見たりすんのかよ」


「どうだろうな。客観的に見てお前はスタイルも良いし可愛いからな。俺が普通の人間なら惚れてたかもしれんな」


「う、うちをそんな目で見てんのかよ」


「俺は普通じゃないからな。そう言うのと無縁だ」


「確かにマーギンは普通じゃねーよ。だけど人間は人間だろ?」


「どうだろうな?俺は人間じゃないかもよ。ほら、足の傷も塞がったぞ。ケツも足も傷跡は残ってない。これで奇麗なままだ。次に怪我したら黙ってないでさっさと言えよ。後になればなるほど奇麗に治らんからな」


「う、うちの事は本当に可愛いと思ってんのかよ?」


「思ってるぞ。だからもっと自分を大切にしろ。確かにお前の能力は凄いが斥候は危険な役割だ。慣れてない場所や知らない魔物相手には十分気を付けろ。大モグラ程度に怪我なんかしてんじゃねーよ」


「うっせぇ」


「ほら、乾かすから立て」


マーギンはバネッサを立たせて濡れた服を乾かし、ベッドも乾かしておいたのだった。



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