カレーとモグラ

「ハンナ、お前自分のテントがあるだろうが?」


「ええやん、こんな森の中で一人で寝るん怖いやんか」


テントはカザフ達と一緒に寝泊まりするのに拡張してあるからハンナ1人増えても寝られるのだがギチギチになる。


「くっついて寝る事になるだろうが」


「ええで、くっついて寝たらええやん。そやけどおいたは無しやで」


誰がおいたなんかするか。


で、


くかーーっ


ハンナのやろう、思いっきり大の字で寝て足を乗せてくんなよな。


夜中に何度もハンナリーの足を下ろすマーギン。そのうち抱き着いて寝やがるのでペッと振り払う。それに比べてカザフ達はほとんど寝返りを打たない。隠れて寝ていた習慣が身に付いているから本当に静かに寝るのだ。


またハンナがゴロンと転がってくっついてくるので鼻をムギュっとしてやる。


ふこー ふこーと鼻で息をしようにもマーギンにムギュっとされているので息が出来ない。


「カハッ」


息が出来なくなって口で大きく息をするハンナリー。


何度やってもカハッと息をするのが面白い。起きなさそうだからヒゲを描いておいてやる。獣人系だからよく似合うだろう。


マーギンは猫のヒゲみたいなのをほっぺに描いておいた。



ー朝ー


「ハンナちゃんにヒゲ生えてる」


トルクがまだ寝ているハンナリーに向かってそう言う。


「本当だな。いつもは剃ってるんじゃないか」


と、テキトーに返して朝飯の準備をタジキにさせた。



「ハンナちゃん、朝ご飯出来たよ」


他のみんなには姉ちゃん呼びするトルクはハンナリーだけちゃん付けだ。アイリスは呼び捨てだけれども。


「もう朝なん?」


「うん、顔洗ってヒゲ剃ってきて」


「何言うてんねん。うちにヒゲなんか生えてへんわっ」


ヒゲを剃れと言われてプンプンと怒るハンナリー。そして桶にためた水に自分の顔が映った。


「あーーーーーっ」


「ハンナ、朝っぱらからうるさいぞ」


「どっ、どないしよう… うちにヒゲが生えとる…」


「森の中で寝たから野性返りしたんじゃねーか?それはそれで可愛いぞ」


「うっ、嘘やっ。もしかして尻尾も…」


尻尾が生えてないか確認するのにパンツを下ろそうとするハンナリー。


「やめろっ。こんな所で脱ぐな。脱ぐならテントの中で脱げ。コイツらの教育に悪いっ」


そう言われたハンナリーは慌ててテントの中に入って確認してきたようだ。


「尻尾は生えてへんかったわ… でもヒゲが生えたなんてどないしよう…」


あまりの落ち込みようにちょっと悪いことをしたなと思ってきたマーギンは鏡を出してハンナリーに見せた。


「やっぱりヒゲが生え…… なんやこれ?」


手でほっぺたをペタベタ触って確かめる。


「あーーっ、これあんたがペンで描いたんやろっ」


「呑気に寝ているからだ。見張りなしで野営してんだから少しは警戒しろ」


「なんてことすんねんなっ」


朝っぱらから元気なハンナリーは顔をゴシゴシしてヒゲを消した後にプリプリと怒って朝飯を食べたのだった。



昼過ぎにイルサンに到着。


「店で何が売ってるか確認しようか」


と、食料品店に入る。


「おっちゃん、米売ってるか?」


「どれにする?」


と、見せてくれたのが、普通のうるち米、赤色の古代米、細長いインディカ米が2種類。


古代米があるのか、懐かしいな。元々は長粒種とこれしかなかったんだよな。昔、ミスティと訪れた離地のシャーラムで古代米を発見してその中から白いのを選んで改良していったのが今食ってる米だ。


「この長い米は種類が違うのか?」


マーギンは店員に尋ねた。


「こっちのは香りの良い高級品だ」


「じゃあ、これとこれを袋で買う」


と、うるち米と高級長粒種を買った。多分これはジャスミン米だろう。高級米といっても30kgで3000Gと格安だ。うるち米も同じぐらいの値段。これを王都で売ればいいかな。仕入価格だともっと安いと思われるし。


そして色々と見て回ると食料品がどれも安い。王都の1/2程度だろうか。魔道具は王都より高い。食料がこれだけ安いと収入も王都よりかなり低いだろうから魔道具を売るのは大変だなこりゃ。


「ハンナ、領都の物価もこれぐらいか?」


「こっちの方が安いで。安い言うても2割ぐらいやろか」


ということはハンター組合の報酬も王都感覚では安かったけれども、タイベ感覚ではかなりの報酬なんだな。安すぎると言ってしまって悪かったかもしれん。


「ハンナ、お前がもらった報酬はタイベだと破格の報酬だったみたいだな」 


王都物価だと4〜5千万Gくらいになっているのかもしれん。


「そや、だからめっちゃ報酬上がってるて言うたやん」


そう言うことだったのか、なるほどな。


それとタイベの肉屋では何でも食べるのか、鶏の希少部位も普通に売っている。ナンコツやボンジリ、レバーとかホルモン関係も充実していたのでバンバンと買う。牛肉のハラミやタンも買っておこう。


「マーギン、チーズも買ってくれよ」


と、タジキが言う。他の食料に比べて結構な値段のする真っ白なチーズだ。このチーズはモッツァレラ系かな?これも買って食べてみよう。


「晩飯は食堂で食おうか。地元料理で面白いものがあるかもしれん」


と、混んでそうな店に入る。地元で人気の店を選ぶのは混んでいる所を目安にするのだ。


「マーギン、カレーってなんだ?」


メニューにカレーと書かれている。これは食べなければ。


そして5人バラバラメニューを頼んでシェアする事にした。


「これ、初めて食べる味だ。あっ甘いと思ったら辛いっ」


タジキが食べたのは肉を細かく切ったものを炒めてご飯の上に野菜と乗せたもの。一口もらうと確かに甘い後に辛さが来る。旨いじゃんこれ。


ハンナリーのは魚のカレー。黄色でシャバシャバだから想像していたカレーとは違うけど旨い。トルクのは普通の豚肉を塩のスープで煮込んでご飯に掛けたやつ。カザフのは肉と野菜を炒めたやつ。歯ごたえのある変わった肉だがこれはミミガーだろうか。そしてマーギンのは鶏肉のグリーンカレーだった。


「どれも旨いな」


マーギンはご機嫌だ。王都では食べられない味ばかりなのだ。


「ビール頂戴」


「あれ?マーギンがビール飲むって珍しいな。いつもはワインとかレモンのやつなのに」


そう、タジキの言う通り王都のビールは苦みが強くてあまり好きではないから飲んではいない。しかし、昔シャーラムで飲んだビールはあっさりしていて飲みやすかったのだ。


お待たせと言って運ばれてきたけど、残念ながらあまり冷えていないので魔法で冷やしてから飲む。


「うん、旨い。このグリーンカレーによく合うわ」


「ほならうちも飲もうっと」


と、ハンナリーもビールを頼む。本当は14歳なのに飲ませても良いのだろうか?というか今更だな。


「なんやぬるいな」


と言うので冷やしてやる。


「わ、冷たなった。こうしたら飲みやすいやん」


ガキ共には甘酸っぱいと言われた乳製品のようなジュースを頼んで氷をいれてやった。これを飲むと辛いのも大丈夫になるらしい。


「マーギン、このジュースってどうやって作ってるんだ?」


「牛乳を発酵させてると思うけど作り方は知らんな。王都でもヨーグルトが有れば作れると思うぞ」


庶民街でヨーグルトを見たことはない。貴族街にはあるかもしれんから帰ったら買い物をしにいってみよう。



ーマーギン達がイルサンで飯を堪能している日のロッカ達ー


「ロッカ、こんなただっ広い畑でモグラなんて見付けられんのか?」


大モグラの討伐依頼があった村に来ている。モグラの被害があると言われた場所は見渡す限り畑なのだ。


「依頼者が言うには土がモコモコと盛り上がったところだと言ってはいたが…」


ロッカ達には畝なのかモグラが通って盛り上がっているのか見分けがつきにくい。これは討伐するより見付けるのが大変だなと途方にくれていた。


あそこの奴に聞いて見ようぜとバネッサが農夫に声を掛けて見分け方を教えてもらい、なんとか見分けが付いた。


「ハンターさん達や、大モグラの通り道の先に穴があいておる。そこから地面に出て来るんじゃよ。あやつらは襲って来るので気を付けるんじゃよ」


「丁寧に教えてくれてすまない。我々が必ず退治してみせるからな」


と、ロッカは農夫に約束をして皆でモグラの出口を調べた。あちこちに穴があいていて、その内の一つに好物だと聞いた大ミミズをばら撒いて誘き寄せることにしたのであった。 


「相手は夜行性だから近くにテントを張って夜まで休憩だ」


ロッカ達はあまり旨くはない飯を食べながら夜になるのを待つ。


「日も暮れたしそろそろ準備を始めっか。シスコはナイトスコープで穴を見ててくれよ。異変があったらうちも暗視魔法で確認すっからよ」


魔力切れを学習したバネッサは魔力温存の為に魔結晶で暗闇が見えるシスコのナイトスコープを交代で覗き穴を監視していく。


「あっ、土がモゾモゾしているわよ」


穴に異変を発見したシスコは皆にそれを伝えた。バネッサも暗視魔法を使って確認する。


「結構デカいな。爪も鋭いみたいだから気を付けねぇとな」


大ミミズに引き寄せられた大モグラはそれを食べているようだ。シスコは狙いを定めて大モグラを射る。


パシュッ


シスコが矢を放った音に気付いた大モグラはひゅっと穴に引っ込んでしまった。


「ダメね。この距離だと気付かれちゃうみたい」


「でもよ、これ以上離れたら矢が届かねぇんだろ?」


「そうね。ギリギリ届く距離がここよ。どうするロッカ?」


「あいつらは人間も襲うと言っていたから囮で引き寄せてから殺るしかなさそうだな」


と、ロッカはバネッサを見た。


「うちが囮すんのかよ?」


「他に誰がやるって言うのかしら?あなたは暗闇でも見えるし足も速いのよ。適任じゃない」


しれっとそう言うシスコ。それはそうなのだが釈然としないバネッサは不貞腐れながらも穴の近くをウロウロしにいったのであった。

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