ロッカ達と別行動に

領主エドモンドに書いて貰った手紙を衛兵隊長に読んで貰う。


「君は領主様に伝があるのかね?」


「まぁそうですね。そのうち色々と指示があるとは思いますけど、捕らえられている海賊の身元引受人は自分になりましたので」


「わかった。くれぐれも牢から出した後に問題を起こさぬようにな」


と、牢に入れてもらって頭と話しをする。


「本当に昨日の今日で話が付いたのか?」


「あぁ。とりあえず牢で罪を償った後に俺が身元引受人になる。仲間たちと同じぐらいの時に出られるようにしておくから。それまできちんと罪を償っていてくれ。それと雇う時の給料が安いのは覚悟しておくように」


「奴隷になるのか?」


「いや、普通に働いてもらうから奴隷じゃないよ。その代わり裏切ったら死ぬより辛い目に合うと思っとけ」


「自由の身で雇ってくれるなら給料が安いのは構わねぇ。食うものは海で取れるからな」


「あっ、そうだ。お前ら自分で畑作ってたよな。花とか栽培できるか?」


「花なんか食えんだろ?」


「虫除けの薬になる花があるんだよ。それを育てるのと田んぼで俺の欲しい米を作ってもらいたいとかもな」


「それぐらいなら構わんが…」


「タコ漁とかも出来るよな?」


「タコなんかどこでも取れるだろ?」


「だから売ってないだろ?そのうちそれも頼む事になると思う」


「それもお安いご用だ」


ということで、働き手をゲット。秋にもう一度来て準備をするか。




ーハンター組合ー


「話は終わったのか?」


ハンター組合で依頼を見ているロッカ達に声を掛ける。


「終わったよ。あいつらはこれから罪を償うから、続きは刑期が終わった後だな。それより面白い依頼はあるか?」


「この高額依頼はどう思う?」


ロッカが指を差したのはファイティングモールの討伐。100万Gだ。


「大モグラか」


「マーギンはこれを知っているのか?」


「まぁな。こいつは昼間に討伐すんの難しいぞ。土の中にいるからな。夜になると外に出てくる事がある。タイベだと田んぼに穴をあけるから厄介なんだろうな」


「穴をあけるぐらいでこんな高額になるのか?」


「こいつがいたら田んぼの水が抜けるんだよ。ため池の土手とかやられたらそれもダメになる。そこそこ強いから農民にとっちゃかなりやっかいな魔物だな」


「ほう、そこそこってことはそんなに強くないのだな?」


「土の中に逃げられる前に殺れりゃな。地面に伝わる足音とかで土に潜るから遠くから見つけて矢を射るとかそんな倒し方だ」


「ならうちが暗視魔法で見付けて、シスコに狩って貰えばいいんだよな」


「そうだな。その倒し方が一番手っ取り早い。ただ、待ちの討伐になるから面倒だぞ」


「まぁ、見たことがない魔物には興味もあるからな。では我々はこれを受けよう」


「受けるならナナイロフクロウに気を付けておけ」


「なんだナナイロフクロウとは?」


「大モグラの天敵なんだよ。羽音がしない大きなフクロウでな、周りの色に合わせて羽の色が変わるから視認も難しい。夜ならなおさらだ。大モグラを倒しても獲物を奪われる可能性もあるし、下手すりゃお前らが獲物になる。ナナイロフクロウはバネッサぐらいなら捕まえて飛ぶからな」


「そんなデケェ鳥がいんのかよ」


「胴体の大きさはロッカぐらいだ。羽を広げたらもっとデカい。爪で掴まれたら自分で脱出出来ないから一人になるなよ」


「なんでうちだけに言うんだよ?シスコやアイリスにも言えよ。うちと背恰好はそんなに変わんねぇだろうが」


「いや、フクロウから見たらお前が一番柔くて旨そうに見えるだろ?」


と、バネッサの胸に視線が行くマーギン。


「どこ見てやがんだスケベやろーッ」


目でセクハラをしたマーギンは久々にグーでいかれた。


「そちらの方、王都のハンターなのにずいぶんとタイベの魔物に詳しいですね」


「まぁ、昔ちょっとな」


マーギンは過去にこことよく似た雰囲気の地域に来たことがあったのだ。


「それ以外にこんな依頼もあるんですけど、受けて貰えませんか?」


と、今の会話を聞いていた受付が違う依頼を見せてきた。


「なんだこれは?バンパイア討伐だと?」


ロッカが驚く。


「マーギン、南国にはバンパイアがいるのか?王都では物語でしか聞いた事がないぞ」


「俺もバンパイアは見たことがない。これ本当にいるのか?」


受付は簡単な地図を出してきて、山にある鉱山跡の洞窟を説明する。


「この場所に潜伏しているとの情報があるんです。近隣の人や家畜が血を吸われて被害が出ているんですよ」


「バンパイアを見た奴がいるのか?」


「はい。コウモリを従えた人間とは思えない顔をしたバンパイアが居たと」


「何かと見間違えたとかじゃなく?」


「確かにあれはバンパイアだったと。この鉱山にはまだ鉱石が取れるみたいなんですけど、再開発が出来なくて困っているんです。タイベのハンターは依頼を受けてくれなくて」


受付の話によると、吸血被害が出ているところに鉱山の再開発調査に向かった人がバンパイアに出食わしたとのこと。


「報酬はいくら?」


「バンパイア討伐で500万Gです」


「バンパイアがいなかったらタダ働きってこと?」


「そ、そうです」


「なら受けない。条件が悪すぎる。倒す以前にバンパイアがいなかったらタダ働きじゃないか。そりゃそんな条件だとタイベのハンターも受けないだろ」


「で、でも討伐報酬は高いんです」


「鉱山が使われなくなってからどれぐらいの年月が経ってる?」


「およそ20年です」


「どうせその間、入口も塞がずに放置してたんだろ?」


「みたいです」


「それコウモリ以外に他の魔物の住処になってるだろ。使われて無かった鉱山っていつ崩れてもおかしくないし、調査だけでも金を払わんと誰も受けん。それプラスバンパイア討伐報酬が必要だな。それが払えないなら坑道の入口を塞いでしまえ。他に入口がないなら数年で中の魔物も死ぬかもしれん」


「やっぱりそれしかないんですよね…」


「塞いだ入口が中から壊されたらなんか強いやつがいるということだ。そんなのがいたら金につられた新人とかが調査に行って死ぬぞ。依頼主にそう伝えとけ。調査自体にきちんと高額報酬を払って強いハンターを雇えとな」


と、マーギンはバンパイア討伐は受けなかった。物語の通りなら血を吸われた人はバンパイアの眷属になる。それに家畜の血も吸わない。恐らく吸血コウモリの塊をバンパイアと見間違えたか、バットマンと呼ばれる人ほどの大きさのコウモリを見間違えたのだろう。


「ロッカ、俺は黒ワニを探しに行くけど、お前らは大モグラの依頼を受けるんだな?」


「そうか、お前は組合長に素材回収を頼まれていたんだな」


「そう。俺はこのまま南に下ってタイベを周るつもりだけど、このまま別行動にするか?」


「シスコ、バネッサどうする?」


「とりあえずファイティングモールって奴を討伐しようぜ。それが終わったら合流すりゃいいじゃねーかよ」


「マーギン、お前達は南に下ると言ったが何か宛があるのか?」


「いや、タイベの地理は知らないからな。あちこち見て回るだけだ。黒ワニはそれのついでだな」


ロッカはタイベの地図を受付で見せてもらい、南にある街を聞いていた。


「マーギン、このイルサンと言う都市が次に向う街で一番大きいそうだ。ここで落ち合わんか?」


イルサンまで歩いて1日くらいみたいだ。


「いいよ。何日後にする?」


「4日後でどうだ?。宿は一番デカい宿で泊まっていてくれ」


3日で初めての大モグラ討伐可能だろうか?と思いつつ4日後ねと約束をしたのだった。ハンナリーは当然こっちに来た。


「ハンナ、イルサンって知ってるか?」


「知ってんで。うちもそこまでは行ったことがあんねん。そやけどこことあんまり変わらんで」


「まあ、ロッカ達を待たんとダメだからな。とりあえずそこまで行こうか」


と、馬車に乗らず街道をテクテクと歩く。商人の馬車も行き来しているし、歩いている人もいる。安全な道なんだろう。


しかし、夕方になっても大きな街は見えて来なかった。カザフ達に道すがらあれはこうでとか教えていたからだ。


「このままやとイルサンに着くの夜になってまうな」


「歩いてる人はイルサンに向かってるんじゃないのかな?」 


「他にも村はあるからな。歩いてる人は地元の人なんちゃう?」


ハンナリーの言った通り、街道から細い道がいくつも出ていた。


「な、みんな違う方向に行くやろ?こっから先は森に囲まれた道になるで。こっちの道に入って村で泊めて貰う?」


「なら森で野営するか」


「えっ?危ないやん」


「コイツらの研修も兼ねてるからな。森の中の野営に慣れておいた方がいい。イルサンで普通に宿に泊まってロッカ達を待ってるのもなんだしな」


「ホンマに大丈夫か?ヘビとか出んねんで」


「まぁ、それも勉強だ」


と、マーギンは森の中へ入っていく。


「いいか、お前らは人の気配は察知出来るだろ?」


と、野営前にカザフ達へのマーギンのレクチャーが始まる。


「うん」


「人でも気配察知が難しい奴らがいる。それはお前らみたいに気配を消せるやつだ。森の中でそんな奴らが近付いてきたら怪しいやつだと思え」


「わかった」


「それと動物でも気配を探るのが難しい奴がいる。特に人を襲うような強い奴だな。王都近くはボアやオーキャン、狼や魔狼とかそんなんが多いが南国になると違うのが出てくる」


「どんなのだ?」


「ヒョウとかだな。魔狼とかは強いけど地面にいる。それに対してヒョウは木登りも得意だ。気配を消して頭の上から襲って来るから気を付けておけ」


「どうやって気を付けるんだよ?」


「意識を上にも向けとけってことだ。南国のヘビは木の上にもいたりするからな。爬虫類系と虫系の魔物は俺でも気配を探りにくい」


「なんでだ?マーギンは遠くにいる魔狼とかでもわかってんじゃねーかよ」


「爬虫類系と虫系は感情がないんだよ。だから気配を探りにくい。それと虫系の中では蟻に気を付けろ」


「蟻なんて踏み潰しゃ済むじゃねーかよ」


「蟻にも色々といるんだよ。特に巣を山のようにして作る奴がいる。蟻の巣山を見付けたら絶対に近付くな。一斉に襲われて食われるぞ」


「えっ?」


「足で踏んで潰せるような数じゃないなからな。全身を真っ黒になるぐらいに覆われて食われる。剣やナイフとか役に立たん」


そう言うと怖がるカザフ達。


「まぁ、この森にはおらんだろ。そんな蟻がいる所は木も喰われてボロボロになってるからな」


「ならここにはいないんだな?」 


「居たとしても人を食い尽くすような数はおらん。あと気を付けないとダメなのはトレントだ」


「トレントってなんだ?」


「木の魔物だな。いつの間にか蔦が身体に巻き付いてきたらソッコー切れ。身動きが出来なくなって木の養分にされる」


「そんなのがいるのかよ」


「魔木の一種だ。デカい花や葉っぱで襲ってくる奴もいる。コイツらも気配はない。襲われてもすぐに死ぬわけじゃないが麻痺毒や睡眠効果のある匂いを出す奴もいるから一人で森に入るな」


と、王都近くでは見かけない魔物に関して教えていくマーギン。実物がいればいいんだけどなと思いつつ少し開けた所で野営をする事にした。


「虫系の魔物を集めてみるか?」


「集めてどうすんだ?」


「観察だ。危険な奴が居たら実物を見といた方がいいだろ?」


と、マーギンは白いシーツを木に括り付けてスクリーンのようにして準備をした。


「さ、先に飯にするか」


カザフ達は肉ーっと言うので、タジキに鶏肉を捌かせて、トルクとカザフに串に刺させて焼き鳥の準備をさせた。


タジキに焼かせて旨々と食う。やはり多少下手でも自分で焼くより人に焼いてもらったほうがいいのだ。


マーギンは飯を食いながら括り付けたシーツの所に灯り魔法で照らして何が飛んで来るか警戒を続けている。


ブーーン


大きな羽音がして飛んで来たのは鬼兜。イガイガの頭に大きな角が生えたカブトムシみたいなやつだ。


「うわっ、こんなデカい虫がいるのかよ」


「鬼兜だ。別に人を襲う虫じゃない」


南国ではポピュラーな虫だ。そして次に来たのが大きな蛾。


「これは触るなよ。こいつは身に危険を感じだら軽い麻痺作用のある粉を飛ばしてくる」


魔蛾はこれをもっともっと大きくしたようなやつだ。


そして次々に飛んでくる虫の説明をカザフ達にしてから灯り魔法を消したのであった。

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