不正を報告

「衛兵さん、ギラン商会の事は任せるけどいいかな?」


「う、ああ、はい」


マーギンにビビる衛兵。


「盗賊の頭はどうする?なんか尋問しておく?」


拷問とは言わずに今のが尋問だと言うマーギン。


「いや、それはこちらでやらせて貰うから…」


グルになっていたギラン商会はかなり大きな商会らしく、これから大変になるとのこと。対応は領主と相談してからということになったのだった。報酬はそれが全部済んでからになるようなのでタイベから帰る時に寄ると伝えたのだった。



詰所を出た後にハンナリーがおどおどしながら話しかけてくる。


「あ、あんた、あんな酷いことを平気でする人やったんやな…」


「まぁ、あれぐらいやらないと吐かないだろうからね。衛兵は相手が死ぬまで拷問するだろうから仕方がないよ」


「ほならあんた海賊を助ける為に…」


「本当に焼き切ったら治癒魔法でも元には戻せんから皮膚を焼いただけなんだよあれ。やろうと思えば焼き切る事も可能だけどね。あいつらは人を殺すまではしてなかったみたいだからあれだけで十分なんじゃない?」


「はぁー、うちはホンマに焼き切るんやと思うてたわ」


「そう思わせないと吐かないからね。本当はあいつらの中で操船の上手いやつを働き手として欲しかったんだけど、結構仲間との結束力が高そうだったから無理かなと思って」


「雇うつもりやったん?」


「タイベと取引が増えたら小型でもいいから貨物船が増えた方がいいかなと思ってな。鉱山奴隷になるより給料が安くてもまともに働けた方がいいだろ?」


「そんなん考えてたんかいな」


「そう。お前が立ち上げる商会の貨物船とかあったらいいなと思ってな。あんな難しい海域の所を自由自在に行き来できるし、夜でも船を出せる腕前だ。鉱山奴隷にするのは惜しいと思ったんだよ」


「あいつら雇えると思うん?」


「鉱山奴隷になるから1人30万Gの報酬が出たろ?その金額で買えるかもよ」


手数料分損するが今後の事を考えたら安いかもしれないと算段するハンナリー。


「うち、もう一度詰所に言ってくるわ」


と、ハンナリーが言うので一緒に戻る。



「あ、あのまだ何か…」


マーギンに怯える衛兵。


「あいつらって買える?」


「は?」


ハンナリーがあいつらを買いたい事を説明すると、海域達は暫く牢屋に入れておく必要はあるが、その後の事を責任を持つのであれば可能かもしれないとのこと。それを衛兵だけでは判断しかねるので領主の許可を取って欲しいと言われた。


「わかった。海賊の頭と会わせてくれる?」


マーギンは海賊の頭と面談することに。他の海賊とは違い、独房に入れられていた。


「ようかしら


「何しに来た?他の奴らを殺してねぇだろうな」


手足を縛られたままギロリんとマーギンとハンナリーを睨む頭。自分の事より仲間を案じるとは悪党とはいえ中々親分らしくていいな。


「それはお前次第かな。お前は死罪らしいけど仲間達は鉱山奴隷送りだ。繋がりのある商会が何処かお前が吐いたら仲間も拷問を受けずに済むぞ」


「そんな証拠はどこにある?」


「俺が嘆願してやるよ。衛兵が拷問し過ぎて使い物にならなくなったらこっちも損だからな。五体満足のうちに話してくれたほうが俺達も都合がいいんだよ」


しれっとさっき拷問をしていたのは衛兵ですよと責任転嫁するマーギン。


「さっきまで仲間の悲鳴が聞こえていただろうが。何人使い者にならなくなるまで拷問したっ」


「さぁ、拷問する方も疲れるんだろうな。今は休憩中みたいだ。お前達の仲間の結束は高いみたいだからな。口を割らんからそのうち次々と拷問に掛かって死ぬだろうよ」


マーギンが仲間が死ぬぞと脅した。


「ギラン商会だ」


海賊の頭は横を向いてポソっと呟いた。


「ん?聞こえなかったぞ」


「ギラン商会だと言ったんだ。俺は死罪でも構わん。さっさと拷問をやめさせて来いっ」


「そうか、わかった。よく話してくれたな。お前らはギラン商会とどういう関係なんだ?」


「………」


「それも話さないとギラン商会を調べても知らぬ存ぜずを通すだろうな。そうなりゃまた仲間が拷問をされるハメになる。何か繋がりを示すような物はないのか?」


「ギラン商会はユーベルって貴族と繋がりのある商会だ。俺達はみな元々は漁師を親に持っていた孤児が多い。孤児院をやってるのがユーベルだ。俺達は海賊をするためにそこで育てられたようなもんだ。俺達が裏切ると孤児院の奴らも始末される」


「そんなことになっとるやねんて…」


ハンナリーは真相を聞いて悲痛な顔をする。


「孤児院を人質に取られてるってことか?」


「そうだ」


「何か証拠はあるか?」


「前に貨物船を襲った時に金の女神像を盗んで渡した。それを持ってりゃ証拠になるんじゃねぇか」


なるほどな。


「わかった。最後に一つ聞きたいんだけどさ」


「なんだ。全部話したぞ。仲間への拷問を絶対にやめさせろ」


「それはもうないから安心しろ」


「は?」


「お前ら、まともに働くつもりはあるか?」


「犯罪者の俺等にまともな働き口があるわきゃねーだろうがっ」


「お前らを犯罪者と知って雇いたいという奇特な奴がいるんだよ」


「はんっ、そんな奴がいるなら連れてきやがれってんだ」


「こいつだ」


と、マーギンはハンナリーを指差した。


「お前は俺達を捕まえた張本人だろうがっ」


「いや、あんな、うち商売人になるつもりやねん。タイベと王都の取引する商売人に。で、タイベと王都とのやり取りは船が必要やろ?あんたらにそれやって貰えへんかなって」


「俺達を本当に雇うってのか?」


頭はハンナリーの言った事が信じられない。


「そう、マーギンが言うにはあんたらええ操船技術持ってんのに鉱山奴隷は勿体ないないんちゃうかやって」


「俺達の操船技術…」


「あんたら夜でも険しい岩場で船動かしとったやろ。その技術があるなら小型の貨物船やれるんちゃうかなって」


「その話は本気で言っているのか?」


「マーギン、ほんまやんな?」


「頭のお前が皆をきちんと取り仕切れるっていうのならな。それを約束するなら孤児院の事も含めてこっちで解決してやる」


「貴族相手にハンターがどうこう出来るわけねぇだろうがっ」


「そこは心配しなくてもいい。ユーベルって貴族もなんとかするわ」


「何を根拠にそんなことが言えるんだ」


「俺達ここの領主と知り合いなんだよね。だからお前らは暫く牢屋に入って罪を償う必要はあるけれども、その後はこっちで買い受ける話が衛兵とは付いてる。後は領主の許可を取る必要があるけど、ユーベルって貴族が黒幕ならやりやすいな」


「は?」


「タイベにいる貴族が領主より偉いと思えないからな。まぁ、領内の不正に貴族が関わっているならこっちの要求も通りやすい。お前の死罪も取り消して貰えると思うぞ」


「ほ、本当なのか…」


「ま、全てはお前らの話した事が本当だったらの話だ」


と、言うことで頭からギラン商会とどうやって取引していたのかを聞き出しておいたのであった。



「いかがでしたか?」


「頭はこっちの条件を飲んだから領主様の所に行ってくるよ。あいつらは罪人だけど手荒な真似はしないでやってね」


と、言い残して宿に戻った。



「遅ーーーいっ」


カザフ達だけでなくロッカ達にも怒られた後にマーギンは事の経緯を話した。


「そんな事になっているのか」


「そう、だからまた領主邸に行かないとダメなんだ。ロッカ達にカザフ達を預けてていいか?」


「一人で行くのか?」


「1人なら走って行けば今日中に話が出来る。ハンナも皆とここにいてくれ」


「任せてしもてええんか?」


「あぁ。一人の方が早い」


と、言うことでマーギンは領主邸まで走って夕方に到着したのであった。



「戻ってきたのは重大な話か?」


と、驚いた顔をする領主エドモンドに海賊達の事を話す。


「なんとっ、海賊の件を片付けてくれたのか」


「まだ他にもいるかもしれないけど、一つの海賊団を潰したのは確かだよ。で、そいつ等と繋がりがあるのがギラン商会って所なんですよ」


「ギラン商会だと…?」


「はい、それにユーベルって貴族はご存知ですか?」


「ユーベルはタイベの領主代行を任せているものだ…」


ユーベルは平民落ちする前にタイベに来て、エドモンドに領主代行を任されていたらしい。ギラン商会もユーベルの口利きで設立された商会なのだそうだ。


「で、海賊達が船を襲った時に奪った金の女神像ってのをユーベルって人に渡したって言ってました。それが証拠になるんじゃないかと」


「ユーベルが黒幕…」


エドモンドは手で口を押さえて真っ青な顔になっている。


「領主代行をしていたなら他にも不正をしているかもしれませんね。エドモンド様を陥れたらそのまま領主になれるかもしれませんから」


「情報提供感謝する。証拠を消されぬよう内密に調べさせてもらう」


「あと、お願いがあるのですが」


「なんだろうか」


「海賊達は暫く牢屋に入った後に鉱山奴隷になる予定らしいのですが、そいつ等を買えませんかね?」


「買って何をするつもりだ?」


「話してみるとやむを得ず海賊をしていたようなんですよね」


と、孤児院の話もする。


「孤児院を悪用しているだと?」


「みたいですね。孤児院を出た子供達の履歴も調べた方がいいですよ。女の子とかどこかに売られているかもしれませんし」


「わかった。海賊の処遇は好きにしたまえ。買い取りではなく、身元引受人としてマーギン君を指名しよう」


「引き受けるのはハンナリーなんですけどね。それと鉱山奴隷としての買取り金も貰ってしまってるんですけど…」


「いや、マーギン君で頼む。ハンナリーでは身元引受人として弱い。その代わり買取り金も返金しなくていい」


「俺は異国人ですよ?」


「いや、王都での繋がりを鑑みてマーギン君の方が適任であろう。ぜひ改心させてやってくれたまえ」


今日は泊まっていけと言われたが走って帰る事にしたマーギンは夜中に宿の前に着いたけど中に入ることが出来なかったのだった。

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