ハンナリーはこちらに

はっ


魔法抵抗の高いマーギンは少し踊った後に自力でラリパッパを解除。


「なにやってんだお前ら?」


マーギンのそばでチャンカチャンカ♪と踊るハンナリー達。


「あれ?もう解けたん?うちの魔法はぶっ倒れるまで解けへんのに。あんたやっぱり凄いなぁ」


マーギンが踊りをやめた事で皆も踊るのを止める。


「あいつらはハンナリーの魔法を食らって踊ってんのか?」


「そうや。今アイツらの頭ん中にはなんか音楽が流れてるはずや。あのまま狂ったみたいに朝まで踊るから倒れたら縛りに行こか」


マーギンは踊り狂う海賊を見る。自分でもあの魔法が掛かっていたのだろう。なんて恐ろしい…


「ハンナ」


「なんや?」


「見事なデバフだ。この距離からあの広範囲にこれだけ見事に掛けられるのは相当凄いぞ」


「ほんまか?うちはこれしか使えへんけど、ちょっと自慢やねん」


「どうやって覚えた?」


「うちのオカンが人を楽しくさせる魔法や言うて教えてくれてん」


こんな魔法は俺も知らなかったな。出所を聞こうにもハンナリーの母親は亡くなっているからな。口伝で残ったのか、誰かが開発したのかはわからんが興味深い魔法だ。俺にも掛かったということはハンナリーの闇適正はSクラスなのかもしれん。後で鑑定させてもらおう。


デバフ系の魔法は自分より相手の適性が高いか魔力値が大幅に高いと掛かりにくい。今の自分より魔力値が高い奴がいるとは思えないのでハンナリーは闇魔法適正が高いと判断するべきだろう。


マーギン達は踊り狂う海賊が倒れるまで待つ間飯にすることに。


「何食う?」


「肉ーっ」


ですよねー。


カザフ達は肉への渇望が強いのでたいてい肉をチョイスする。


「よし、あいつらもパーティしているみたいなもんだし、こっちもあれに見合うような飯にするか」


マーギンは棒に刺した大きな肉の塊を出し、魔道具にセットした。


「なんやこれ?」


「ドネルケバブってやつだ。準備するの大変だったんだからな」


肉の塊といってもスライスした牛肉にスパイスをすり込み、棒に幾重にも巻き付けて作ったもの。タジキがどうやって作るんだ?と聞いて来るので焼け始めるまで作り方を教えてやる。


「ほら、焼けだしたぞ。食べる分だけ焼けた部分をナイフでこそぎとれ。一気にこそぐなよ。食べたらまたこそげばいいからな」


回転を止めて、下に皿を受けて焼けた肉をこそぎ落としていくカザフ達。アイリスとハンナリーにはマーギンが取ってやり、ロッカ達には自分でやらせた。


「なんかあいつら魔法攻撃食らってんのに楽しそうだよなぁ」


肉を食べながら踊り狂う海賊達を見るバネッサ。


確かに楽しそうだ。あいつらの頭の中に流れている音楽が聞こえてたらこっちも楽しいかもしれん。


「ハンナリー、あの魔法をごく軽く俺らに掛ける事は出来るか?」


「出来るで」


「ちょっとやってみてくれ」


「ラリパッパっ!」


今度はマーギンの頭の中にもチャンカチャンカではなくて、ドンツクドンツク♪とリズムに乗った音楽が流れてくる。


「うわっ、なんだよこれっ。うるせーっ」


聞き慣れないバネッサ達には騒音としか聞こえないようだ。しかしカザフ達はノリノリになってきた。意外にもいちばんノリノリになるシスコ。


「シスコ姉ちゃん踊りだしたけど大丈夫?」


「楽しそうやからええんちゃう?トルク、うちに肉取ってや」


「うん」 


マーギンはシスコにヒューヒューとか言いながら楽しんでいるので代わりにトルクがアイリスとハンナリーの面倒を見ていた。


「こう、こそぎ取るのも良いが、これだけ旨いとがぶりとかじりつきたくなるな」


ロッカは薄切りにされた肉よりかぶり付きたいと言い出したので、トルクは分厚く切った。


「まだ中が赤いけど牛肉だから大丈夫だよね?」


「ロッカさん、気になるなら赤い所を炙りましょうか?」


と、アイリスがゴーーッと赤い所を焼いていく。


「うむ、旨い」


肉にかぶりつけたロッカは満足そうだ。


そしてそれぞれが自分の楽しみたいように過ごして夜明けを迎える。


「もうダメ…」


踊り疲れたシスコはそこにへたり込む。


「よし、あいつらも潰れて動けなくなったみたいだから縛りに行こうか」


疲れたシスコはロッカとバネッサとここで待機。やることは縛るぐらいだから問題はないのだ。


マーギン達はぶっ倒れている酒臭くて獣臭のする海賊達をアジトから取ってきた縄で縛っていく。手足を後ろに縛って逆エビにしておこう。これで目が覚めてもどうしようもないはずだ。念の為首にも縄を掛けて逃げようとしたら首が絞まるようにしておいた。


縛り終えた頃に夜が明けたので一度街に戻る。


「ハンナ、あれ海からじゃないと連れてけないよな?」


「そやな。衛兵が船出してくれるやろから問題ないと思うで」


タイベの領都は港町でもあるから船の手配も簡単らしい。ライオネルもそうなのかもしれんな。



街まで戻って組合に報告してから衛兵の詰め所へ。


「何?海賊のアジトを発見しただと?」


「そや、全員縛ってあるから捕まえてぇな。船やないと行かれへん場所やねん」


「わかった。明日の朝から向う。何人ぐらいいた?」


「70人弱や」


「多いな。わかった船の手配をするからお前等は場所の案内を頼む」


ということで明日また来ることになった。ロッカ達は船に乗るのが嫌だと言うので別行動にした。



翌日、衛兵が手配した船に乗ってアジトに向う。


「うーん、あの山の形があーやったからこっちやな」


ハンナリーの案内で岩場の難しい場所を進ませる。


「こんな所を通るのか?」


「海からの行き方知らんから方向しかわからんで」


船もかなり揺れるし操船もかなり難しいようだ。こんな所を海賊達はスイスイと進むのか?漁師とかしたらかなり腕の良い漁師になりそうなんだが勿体ない話だ。


なんとか難波せずにアジトへと続く砂浜に辿り着けた。


アジトまで到着すると、ラリパッパから解けた海賊達がなんとか逃げようとしたのか何人かが首が絞まり死にかけていた。


「貴様らっ、俺達にこんな事をしてただで済むと思うなよ」


逆エビになったまま凄む海賊。


「お前らは取調べた後に鉱山奴隷だ。二度と外の世界に戻れると思うなよ」


しかし衛兵に二度と外に出られないと聞いて青ざめる。恐らく殺しはしていないようなので鉱山奴隷にまでなるとは思ってなかったようだ。衛兵の話によると長年の海賊被害で損害が大きい為、死罪まではいかないが鉱山奴隷は免れないとのこと。


海賊達を歩けるようにして船に連行する衛兵。手を縛られ首には縄が掛かったままなので逃げると死ぬだろう。他の衛兵達は家宅捜索を行い、盗んで来たであろう貴重品、金、猟具など押収。


「コイツら漁もやってたのか。銛やヤスはわかるけど、これは何に使うんだろ?」


マーギンが見たことのない漁具をみて不思議がっているいると衛兵の1人が教えてくれる。


「これはタコを釣る物だ」


「糸は?」


マーギンが見たものは長い竹の先に放射状に広がった大きな釣針が付いているもの。この針の根本にカニや魚を括り付けて岩場の壁を探るとタコが食べにくるのだそうだ。


「これ貸して貰える?」


「欲しいなら持って行っていいぞ。こんなものは押収する必要もないからな」


家宅捜索も押収品をリスト化しているから時間が掛かりそうだ。海賊達も一度で運べないようなので順番に連れて行っている。


「お前らこれでタコ釣りしてみるか?」


マーギンはカザフ達に暇つぶしにタコ取りでもさせてみることに。


「タコってなんだ?」


王都にはタコが入って来ないから知らないのも無理はない。


マーギンは岩場に移動してカザフ達に手のひら程のカニを捕まえさせた。それを竿の先に括りつける。


「これをこの下に沈めてちょっとずつ歩いてみろ」


カザフが落ちたら危ないのでカザフの腰に縄を括り付けてマーギンが縄を持つ。


「こんなので釣れんのかよ?」


「どうだろうな?衛兵がそうやればタコが釣れるって言ってたぞ」


カザフは岩場の陰とかにガサガサと竿を動かして行く。


「あっ、引っ掛かった」


「取れないのか?」


「ふぬぬぬぬっ。ごめん無理かも」


と言うのでマーギンが代わって引き抜く。


グググっと引っ張ると抜けはしたが重たい。そのまま引き上げるとタコが釣れていた。


「うわぁぁぁっ なんだよこいつっ」


怖がるカザフ達。


「これがタコだ。後で料理してやるからもっと釣れ」


「これ食うの?マジで?」


めっちゃ嫌そうな顔をするカザフ達。コイツら何でも食うくせにタコは気味悪がるのか。


「ならお前らは他の飯にしてやるわ」


マーギンはコツを掴んだので次々とタコを釣り上げる。魔法で殺して袋にポイポイとカボチャを収穫するようにタコを捕まえて行ったのであった。


「もう終わるでーーっ、戻ってきぃーやぁ」


向こうからハンナリーが大声で叫んでいる。ハンナリーは海賊達の家宅捜索に立ちあっていたのだ。


「終わったみたいだから戻ろうか」


カザフ達はカニを捕まえて遊んでいたのを持ってくる。


「これ食えるんだよな?」


「そんな小さなカニは食う所ないぞ。それに毒を持っているやつがいるかもしれんから全部逃がせ」


「えーっ」


逃がすのが嫌なカザフはカニの脚を齧ってみる。


「渋っ」


見た事のないカニの脚は渋いようだ。不味いとわかったカザフはスッキリした顔でカニを逃がしていた。どうせ取るなら亀の手とか取らせれば良かったな。


そしてアジトまで戻ってまた船に乗って街に戻るのだった。




「ハンナリー、この度の海賊討伐協力に感謝する。手配の掛かっているものもいるだろうから、詳細報告は3日後になる。3日後にまた来てくれ」


「わかった」


「衛兵さん」


「なんだ?」


「海賊って盗んだ品物をどこに売り付けてたんだろうね?この街で海賊と結託していた商人とかいるんじゃない?」


「それも調べる」


「それってわかったら追加で報酬とかもらえるのか?組合にはそこまで依頼が掛かってなかったけど」


「そうだな。これだけ大掛かりな海賊討伐があればこその情報か。わかった上に掛け合っておく」


ということで追加報酬の期待を残してロッカ達と宿で合流したのだった。



「晩飯はどうする?」 


「今日は昼飯食ってなくて腹ペコだから部屋で食うわ」


「何か作るのか?」


「今日捕まえた奴をね。カザフ達は嫌ならロッカ達と食ってこい」


「わかった」


トルクに3人分として小金貨3枚を渡しておく。これで足りないってことはないだろう。


「ん?ハンナは行かないのか?」


ロッカ達が皆とどこに行こうかと相談しているとハンナリーがこっちに来た。


「なんか作るんやろ?うちはそれ食べたい」


「いいけど他の物は作らんぞ」


「かまへんで」


カザフ達が肉ーっ 肉ーっと叫んでいるのでロッカ達は肉を食べに行くだろう。


マーギンは自分の部屋でたこ焼き鉄板を出す。


「なんやボコボコの鉄板やな」


「ボコボコじゃない。わざとこんな形になってんだよ」


タコを魔法で下処理した後にゆっくりと茹でていく。


「タコ食べるんか?」


「嫌いか?」


「めっちゃ好きやで。やっぱりマーギンの方に来て正解やな」


そう屈託なく目をまん丸にして笑うハンナリーはちょっと可愛かった。


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