娘を宜しく頼む
「マーギン君、すべて本当の話なのかね?」
まだ今の話を信じられないエドモンド。
「はい」
エドモンドはうーんと頭を抱える。
「なぜ職人街なのかね?」
「魔道具絡みで職人達が自分で店を構えるんです。そこで新しい魔道具や既存の物でも改良されたものを皆でやって売り出す予定にしています。自分もその手伝いをしている関係で姫様も職人街に入り浸ってるという感じですね」
「マーギン君が職人街に行くことが多いから姫殿下もということか?」
「はい。姫様に専属護衛も付いていますが私にもそれをやれという感じなんですかね。王妃様に姫様の子守を押し付けられたんですよ」
「君は王妃様と面識があるのかねっ」
「成り行きでそうなってしまいました。上手く嵌められたって感じです。まぁ、王族の方に市井のことを勉強してもらうのは良いことなので構いませんけど。恐らく姫様は来年タイベに来るんじゃないですかね。自分を守れるぐらい鍛えたら連れてってやると約束しましたから。今頃きっと騎士隊の大隊長にしごかれて筋肉痛で動けないとかじゃないですか」
「姫殿下にそのような事をさせているのかっ」
「襲撃された時に守られる方も動けたほうが安全なんです。逃げられるなら戦うより逃げた方が被害が少ないですからね。別に嫌がらせでやってもらってるわけではないですよ」
「それはそうかもしれんが…」
エドモンドは自分の常識からかけ離れた話を上手く消化出ずにだまりこんでしまったのでマーギンが違う話題に切り替える
「次はこちらからの質問をいいですか?」
「何かね?」
「アイリスを引き取るんですか?」
「その話はしたが断られてしまったよ」
「そうですか。まぁ、顔も見たことがない義母と暮らすというのもしんどいでしょうからね。俺もべったり一緒にいるわけではないですけど、嫁に行くまでは面倒見ますからご安心下さい。もう少し鍛えておきますから」
「アイリスを鍛えるというのは魔法をまだ教えるのか?」
「はい。アイリスは水を出す魔法と火魔法が使えます。あと教えるのは特殊な奴ですね。上手く使えればパーティの補助役としてかなり使えます」
「特殊な魔法?」
「はい。ロッカ達との連携に慣れれば戦いがかなり楽になります。タイベにいる間に教えますよ」
「どのような魔法かね?」
「重力系魔法です。これは適正が無いと使えないんですが、アイリスは少しだけ適正があります。だから持続時間も短くなりますけど戦闘時には大きな影響を与えます」
「重力系?」
「はい。これを使える者はほとんどいないかもしれません。どんな魔法か見てみますか?」
「ここで可能なのかね?」
「ええ。このテーブルを押すか引っ張るかして動かすの大変ですよね」
「うむ、大理石で出来ているからな」
マーギンはテーブルに魔法を掛ける。
「スリップ。では領主様、この机を押してみて下さい」
「押すだけでいいのかね?」
と、エドモンドは机を押した。
スイッ
「えっ?」
「机をほんの少し浮かせました。アイリスにこれを教えたらほんの一瞬でしょうが物を浮かせられます。敵が移動する瞬間を狙えばバランスを崩してコケますよ。そこをロッカ達が狙えばかなり楽に倒せます」
「こっ、こんな魔法が…」
「はい。魔法も色々とあるのです。先程も話しましたがこれから魔物が増え、見たことがないような強さのものも出てきます。それに対抗する力を育てていかねばなりません。国にも報告してありますので対抗手段を取って下さることでしょう。騎士隊に特務隊が設立されたのはその一端です」
「まさかアイリスを対抗する者として育てるつもりか」
「まぁ、見たことが無いような魔物の時は自分も参戦します。それ以外は今でも倒せると思います。危険だとご心配されると思いますが、普通に生活していても魔物に脅かされる時代がやってきたと思っておいて下さい。身に付けられる力はあった方がいいのですよ」
「そんな時代が本当に来るのかね?」
「まだ多分としか言えませんが確率は高いと思っておいて下さい。タイベには魔物に対応する力はありますか?」
「ハンターは結構いるが、ここは飛び地で他国とも面しておらんから領軍はいない。衛兵のみだ」
「ならばハンター組合と連携しておいた方がいいですね。各地で魔物が出ても報酬を払えない所は領費で討伐依頼を出すとかの手を打たれる事を進言しておきます」
「そうか、その進言は受け入れよう」
「ありがとうございます」
「君達は明日から何をするつもりかね?」
「タイベで自分が持っている米の生産依頼と、新素材になる植物を生産してくれる人を探します。あとは王都周辺では手に入らない魔物の素材集めとかですね。領地をあちこちウロウロしてみますよ」
「タイベに付いては詳しいかね?」
「いえ、南国だということぐらいしか知りません」
「では一つ忠告をしておこう。タイベには領民以外に先住民がいる。南西から中央には先住民が多い。日に焼けたような肌で小柄な者が多いからすぐにわかるだろう。先住民には国の法律が適用されていない。独自の文化とルールで生活しているから注意してくれたまえ」
「自治を認めているってことですか?」
「そうだ。大きな問題は発生していないが先住民のテリトリーにズカズカと我が物顔で行動すると揉めるから気を付けてくれたまえ」
「テリトリーに入っちゃいけないとかですか?」
「いや、お互いの往来には制限してはいないが先住民はプライドが高い。馬鹿にしたと取られたら問題になるのだよ。下手をすると戦闘になると思っておいてくれ」
「わかりました。ご忠告ありがとうございます」
「マーギン君」
「はい」
「娘を宜しく頼む」
「はい、自分もアイリスを可愛がっていますので問題ありません。淑女になるかどうかは責任を持てませんけど」
「はははっ、アイリスは庶民としての生活を選択したのだ。淑女になれとは言わん。ただ、幸せに生きてくれればいい」
エドモンドはアイリスの父親としてマーギンに宜しく頼むと頭を下げたのだった。
翌朝ボルティア邸を出発する。アイリスは帰りにまた寄りますと挨拶していた。
「アイリス、あの花畑はお母さんが育てていた花か?」
「はい。手入れをしていないのに沢山咲いていましたね」
「あの花を摘んでもいいか?」
「はい。もう売りに行くこともありませんのでご自由にして下さい」
花畑に移動して皆で手分けして花を摘んでいく。
「マーギン、こんなに花を摘んでどうすんだ?」
「虫除けを作るんだよ」
マーギンは花を集めて魔法で乾燥させていき、すべてを粉にしてから収納した。
「マーギンさん、花で虫除けって作れるんですか?」
「あぁ。この花は虫除けの効能がある。粉にして小麦粉とか木の粉と混ぜて線香にするんだよ。火をつければ蚊とか死ぬぞ」
へぇと皆が関心していた。
「だったらタイベで売れそうですね」
「蚊取線香は日常品だから商売にしてもたいした金にはならんと思うぞ。子供達の小遣い稼ぎとかにはいいかもしれんけどな」
「マーギン、虫除けが出来るならハンター組合で売れると思うぞ。王都でも需要があるだろう。夏の森の野営とか蚊が多くてたまらんからな」
「そう?なら作り方を誰かに教えて生産してもらうか。今から組合に行くからそこで聞いてみるわ」
「我々も組合にどんな依頼が出ているか知りたいからまずは街に向うか」
ということでまた移動だ。バネッサとカザフは元気いっぱいに競争して走って行ったのであった。
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