自分、孤児やってました

用意されていた船室は二部屋。男部屋と女部屋に別れる。雑魚寝ではあるが窓もあって悪くはない。


「なんか食うか?」


と、ガキ共と飯にする。


「何作ってくれるんだ?」


「ここだと煙が出るからな。作り置きしてあるからそれを食うか」


と、唐揚げとおにぎりにすることに。しかしまぁ良く食うわ。かなり大量に作り置きしてあるから問題はないけれども。


「マーギン、暇だな」


「そうだな。海賊ポイントまでずっとこんなんだぞ」


娯楽設備のない貨物船はとても暇だ。


暇を持て余したマーギンはガキ共を連れて船の中を散策することに。甲板は危ないかもしれないので下に降りると船の側面にデッキがあった。そこに行くと時折水飛沫が飛んでくる。


「うわっ、しょっぺえっ」


と言いながらキャッキャとはしゃぐ。海が初めてのガキ共は口に入る海水も楽しめるようだ。


「あっ、マーギン。魚が飛んだっ」


「ん、魚が飛んだ?」


「ほらっ、あっちにもっ」


「おー、あれはトビウオってやつだな。船に驚いて飛んでるんじゃないか」


「海の魚って飛ぶのか?」


「あれは飛んでるわけじゃない。ジャンプしてるんだ。あいつには大きなヒレがあってな、滑空するって感じだな」 


意味がいまいち分からないカザフ達は不思議そうに見ていた。実物を見ないと分からないだろうな。


「この船に大きな網とかあるか聞いてみるか?」


「あれ捕まえられんのか?」


「夜になったらな」


と、船員に網があるか聞いてみる。


「積んであるけど、釣りでもするのか?」


「なんか釣れるのか?」


「シイラとか釣れるぞ。もう少し沖に出たらカジキもいるがこの船で釣り上げるのは無理だな。たまたま近くにいたらモリで突けたりするが本当にたまたまだな」


なるほど。


船員も休憩の時に釣りをすることがあるらしい。やるなら長い竹竿を貸してくれるとのこと。リールとかはないので、釣れたら手で手繰り寄せるだそうだ。夜にトビウオが捕まえられたらそれを餌にしよう。


道具のある場所を教えておいてもらい再び船内を散策。


「おっ、ネズミだ」


そこそこデカいネズミがちょろろっと横切った。


「トルク、タジキ、あれ捕まえようぜ」


ガキ共は暇つぶしにネズミ取りをするみたいだ。どうやって捕まえるのかと思っていたら罠を仕掛けるらしく、紐と木とオモリになるものを探してきた。


ネズミがいそうな所を探し回って、出てくる隙間を発見。そこにくくり罠を仕掛けていく。


「マーギン、肉の脂身とかないか?」


「何でもいいのか?」


「腐っててもいいぜ」


マーギンは鶏の脂身を渡す。唐揚げを作る時にこそぎ落とした余分な脂だ。炒め物の引き油や鶏油にして汁物に加えたりするので全部とってあるのだ。


いくつかのポイントに仕掛けていくカザフ達。そしてしばらくするとヂーーーッという鳴き声が聞こえる。


「おっ、やった。ここのネズミは罠に慣れてないから簡単に捕まりやがるぜっ」


次々にネズミを捕まえていき、手慣れた手付きでもって、ナイフで絞めていく。


「やっぱりちゃんとしたナイフっていいよなぁ」


「前までどうやってたんだ?」


「尖った石とか割れたガラスを使ってたんだ。こんなに切れないから、噛まれる前に尻尾を持って頭を石にぶつけるんだよ」


結構ワイルドな殺し方してたんだな。


締めた時の血を洗浄魔法で綺麗にしてから再びデッキへ。そこには休憩中の船員たちがいた。


「おっ、お前らネズミを捕まえてくれたのか。すばしっこいのによく捕まえたな」


「へっへーん。前までこれが俺達の飯だったからな。こんなの朝飯前だぜ」


「ネズミを食ってたのか。お前ら孤児か?」


「そう。王都で孤児をやってたんだ。今はハンター見習いだぜっ」


孤児をやっていたというフレーズは初めて聞いたな。


「そうか、稼げるハンターになれよ。どれ、そのネズミを一匹くれ」


「食うのか?」


「いや、こいつを餌にして魚を釣るんだ」


と、一人の船員が釣り竿を取りにいった。ネズミを針に刺すのかと思ったら針の近くにくくりつけていく。狙いの魚は丸呑みするからこれでいいらしい。


ボチャっとネズミを海に放り込み、竿を横にしてデッキの柵にセット。これで魚が掛かるのを待つ。


ゴインゴインと竿がしなる。


「おっ、来たぜ」


一人が竿を持って、もう一人が皮手袋をして糸を手繰り寄せる。中々に大きそうだ。


プツン


「あっ、切られちまった」


残念ながら魚に逃げられたようだ。仕掛けを作り直すのに糸を引き上げるとすっぱりと切られていた。


「何だったんだろうね?」


「バラクーダかサワラだろうな。あいつらが来ると糸を切られちまうんだ」


サワラなら食いたいな。


「この糸を使ってみる?」


「こんな細い糸で無理に決まってんだろが」


「そうか?かなり強い糸だぞこれ」


と言うと、好きにしろとのこと。もう休憩も終わりのようで仕事に戻って行った。


長さは50mぐらいか。 


元々の長さに合わせて糸をくくりつける。刃物ではなかなか切れないので火を出して焼き切った。


「ようし、ネズミを付けてポイっとな」


そしてしばらく待つとまたゴインゴインと引くので、ガキ共に竿を持たせてマーギンが糸をたぐり寄せた。


「釣れたっ」


3人は大喜びだ。


「これなんて魚だ?」


「これはサワラだな。大きいから炙りにするか」


マーギンは素早く絞めて血抜きをし、冷やしてからアイテムボックスへ。今度は自分達も糸をたぐり寄せたいと言うから交代でやってみる。


竿はマーギン、糸はガキ共が交代でやっていく。


「引けーつ 引けーっ」


タジキを応援するカザフとトルク。またサワラゲット、次にカザフが釣ったのはバラクーダだからリリース。


「なんで逃がすんだよ?デカかったのに」


「あの魚は肉に毒持ってたりするんだよ。危ないから念の為にな」


「ちぇーっ」


そしてトルクも釣り上げて合計3匹のサワラをゲットした。


「ここで調理するか?」


「おーーっ」


と言っても解体魔法で一瞬だ。皮付きのサワラの身に醤油を掛けて炎で炙る。


「旨そうな匂いだぜっ」


もう一つは醤油なしで炙り、塩と柑橘系の搾り汁で味付け。


マーギンがやや厚切りで刺し身のように切り皆で食べる。


「うんめぇっ」


醤油炙りも塩ポンも甲乙付けがたい。


「めっちゃええ匂いしてくんのここからやったんかいな」


「ハンナ、良い所に来たな。お前も食うか?」


「ええの?」


「俺等が今釣ったやつなんだぜ。めっちゃ旨いぜっ」


ハンナは嬉しそうに子供達の所で一緒に食べだした。


「なんやこれっ、めっちゃ美味しいやんか」


「だろ?まだまだあるから食って食って食い尽くせー」


「おーっ」


この様子だと3匹とも食いそうだな。マーギンは残りのサワラも同じように調理していき、一部は皿に乗せて避けておいた。



「はぁー食った食った。よし、またネズミを捕まえに行こうぜっ」


元気いっぱいの3人はネズミを捕まえに走っていった。


「ロッカ達は何してんだ?」


「船酔いで死んではるわ」


「そんなに揺れてないのにな」


「明日から大変ちゃう?外洋に出たらもっと揺れるからなぁ」


「そうか、ならそれまでちゃんと飯食っとかないとダメだな」


「そやね。うちはもうお腹いっぱいやわ」


「ガキ共は元気だろ?朝飯をもりもり食って今も食って、晩飯ももりもり食うだろうからな」


「あんたら楽しそうやな」


「あいつらは孤児だったからな。毎日ひもじい思いをして、人の家の床下に隠れて住むような生活をしてきたんだ。今年からハンター見習いになって初めて外の世界を知って楽しくてしょうがないんだよ。見るものすべてが初めてだし、こうして旨い物が腹いっぱい食べられる幸せを味わってるところだ」


「幸せを味わってるんか。それはええこっちゃな」


と、ハンナリーは沈んだ顔で返事をした。


「お前は幸せじゃないのか?」


「うちの幸せはこれからや。絶対に商売人としてめっちゃ儲けて、うちを不幸にしたやつ等を見返したんねん」


「獣人だからとイジメられたのか?」


「イジメか… うちのオトンとオカンは人族やねん」


「ん、お前は養子なのか?」


「いや、ほんまのオトンとオカンやと思う。でもうちだけ家族の中でこんな耳やねん。そやからオトンとオカンが揉めててん」


「どっちかが本当の親と違うということか?」


「うちのオカンは絶対にそんな事ないっていつも泣いてたわ。オトンはオカンを疑い、周りからもオカンが獣人の子を産んだ言われててな、オカンはそれを気に病んで早ように死んだわ。オカンが死んでからオトンは酒浸りになって、お前は俺の子ちゃう言うて殴られたり蹴られたりとかそんな毎日やった。それで商売も上手いこといかんようになってうちを捨ててどっかに行ったんや」


「まぁまぁハードな人生だな。まぁ、そういう辛い思いが人を育てる事もある。過去を毒にするか薬にするかはお前次第だ。ガキ共は孤児だったことを引け目にも思ってないし、強くたくましく生きてる。あいつらを見ているとほんとにそう思うわ」


「そやな、しんどい思いしてきたのはうちだけやないというのはわかってんねん。そやけど、この耳さえなかったらと何回も思うてしまうねん…」


「そうか、ケモミミって可愛いと思うぞ」


マーギンはハンナリーの耳をヘニョヘニョと触る。


「や、やめぇな。この耳嫌や言うてるやん」


「尻尾は隠してるのか?」


「尻尾はあらへん、耳だけや。だから獣人としても中途半端やねん。人族でもない、獣人でもないうちは中途半端な存在やねん」


「んー、なら先祖返りかもしれんな」


「なんや先祖返りって」


「お前の先祖に獣人がいた可能性はあると思う。で、段々と獣人の血が薄くなって人族だと思ってたのがひょっこりと獣人の血が出てきたってやつだ。こういうのを遺伝って言うんだけどな、そんなに珍しいことじゃない。親がすごい能力を持ってても子供は普通、孫も普通、で、ひ孫がまたすごい能力持ってるとかだな。それがもっともっと昔の先祖の事になると先祖返りというんだよ」


「ほなら、ほんまにうちのオカンが不貞したわけやないって言うんか?」


「だってお前のお母さんが絶対に違うって言ってたんだろ?子供のお前が信じなくてどうすんだよ?子供にまで疑われたら亡くなったお母さんも悲しいだろうが」


「そ、そんな、うちも… うちもオカンのことを…」


「お前も辛い思いをして周りから色々と言われたんだ。子供だったお前もそうかなと思うのは仕方がない。心の中でお母さんに謝っとけ。ほら、お母さんは違うて言うたやろ?って許してくれると思うぞ」


そう言うとハンナリーはオカンゴメンやでと何度も言いながら泣き続けるのであった。

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