幸せは自らの手で掴み取れ

「あー、マーギンがまた女の人を泣かしてる」


ネズミを持ったカザフ達が戻って来た。


「またとか人聞きの悪いことを言うな。もう日が暮れるから釣れなくなると思うぞ。そのネズミは捨てとけ」


「勿体ないじゃんかよ」


「ならお前らの晩飯はそれな。俺は今から捕まえる魚を食う」


「ええーっ、ズルいじゃねーかよっ」


「ネズミが勿体ないんだろ?」


そう言うと断腸の思いをするような顔をしてネズミを海に捨てたのだった。



マーギンが大きな網を準備する。


「あの飛ぶ魚を捕まえるのか?」


「そうだ。こっちに向かって飛んでくるから網で捕まえろ」


マーギンは灯り魔法を使って海面を照らす。


「こんな明るい魔法は初めて見たわ」


「俺のオリジナルだからな。王都に来たら50万Gで売ってるぞ」


「なんやその値段っ」


「商売で儲かったら買いに来い」


なんぼお金あってもそんな高いもんいらんわと言われた。


海面を照らし続けてしばらく待つとビョーンとトビウオが飛んで来た。


「ほら掬えっ。まだまだ来るから海に落っこちんなよ」


柵から乗り出そうとするので服を引っ張って元に戻す。落ちたら助けられんかもしれん。


「獲ったっ!」


「よし、ここに入れていけ」


氷水を作ってそこに入れさせていく。トビウオは灯りの周りにビョンビョン飛んで来るので掬い放題だ。


「うちにもやらせてぇな」


「じゃあ、はい」


こういう時にすぐに譲ってやるのはトルクだ。


マーギンはトルクを後ろから抱きしめるような形で皆を応援する。


「ハンナ、魚を飛んでくる幸せと思えっ」


「よっしゃっ、幸せがなんぼでも飛んで来るわっ」


ハンナリーは自分で幸せを掴み取るようにトビウオを掬っていく。カザフもタジキも掬いまくる。


「タジキ、トルクと代われ。お前はトビウオを捌いていけ」


「解ったーっ」


絶対に柵から身を乗り出すなよと言ってからタジキに魚の捌き方を教えていく。鱗はこう取って、お腹はこう切って内臓を出してと。


「マーギン、これ卵か?」


「お、良いねぇ。後で加工するから卵はこっちのボウルによけといてくれ」


まずは鱗取りと内臓を出すだけをやらせる。ナイフでやるの難しいだろうから帰ったら包丁を買ってやろう。


もういいだろうと言うぐらい取れたので終了。トビウオのヒレを広げてこうやって飛ぶんだぞと理科の先生のようなことをしてみる。


タジキの捌くスピードは全然追いついていなかったので残りは解体魔法で処理していくことに。干物用、出汁用、今食べる用だ。トビッコも沢山手に入ったのでこれは後ほど加工しよう。


「じゃあ、刺し身とつみれ汁にするか」


天婦羅は船が揺れると危ないので止めておき、つみれはタジキに作らせ、生はマーギンが作った。


「寒くなってきたから部屋で食べるか」


と、部屋に戻る前に船長室に寄っておすそ分け。


「この船で釣ったのか?」 


「そう。サワラはネズミを餌に。トビウオは網で掬ったんだ。操船の間に食べて」


と、お邪魔虫にならないようにすぐに退散。ハンナリーも男部屋で一緒に食べる事に。一応女部屋を見に行ってもらったがまだ皆死んでいるらしい。


「これも旨ぇ」


「ホンマや。めっちゃ旨いわ」


「タジキ、お前の作ったつみれ汁よく出来てるぞ」


「これ、大将の店で出せるかな?」 


「ライオネルから魚の流通が始まったらな。しかしトビウオは難しいかもな。単価が安いから王都まで流通させても儲からんぞ」


「そっかぁ」


「王都だとどうしても高くなるだろうから、リッカの食堂みたいな店だと出すのは難しいしな」


タジキは計算が少し苦手だ。美味しいだけを追求したら流行ってるのに赤字の店になってしまうかもしれないな。


ご飯を食べ終わった後にアイリス達の様子を見に行く。


「大丈夫か?」


「マーギンさん、気持ち悪いです…」


「こっちに来る時は平気だったのか?」


「一人で緊張してたんだと思います…」


真っ青な顔してて可哀想だな。


「水分だけでも取れ」


「気持ち悪いからいりません…」


「いいから飲め。これで少しマシになると思うぞ」


と、氷入りの炭酸水を飲ませる。


「あっ、ちょっとマシです」


「だろ?残りもゆっくり飲め」


ロッカ達にも同じように飲ませたら飲めたようだ。


「すまんなマーギン」


「酔うのは体質だからしょうがない。マシになった所で強制睡眠の魔法を掛けてやる。おねしょしないようにトイレに行ってこい」


おねしょなんかするかっと言われたけど、強制睡眠は麻酔と変わらんのだ。その歳でお漏らしするとか嫌だろうが。


トイレから戻ってきたので順番に軽めに睡眠魔法を掛けて眠らせた。よく寝て起きたらマシになってるだろ。



「どうやったん?」


ハンナリーが心配して聞いてくる。


「寝かせてきた。朝起きたらマシになってるかもしれんな。外洋でもっと揺れてるなら追加で魔法を掛けて眠らせるわ」


「あんたそんな魔法も使えるんかいな?」


「結構便利な魔法だぞ」


「うちに掛けてやらしいことしたらあかんで」


そんな悪用するか。


ハンナリーは皆を起こしたら悪いとか言って、このまま男部屋で寝るようだ。ガキ共とおしゃべりしているのが楽しいらしい。俺は先に寝るからな。


夜ふかししたくせに早朝から元気なガキ共。朝食をもりもり食っている。ハンナリーがここで寝た目的はどうやら朝飯だったようだ。持参しているのは水と干し肉だったらしいからな。ちゃっかりしてやがる。


「マーギン、釣りに行こうぜっ」


ということでまたデッキに向う。昨日と比べて波があるのでびっちゃびっちゃ掛かる。


「やめとこうや。ずぶ濡れになりそうだ」


「えーーっ」


「だいぶ外洋に出てるみたいだぞ。もう昨日の魚はおらんだろ」


トビウオの姿も見えないしな。


「マーギンっ向こうにデカいのがいるっ」 


カザフが指をさした所に背びれが見え隠れしている。ヒレの形からしてサメではない。


「カジキがいるって言ってたからカジキかもな。あれはもし釣れたとしても釣り上げられんぞ。銛で突かないとダメらしいからな」


「僕、弓で狙ってみる。マーギン、矢に紐を括り付けてよ」


「あれを矢で射るのか?めちゃくちゃ難しいぞ」


距離がある上に泳ぐのが速いカジキ。こちらも船が揺らん揺らんしているからな。


「やってみたいからいい?」


「まぁ、好きにしろ」


アイテムボックスから弓矢を出して、矢に糸を括り付ける。もし刺さっても引き上げられるだろうか?まぁ、その時は魔法で引き寄せるしかないな。


トルクは船の揺れにタイミングを合わせながら狙いを付ける。


「トルク、魔狼討伐で矢を曲げただろ?あれを曲げるんじゃなしに当たる時に押し込むようにやってみろ」


「うん」


トルクが矢を曲げたのは魔法の力だ。シスコは風魔法で曲げていたけど、トルクのは念動力だと思う。おそらく無属性の適正がかなり高いのだろう。


マーギンはカザフ達の鑑定はしていない。先入観無しに様々な経験をさせるためだ。それでもコイツらの能力の片鱗が見えてくる。特にトルクはかなりの攻撃魔法の使い手になるだろう。


シュパッ


そんな事を思っているとトルクが矢を放った。


「今だっ」


マーギンがトルクにタイミングを伝える。


水中に矢が突っ込みんだかと思った瞬間に凄い勢いで糸が引き出される。


ちいっ


離れた所にいる上に矢が刺さった事で一気にスピードを上げて走るカジキ。これでは魔法が届かん。


「トルク、次々と矢を射って弱らせてくれ」


マーギンは慌てて皮手袋をはめて糸の出るスピードを落とそうとするが全く止まらない。


トルクがシュパッシュパッと矢を放って行くが距離があるので当らない。こりゃ無理だな。


と、思ったら急に方向転換をしてこちらに向かってくる。


「撃て撃て撃てっ」


カジキのやろう、玉砕アタックを仕掛けて来るつもりか?


慌てるトルクは狙いが定まらず矢が当らない。


「伏せろっ」


トルクをどんっと突き飛ばすマーギン。


カジキがジャンプしてこちらに長い吻(ふん)を剣のように振り回してきた。


「エレメントスピアッ」


マーギンは魔力の槍をカジキの口目掛けて放った。


パスっ


口の中から頭を貫かれたカジキは一瞬でふんを振る動きが止まり、そのまま船の壁に刺さったのであった。


「トルク、怪我はないか?」


「う、うん。大丈夫」


カジキは壁に刺さった吻が抜けて、デッキにどんっと落ちた。


「トルク、よくやった。お前の獲物だ」


「すっげぇぇっ。トルクやるじゃんかよっ」


カザフとタジキがトルクすげえっと褒め讃える。


「最後に仕留めたのはマーギンだよ」


と、トルクは照れくさそうに笑った。


「これはタジキが捌くのは無理だな。ナイフも包丁でも無理だ」


「うん、これだけ大きいと無理だなぁ」


お腹を出すぐらいなら出来るかもしれんが、もう血抜きを兼ねて解体をしてしまおう。


マーギンは解体魔法でカジキを捌き、頭を海に捨てようとすると


「マーギン、頭も置いといて。シスコ姉ちゃん達に見せてくる」


「そうか、なら思う存分自慢してこい。寝てたら起こしてやってくれ」


ガキ共は3人でカジキの頭を持って走っていった。あれは捨てずに持って帰ってやるか。ダットにも見せたいだろうからな。


マーギンは昼飯にカジキを食べるだろうと、食べる分だけ熟成魔法を掛けていく。デカい魚はすぐに食べても旨くはないのだ。



ー貨物船の女部屋ー


「見てくれーーっ」


部屋に入っても寝ている4人。


「ほら、起きろよっ」


起きない4人を揺らして起こす。


「なんだよぉ〜 うわぁぁぁっ」


カザフがバネッサを揺り起こした横にカジキの頭があった。


その声で皆も目が覚める。


「なんだそれは?」


ロッカに尋ねられる。


「コイツはカジキって魚だ。トルクが弓矢でやったんだぜっ」


「トルク、こんなに大きい魚を弓矢で仕留めたの?」


これにはシスコも驚く。


「うん、最後はマーギンがやってくれたんだけど、矢に糸を括り付けてやったんだ」


「へぇ、凄いわねぇ」


「こんなデカいのが海にいるのかよ?」


「うん、昨日は魚を釣って食べたんだ。今日はこれを食べるんだ」


ロッカ達はよく寝たので船酔いがマシになっている。それとカジキで驚いたのが功を奏したのかもしれない。


うち達も食う。そう言ったバネッサ。ロッカ達も腹が減ったなとデッキに向かうのであった。



ーデッキー


「なぁ、それはどう料理すんの?」


「これはステーキだな。ガーリックバター醤油で食うつもりだぞ」


「旨そうやな」


ハンナリーも食う気満々だ。


そしてロッカ達もやってきて、カジキステーキを食った。また気持ち悪くなるんだろうな…


案の定、吐きそうになったロッカ達に睡眠魔法を掛けてまた寝かせておいたのだった。


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