組合長にパラライズ
「酷いな…」
ロッカ達はそう呟いた。到着した場所は小さな村だったがすでに壊滅しており、住人にも被害が出たであろうことが容易に解った。
「夜まで待つと時間が足らんからおびき寄せるぞ」
マーギンは地形を見て、配置を決めていく。
「俺が合図をしたら、タジキとカザフ、ハンナリーは屋根に登って見学。シスコとトルク、アイリスは俺と一緒にいろ。バネッサとロッカはいつも通り好きにやってくれ。こっちで援護する。けど、深追いはするなよ。追いたくなる時は魔狼の誘いだから深追いすると囲まれるぞ」
マーギンが注意事項を伝える。バネッサは解ってると反発するがお前が一番心配なのだ。
「じゃ、焼き肉にするか」
ハンナリーはえ?と驚く。いつ魔狼が襲って来るかもしれない所で飯を食うのかと。
かまどを組んで焼き肉開始。じゅうじゅうと肉の焼ける音と匂いが辺りに充満していく。
「なにこれ、めっちゃ旨いやん」
魔狼の心配はどこへやら。焼き肉の味にやられるハンナリー。
「お前ら、今日は口から出そうになるぐらい食うなよ。魔狼が来た時に動けなかったら死ぬからな」
この焼き肉は腹を満たすものではない。魔狼をおびき寄せる為のものなのだ。もうこの辺りには人間も家畜もいない。魔狼達は腹を空かせているはずだから匂いにつられて集まって来るだろう。
マーギンが気配察知をしていると遠巻きに魔狼が集まってきているのが分かる。
「カザフ、お前等は屋根に上がれ。まず北方向から対応する。四方から来るけど慌てんなよ。ロッカとバネッサは北方向の奴だけに注力してくれ。他のはこっちで対処する」
マーギンが皆に指示をして行動開始。気配が周りを囲んだ後にジリジリとその輪を小さくしてきた。
「アイリス。もうすぐ北方向から斥候役の魔狼が飛び出してくる。俺がファイアバレットでそいつをやるから見ておけ。バネッサ、俺が斥候を殺ったら、次の奴らから頼む。横からも飛び出してくるぞ」
「へへっ、任せとけ」
そしてマーギンの言った通りに先ずは1匹目が咆哮を上げて飛び出して来た。
ボヒュッ
マーギンは小さな火というより熱の塊のようなもので斥候の魔狼を咆哮で開けた口の中から撃ち抜いた。それを合図に次々と飛び出してくる魔狼。バネッサはその中に飛び込みクナイではなしに両手に持った短剣で踊るように魔狼の首を刈っていく。
「すっげぇぇ」
カザフは魔狼の群の中でダンスを踊っているかのようなバネッサを見て大声を出した。
ロッカはバネッサの一撃で倒れなかった奴に止めを差していく。
「シスコ、矢の軌道を曲げるぞ」
「え?」
「木の陰で待機している奴らを矢で殺る。お前は矢が当たる寸前に無意識に風で軌道修正しているだろ?あれを意識的にやるんだ」
マーギンは矢の軌道を指差ししながらこう曲げるイメージを持って射れという。
「無理よっ」
「大丈夫だ。お前なら出来る。失敗してもいいからどんどん打て。アイリスは着火魔法を飛ばすイメージと同じだ。あれをもっと小さく固めて温度を上げて撃て。スピードは最速でな」
マーギンは南側から襲ってくる魔狼をファイアバレットで撃ちながら指示をした。
「僕もやっていいの?」
「トルクは好きにやってみろ。当たらなくてもいいからな。バネッサとロッカがいない方向に射るんだぞ」
矢は土魔法で作ってあるから使い捨てだ。好きなだけ試すといい。
時折大きく飛び上がって屋根の上のカザフ達を狙って来るやつはプロテクションで防御。ハンナリーはヒヤァァッと叫ぶがカザフ達はさっとナイフを構えたりしている。いきなりの実戦で大したものだ。
バーサーカーモードに突入しているバネッサ。魔狼に死の宣告を与えるかの如く斬り殺すロッカ。
「シスコ、どうだ?」
「難しいわよっ」
「練習あるのみだな。物陰に隠れているやつを殺れるようになってくれ」
「もうっ」
「マーギン、こうかな?」
え?
トルクが放った矢がするんと曲がって木の陰に居た魔狼を仕留めた。
「お前すごいな」
「ど、どうやったのよっ」
「え?こう曲がれって思ったら曲がったよ」
トルクは右、左とどっちにも曲げられる。シスコはその軌道を見ておなじように曲げられるか試している。アイリスはちまちま撃つのが面倒になったのか、複数のファイアバレットを出して一斉射撃。なんだお前等?こんなに凄いのかよ。
結局マーギンは屋根の上の防御に専念するだけで終わり、皆がそれぞれ満足するような倒し方をしてスッキリするのだった。
「もう終わりかしら?」
「だな。何匹か逃げたから殲滅ではないけど、討伐は完了だ」
皆で手分けして魔狼の死体を集めていく。
「討伐報告って死体ごと持っていくのか?」
「いや、右耳を切り落とす。基本魔物の討伐証明は同じだ」
ということで右耳を落としていく。ハンナリーにも報酬を少し分けてやるつもりのマーギンは手伝わせた。
「タジキ、魔狼のここをこうして開いて中を見てみろ」
タジキには解体の基本を教えることに。
「マーギン、開いたよ」
「魔結晶が入ってないか?心臓の所に石の塊みたいなのがあるはずだ」
血まみれの内臓も平気で手を突っ込むタジキ。
「あった!」
「お、中々のサイズだな。今回はそれを取るのを練習しろ。次々にやれ」
「解った」
魔狼の数は120匹程いる。大量だなこれ。耳を刈り取るのも一苦労だ。
「毛皮とか肉とかどうする?燃やすか?」
「何言うてんねんな、毛皮もええ値で売れんねんで。肉も食う奴がおる。持てるだけ持って帰らんな勿体ないやんかっ」
「なら、解体するか」
と、マーギンは次々と魔法を使って解体していく。タジキももう魔結晶を取るのに慣れただろうしな。
皆は解体魔法を初めて見る。
「マーギン、見事な魔法だな」
「だろ?高いから売れた事はないけどな。それに結構魔力を食うし、自分で解体出来ないと魔法も上手く発動せんから使える人を選ぶ魔法だ」
解体した素材をアイテムボックスに入れていく。
「あんたなんなん?なんでそんな小さな所に全部入いんねんな」
「ハンナ、ハンターは人の詮索をしないのが鉄則だろ?」
「せ、せやかてこんなん…」
魔結晶だけ収納せずに数を数えると122あった。耳の数も同じだから数え間違いはないな。
「さ、帰るぞ」
「せ、せやかて…」
まだ啞然としているハンナリーをそのままに、血まみれになった皆を洗浄魔法で綺麗にすると、更に驚かれたのであった。
ーライオネルハンター組合ー
「えっ?122匹ですか?」
「そう、これが討伐証明。討伐報酬と合わせて1422万G。手数料を引いた1280万G払ってね」
「ちょっ、ちょっとお待ち下さいっ」
慌てて中に走っていく受付の人。組合の中も騒然となっている。そしてしばらくすると組合長が出てきた。
「本当にこんな数がいたのか?」
「証明あるだろ?」
「前に王都北の領で大量の魔狼討伐があったと聞いている。その魔狼じゃないだろうな?」
と疑われたマーギンはカチンと来た。
「なに?報酬を支払わないつもりか?」
「こんな短期間でこれだけの数の魔狼をやれるわけがないだろうっ。それに多くても30ぐらいしかいなかったはずだ」
「なんだよそれ?」
「それにお前らに血の1滴も付いていない。どうせマジックバッグに耳を入れて持ってたんだろうが」
「あっそ。そうやって疑って報酬を払わないつもりなら王都の組合に報告しておくわ。ライオネルからの応援要請を受けるとタダ働きさせられた挙げ句に嘘つき呼ばわりされるとな。ハンナリー、悪いな。貨物船の依頼もやめとくわ。後から何を言われるか解ったもんじゃない」
「ちょ、ちょ、ちょ、待ってぇや。組合長はん、マーギン達はホンマにこの数を倒したんや。うちも目の前で見てて腰抜かすぐらい驚いたんやから」
「なんだお前は?」
「うちはここに登録してるハンナリーってもんや」
そう言うとクイッと受付に合図をしてハンナリーの実績を持って来させる。
「はっ、お前は貨物船に乗るために色々な奴に寄生してるだけか。話にならんな。獣人の癖しやがって」
そう言われたハンナリーはギリッと悔しそうに唇を噛んだ。
「パラライズ」
マーギンは組合長にパラライズを掛けた。
「ぐっ、貴様何をっ…」
組合長の言葉を無視してロッカ達に話しかけるマーギン。
「ロッカ、悪いな。今回の報酬は貰えないみたいだ。だいたい一人255万Gの報酬だったからその分は他で埋め合わせをさせてもらう。ハンナリー、貨物船の所へ案内してくれ。俺が船長に直接交渉してやるから」
「マーギン…」
「受付さん、忠告しておくわ。今回の魔狼の異常繁殖はこれからの序章だ。今後次々に強い魔物が現れる。その時に王都の組合に応援要請しても今回の事を報告しておくからロドリゲスは誰も派遣しないだろう。領主にも伝えておけ、ライオネルはこの組合長のせいで壊滅するだろうから領軍を鍛えておけってな」
「待って、待って下さいっ」
マーギンは受付担当が叫ぶのにも関わらずそのまま外に出た。
「マーギンっ、ええんか?」
「知らん」
ハンナリーにそっけなく答えるマーギン。
「貨物船の出発は明日だろ?早く交渉しないと間に合わないぞ」
マーギンは早く案内しろと急かせて貨物船の所へと向かったのであった。
ー貨物船の事務所ー
「ハンター組合を通さずに乗せろだと?面倒事はゴメンだ」
「別にいいじゃん。金銭的な報酬がないから手数料も払ってないんだろ?」
「そりゃそうだが…」
交渉しているのは貨物船の荷物とかを手配している人。責任者ではないから面倒な事に巻き込まれたくないようだ。
「今回誰もこの依頼を受けてないぞ。賊って護衛がいないと襲ってくる可能が高いと思うんだよねぇ。俺達を素直に乗せた方がいいと思うよ」
「しかし…」
「もし海賊に襲われて荷が奪われたとかになって後からあんたが勝手に護衛を断った事がバレる方がヤバいんじゃない?断るにしても上の人に相談した方があんたの責任は回避出来ると思うけど?」
そう言うと相談しに行ってくれた。
「あんたホンマになんなん?さっきの人は気難しいやつやねんで」
「でも責任者じゃないだろ?聞きに行くぐらいしてくれてもいいじゃん」
しばらく待つと片腕を吊るしたイカツイ人がやって来た。
「お前らか?組合を通さずにやって来た馬鹿者は?」
「馬鹿者は組合の方だけどね。俺はマーギン。王都でハンター登録をしている。タイベに行く客船が出ちゃった後にライオネルに到着してね。貨物船に乗せてもらいたいなって思って来たんだよ」
「なら、組合を通して来い」
「それがさぁ」
と、さっきの話をする。
「その話は本当か?」
「本当。まぁ、数が本当に多かったから疑う気持ちもわからなくはないんだけどね、それより組合長がこいつの事を獣人のくせにとか言いやがった事にムカついてさ。で、直接来たってわけ」
「お前は王都のハンターなんだな?」
「そうだよ」
「そっちの獣人は見たことがあるぞ。お前はライオネルのハンターだな?」
「そうや」
「ならなぜ王都のハンターのお前が獣人と馬鹿にされたのにムカつく?」
「だってムカつくじゃん。罪人ならわかるけど、獣人ってだけでそんな事を言われる筋合いはないよ。人種は違っても人は人だ」
「わかった。本当に魔狼討伐したなら魔結晶が取れただろ?」
「たくさん取れたよ」
「いくつある?」
「今回は122だね」
「売り先は決まってるか?」
「まだ決めてないけど」
「じゃあ、それを売れ。相場で買ってやる」
と、実物をじゃらっと見せる。
「1つ30万Gでどうだ?」
ロッカ達を見ると頷くので売る事に。
「100買わせてもらう。おい、3000万G持って来い」
と、さっきの受付けてくれた人に命令をする。
「俺はクックだ。貨物船の船長をやっている。明日10時出港だから9時には来てくれ」
「乗せてくれんの?」
「あぁ。飯と水は持ってこいよ。部屋は準備しといてやる。護衛の内容は船の中で話す」
「解った。宜しくね」
300枚の大金貨を受け取ったマーギンは宿の食堂へと向かったのであった。
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