だが断る

ロッカ達がハンター組合で面倒事に巻き込まれいる時に、獣人の漁師たちとすっかり意気投合して昼間っから飲んでご機嫌のマーギン。ガキ共は口からカツオが出そうになってお昼寝中だ。


「他の季節は何が取れんの?」 


「おう、しばらくはカツオが続いてな、夏は小型のマグロだ。秋にブリと脂の乗ったカツオになって、冬場ギリギリまで大型のマグロを狙うって感じだな」


素晴らしい。これは季節ごとに来なければ。


そして、旨いカツオを食わせてもらった礼だと、色々な漁師から海老やらイカやら鯛とか半端になった魚をもらったのであった。


ガキ共を連れてライオネルの街を散策することに。ちゃんと見たことがなかったので中々に新鮮だ。


「マーギン、晩飯は何にするんだ?」


「もう飯の話か?さっきまで口からカツオが出ると言ってただろ?」


「もう大丈夫だ」


何が大丈夫なのかわからんがもう食えるらしいので屋台広場へ行ってみることに。


「おーっ、すっげぇ。これ全部屋台かよ」


王都にも屋台広場はあるようだがまだ行った事がない。


「なんか気になったものは食っていいぞ」


やったーっと叫びながら物色を始める。


「肉は何があるんだろうな?」 


「食ってのお楽しみかもしれんな。旨そうな匂いのしているやつを選べ」


そういうとくんかくんかと犬のように匂いを嗅ぎ回る3人。ちょっと恥ずかしいが旅の恥はかき捨てってやつだ。


3人がここだっと言った所は空いている。誰も並んではいないのだ。こういう場合は不味いか高いかのどちらかだろうな。ま、これも勉強だとは思うがこの匂いは…


「4本くれ」


「毎度っ。1200Gだよ」


威勢のいい少年が串肉を渡してくれる。串肉にしてはちょい高い。


ガキ共は一口食べて、ん?となった。マーギンも一口食べる。おっ、やっぱりこの味は…


「この調味料はどこで手に入る?」


「これはタイベだ」


「旨いのに人気なさそうだな」


「おっちゃんは旨いって言ってくれたけど、ライオネルの人はあんまり好きじゃねぇみたいだ」


おっちゃん…

こいつから見たら俺はおっちゃんなのか。やはり魔王はもういないのかもしれない。


「そのまま使ってるから渋く感じるんだろうな。食べ慣れてないと味も濃いかもしれん」


「これの食べ方知ってんのか?」


「まぁな。それに周りに比べたら高いだろ?工夫しないと売れないぞ」


「そんな事を言ったってよぉ」


「タジキ、これに何を加えたらもっと旨くなると思う?」


「俺は少し甘い方が好きだ」


「お、正解だ。あとな、クルミやゴマとかをすって混ぜると渋みも減ってもっと旨くなるぞ」


「おっちゃん、何勝手な事を言ってんだよっ」


「おっと、すまんな。こいつは将来料理人になりたいみたいでな、色々な味を勉強してんだよ。参考になったわ、ありがとな」


マーギンは少年にヒントを出す程度に止めておく。後は自分で工夫をしてくれ。この調味料は味噌に近い。というか味噌の一種だろうな。タイベで仕入れなければいけないリストが増えたな。


それからもここだっと何件かハシゴをしてお腹いっぱいで宿に戻った。


食休みとして晩御飯まで少し寝る。食って寝てをしていると幸せではあるが太るだろうなとか思うけどもう抗えない。


マーギンはガキ共と一緒にガーゴーと寝るのであった。



ー宿の食堂ー


「ちっ、マーギンの奴遅ぇじゃねーかよっ」


食堂ではハンナリーを連れた星の導き達がマーギンを待っていた。


「ねぇ、もしかしたら部屋にいるんじゃないかしら?」


とシスコが気付く。マーギン一人ならどこかで何かをしているかもしれないが、子供たちを連れているのだ。過保護なマーギンなら早くに戻って来ていてもおかしくない。


「だったらとっくにここに来ているだろ?子供らはすぐに腹減ったと言うではないか?」


「食べ歩きでもしてきて寝てるかもしれないじゃない」


「うちが見てきてやんよ」


と、待ち切れないバネッサがマーギン達の部屋を見に行った。


「おいマーギン、部屋にいんのかよっ」


しかし返事はない。バネッサはドアに聞き耳を立てる。


ぐぅぁぁ〜


「寝てんじゃーかよっ」


ドアの向こうでイビキと寝息が聞こえたバネッサはマーギンを驚かしてやろうと、こっそり鍵を解錠する。またスライムが出るんじゃないかと警戒したがそれも大丈夫だった。


「へへっ、こんなの朝飯前だぜ」


抜き足差し足忍び足っと


すぐそばまできたバネッサがマーギンを起こそうとした時にいきなり手を掴まれてぐいっと引き寄せられた。


「おっ、起きてたのかよてめえっ」


しかしマーギンは黙ったままだ。


そしてぎゅうっと抱きしめられる。


「ちょっ、ちょっ、ちょっと待てっ。な、な、な、何しやがるっ。離せっ」


バネッサが暴れてもぎゅっと抱きしめたまま離さないマーギン。


「や、やめろってば。恥ずかしいだろうがっ。ガキ共が隣で寝てんだろうがっ」


どんどんと恥ずかしくなるバネッサ。嫌ではないがとにかく恥ずかしいのだ。


ふとマーギンを見るとマーギンは泣いていた。


「どっ、どうしたんだよ?どこか痛いのか?」


スケベな感じで抱きしめられているのではないことは解った。


「マーギン、まだ寝てんのか?それともなんかあったのかよ?」


「い、生きて…」


「生きる?当たり前だろうが。目の前にいるだろうが?」


マーギンの奴、もしかしてあの大蛇の時の夢を見てやがんのか?


「お前、やっぱり生きてたんじゃねーかよっ」


これはうちが夢の中では殺られたと思ってやがるのかもしれねぇ。


「マーギン、あの時は身体を張ってうちを守ってくれてありがとうな。ちゃんと礼は言えてねぇけど嬉しかったんだ」


バネッサはそう呟いてキュッとマーギンを抱き返した。


そして…


「ミスティ…」


ミスティ?は?誰だそれ?というかこいつ、他の女と間違えてうちを抱きしめてやがんのかっ。


他の女と間違われていると気付いたバネッサは恥ずかしいのからムカムカに変わっていく。


「いい加減に離しやがれっ」


ドスウッ


バネッサの10センチの爆弾が炸裂し、マーギンは睡眠から気絶へと状態が変化したのであった。



「あれ?マーギンは部屋にいなかったのかしら?」


食堂に戻ってきたバネッサにシスコが聞く。


「寝てやがんよっ」


バネッサはちょー不機嫌になっているのであった。




それからしばらくしてガキ共に起こされて食堂に来たマーギン


「ずいぶんと良く寝てたのね」


「すまん、ちょっとウトウトするだけのつもりだったんだけどな。それに生魚に当たったのか腹が痛ぇんだよ」


「何でも生で食べようとするからよ」


吐き気や下痢はしていないので違うかもしれないが、腹が痛いのは確かだ。晩飯を食うのは止めておこう。


「マーギン、相談だ」


と、ロッカが魔狼討伐と貨物船の警護依頼の話をする。


「貨物船の依頼は受けようと思っている。この話を教えてくれたのはこの娘、ハンナリーだ」


「うちはハンナリー、ハンナって呼んでくれたらええで。よろしゅうな」


「マーギンだ。貨物船の警護が4日間か。水も飯も無しだと割が合わんな。寝る所も貨物室とかだろ?」


「船賃がタダになるんやで。めっちゃ得やん」


「客船の船賃って水と飯と客室付きで30万Gくらいだっけか?まぁ、貨物船に金払って乗せて貰ったら水無し飯無し部屋無しだと10万Gってところだろ?4日間の警護を1日2万5千Gで受けるのと変わらんぞ。本当に得か?」


「まぁ、護衛依頼だとそんなものだぞ」


「海上警備だと陸上と勝手が違うのに大丈夫か?確かにすぐに出発出来るのは魅力的ではあるけどな」


ロッカの予想に反して貨物船の移動を渋るマーギン。


「魔狼討伐は受けてもいい。コイツらにも現場を見せる良い機会だからな。トルクに弓士として参戦させてもいいし、タジキに魔狼を解体させたり、カザフにバネッサが実戦でどれぐらい動けるのか見せてやれるからな」


「け、警護言うたかて、実際にはタイベに着く寸前だけやねん。海賊が出る所はそのへんだけやから実質1日だけや。それやったら割ええやろ?なっ、なっ」


ハンナリーはここで断られてしまうと無料で貨物船に乗る機会を失ってしまうので必死だ。


「元々、船賃は金払うつもりだったから別にタダにならなくていい。今回は次の客船まで待って、じっくり魔狼討伐するのがいいんじゃないか。北の領地から逃げた魔狼がライオネルに集結しているなら結構ヤバい状況だぞ」


「あの時の事が原因で魔狼の残党がこっちに来ているのか…」


「ハンターが何度か失敗してるってことは食われたりしてんだろ。すでに餌場として認識されているぞ。そのうち狩る者が来なくなれば街まで来る。今はその寸前だろうな。だからこれは受けた方がいい。貨物船は断われ。1日で片付くとは思えない」


「マーギン、すまん。すでに受けると返事をしてしまっているのだ」


ロッカが頭を下げる。


「今回、断われと言った理由はもう一つある」


「何が引っかかってる?」


「コイツだ」


と、マーギンはハンナリーを指差した。


「えっ?うち??」


「お前、なんか隠してるだろ?重要な事を言っていないとかな。もしかして海賊と繋がってんじゃないだろうな?」


「そ、そ、そ、そんな事あらへんっ。ましてや海賊と繋がってるなんてことあるかいなっ。うちはハンターの前に商人やねんっ。オトンが失敗した商会を再建すんのがうちの夢やっ。商売は正直がモットー!なーんも隠してへんでぇ」


立ち上がって身振り手振りのオーバーリアクションで訴えるハンナリー。めっちゃ怪しい…


「本当に隠してることはないんだな?」


マーギンは少し威圧を込めてギロリンと睨む。


「うっ…」


ビクッとしておずおずと後ろに下がるハンナリー。


「ほら、なんか隠してるだろうが。俺はそういうのが解るんだよ。嘘を付いたお前は信用出来ん。貨物船の事はお断りだ」


「ちょっ、ちょっと待ってや…」


マーギンにきっぱりと断られたハンナリーはそう言った後に黙ってしまったのであった。



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