カツオを堪能

翌日夕方にライオネルに到着。


「マーギンっ、あれが海かっ」


海を見てはしゃぐガキ共。


「そうだ。海に行くのは先にタイベ行きの船がいつに出るが調べてからな」


えーっと言われだが、今から海に行ってもすることないだろうが。



アイリスが船着き場を知っているので案内してもらう。


「げっ、昨日出てんじゃん」


運悪く昨日タイベ行きの船が出てしまっていた。次の船は2週間後だ。


「どうする?一度王都に戻るのも面倒だよな」


「そうだな。まぁ、こう言うこともある。私たちは暇つぶしに何か依頼を受けてもいいしな。マーギン達はどうする?」


「ここの漁港に知り合いの漁師がいるから顔出してくるよ。俺達はそこで泊めてもらってもいいんだけど、全員は無理だな」 


「なら、今日は宿に泊まってゆっくりするか。急ぐわけでもないのだろ?」


「別にいいよ。ライオネルには何回か来ているけど、街で飯食った事無いし」


ロッカ達が魚の旨い店を知っているらしいのでそこに行くことに。場所は繁華街の良いところらしい。それに加えて春になったからか人が多くどこも賑わっていた。その中でもオススメと言われる店に入る。



「ま、マーギン。なんか耳ついてる人とかいるんだけど」


「そうか、王都には獣人がほとんどおらんからな」


と、ロッカが驚いているガキ共代わりに獣人に付いて説明する。


「へぇっ、そうなのか。あの人とか強そうだよなっ」


カザフがガタイの良い獣人をジロジロみて指を差した。


「なんだクソガキ、獣人だったら悪いのかっ」


当然凄まれる。


「すまん、気を悪くしたら勘弁してくれ。こいつらは王都の孤児だったから外の世界に出るの初めてで獣人を知らなかったんだ。別に悪気があって見てた訳じゃない。強そうだなと言って見てただけだ」


「本当か?」


「本当。気を悪くしたなら詫び代わりに奢るから一緒に飯食うか?世間知らずのこいつらに獣人の事を教えてやってくれよ」


「王都の人間が俺等と飯を食うだと?」


「そっちが嫌か?なら今食ってた分だけでも奢らせてもらうけど?」


「まぁ、外の人間が俺等と飯を食うのが嫌じゃねえってんなら、食ってやる。綺麗所もいるしよ」


ロッカ達を見てへへっとニヤつく獣人。


「こいつらに手を出したら許さんぞ」


「へっ、お前らになんか俺様が負けるかよっ。って、そんな事をするかっ」


獣人達は気が短くで真っ直ぐな奴が多い。犯罪をするやつは犯罪まっしぐらだし、働くやつは懸命に働くのだ。


連れの二人もこっちに来て大テーブルで一緒に飯を食うことになった。獣人が別に怖くないと解ったガキ共はムキムキの腕とか触らせてもらって、スッゲーとか素直に褒めるので3人共気を良くしたようだ。


「王都のハンターがライオネルに何をしにきたんだ?」


「タイベに行こうと思ってね。船が昨日出たみたいだから、明日からナニをしようかと思ってたんだ。まぁ、漁港にでも行って漁の手伝いとかしててもいいし」


「漁港?どこのだ?俺も漁師なんだぜ」


「そうなの?」


マーギンは地引網のかしらの所を説明する。


「ん?お前マーギンって言ったな。もしかして毒魚を食うやつか?」


「俺の事を知ってるのか?漁師でお前のことは見たことがないぞ」


「おー、そうか。ダチにお前の事を聞いた事があってな、お前魔法で魚の仕分けとか出来るんだってな」


「あぁそうだよ。お前はなんの漁師をしてるんだ?」


「俺は船に乗ってんだよ。遠洋漁業ってやつだな。1ヶ月ぐらい船に乗って帰ってきたら一週間休んでとかそんなだ」


「今何が取れるんだ?」


「カツオとかだな。取れたてを冷凍してくっから鮮度抜群だぜ。お前等は食わんだろうがあいつは生で食うと旨いんだ」


「おっ、いいねぇ。どこで売ってる?」


「ん?お前生で魚食うのか?」


「お前らが毒魚って呼んでる魚も生でも食うぞ。なぁ、アイリス」


「はい、プクは高級品ですよ。マーギンさんの薄切りプクはとっても美味しかったです」


「ほう、人族でも生で魚食う奴がいたんだな」


「まあ少ないけどね。俺は好きだぞ。明日でいいからさ、お前らが取って来たカツオを売ってる所を教えてくれよ」


「なら明日案内してやる。どこに泊まってる?」


「ロッカ、ここに泊まるのか?」


「そのつもりだ」


「ということらしいわ。朝に迎えに来てくれるか?」


「おぉ、いいぜ」


と、その後どうやって食うのかとか生魚談義で盛り上がったのだった。


翌日は二手に別れる。ロッカ達はハンター組合に、マーギンはカツオの仕入れだ。



「今日戻ってくる船があるからよ。店で買うより直接買え。その方がずっと安いからな」


「おっ、いいねぇ。昼間っからそれでいっぱいやるか?合う酒持ってんだよ」


「ごちそうしてくれんのか?」


「カツオまけてくれんだろ?それぐらい良いって事よ」


すっかり獣人と仲良くなるマーギン。ガキ共も腕にしがみついてクルクルと回してもらって遊んでいる。



「おっ、帰ってきたぜ」


遠洋漁業に出るというだけあって船も大きい。冷凍の魔道具を積んでいるぐらいだからな。


そして一斉にトロ箱に入れられたカツオ達が運ばれてくる。急げっ急げっと慌ただしい。知り合いに声を掛けてくれて何匹買うか聞かれた。


「箱ごともらおうかな。もっと買ってもいいなら10箱ぐらい買うけど」


「は?この箱にデカいのが10匹ぐらいはいってんだぞ。全部で100とかどうすんだよ?」


「王都の土産にするんだよ。みんな食った事がないだろうから喜ぶと思うんだよね。食堂やってる人とかいるから、冷凍だと仕入れるとか言い出すかもしんない」


「マジか?」


「マジマジ。王都って鮮度の良い海の幸があんまり入ってこないんだよ。こうして冷凍しといてくれたら王都でも旨い魚が食えて嬉しいけどな」


「それが本当なら商人と話を付けた方がいいな」


「俺はライオネルの商人を知らないからなんとも言えないけど、王都の商業組合には知り合いがいるから話ぐらいはしてやれるぞ」


「おう、なら今度頼むわ」


と、一箱1万G、合計10万Gをお支払い。これは卸値らしい。こんなにデカいカツオが1匹千Gとか信じられん。


取り敢えず1匹だけ残してアイテムボックスへ。


「めちゃくちゃ容量のデカいマジックバッグ持ってんだな」


「家宝なんだよこれ。それより俺の食べ方で試すけどいいか?」


「おお、頼む」


漁師たちの休憩場所兼食堂に行きカツオを解凍して調理する。


ポンッ


「なっなっなっ、何をやったんだっ」


一瞬にして捌かれたカツオに驚く面々。


「これ、解体魔法ってやつなんだよ。俺の本業は魔法書店でね。こういう魔法を売ってる」


すでに本業どころか店を開けていないマーギン。


「この魔法はいくらだ?」


「500万G」


「げっ、カツオ500匹分かよ」


「5000だ」


どうやら計算は苦手な様子だ。


「まぁ、手慣れた人なら魔法と余り変らないスピードで捌けるだろ?無理して買う必要の無い魔法だ。それに結構魔力を食うから手でやったほうがいいぞ」


そして金網を借りてその上に乗せて表面を炙っていく。炙るという手法は初めてのようだ。


「薬味にネギ、大葉、生姜を加えて、ポン酢をかける。仕上げは油醤油だ。」


熱したプラバンに少し油を入れて醤油を入れる。ジュワァァァっと音を立てた醤油をカツオに掛けて完成。


「ニンニクスライスでも旨いけど、今日はこの味付け。さ、食おうぜ」


マーギンは麦焼酎の水割りを作って渡す。


「旨いぞっ。今まで食った中で一番旨いっ」


大声をあげるもんだから他の漁師も寄ってきて一口くれと言う。もうみんな食え食え。


「これに掛かってるソースはなんだ?」


「醤油っていう調味料なんだけどね、まだ市販されてないんだよ。上手く行けば来年には量産の目処が付くかなぁ」


「売って無いのか?」


「今は俺が自分で使う分しか作れないよ」


「なんだよぉ〜」


と、皆ががっかりする。


「いつもはどうやって食べてんの?」


「切って塩をかけるぐらいだ」


「ならニンニクスライスで食ってみるか?」


1匹目は食い尽くされてしまったので、2匹目に取り掛かる。今度は塩とゴマ油を混ぜて、スライスニンニクを乗せて食べさせる。


「こいつも旨ぇっ」


「辛いのがダメな人はスライスニンニクを揚げてやればいいよ」


後は臭いとの闘いだ。


ガキ共もまた口からカツオが出るぐらい食っいたので、食後に洗浄魔法を掛けて臭いを消しておいた。




ーライオネルハンター組合ー


「どれか討伐を受けるか?」


依頼表を見てどれにするか迷っている。小さな依頼はネズミ退治とか。高額なのは海の魔物討伐。これは慣れてないから無理だろうと3人は決めかねていた。


「なぁ、あんたらどこの人や?」


ロッカ達に話し掛けて来たのは帽子を被った女の子。


「私達か?私達は王都のハンターだ。タイベに行くつもりでライオネルに来たのだが、船待ちの期間暇だから何か依頼でも受けようかと来てみたのだ」


「タイベに行くん?」


「そうだ」


「ビンゴやっ。そやけど後一人足らんなぁ」


「何がだ?」


「あんな、ライオネルのハンター組合には常駐依頼ってのがあんねん。タイベに行く貨物船の警護に付いたら報酬はないねんけど船賃いらんねんやんか。でもな、6人以上おらな受けられへんねん」


「船賃が無料になるのか。しかし、我々は海の魔物に慣れてないからなぁ」


ロッカは慣れてない魔物相手に戸惑う。


「ちゃうちゃう、貨物船は海の魔物が出るような所は通らん。その代わり海賊が出んねん。やから敵は人間や」


「海賊だと?」


「そう。乗り込んで来て荷物奪うねん。海賊の人数多いと船乗りだけでは敵わんから荷物をみすみす奪われるってわけや。あんたらが一緒に受けてくれるんならもう一人なんとかして探すわ」


「貨物船はいつに出る?」


「明後日や」


「私達にはもう一人仲間がいる。相談してからになるが、今から人を探すよりいいだろう。多分OKを出すと思うのだ」


「ほんまかっ?」


「ハンターが一人と、見習いの子供が3人いるけど問題ないか?」


「見習いか… 安全は保証できひんで」


「まぁ、大丈夫だろう。今夜にここの宿に来てくれるか?そこで飯を食いながら話を聞こうか」


「解った。ほなら期待しててええねんな?」


「私はロッカ。シスコにバネッサとアイリスだ。星の導きというパーティを組んでいる」


「うちはハンナリー。ハンナって呼んでくれたらええわ。ソロでやってんねん」


「女でソロとは珍しいな?」


「本業は商人やねん。タイベで仕入れたいもんがあるんやけど、往復の船賃払ったら赤字になるから貨物船に一緒に乗ってくれる人探しててん。貨物船やったら荷物もただで乗せてもらえるしな。あ、言っとくけど飯も水も出えへんから、用意せなあかんで。ちなみに4日ぐらいでタイベに着くから」


「え?こっちに来る時は2日ぐらいでしたよ?」


と、アイリスが日数が違うんじゃないかと聞く。


「タイベからライオネルに来るのは2日ぐらいやけど、ライオネルからタイベに行くのは倍かかんねん」 


「そうなんですね」


「そや。海流の加減でそうなるらしいわ。ほなら、組合に先に受けるって言うて来るわぁ」


まだマーギンに相談する前だけど、止める間もなく依頼を受注しにいくハンナリー。


「ごめん、ハンター証見せてやって」


すごすごと戻ってきたハンナリー。ロッカはまぁ良いかとハンター証を見せに受付へ。


「あっ…」


ロッカ達のハンター証を照会して声を上げる受付嬢。


「何か問題はあるか?」


「もう一人おられませんか?」


「マーギンの事か?」


「はい」


「今日は別行動だが一緒には来ている。マーギンのハンター証が必要なら明日連れてくるが…」


「あっ、あのっ。この依頼を受けてもらえませんかっ」


と、受付が依頼表を出してくる。


「魔狼討伐? ライオネルのハンターで可能だろう?」


ここは北の街のように雪が積もってはいない上に大きな街の組合なので腕の良いハンターがいるはずなのだ。


「それが何度か失敗してまして、その度に数が増えて手に負えなくなっているんです。受けて下さるなら他のハンターにも緊急依頼を出して合同でお願いしたいのですが」


「あかんでっ。うちの貨物船の依頼を受けてもらわなあかんねんから。出発は明後日やねんからそんなんしてたら間に合わへんやんかっ」


受付の依頼を断るハンナリー。


「数はどれぐらいになっているのだ?」


「現在確認出来ているのが30前後です。もしかしたらまだ増えているかもしれません」


「なら私達だけではしんどいな。見知らぬパーティーと合同でやっても1日で終わるとも限らん。というか無理だな」


「そこをなんとかっ」


「あかんで〜、絶対にあかんでぇ〜」


頭を下げ続ける受付嬢とあかんでぇと言い続けるハンナリーなのであった。


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