芽を摘む

翌日、初日と同じような移動をして夕方に次の街に到着。


「飯はどうする?我々は店で食うが」


ロッカ達は街中の店で食うらしい。


「俺もミードを飲みたいからそうしようかな。お前らソーセージを食うか?」


「食うっ」


と言うことで毎回この街に来ると行く店に向かった。


「俺は普通の腸詰め。お前等は血の腸詰めと普通のどっちにする?」


「どっちもっ」


というのでどっちゃりと注文した。


「どっちも旨ぇっ」


血の腸詰めが苦手なのはマーギンとシスコだけ。他に野菜炒めとかも注文する。


「あっ、山菜入だから私無理かも」


シスコはほろ苦もダメらしい。


「なら、山菜は避けて食え。俺が山菜を食うから」


「苦くない?」


「これぐらいなら旨いぞ。シスコ、お前ピーマンとか嫌いだろ?」


ピーマンと言うと凄い嫌な顔をする。女性がそんな顔をするんじゃない。


「子供の頃、身体にいいから食べなさいって無理矢理食べさせられたのすっごく嫌だったわ」


「好き嫌い出来るなんていい身分だよな」


と、バネッサが嫌味を言う。


「あら、ゴミでも美味しそうに食べられるあなたが羨ましいわ」


シスコのカウンターパンチ。


「ゴミなんて食ってねえっ。まだ食えるやつだけだっ」


その言葉にカザフ達もうんうんと頷く。食べるものがなくてゴミ箱を漁ったとしてもゴミを食べるわけではないのだ。


「じゃあ、これ食べなさいよ」


「くっ、食えばいいんだろ食えば」


バネッサも苦いのは苦手だ。昔は好き嫌いを言えるような生活ではなかったが、今は小金持ちなので好きな物が食べられる。しかし、シスコに嫌味を言った手前、苦手でも食べるしかなくなってしまったのだ。


フォークにプスッと刺して嫌そうな顔をして口を開けるバネッサ。


マーギンはその手をひょいと掴んで代わりに食べた。


「なに人のを勝手に食ってやがんだよっ」


ほっとしたような顔で怒るバネッサ。


「いやいや食うな。食材が可哀想だ。食い物は旨いと思える奴が食えばいい」


「ちっ、なんだよそれ」 


と言いつつもバネッサの顔がほころびる。


「へへーん、バネッサは子供だぁっ。マーギンに代わりに食ってもらってやがるっ」


「なんだとてめえっ」


からかうカザフに怒鳴るバネッサ。


マーギンはカザフの口に苦めの山菜を口に入れた。


「んぐっ… うっ、旨いじゃねーかよっ」


涙目になるカザフ。この味は子供にはつらいはずだ。


「うちだって食えるんだからなっ」


対抗してバネッサも山菜を食べる。


「う、う、旨いぜっ」


嘘つけ、今日の山菜は西の領都に向かう途中の町の奴より苦いんだからお前には無理だろうが。


「大将、山菜のみの炒め物大盛りで追加してくれ」


「あいよっ」


「えっ?」✕カザフとバネッサ


「旨いんだろ?たんと食え。奢ってやる」


そう言うと二人は口に山菜を入れる前から苦い顔をするのであった。


山菜のみの炒め物を二人に食べさせる。食い物で喧嘩するからこうなるのだとの戒めだ。


バネッサは一口ごとにミードで流し込み、カザフはいつもの口から出るというより飲み込めずにどんどんと口の中に溜まっていく。


「それ口から出したら、明日から飯抜きな」


カザフはマーギンから非情な言葉を投げかけられ、涙目になりながら飲み込んだのであった。


「ロッカ、こういう味は旨いのか?」


タジキは旨いと思えない山菜をマーギンとロッカが旨そうに食っているのが不思議みたいだ。


「子供の頃は私も苦手だったがな、今は好きだぞ。それに春って感じもするからな」


ロッカはそう返事をする。


「タジキ、季節の味ってものあってな、この時期にしか食べられない旨さというものもあるんだよ。あとは経験とか歳を食うとかで好みも変わことがある。今は苦手でも料理人になりたいなら毎回チャレンジしろ。いつか旨いと思える日が来るかもしれん」


「へぇ、そうなんだね」


「そう、色々な味を知っとけ。必ず将来役に立つから」


というと、苦い山菜も1つずつ試すように食べるのだった。


そして、ミードで流し込むように食べたバネッサが潰れる。ミードは結構酔うのだ。


「マーギン、おんぶ。もう歩きたくねぇ」


と、バネッサが甘えてくる。


「ロッカがいるだろうが」


「ロッカには借りを作るみたいでいやなんだよ」


「なら俺には借りを作ってもいいのか?」


「お前はうちの胸の感触を楽しむんだ。借りにはなんねーだろっ」


「嫌じゃねーのかよ?」


「もう、ダルくてどうでもいい」


2日続けて全力疾走してたから疲れているのか、胸がどうとかどうでもいいようだ。


マーギンはしょうがないなとしゃがむとひょいと乗ってくる。


店の中で女の子をおんぶする光景に周りの目が痛い。


お会計を済ませてテントを張れる広場へ行くと、春になって移動を開始した人達でまぁまぁの数のテントが張られていた。ガキ共と外で野営するつもりだったが、バネッサがこんな状態なら自分もここでテントを張った方がいいと判断したマーギン。


「ロッカ、俺も隣でテントを張るから空いている場所でいいか?」


「かまわんぞ」


入口附近が一番混雑していてすでにイビキが聞こえている。こんな中で寝るのは嫌だ。


広場の中央よりやや奥に設営することに。


「あいつ、何やってんだろうな?自分のテントがわからなくなったのか?」


設営を始めるとウロウロとテントの様子を探るような感じの男がいる。


「あっ、あいつ…」


「知り合いか?」


「前にアイリスを襲おうとしたやつだ」


ロッカがウロウロとする男を見てそう言った。


「へぇ、あいつがねぇ」


マーギンの顔付きが変わる。


「何をするつもりだ?」


「アイリスを可愛がってくれた礼をしてくるわ。ガキ共を頼む」


「待てマーギン。行くなら私達も行くぞ」


「いや、来るな。お前らが来ると何も起こらん」


「どういう意味だ?」


「アイリスを救出してくれた時にアイツらに何か罰になるような事をしたか?」


「いや、助け出しただけだ」


「あいつらは反省してないんだろ?今ウロウロしてんのはいい獲物がいないか物色してんだろ。前もそうじゃなかったのか?」


「あぁ、怪しい動きをしていたので注視してたらアイリスを連れて行ったんだ」


「了解。二度とそんな気が起こらんように注意してくるわ」


「やめとけマーギン。ここはよそ者の集まる場所だ。あいつらがこの街の者だったらこちらの分が悪い。たとえ向こうが悪くてもこちらのせいにされるかもしれないんだぞ」


「ま、そん時はそん時だ」


怖い顔をしたマーギンはロッカの忠告を聞かない。


「アイリス、付いてこい。本当にあいつらかどうか顔を覚えてるだろ?」


「わっ、私も行くんですか?」


「そうだ。怖い思いをしたお前には仕返しをする権利がある。問題になったら俺がなんとかしてやる」


と、マーギンはアイリスを連れて男が入っていったテントに向かった。



「よおっ、ちょっといいか」


テントの外から声をかけるマーギン。


「誰だてめぇは?俺等になんの用だっ」


「この娘に見覚えはあるか?去年の秋に世話になったみたいなんだが」


「あっ、こいつ…」


「見覚えがあるようだな。俺はこいつの保護者でな。こいつに怖い思いをさせた詫びをしてもらいに来たんだ」


「何だとっ」


男は3人。マーギンは丸腰で女連れ。勝てると踏んだ男達はみんな出て来てマーギンに凄んだ。


「へへっ、前に飯食わしてやった礼を邪魔が入ってもらいそびれてたんだ。利子つけて払ってもらおうか」


んー?とマーギンに顔を近付けて凄む男達。


「こんな子供においたしようなんて恥ずかしくないのか?」


淡々と男達に話すマーギン。アイリスは怖がって後ろに隠れている。


「バカかお前。女と畳は新しい方が良いって言葉しらねぇのかよっ」


なぜ畳を知っているか疑問に思うがそれは置いとこう。


「お前等は悪いと思ってるとか反省しているとかはないんだな?」


「あるわきゃねーだろうが。こっちは飯を食わせて礼をして貰ってるだけなんだからよっ」


「ほう、飯を食わせたら礼をして貰っていいんだな?」


凄んでもビビらないマーギンに剣を抜こうとする3人。マーギンは先頭の男の口にパンを突っ込んだ。


「さ、これで俺も礼をしてもらえる権利が出来たな」


「何勝手な事を言ってやがるっ」


男達は剣を抜いた。


「はい、正当防衛ゲット。パラライズ」


マーギンは男達にパラライズを掛けた。


「てっ、てめえっ 何だこれは…」


「飯喰わせた礼に魔法の実験台になってもらう。アイリス、着火魔法の復習だ。こいつらの股間を狙え」


復習というより復讐だ。


「えっ」


「正確に狙え」


アイリスはマーギンに言われた通り、着火魔法を男達の股間に飛ばす。


「あっ、あっちいいっ」


「はいそのままキープ」


「いやぁぁぁぁっ やめてくれーっ」


「そう言った女も今までいたろ?お前等はそれで止めたのか?」


「うっぎゃぁぁっ、頼むっ 頼むっ や、止めてくれぇぇぇ」


ゴロゴロと転げ回り、泣き叫ぶ男達の声に止めようとするアイリス。


「まだキープだ」


それをやめさせないマーギン。どうせこいつらは何度も同じことをしていたはずだ。その報いを受けさせてやる。


そして肉の焦げた嫌な臭いがしてきた所で止めさせた。これで二度と使いものにならないだろう。しばらくは用をたす度に地獄の苦しみを味わえ。


「てんめぇぇ、俺達にこんな事をしてただで済むと思ってのんかっ。お前よそ者だろうがっ」


「ただで済むようにしようか?」


マーギンはゴウッと大きな火の玉を出す。


「お前らが燃え尽きたら証拠は残らんからな。俺が本気で焼けばお前等なんか骨すら残らん。俺の事を心配してくれてありがとうな」


マーギンは凄むでもなく淡々とそう言い放って炎の玉を男達に近付けた。チリリと燃える男達の髪の毛。そして恐怖の余りお漏らしをしたことで激痛が走る。


「ギャァァァっ」


マーギンは火の玉を消した。


「良かったなお前等。俺の師匠が優しい人で」


マーギンはそう言い残してロッカ達のテントに戻ったのであった。



「ま、マーギン何をしたんだっ」


「あいつら強い酒をこぼしていたのが運悪く火がついたみたいだ」


「お前、焼き殺したのか…」


「うめき声が聞こえてんだろ?二度とおいたしないように注意しただけだ。物理的にだけどな」


そしてマーギンは街に戻って衛兵を呼んで来た。


「こ、こいつが俺達を焼きやがったんだ… よそ者の癖に…」


死にそうになりながらマーギンを悪者に仕立てあげようとする3人。


「お前、こいつらに何をしたんだっ」


「衛兵さん、俺に何をしたかを聞くよりコイツらが何をしてきたか聞けよ。よそ者が集まる広場だからと事件があっても見て見ぬふりしてきたんだろ?」


「何を偉そうに言っているんだっ。こいっ、詰め所でお前の事を調べてやるっ」


「いいけど、衛兵さんの首が物理的に飛んでも知らんぞ」


「何を言っているんだっ。衛兵殺しは死罪なんだぞっ」


「あんただけならいいけどね。上司もここの街の責任者も首が飛ぶぞ。いいか、コイツらはここで女を襲ってたんだ。その訴えは今まで一度もなかったのか?」


そう言うとぐっと黙る衛兵。


「それにコイツらは丸腰の俺に先に剣を抜いた。この街はそれが合法か?」


これにも黙る衛兵。


「で、それを知っていてもお前は俺を罪人にして捕まえようとしている。その後どうなると思う?」


「どうもこうもあるかっ。お前が裁かれて終わりだっ」


「そうかな?」


「なにっ」


「俺が裁かれるならどうしてわざわざ衛兵を呼びにいく必要があるんだ?そのまま逃げたらもうわからんだろ?」


「それは…」


「ま、俺にはお前を裁く権利はない。連れて行きたきゃ連れていけ。その代わり本当に処分されて首をはねられても知らんからな」


と忠告しているにも関わらず、マーギンは詰所に連れて行かれたのであった。


ロッカ達にはそのまま野営をしておいてくれと伝えておく。



ー衛兵詰所ー


「お前があいつらをあんな目に合わせたんだなっ」


「そうだよ。正当防衛ってやつだ。先に言っておくけど俺に暴力を振るったら仕返しするからな。あいつらみたいな目に合いたきゃ殴ってもいいぞ」 


あの男達の股間は悲惨な事になっていたのはもう衛兵達も知っている。迂闊に手を出すことはないだろう。


言っていることはマーギンの方が筋が通っているので、罪を擦り付けようとしている衛兵は上役を呼んだ。


「貴様がふらちなよそ者か」


「お前が腐った衛兵の責任者か?」


「なんだと貴様っ」


「あの中に権力者の関係者かなんかがいるんだろ?そうじゃなきゃ同じ場所で犯罪し続けられるわけがないからな。それに加担していたお前も犯罪者だ。覚悟しとけよっ」


「うるさいっ」


バキッ


上役はマーギンを殴った。


「パラライズっ」


「ぐぬっ… 何だこれは…」


「さて、衛兵の上役さん、俺を殴った責任はどうとってもらえるのかな?あいつらみたいに股間が悲惨な目にあいたいのかな?」


マーギンは蒸留酒を出してしびれている上役の股間にジョロジョロと掛けた。これはやばいと他の衛兵達が剣に手をやる。


「抜いてもいいけど、正当防衛として反撃するからな。その覚悟を持って剣を抜けよ」


威圧を混ぜながらそう凄むマーギン。


「そこまでにしていただきたい。後はお任せを」


声だけ聞こえてくる存在。そう、王妃の放った諜報員だ。


「あのさ、こういう事に口を出す気はないけど、王都に近いんだから把握しておいた方がいいよ。今年の秋か来年の春には同行させるかもしれないんだから芽を摘んどくつもりでやったけどさ」


マーギンは姫様の名前を出さずに声の存在に話しかける。


「お伝えしておきます」


「このまま帰っていい?」


「間もなく街の責任者に通達が届きます」


「それを待ってればいいのね?」


「はい。それでは」


マーギンは出発前からの姫様とのやり取りも諜報員に聞かれているのを知っていた。そして付いて来ていることも。


マーギンが誰と話していたのか分からない衛兵達。パラライズを掛けられたまま動けない上役。


しばらく待っていると馬車が物凄い勢いでやって来た。


「何をしているか貴様らっ」


でっぷりと太った人が血相を変えて飛んできた。


「この度は誠に申し訳ございませんっ。何卒っ何卒っ」


いきなりその場で土下座する太った人。


「後は俺の知ったこっちゃない。俺は裁く権利も許す権利もないからね。じゃ、帰るよ」


何卒っと言い続ける太った人をまたいでマーギンは皆の元に戻ったのであった。



「マーギン、大丈夫だったか」


「うん、こっちの主張を全面的に聞き入れてくれたからもう問題ないよ」


「そ、そうか。それならば良かった。どうなるかと心配したんだぞ」


「心配掛けて悪かったな。飲み直すか?」


「そうしようか。気持ちが高ぶってまだ寝られん」


こうしてマーギンはロッカ達と少し夜ふかしをして飲んだのだった。



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