タイベに出発

「そんな事があったのか?」


1つ目の村に向かって歩きながら今朝の話をロッカ達にした。


「マーギンは姫様のテストでカザフと競争させるんだって」


と、タジキが補足する。


「はぁ?カザフと競争だと?無理に決まってんだろうが」


バネッサはカザフを認めている。本気で競争したら負けないとは思っているが認めてはいるのだ。


「マーギン、俺とじゃなくてバネッサと試合にすれば良かったのによ。だったら勝てるかもしんねーじゃん」


「何だと?うちの方が速いに決まってんだろうがっ」


「おっぱいより俺の方が速いっての」


「おっぱいって呼ぶなって言っただろうがっ」


「やーい、おっぱいお化け〜」


カザフはバネッサにそう言ってベロベロバーとする。


「殺すっ」


「うわーっ、おっぱいお化けがで出たぞーっ」


カザフはバネッサを逆上させるようなダンスを踊った。


「てんめぇっ」


そして二人は次の休憩ポイントまで走って消えて行った。


「元気だなあいつら」


「全くだ」


マーギンはロッカと呆れながらその様子を見ていた。トルクはシスコに弓の事を色々と聞いているみたいだ。トルクは癒やし系ではあるが人の事をよく見ている。出しゃばって来るようなタイプではないが、的確にその時の状況を見て対応してくる。シスコも同じタイプなので参謀としてパーティーに欠かせない役目を担うはずだ。


「タジキ、この旅の間の飯は大半をお前に任せようと思ってるがいいか?」


「俺はまだ料理の種類知らないよ」


「それは解ってる。俺の知ってる料理は教えてやるから一緒に作ればいいし、なんか思いついたら自分で試せ」


「わかった」


と、嬉しそうな返事をするタジキ。


「マーギン、ハンターの移動中の飯なんか干し肉とスープパンぐらいが普通だろ?」


「ロッカ達はそれでもいいと思うぞ。でもタジキが目標としているのは大将だ。獲物を自分で狩って来て調理する料理人ってやつだな。旅先でも獲物を狩って飯作るのも勉強だ」


「そうか。そんな歳から目標が定まっているのは凄いな」


「小さなうちからやりたい事が見つかるってのは良いことだよ。努力しがいがある」


「そうだな」


ロッカは小さい頃は父親のような鍛冶屋をやりたかったがハンターになった。その思いがまだ残っているのかもしれん。


「ロッカもタイベに着いたら珍しい鉱石とか探してもいいかもしれんな」


「鉱石か… この剣に使われた魔鉄は見付けられるだろうか?」


「鉱山でロックワーム探してみたらいいかもね。アイリス、タイベに鉱山はあるか?」


「どうでしょう?」


アイリスはタイベに住んではいたが、あまりタイベに付いて詳しくない。花には詳しいみたいだけどな。


「ねぇ、マーギン。シスコ姉ちゃんが今まで使ってた弓をくれるって」


トルクがシスコから離れてこっちに来た。


「シスコ、いいのか?あの弓高いんだろ?」


「私はもうマーギンにもらった弓に慣れちゃったから使わないと思うの。自分達で買おうと思うと手に入れるのずっと後になるでしょ?こういうのって早いうちに使えるようになった方がいいわ」


「そうか、ありがとうなシスコ。トルク、この旅の間にシスコに弓を教えて貰え。鳥とかウサギを狩ってタジキに料理してもらえばいい。矢はなくなっても良いように俺が土魔法で作ってやるよ」


「本当っ?」


「あぁ。鳥が狩れたら自分で矢を作ってみてもいいしな」


「うんっ」


そう返事をしたトルクはまたシスコの所に走っていく。タジキはロッカにどんな飯が旨いと思う?とか聞いている。


「マーギンさん、小腹が空きました」


アイリスがおやつをせがむ。


「まだ1つ目の休憩ポイントまで到着してないぞ。それまで我慢しろ… って、飯は別だと言ってあっただろ?」


危ない危ない。ナチュラルに何を出してやろうかなと考えてしまった。


「えーっ。おやつぐらいいいじゃないですか」


「だから食いたいものがあれば買い込んどけと言っただろ?」


何度もえーっと言うアイリス。これはロッカの言う俺が過保護にしていた弊害だろうか?


そして休憩ポイントに着くとバネッサとカザフが石を並べてどっちがカッコいいか揉めていた。


「うちのが綺麗だろうが。ほらっ、こんなにピカピカしてんだぞっ」


「そんなの磨いたらどれもそれぐらいになるってんだよ。それより俺の石はネズミみたいで旨そうだろうが」


そして二人揃ってこっちを向き、


「どっちがいいと思うっ?」


と、皆に賛同を得ようとする。


「どっちもゴミよ」


それをばっさり切り捨てるシスコ。


バネッサとカザフはあの冷感女にはこの石の良さがわかんねーんだよと意気投合するようにブツブツと言っていた。



休憩でガキ共にコップを持たせて水をジョロロロと入れていく。


「本来は水筒を持つんだぞ」


「解ってる。マーギン達が到着するまでに森の中で水場も見つけてあんぜっ」


「カザフ、良くやったと言ってやりたいが勝手に森の中に入るな。安全な街道沿いとはいえ、魔物が増えてるのは聞いてるだろ?相手が一匹や二匹なら走って逃げられるかもしれんが、囲まれたらまだ倒せんだろうが」


と、カザフに注意しておく。バネッサがいるから問題はないだろうけど、ずっとこの調子で行くとは限らないのだ。


「はーい」


と少し不服そうな返事をするカザフ。まぁ、初めての遠出だからはしゃぎたくなるのも解るけどね。


オヤツは携帯食という名のドライフルーツ入りクッキー。1本で1日分のカロリーはあるけども育ち盛りで動き回るガキ共には一食分のカロリーにしかならないだろう。


「アイリス、お前の分はないぞ」


「えーっ。オヤツぐらいいいじゃないですか」


「だから食いたいものがあれば買っとけといっただろ?」


「買いましたけど美味しくないんです。交換して下さい」


と言うので自分のかじりかけと交換。アイリスが交換と言ってよこしたのがかじりかけだったからだ。


「まっず…」


「ね、美味しくないんです」


なんだこれは?硬いのはまぁいい。日持ち優先と考えれば仕方がない。アイリス曰く、ドライフルーツ入の高い方を撰んだらしいがドライフルーツなんてどこに入ってんだ?という程度。栄養があるのか知らないけど、薬草かなんかを練り込んであるから青臭い上に粉っぽくて甘くもなく口に草の繊維が残る。


「これいくらするんだ?」


「1本500Gです。20本買いました」


「買った分はちゃんと食べろよ。もう俺のとは交換せんからな」


「えーっ」


ロッカ達はやめとけと言ったらしいが、マーギンの作ったクッキーをイメージして買ったそうだった。


「それ旨いんだろ?一口寄越せよ」


バネッサがカザフに集(たか)る。


「しょーがねーな。ほら口開けろよ」


と、カザフがいうのであーんと口を開けるバネッサ。


パクっ


「なに口開けてんだバーカ」


カザフはバネッサの口の中にクッキーを入れてやらずに自分で食べた。


「でんめぇっ」


こうしてまた二人は次の昼飯ポイントまで走っていったのであった。本当に元気だなあいつら…



昼飯も別々。ロッカ達はパンとソフトジャーキーみたいな物を食べるらしい。


「マーギン、昼飯は何にするんだ?」


「お前らお好み焼き食ったことなかったろ?それを作るぞ」


と、すでに刻んであるキャベツを出し、タジキに生地の作り方を教えて魔導鉄板で焼いていく。


「ひっくり返すの自分でやってみるか?」


と、3人共興味津々で見ているのでやらせてみる。


「失敗しても自分で食えよ」


カザフ失敗。トルクとタジキは成功した。


べちょべちょとソースを掛けて頂きます。


「うんめぇっ」


失敗したカザフも旨いらしい。俺はさっきのクッキーであまり腹が減っていないので豚肉の卵包み、所謂とん平焼きと塩タンを焼く。


「マーギンだけ肉を食うのズルいぞ」


「お前らもお好み焼きに入ってただろうが?」


「こっちは食ってねぇぞ」


塩タンを指差して言うので追加を乗せる。


ジーーーーーっとこっちを見ているアイリス。


めっちゃ食いにくい。


「ほれ」


待てから解き放たれた犬のように走ってきてマーギンの箸から塩タンを食べるアイリス。


「おいひいっ」


「だから食いたいものを仕入れとけって言っただろうが」


もう待てが出来ないアイリスはカザフ達と一緒に食べだす。


「ロッカ達も食うか?」


「いいのか?」


「口からよだれが出てんだろうが」


そう言うと慌てて口を拭うロッカ。


トルクはシスコに分けてやり、タジキはロッカに、カザフとバネッサは取り合いをしていた。


毎回これだとたまらんな…


マーギンは炭酸水を飲みながら、追加のタン塩を鉄板に乗せて行くのであった。



バネッサとカザフが毎回走るものだから予定よりずいぶんと早くに村に着いた。


「マーギン、どこに向かってる?」 


「前に来た時に世話になった人達がいるんだよ。そこを訪ねよう」


村の中を歩いてケンパ爺さんの所に向かう。


「今日はーっ」


「おや、マーギン。ずいぶんとたくさんで来てくれたんだね」


迎えてくれたのはおばあちゃん。爺さんは畑にいるらしい。植えたじゃがいも畑の草むしりをしているとのこと。婆ちゃんにロッカ達を紹介する。


「そうかね、よう来たよう来た。バネッサさんが嫁さんかい?」


「は?」


「なんでうちがマーギンの嫁になんだよ?」


「おや、違ったのかい?なんかお似合いじゃなと思ったんじゃが…」


「誰がこんなスケベ野郎とお似合いなんだよっ」


婆ちゃんは何を見てそう思ったのか気にはなるがまぁいい。


狭めの家の中でぎゅっと詰めて待っていると爺さんも帰ってきたので皆で飯にする。作るのはタジキだ。リッカの食堂で作っている煮込み料理を作らせた。人数が多いので煮込み料理が楽なのだ。


「まだちいさいのに偉いねぇ。美味しいよこれ」


老夫妻に褒められて嬉しそうなタジキ。爺ちゃん婆ちゃんに縁の無いガキ共は孫のように可愛がられる。


「泊まっていくんじゃろ?」


「そうするけど、みんなここで寝るの無理だから俺達は外でテントを張るよ。カザフ達を泊めてやってくんない?」


と、ガキ共を預ける事に。


外で2つテントを張るとアイリスがこっちに寝に来た。


「向こうで寝ろよ」


「4人だとちょっと狭いんですよ。今日ぐらいいいじゃないですか」


マーギンのテントはガキ共と寝るためにテントを前より拡張させていた。


「まぁ、いいけどな。普通、男のテントに寝に来ないもんだぞ」


「マーギンさんなら大丈夫です」


と、アイリスは安心したかのようにすぐに熟睡するのだった。


翌日午前中は畑の草むしりとじゃがいもの芽かきのお手伝い。爺さんに芽かきはこうするんじゃよと教えられながらやっていく。タジキはこうやってジャガイモが出来るのかと興味深そうにやっていたのだった。ロッカよ、君は草むしりに専念したまえ。力まかせに芽かきをするから種イモまで出て来てるじゃないか。


ロッカは申し訳ないと謝って、根の深そうな大物草専門になってもらったのであった。


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