旅に出る前の日常

ーハンター組合ー


「そうか、騎士隊と話が付いたんだな」


ロドリゲスに大隊長との話を伝えておく。


「うん、オルターネン・バアムって人が隊長だからそのうち来ると思う。まだ人選決まってないだろうから、活動するのはもう少し後になるかもしれない」


「解った。こちらに来られたら打ち合わせをさせてもらう」


「宜しくね」


「で、お前等は近々王都を離れるんだな?」


「タイベまで行ってくるわ。職人街の素材の手配とかもあるし」 


「向こうで何か防具とかになりそうな素材があったら持ち帰ってくれ」


「なんか良いのいるの?」


「ブラックアリゲーターとか向こうにしかおらんからな。こっちまで素材があまり入ってこん」


「あれか。あの皮はそこまで防御力強くないだろ?結構重いし」


「知ってんのか?」


「知ってるよ。肉は結構旨いんだよ。脂の乗った鶏肉みたいで」


「あれ食えるのか?」


「うん。地元の人なら食ってるんじゃない?捕獲すんの面倒だけど」


ブラックアリゲーターとはデカいワニみたいな魔物だ。水辺にいるから討伐しても引き上げるのが大変なのだ。


「後はタイベには虫系の魔物が多い。魔カイコの幼虫とかいればいいんだがな」


「ん?繁殖させてるところないのか?毎回捕獲してたら大変だろ?」


「あれ、飼えるのか?」


「飼えるよ。魔カイコの餌を集めるのが大変だから餌を育てる畑を作ってからになるけどね。その畑に親の魔蛾が寄ってくるから討伐も必要になる。魔カイコの糸を紡ぐ商会がそういう人を雇って安定生産するんだよ」


「お前詳しいな」


「まぁ、魔カイコの糸で出来た生地は着心地も耐久性もいいから高値で売れるだろ?誰かやってると思うんだけどね」


「いや、この国ではやってない。他国からの輸入品だ。大陸の南西にあるゴルドバーンって国からたまーに入ってくるぐらいだからめちゃくちゃ高いぞ」


そうなんだ。アデルに渡した生地って高かったんだな。まぁ、別にいいんだけど。


「お前飼い方知ってるならやれよ」


「やだよ。俺は魔蛾嫌いなんだよ。見た目気持ち悪いし粉飛ばしてくるだろ?討伐するのに焼いたら燃えたまま暴れて大変になるし」


「そんなに強い魔物じゃねーだろうが」


「あの飛ばして来る粉には幻惑作用があるんだぞ。下手に吸うと同士討ちになるから結構厄介なんだよ」


「そんな話は初めて聞くぞ」


「え?」


「何度か討伐記録はあるがそんな報告ねぇぞ」


「全滅したパーティとかいないの?」


「あぁ。誰も死んどらん」


「じゃあ、俺の知ってるのと種類が違うのかもしれないね」


「変異種ってのもいるからな。まぁ、この辺りじゃ心配することねぇ」


マーギンはブラックアリゲーター以外に面白いの見つけたら狩っておくよと約束しておいた。



「マーギン達はこれからどこに行く?」


「職人街。ロッカ達は旅に行く準備とか大丈夫なのか?」


「まぁ、遠征用の服とか全部あるからな。後は携帯食を買っておくぐらいだ。ライオネルまでは徒歩だが村と街に寄るだろ?」


「初めの村には顔見知りの農家があるから寄るよ。次の街に寄ってもいいけど、俺とガキ共は近くの森に入って野営するわ。あいつらに色々と教えなきゃならんからな」


「了解だ」


「もう一度確認しておくけど、店で食う飯は別として移動中の飯は別々でいいんだな?」


「かまわんぞ。こちらもそのつもりだ」


「アイリス聞いたか?俺達の飯は別々だからな。干し肉とかが嫌なら何か買い込んどけ。ほら、これをお前にやる。盗まれんなよ」


と、作ってあったリュックタイプのマジックバッグをアイリスに渡した。


「ここにマーギンさんのご飯を入れておけばいいんですか?」


「違う。飯は自分たちでなんとかするんだよ。およそ牛一頭ぐらい入るから4人分の荷物は入るだろ。重さ軽減も付けてあるからお前でも持てる」


「重さ軽減?」


と、ロッカが驚く。


「マジックバッグってな、重さ軽減がないとたくさん入るけど重さはそのままなんだよ。みんなの荷物入れたら歩けんだろうが」


「販売しているマジックバッグにも重さ軽減は付いてるのか?」


「さぁ?この国のマジックバッグは見たことがないからな。大将が元の容量の2〜3倍しか入らんと言ってたからもしかしたら付いてないかもしれん。アイリスに渡したバッグは状態保存も付けてあるからナマモノでも問題ない。こいつが持ってる間は問題ないが、持ってない時はセットしてある魔結晶の魔力を使う。一応3つセットしてあるから満タンに入れてて3ヶ月は魔結晶が持つ。魔石なら10日持つかどうかだな」


「結構魔力を食うんだな」


「中身をどれだけ入れているかによる。大事な物とかナマモノ以外は出しておくと魔結晶の節約になるぞ。ちなみに魔力がなくなれば全部飛び出るからな」


「解った」


「バネッサ、ゴミ拾ってこれに入れようとすんなよ」


「しっ、しねぇよっ」


「それは嘘ね。バネッサはするわよ」


シスコは確信しているようだ。


「これはアイリスをお前らに預ける持参金みたいなもんだからな。使い方まで口を出さんよ。どう使うかはお前らで決めてくれ。しかしロドの話しぶりだとタイベで手に入る素材は王都で売るほうが高値が付そうだ。だから帰る時の事も考えて荷物を準備した方がいいな」


「あぁ、そうだな。まぁ、最近は騎士隊絡みで大金を得たからそこまでガツガツやる必要もない」


「お前らいつまでもハンターが出来る訳じゃないんだから稼げる時には稼いどけよ」


「お前はアイリスだけでなく、私らにも親みたいな事を言うのだな」


「いやまぁ、みんな女だろ。男に比べたら稼げる期間が短いと思うんだよね。結婚とかあるだろ?」


「それは相手のいない私への嫌味か?」


ロッカがギロリんと睨む。


「ロッカは美人だろ?その気になればすぐに男の一人や二人どうとでもなる」


「女装とか言いやがったくせによ」


と、バネッサがいらぬツッコミをする。


「お前は無理かもしれんな」


「なんでうちは無理なんだよっ」


「ガサツだからだ」


とマーギンが言うとシスコがプーっと吹いた。


「ダメよマーギン。そんな本当の事を面と向かって言っちゃ」


「うるせぇっ。うちはオルターネン様みたいな人と燃えるような恋をするんだよっ」


皆が口を揃えてそれは無理だと言ったのでバネッサは拗ねてしまったのであった。



バネッサの機嫌を取るのが面倒なので職人街へそそくさと移動したマーギン。


「あっ、来たーっ」


カタリーナがすでにちやほやされてお好み焼きを食っていた。


「もう食ってたのか。太るぞ」


「太りませーん。で、今日は何すんの?」


「防刃服を作った糸をちょっと加工して貰おうと思ってな。ゼーミン、この糸はどれぐらい長く出来る?それと太く出来るか?」


「何に使われます?」


「ブラックアリゲーターって魔物がいるんだけどな、水辺にいるから討伐した後に引き上げるのが大変なんだよ。矢にこいつを括り付けて倒せば引っ張ってこれるだろ?」


「ロープにするんですか。なら引っ張り強度を確認してみましょうか」


編み込んで作るので太さも長さもどうとでもなるらしい。


基本の太さの物を括り付けて量りを付けて引っ張る。


「うぬぬぬぬっ」


ぶちんっ


「何kgだった?」


「50kgってところですね」


「この細さでかなりの強度だな。なら太さは3倍ぐらいにしたのも頼む」


「長さはどれぐらい必要ですか?」


「普通のは500mぐらいは欲しい。他にも使えるかもしれんから。太いのは100mぐらい」


「わかりました。3日で用意出来ます」


「解った。悪いけど作っておいて。費用はいくら掛かる?」


「マーギンさんからお金なんて取れませんよ。その分素材の確保とかお願いします」


「了解。飯まだだろ?なんか作ってやろうか?」


「いいんですか?」


「いいよ。ここの鉄板借りるし」


お好み焼きはいつでも食えるだろうから違うものを作ろう。


まずは簡単な物を。


豚肉スライスを塩胡椒で炒めて卵で包んでいく。


「はい、ちゃんとしたのが出来るまでこれ食っててくれ。お好み焼きソースが合うぞ」


「私のは?」


「お前、お好み焼き食ってただろうか?」


「これは食べた事ないもん」


「本当に太るぞ。ローズも食う?」


「うむ、ちょっと食べてみたいぞ」


というので2人前追加。次に牛タンの薄切り、牛肉のサイコロステーキ、トマトとチーズを混ぜたオムレツとか作っていく。


「マ、マーギンさん。もう食べられませんよ」


ゼーミンはもうギブのようだ。


「お前少食だな。最後に甘めのパンは食えるか?」


「無理かもしれません」


「まぁ、食えなかったら俺が食うわ」


最後はフレンチトーストだ。鉄板に洗浄魔法を掛けてバターを溶かして焼いていく。それにハチミツを掛けて完成。


「お、美味しいです」


ゼーミンはお腹がいっぱいなのに甘くてフワフワなフレンチトーストを食った。ローズはまだいけそうだけど、姫様は口からフレンチトーストが出てくるんじゃないだろうな?


「マーギン、今作った料理のレシピ教えろ」


この店の大将がレシピをせびる。


「こんなもんレシピもクソもないだろうが。焼くだけなんだから。最後のは牛乳と卵を混ぜた卵液にパンを浸けておくだけだ。硬いパンなら一晩ぐらい浸けておけばいいぞ。後は焼くだけだ」


「おっ、どれも簡単でいいねぇ。あの牛タンの薄切りはお前が切ったのか?」


「そう。包丁で薄く切るのが面倒だからスライサーを使ってるけどな」


「魔道具か?」


「そう。薄切り肉にするのに便利なんだよ」


「その魔道具は売らんのか?」


「売ってないのか?」


「そんなの知らんぞ」


と、いうので現物を見せる。構造はとてもシンプルだ。回転する刃を作るのが面倒かもしれんけど。


「誰かに作らせろよ」


「業務用なんて数出ないだろ?」


「わかんねーだろ?俺は欲しいぜ」


「なら設計図描いておくから誰かに頼んでくれ」


「おう、解った」


マーギンは設計図を描いていく。現物は旅に持って行くので預ける訳にはいかないのだ。今日はこれを描いて終わってしまった。


「ローズ、食料を買いに行くけど一緒に行く?」


「もちろん行くわよっ」


ローズと呼びかけているのに返事をするカタリーナ。


そして調味料や様々な食材を仕入れていく。後は串とかも必要だな。焼き鳥の仕込みとかタジキにやらせよう。


「今日の晩御飯は何にするの?」


「なんか食べたいものあるか?」


「なんだろう?チーズを使ったやつとか?」


またチーズか…


「グラタンとかでいいか?」


「グラタンって何?」


「グラタンを知らないのか?」


「うん」


「私も知らんぞ。どんな料理だ?」


「肉や野菜の具材にクリームソースを掛けてチーズを乗せてオーブンで焼いたやつ」


「初めて聞く料理だ」


「聞いているだけで美味しそうね」


グラタンはこっちにも普通にあった料理だったんだけどな。


「作るのにちょっと時間掛かるぞ」


「まだお腹いっぱいだから大丈夫」


そりゃあんなけ食ってたらまだ消化しきれてないか。


そして、姫様もローズも口からグラタンが出るくらい食ったのであった。


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