そろそろ出発

もう明日で4月になるのだがオルターネンが来ない。きっと人選が難航しているのだろう。魔法書とかどうすんのかな?


「ねぇ、マーギン。今日はどこに行くの?」 


こうして毎日カタリーナがやってくるので面倒で仕方がない。飯も毎日のように作らされているのだ。


「姫様、今日は店で作業するから出掛けんぞ」


「えーっ」


「もうすぐ旅に出るからやっておかないといけない事があるんだよ」


「なにするの?」


「それは秘密だ」


「なんでよっ」


「業務上の守秘義務ってやつだ」


「私にも秘密なの?」


「そう。仕事のことだからね。ローズ、職人街にでも行っててくれ。ちょっと細かい作業をするから一人でやりたいんだ」


「解った。姫様、邪魔してはいけませんので職人街に行きましょう」


「もうしょうがないわね。マーギン、今日の晩御飯は何にするの?」


俺はお前のオカンか。


「なんか食べたいものあるか?」


「んーっとね、まだ食べた事がないものっ」


「毎回そんな事を言うけど、そんなに料理のレパートリー持ってないぞ」


「じゃあ、パスタにしようかな」


「パスタね、わかった。どんなパスタでもいいんだな?」


「いいよーっ」


ペペロンチーノだと楽なんだけど辛いのダメだろうからな。あっ、ナポリタンにしよう。お子ちゃま舌のカタリーナなら好きだろう。ピーマンは食えるかな?


と、晩飯を何にしようかと考えるマーギン。アイリスもしょっちゅう来るのでだんだんとオカン化しているのであった。



ローズとカタリーナが職人街に向かった後、マーギンはまだ人員を連れて来ぬオルターネンの為に魔力値と適正を見る魔道具を作っていく。はっきりいってこれを世に出すのは危険かもしれない。けど、そのうち騎士や軍人を延々と鑑定していく未来が見えているので作ることにしたのだ。


詳細まで見える必要はなくざっくりと解るだけでいいだろう。魔力値の量を判別するのは某仮装大賞のあれをイメージする。攻撃魔法を使える者を戦力にするとなると魔力値が1000は欲しい。最低限700以上。


ピッピピピピッと光が伸びていって、700超えたら合格。それ以下なら残念だ。適正は合格者のみここで鑑定すればいいか。えーっと、手の平をここにおいて魔力を吸収する方式で測るか。マジックドレインの魔法陣で吸った魔力を灯り魔法に変換して… 残り10%まで吸ったら強制停止するようにしておかないとな。


マーギンが作った魔力値鑑定機は気を失う寸前まで魔力を吸わせるもの。こうしておけば面白がって何回も測る奴を防げるだろう。鑑定は遊びではないのだ。


マーギンは一日掛けて魔力値鑑定の魔道具を作りあげた。これをオルターネンに渡しておけば今後の人選に役立つだろう。


ふーっ、と一息付いた時にアイリスがやってくる。


「ただいまっ」


「ただいまじゃない。お邪魔しますだ」


「えーっ」


「今日の飯は姫様リクエストでパスタだからな」


「何味ですか?」


「ケチャップ」


「嫌ですっ。そんなの自分でも作れるじゃないですか。ハンバーグパスタとかがいいです」


そんなパスタはない。ハンバーグ弁当の添え物にパスタが付いていることはあるけれども。


「わかった。ハンバーグみたいなのを入れてやる」


なんだかんだ言いながらアイリスを甘やかすマーギン。



マーギンは肉団子を作ってオーブンに入れ、焼けた肉団子をトマトベースのソースにポチャポチャと入れておいた。後はベーコンと玉葱を炒めてっと。


「ただいまーっ」


カタリーナとローズが帰ってきた。なぜ君もただいまなのだ?


「何味にするのっ」


早速飯の催促。


「ケチャップ…ではないな。トマトソースのパスタだ。ピーマンは食べられるか?」


「た、た、食べられるわよ」


嘘だな。まぁ、嫌いなものを無理に食べる必要はない。別にピーマンを食わなくても死ぬわけではないのだ。


パスタを茹でている間に玉葱とベーコンを炒めてと、切ったピーマンは自分で食べるので水にさらしておく。


肉団子入りトマトソースと炒めた玉葱、ベーコンを絡めて完成。


「ほら出来たぞ」


もうローズも遠慮しなくなっているので盛々に入れといてやる。ローズと俺は赤ワイン。アイリスとカタリーナはブドウジュースだ。


「おいひいっ」


「ふぁんふぁーふみふぁいなほぉほぉは…」


だから食いながら話すな。


先に食べ終わったのでピーマンをつまみに飲むか。


さらしたピーマンをゴマ油で軽く炒めて醤油をいれるとジャーーっと音を立てて香ばしくなっていく。この匂いはたまらんな。飲み物はレモン酎ハイ。本当はビールの方がいいけど、この国のビールは炭酸が弱い上にかなり苦みが強くてあまり好きではないのだ。


ゴマ油醤油炒めのピーマンとレモン酎ハイを持ってテーブルへ。


「ピーマンなのにすっごくいい匂いがする」


カタリーナは興味深そうに見ている。アイリスはピーマンも食べられるようで俺の皿からヒョイパクしやがった。


「お前、パスタもりもり食っただろ?」


「これも美味しいですよ」


「食いたきゃ食えばいいけどさ」


ピーマン炒めをつまみにレモン酎ハイをプハッ。


「マーギンはピーマンが好きなのか?」


「好きだよ。肉詰めとかも食べるけど、こうして食べるのが一番好きかな。ローズはピーマン苦手だったろ?」


ローズはピーマンと人参が苦手のようだ。料理に入っていると最後にいやいや食べているのを見ていたから知っているのだ。


「苦手と言う訳では…」


「別に嫌いな物は嫌いでいいよ。無理矢理食べさせる気もないから。人参もね」


そう言うと気まずそうな顔をした。


「本当に美味しいの?」


カタリーナがマーギンとアイリスがパクパクと旨そうに食べるのを見て興味が出たようだ。


「食いたきゃ食ってもいいぞ。そのかわり口に入れてから出すなよ」


「1つ食べてみる」


と、小さな奴を取って食べる。


「あっ、苦くない。それに美味しいかも」


「ピーマンを切ってから水にさらしておくと苦みが減るからな。食えるなら食っていいぞ」


「ローズも食べてみてよ」


「えっ?」


「ほら、美味しいから早くっ」


カタリーナに勧められて苦笑いしながら食べるローズ。


「お、美味しいデス…」


「ねっ、ねっ、はいこれはローズの分ねっ」


ナチュラルに食ハラするカタリーナ。ローズも苦手なら苦手と言えばいいのに。マーギンはピーマンで苦笑いしながら美味しいデスというローズの顔をつまみに飲んだのであった。



「ローズ、ちい兄様と宿舎で会うよな?」


食後にアイリスをロッカ達の所に放り込み、貴族門まで二人を送ってきたマーギン。


「まぁ、部屋が隣だからな。何か伝えておこうか?」


「これを渡しておいてくれる?俺達は3日後に旅に出るから」


「もう出るのか?」


「そう。しばらくいないから手紙も入れておいた」


「何が入ってるのだ?」


「ちい兄様に必要な魔道具だよ。人選が決まったらハンター組合を訪ねてと伝えといて。組合長のロドリゲスに話をしてあるから」


「わかった。いつも次兄にも気を使ってくれてありがとう」


今さら次兄とか言う必要ないのにとマーギンはニヤニヤした。


「うるさいぞっ」


それに気付いたローズはマーギンに怒る。


「何も言ってないじゃん。じゃ、頼んだよ」


と、二人と別れたのだった。



その後、リッカの食堂に寄る。そろそろ閉店の時間だから、ガキ共を迎えに行くついでに旅に出る事を伝えよう。


「もう閉店… マーギン、こんな時間に来ないでよ」


忙しくてヘトヘトのリッカは機嫌が悪い。


「飲みに来たんじゃない。大将呼んで」


飲みに来たんじゃないと言いながら、いつものと頼むマーギン。


ガキ共が後片付けをしている中、大将と飲みながら旅に出る話をする。


「もう行くのか」


「もうって、前から4月になったら行くって言ってたじゃん」


「もう4月になったのか…」


大将も今日がいつか分からないぐらい忙しいようだ。


「マーギン、ガキ共を置いていってくれ」


「ダメだよ。こいつらのハンター研修も兼ねて行くんだから。人員が足りないならハンターの新人とかにヘルプ頼めば?」


「教えんのに時間が掛かるんだよっ」


「洗い物とかリッカの魔法ですぐに終わるだろ?前まで3人でやってたじゃないか」


「前と忙しさが違うだろうが」


大将も機嫌が悪い。魔物が増えている影響でハンター達の金回りも良いから食いにくる奴も増えているのだろう。萌キュンセットの料理をタジキに任せていたのでそれも出来なくなるのが痛いようだ。


「ま、頑張ってね。3日後に出発だからコイツらが来るのもあと2日だよ」


「マジかよ…」


暇なら暇で、忙しいなら忙しいでしんどい客商売。まぁ、売り上げが無くて困るよりいいだろう。


「マーギン、片付けが終わったから帰ろうぜ」


カザフがそう言って来た。


「じゃ、大将頑張ってね」


「タジキ、お前だけでも残ってくれよ」


大将にそう言われて嬉しいような困ったような顔をするタジキ。今まで誰かに必要とされて来なかったのでこんな事を言われるとたまらなく嬉しいのだろう。


「タジキ、残るか付いて来るか好きな方を選べ。別にハンターにならずとも料理人になるって道もあるぞ」


「うーん、俺も将来は料理人になりたいとは思ってる。でも目指すのは大将みたいな料理人なんだ」


「というと?」


「自分で獲物を狩って来て、誰でも食える値段の料理を出したい。だから先にハンターになって獲物を狩れる力を付ける。大将もそうだったんだろ?」


「ま、まぁ、俺は料理人になろうと思ってた訳じゃないがな」


「でも、今はこうして凄くお客さんが喜んでくれる料理人じゃないか。俺もこうなりたいんだ。それにハンターから相談を受けても自分がハンターしてなかったら何も教えてあげられない。俺は大将みたいになりたいんだ」


「タジキお前…」


大将はタジキに自分みたいになりたいと見つめられて涙を溜める。


「よーしっ、しっかりと修行して来いっ」


「うん、頑張って来るよっ」


大将陥落。タジキがそのうちこの食堂の跡継ぎになりそうだな。もう息子みたいな感じになってるし。


「けどねぇ、カザフもトルクもいてくれるから店がかろうじて回ってるってとこなんだよ。ハンターに応援来てもらってもすぐに使い者にならいのにどうするんだい?」


と、現実問題に悩む女将さん。


「シャングリラのババァに相談してみたら?」


「リンダにかい?」


そう、実はあのババアはリンダとか洒落た名前をしているのだ。俺は認めたくないからババァ呼びしかしていない。


「職人街が人を呼び込める街になったら飲み屋とか作る予定にしててね、引退した遊女とかの働き場にするんだよ。その予行演習みたいな感じでやってくれるんじゃないかな?」


「遊女あがりをここで働かせんのかい?」


「遊女は勉強もさせられているから計算も早くて客あしらいも上手い。料理が出来るかどうかは知らないけど賄とか作ってたりするからいい人いるかもよ」


「そう言われりゃそうだね。ダッド、一度相談に行ってみるかい?」


「いい考えかもしれんな」


ということで交渉は任せておこう。自分が絡むとまた絞り取られるかもしれん。


「将来を見据えるなら孤児院とかもいいと思うよ。夜は無理かもだけど」


「おう、そうだな。そっちも考えるわ」


金が回ると働き口も増えるからいいことだな、うむうむ。


マーギンは一人で頷いていたのだった。



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