ホームシック

「職人街まで探しに行ったんだからねっ」


腰に両手を当ててプリプリと怒るカタリーナ。


「あのなぁ… 今日は忙しいって言ってあっただろ?」


姫様にタメ口を叩くマーギン。


「マーギン、ここでは姫様として対応しろ」


あっ、そうか。お前のせいでローズに怒られたじゃないかと姫様に責任転嫁する。


「本日はどうなさいましたか?」


「この後はどこに行くの?」


「家に帰りますよ。アイリスを置いて来ていますので」


「じゃ、行きましょっ」


え?


「家に着いたらもう夕方ですよ」


「ちょうどご飯時ね」


とウインクされる。うちで食うつもりなのか?とローズを見ると目線を逸らされた。


「多分アイリスからハンバーグをリクエストされますから簡単な飯ですよ」


「とっても美味しそうね」


はぁ〜


「大隊長も来ます?」


「いや、遠慮しておこう」


こいつ… 俺を王様の所に連れて行ったくせに逃げやがった。


結局、カタリーナを連れて帰るハメに。これ、毎日姫様に飯を食わせるハメになるんじゃなかろうな?


これはタイベ行きを早めよう。




ーマーギンの家ー


「お帰りなさい。あっ、姫様も一緒なんですね」


「うちで飯食うんだって。何食べたい?」


「ハンバーグ」


でしょうね。


作り置きのハンバーグにチーズを乗せてオーブンへ。こんな事の為に作り置きした訳じゃないのに。


「はいどうぞ」


ガキ共の為に作ってあるから大きめサイズ。ローズは結構食うので2つにしておいた。お代わりを聞いても遠慮するからな。


「ローズだけ特別?」


「そう。ローズだけ特別」


「どうして?」


「美人だから」


こらっ、マーギンっ。といつものように照れる。このタイミングで良く食うからだとは言えない。


「私は美人じゃないのかしら?」


「お前は美人でもまだ子供だからな。それを食べて足りなかったらお代わりを出してやる」


お代わりがあると聞いて食べだした。


「おいひいっ」


「まーふぃんふぁんのふぁんふぁーふは…」


だから二人共食ってから喋れ。アイリスはともかく姫様は普通そんな事をしないだろうが。俺のせいで行儀が悪くなったとか怒られるの嫌だぞ。


「うん、旨いな」


ローズも大きく切ってぱくついたからお代わりが必要そうだな。


「お代わりはチーズ乗せとチーズ無しのどちらがいい?」


皆がチーズ乗せを希望。気持ち悪くなっても知らんからな。もう目の前でチーズを乗せてやろう。


追加のハンバーグをオーブンに入れておく。食べ終わる時にはこれも食べごろだろう。


「食べましたっ」


アイリスからおかわりの催促が入る。オーブンからハンバーグを出してそのまま持っていきトングで皿に乗せる。


「あれ、チーズは?」


「今から好きなだけ掛けてやるよ」


ホールを半分に切ったチーズを目の前で焼いて溶かして行く。


「もういらないと思ったらストップと言え」


目の前で香ばしい匂いを放ちながらどろどろとハンバーグに掛かっていくチーズ。


「本当にまだ食えるんたな?残したら二度と食わさんぞ」


「す、ストップっ」


慌てて止めるカタリーナ。アイリスもローズもガッツリ掛かるまでストップを言わなかった。俺はもう見ているだけでお腹がいっぱいだ。


つまみにポテトでも揚げよう。


皆がガッツリチーズのハンバーグを食べている間にシュワシュワとポテトを揚げていく。これも食うだろうなと多めに揚げておいた。飲み物はレモン酎ハイにしよう。ローズも飲むだろうから2つ。姫様とアイリスにはアルコール抜きのハチミツ入り。レモネードってやつだな。


それを持ってテーブルに戻るとちゃんと食べきっていた。


「はいローズ。軽く飲むだろ?」


「あぁ、すまない」


マーギンはポテトをつまみながらごくごくプハッ


それを見た姫様とアイリスもポテトを食べる。


「もっと食べたいのに口からチーズが出るっ」


姫様もガキ共と変わらんじゃないか。


「ローズ、姫様っていつもこんなに食べるのか?」


「いや、そうでもない。もっと少食だ」


「姫様、無理して食うとお腹痛くなるぞ」


「だって口が食べたいんだもん」


口が食べたいとはなんだ?


「城でもポテトぐらい言えば揚げてくれるだろ?」


「こんなのは出て来ないもん。もっと冷めた食事だし、一人で食べる事も多いし」


「一人で?王様や王妃様とか一緒じゃないのか?」


「部屋で食べる事が多いの。みんな忙しいからって」


「ローズとも一緒に食べないのか?」


「基本は姫様が部屋に戻られたら他の第一隊の者と交代になる。私は騎士宿舎で食べてるぞ」


確かに一人で食うとあまり食わなくなるよな。姫様なら毒見とかもあるだろうし、厨房から運んできたら冷めるか。


「ローズ、姫様が外で食ってるのは毒見とか必要ないのか?」


「本当なら必要だと思うが、それをしていると姫様だとバレるからな。一応毒消しの薬は持たされている」


そんな薬があるのか。毒の種類って色々あるから毒消しの魔法って難しいんだけどな。


「姫様、ここで食う飯は旨いか?」


「うんっ。それに楽しいっ」


「そうか。アイリスもいるから喋りながら食べられるしな。ローズ、今作っている家はいつに出来るんだ?」 


「6月には完成すると思う」


「俺達がタイベから戻ってきてから引っ越しとかそんな感じ?」


「そうなるだろうな。姫様の希望次第だ」


「大丈夫だとは思うけど、俺がいない時はあまり変な所に行くなよ。特に貧民街とか」


「解っている。マーギンがいない時は王城から出ることはないだろう」


「うん、それがいいと思う」


「アイリス、今日はロッカ達の所へ戻れよ」


「えーっ」


「えーっじゃない。お前はもう星の導きの一員なんだからな」


「あの家、シャワーだけでお風呂がないんですよ」


「それが普通だ」


「ベッドも硬いんです」


「それが普通だ」


「ご飯は外食ばかりなんです」


「嫌なら自分で作れ」


「ご飯食べに来てもいいですか?」


「お前が毎日来たらみんなも来るだろうが。俺は食堂をやってるんじゃないぞ」


「えーっ」


「成人したんだから自立しろ。言っとくがタイベに行く時の飯は別々だからな。ロッカにそれは確認済みだ。お前はロッカ達と飯食う事になってるんだぞ。ちゃんと準備をしとかないと干し肉とかしか食えないと思っとけ」


「マーギンさん酷いです」


「酷くない。それが当たり前なんだ」


「酷いですよ…」


ちっ、泣くなよ。


「酷いですっ」


ダダダっ バンっ


アイリスはマーギンの寝室に走って行った。


「マーギン、もう少し優しく言ってやれないのか?」


ローズに注意される。


「このままだとずるずるとここに居着くだろ?そうなったら嫁に行けなくなるじゃないか」


「そうなったらマーギンがアイリスをお嫁さんにしてあげればいいじゃない」


姫様からの無茶振り。


「あのねぇ、姫様。あいつは娘とか親戚の子供みたいなものなの。いつまでもここにいたら自立できないだろ」


「だったらたまに実家に帰ってくる娘にでもそんな事を言うの?」


「たまに来る分にまでダメと言ってない。ずっといるなと言ってるんだ」


「だってアイリス。たまになら来てもいいんだって」


カチャ


「じゃあ、明日も来ていいですか」


「ダメです」


「うわぁぁん」


また部屋に引っ込んでしまった。


後は何を言っても出て来なかったので、姫様を送っていく途中でロッカ達の家に寄った。


「あれ?アイリスはどうした?」


「泣いて寝室に閉じこもったんだよ」


「どういうことだ?」


とロッカに聞かれたのでさっきの出来事を説明する。


「ホームシックに掛かったんじゃないか?」


「俺の所に居たの3〜4ヶ月だぞ。それにここと近いじゃないか。実家ならともかくホームシックになんかなるかよ」


「家じゃない。マーギンと離れてるのが寂しいんだろ。お前はアイリスを過保護にしていたからな。ここだと基本は自分のことは自分でする。仕事以外ではお互いに干渉しないようにしてるからそれに慣れてないんだ」


まぁ、女同士で住むならそれが一番上手くいくのかもしれん。


「解った。今夜はこのまま泊まらせるから明日迎えに来てくれ。俺は朝イチで組合に行ってから職人街に行くから」


「なら連れて来てくれ。私達も朝から組合に顔を出す」


「解った。アイリスの着替えとパジャマ取って来てくれるか」


「勝手に部屋に入るのは良くないな。朝ここで着替えさせればいいだろ」


「解ったよ」



姫様とローズを貴族門まで送ってから家に帰るとアイリスが風呂に入ってやがった。泣いてたんじゃなかったのかよ?


酒を飲みながらアイリスが出てくるのを待つ。


「お風呂お先でした」


こいつ… パジャマ持ってきてやがる。


「お前、初めから今日も泊まる気だったろ?」


「はい」


しれっと答えるアイリス。もう怒る気もなくなったわ。


「寝る前に水分補給しとけ」


と、ハチミツレモネードを出してやる。


「はぁ〜、やっぱりこういうのいいですよねぇ」


「何がだ?」


「ロッカさんたち、家に帰るとほとんど会話ないんですよ」


「ずっと一緒にいるからな。家に帰ったら一人の時間とか欲しいんじゃないのか?」


「それはわかりますけど、ここなら一人でいたい時は部屋にいればいいし、リビングに来たらマーギンさんがいて、あれ飲むかとかこれ食べるかとかかまってくれるじゃないですか」


「俺の居場所がここにしかないからな。お前がここに来て俺が無視したら寂しいだろうが」


「はい。だからここにくるとホッとするんです」


「お前、一人でいる事にちゃんと慣れていけ。そうしないといつまで経っても自立出来んだろうが。お母さんの墓に成人しましたって報告するんだろ?」


「はい。だからタイベに行くまではここにちょくちょく来てもいいですか」


もう、しょうがないなぁ。


「鍵持ってんだから勝手に入れ」


「はいっ」


こうしてアイリスはちょくちょくどころか毎日のように来るのであった。


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