王の無茶ぶりとバネッサの宝

「スタームよ、ではカタリーナを守り切れなかったのじゃな?」


「誠に申し訳ございません」


「ふむ、詳細を話してみよ。第二第三隊の隊長小隊長と騎馬隊まで出て守り切れなかった内容に興味がある」


大隊長は王に結果のみ報告をしていた。


「少々長い報告になりますが宜しいでしょうか」


「どれぐらいになるのじゃ?」


「詳細に説明致しますと1時間は必要かと」


「ならば本日の最終報告とする。後ほど参れ」


「はっ」


そして、夕方になる頃に最終報告に来た大隊長。


「スタームよ、別室で報告を聞く。付いて参れ」


王は大隊長を連れて別部屋に行く。通常別室と言っても公務室だが連れて来られたのは私室。他の者たちも下がれと言われて二人きりになった。


「散々みたいだったようじゃの」


「誠に申し訳ございません」


「そのマーギンという男は何者じゃ?」


すでに王には諜報部から報告が入っているようだ。


「あやつは異国人であり、王都ハンター組合に所属しております。登録は今年に入ってから。約4年前にこの国に流れ付いて、魔法書店をやっております」


「魔法使いか?」


「はい」


「どこかの国に仕えておったのか?」


「そのようです。マーギンが居た国はもっと魔物も強く、魔法使いも多い国だそうです」


「その国はどこじゃ?」


「国名は分かりませんが、この大陸にある国ではないとのことです。別大陸の国から転移魔法で飛ばされたと申しておりました」


「転移魔法じゃと?そのような戯言をお前は信じたのか?」


「はい。信じられぬ話ではありますが、マーギンの力を見た限り本当ではないかと思われます」


「それほどか?」


「はい。あやつが本気で殺しにくれば私でも全く敵わないでしょう」


「そうか、お前がそこまで言うか」


「先日の北の街でマーギンと共に雪熊と戦いました。非情な手段も交えながらではありますが実に見事な戦術でした。本来は一人で討伐出来る所を他の者達に経験させる為に色々と工夫していたようです」


「なぜそのようなことをする?」


「そのうちこのような魔物の出現が常態化するか、より強い魔物が出現した時のためだそうです」


「その男は今回の事が単発で終わらぬと見ているのだな」


「はい。先日陛下より伺った他国での魔物騒ぎも合わせて考えますとマーギンの読みは正しいかもしれません」


「そうか、魔物の異常発生は大陸全土に及ぶのかもしれんな」


「マーギンの居た国は軍が魔物の討伐を担っていたようです。マーギン自体は軍に属していなかったようですが、剣や戦術を軍の総大将から学んだようです。マーギンを見ているとその総大将は傑物なのでしょう」


「ならば先日の雪熊討伐の戦術はもはや戦略と言った方が正しいの」


「はい、騎士の訓練も戦略になると思われます。私も勉強になりました」


「ほう、自分より勝っていると認めるのか?」


「そうですね。目的を達成するための考え方が騎士とは違います。考え方としては軍寄りでしょう」


「なるほどな、プライドより実を取るタイプか」


「有事に騎士が要人を護衛する際には必要な考え方かと思います」


「で、その発想の違いがカタリーナを拐われた事に繋がるのだな?」


「残念ながら」


そして、大隊長は初めからどのようにしてカタリーナが拐われる事になったのか、王都出発から全て話した。


「相手の想定は賊ではなく、他国軍の手練れとせねばならんかったな」


「陛下のおっしゃる通りです。当初は姫様の暗殺予定の訓練でしたが、より難易度の高い誘拐に当日変更しました。それでもこの結果ですから、我々は幾度も実戦並の訓練をしていかねばなりません」


「ふむ、では今後は軍と訓練してはどうか?」


「軍は力加減が出来ませんぞ。そうなればこちらも手加減が出来ませぬ。それでは死人が出ますでしょうな」


「マーギンは本気で襲って来たのであろう?」


「いえ、大きな怪我は誰にも負わせておりません。馬車と天幕は使い物にならなくなりましたが、騎士の怪我は治癒師が治せる程度のものです」


「ふむ、それは見事であるな。そのものは国に取り込めるか?」


「残念ながらマーギンは毒にもなりうる存在です。本人ももう国に仕える気はないと申しておりますし、試しに貴族になれるように仕向けてみましたが断われました」


「毒になるとは?」


「マーギンは庶民であり、貴族制度を好ましく思っておりません。体制を脅かすような事は考えてはおらぬようですが、国に取り込むと貴族と揉めるでしょう」


「で、揉めた貴族が潰されると言いたいのか?」


「転移魔法で飛ばされたのもそのよう事があったからかもしれません。あれほどの者を追放するには理由があるでしょうから」


「敵には回さず、それとなく味方に付いておかせるのが良いのじゃな?」


「はい。今ぐらいの関係がちょうど宜しいかと。下手に国に仕えろと言えばこの国から出て行くかもしれません。それで万が一他国側に付かれては大変な事になります」


「ふむ、お前の進言を受け入れよう」


「ありがとうございます。恐縮ではありますが1つお願いがございます」


「なんじゃ?」


「第一隊にもマーギン達相手に訓練をさせたいのですが宜しいでしょうか?」


「第一隊か。隊長の鼻を折りたいのか?」


「まぁ、隠さずに申せばそうなります。訓練は騎士の訓練所で行いますので、外でやるわけではありません。第一隊が訓練している間は第二隊と第三隊で護衛に付きますので」


「ふむ、了解した。ワシもあの隊長の鼻が折れる所を楽しみにしておくわい」


「は?」


「訓練所で行うのじゃろ?ワシもこの目でマーギンという男を確かめるつもりじゃ」


「ご見学なさるおつもりですか?」


「なんじゃ、ワシが見学するのは不満か?」


「い、いえ。不満というわけでは…」


「なんじゃ?はっきりと申せ」


「大事になりすぎます。陛下がご見学なさると第一隊の失態が公になりますぞ」


「それで構わん。あの隊長はごちゃごちゃとうるさいでの。思いっきり恥をかいて口を閉じさせれば良い。あやつの報告の仕方と口調が父親の宰相そっくりでムカつくのじゃ」


王がムカつくとか言うのはすでに私的モードに入っている証拠だ。カタリーナ姫様はどの兄妹より陛下の血を受け継いでいるのかもしれん。喜々として第一隊がやられるのを見たいだけなのだろうからな。


「陛下のご希望とあればご見学を宜しくお願い申し上げます。予定希望日を後ほど報告致します。3月中になりますので」


「ふむ、スタームの希望は聞いてやったな。ではワシの希望も聞いてくれまいか?」


「ご希望と言わず、ご命令下さい」


大隊長がそう答えたら王はニヤリと笑う。


「外で焼いた肉はたいそう旨いそうじゃな」


「は?」


「カタリーナが帰って来るなり楽しそうな顔で自慢しに来おったわ。まさか今回の訓練はカタリーナを遊びに連れて行く盛大な芝居だったのではなかろうな?お灸を据えたとは思えぬが?」


「め、め、滅相もございません。本当に訓練であり、姫様が焼き肉を召し上がられたのはマーギンの配慮でございます。王都から出発後、ずっと馬車から降りられないように仕向けたお詫びとして…」


「旨いんじゃろ?」


「確かに、私も好きな味ではありますが…」


「では予定を組んでおけ。それも室内ではなく外で食べるのじゃぞ」


「かしこまりました…」


この様子では自分も一緒に食べていたこともバレている事を理解した大隊長はかしこまりましたとしか返事が出来ないのであった。



ーロッカ達の家ー


「お前、シスコの言う通りゴミだらけじゃねーかよ」


「なんかに使えるかもしれねぇんだよっ」


マーギンはロッカ達の家の片付けを手伝いに来ていた。そろそろアイリスを押し付けなければならないのだ。バネッサがそれは捨てるなとか叫ぶのを無視して、ポイポイと不要と書かれた箱に放り込んでいく。


「これはまだはくのか?」


と、マーギンはボロ布かと思ったパンツをヒラヒラさせる。


「さっ、触んなっ」


「マーギン、セクハラよ」


シスコがゴミとマーギンを同じ目で見る。


「こんな雑巾みたいなパンツを触ってしまった俺の気にもなれよ」


こんなもんでセクハラと言われたらたまったもんじゃない。そのパンツも不要箱にポイ。もうバネッサには聞かずに全て捨てよう。


オンボロの壊れた魔道具も全部修理不可だな。これを修理するなら新品を買った方がいい。しかし一応魔道具らしきゾーンや石ころゾーンとかバネッサなりには分類してあるようだ。


次は石ころゾーンに。なんか形が気に入ったとか、きんが混じってるかもしれないとかバネッサが説明する。これは捨てるのを迷うな。コレクターの趣味は他人から見たらゴミだが、本人からしたら大切なものなのだ。


「バネッサ、これはきんかもしれないと思って置いてあるんだな?」


「そうだよ。キラキラしてんのが入ってるだろうが」


「ロッカ、コップでもなんでもいいけど、陶器はあるか?」


そう言うとカップを持ってくる。


「バネッサ、このキラキラを糸尻に擦り付けるだろ?そしたら金かどうか分かる」


ゴリゴリと擦り付けるとカップの底に黒い跡が付いた。


「こうして黒くなるなら金じゃない。金なら金色の跡が付くんだよ」


「本当か?」


「こんなことで嘘つくか。捨てていいな?」


「ちぇっ、いつか売ろうと思ったのによ」


形が気に入ったいう石ころは残しておく。で、問題はこれらだな。


「マーギン、それも捨てるのか?」


「いや、この3つは中に水晶が入っている可能性があるから置いとけ。まぁ、小さな水晶だろうからあまり価値はないけど、バネッサは好きかもしれん」


「まじかよっ。やっぱり全部ゴミじゃなかったじゃんかよっ」


とバネッサはシスコに胸を張る。それをクズ水晶の入った石なんかゴミよゴミと言い返している。


で、この箱の中は…


ごちゃごちゃと金属で出来たような物が入っていてサビだらけで手が汚れる。


「これ、見ずに捨てていいか?」


「さっきみたいになんかいいもんかもしれんだろ。ちゃんと見ろよ」


あーもうっ


ここでひっくり返して出したら床がサビだらけになるので外に出てひっくり返し、わけの分からない物をポイポイと箱に戻していく。そしてふと気が付く。


なんだこれ…


マーギンはまた箱をひっくり返して、気になった物を集めていく。


「な、なんかいいもんだったのかよ?」


「バネッサ、これは元々箱に入っていたのか?」


「いや、違うぞ。バラバラに落ちてたのを拾ってまとめておいたんだ」


「どこで拾った?」


「どこだっけなぁ、結構遠くまで行った時だったのは覚えてんだがよ。場所ははっきり覚えてねぇ」


マーギンがパーツを集めて眺めていたものは魔導銃らしきものだった。


これ、完成していたのか…


マーギンは一刻も早く魔王を倒すのが先決だとミスティに言われて、誰でも強力な魔法攻撃が出来るように兵器の設計図を描いていた。しかし、ミスティからそんな物を作るなと怒られて設計図を全て没収されたのだった。


設計図はミスティが捨てたんじゃなかったのかよ…



マーギンはバネッサから、どれぐらい価値があるんだ?とか嬉しそうに聞かれていたが、黙ってじーっと魔導銃の残骸を見続けるのであった。


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