護衛訓練の結果

オルターネンもローズが食うといったことで一緒に食い出す。しかし、姫様の扱いが軽くないだろうか?普通は王族の前でこんな風に飯食ったりしないよね?まぁ、だったら俺達はなんなんだと言う事になるけども。


ローズは焼き肉を口に入れてモグモグしながらポロポロと涙を流す。


「どうしたの?」


「うるさいっ。マーギンに私の気持ちなんか分かるわけがないっ」


「そう?分かってたから簡単に拐えたんだけど?」


ぐすっ ぐすっ


「どう分かってるというのだっ」


ローズは必死に泣き止もうとしながらマーギンを睨みつける。


「ちい兄様もそうだけど、目的を見失ってんだよ」


「目的?」


「そう。今回の任務は姫様を守るということだろ?」


「当たり前だっ」


「ならどうして俺と対峙したのさ?ちい兄様も喜々としてロッカと対峙しただろ?」


「姫様を守るのに強敵だと分かってる奴と戦うのは当たり前だろうが?」


「いや、護衛任務だよ?あの状況まで追い込まれたら防衛に徹するべきなんじゃないの?というより、宿泊した町を出ずに応援を呼ぶべきなんだよね」


「は?今回はこのメンバーで姫様を守るのが訓練だろうが」


「そう。このメンバーであの状況だと守りきれないと判断するべきなんだよ。本当の任務ならどうするのさ?まぁ、その判断をするのはちい兄様じゃないかもしれないけど進言するぐらいはしても良かったんじゃない?」


「そ、それは…」


「ちい兄様はロッカがどこかで仕掛けて来るのを楽しみにしてなかった?だからそれだけに集中して体力を温存していたように俺には見えたんだよね。だからロッカをちい兄様にぶつけて、他の人はバネッサとシスコにやってもらったんだよ。きっと姫様を守るという意識が薄れると思ったから」


「くっ…」


オルターネンは図星を突かれて言い返せない。


「で、ローズも同じ。きっと俺が姫様を拐うと思い込んでいたから正面から対峙した。だから姫様を拐うのに隙だらけだったんだよ」


「あの光った時にマーギンが拐ったのではないのか?」


「俺が姫様を触るのも良くないだろ?バネッサに拐ってもらったんだよ。抱き抱えて走るの大変みたいだったけど」


「ではマーギンは初めから…」


「中にいるのがローズとは知らなかったんだよ。飛び出てきた剣を見て気付いたけど」


「私でなければどうしていたのだ?」


「鎧の上から殴って気絶させるつもりだったよ」


「鎧の上から殴って気絶させる?」


「普通に殴ると相手が吹き飛ぶだけなんだけどね、殴り方によって衝撃を中に伝えるやり方があるんだよ。あんまり得意じゃないけど鎧を着ている人は動きが遅くなるから俺でも可能だね」


「では私はマーギンを防ぐにはどうすればよかったのだ?」


「姫様を抱き抱えるか、上に覆い被されば俺は手出し出来なかったよ。ローズが俺の事を理解してればそれをやったと思うけどね」


「覆い被さるだけ?」


「俺がローズを殴ったり出来ると思う?ローズも俺の気持ちなんか分かってないんだよ」


両手を前に組んで目を閉じられたら身動すら出来なかったとは言わない。


「ど、どういう意味…」


「もういい。俺達が失敗したのは確かだ。マーギンの言った通り、俺はロッカとやり合うのを楽しみにしてしまった。隊長達も自身のプライドが邪魔して応援を呼ぶという事をしなかった。それが失敗の要因だ」


「うん、騎士道から言えば邪道や卑怯と思えるようなことほど相手はやってくる。もしかしたら戦争だと名乗りを上げてからとかやるかもしれないけど、誘拐とか暗殺は手段を選ばないから守るほうも手段を選ばない方がいいんだよ。目的は対象人物を守ることなんだから」


マーギンがそう言うとオルターネンとローズは黙ってしまった。


「マーギン、あのボアを仕掛けたのもお前らだな?あれはどうやった?」


大隊長からの質問。


「ロドリゲスからもらった薬を使った。ボアが好む果実から作られているんだって。強くなったと鼻が伸びてきたハンターの鼻を折るための薬だって」


「わざと襲わせるのか」


「そうらしいね。俺達があちこちからボアをあのポイントに追い込んだとはいえ、凄い効き目だったよね」


「当たり前でしょ。あれは通常1滴2滴しか使わないんだから」


「え?そうなの?」


「そうよ。それを瓶ごと投げつけたから何か考えがあるのかと思ってたけど知らなかったの?」


「いや、全部使う物だと思ってたからさ」


「あれ、ずっと効き目あるのよ。皆ここに来ないのはボアに襲われてるんじゃないかしら」


「え?マジで」


「もしかしたらの話よ」


それは十分に考えられる。ここまでわかりやすくしているのに誰も来ないと言うことは…


「大隊長、姫様を頼みます。皆行くぞっ」


マーギン達は慌てて馬車の所に戻ると数匹のボアと屍と化した騎士達の姿があった。




大隊長がテント等を撤収して姫様と一緒に戻ってきた。片付けをさせてしまって申し訳ありませんと謝り、復活した騎士達と西の領都に行くのであった。


領主に姫様が宿泊するという連絡は入れてあったようで、騎士達も領主邸に泊まるらしい。マーギン達はそのお誘いを断った。騎士達もこんな嫌な奴らと一緒にいたくないだろう。



ー領主街の繁華街ー


「姫様は最後まで俺達と街で泊まるとか騒いでたな」


「姫様って、普通の人と変わらねぇんだな」


「いや、あの姫様が特殊じゃね?普通は庶民と口すらきかんと思うぞ。危険な訓練に自らやりたいとか言い出したみたいだし。あんまり構うと妙な事に巻き込まれんぞ」


「お前が一番構いそうだろうが」


バネッサにつっこまれ、確かに、と、マーギンは心の中で頷いた。



先程焼き肉を食ったので軽く飲むかとなり、飲み屋を探して入る。なかなか小洒落た店だ。


西の領都は山の幸が名産のようで、つまみにフキノトウとか何かよく分からない物が軽く炒められて出てくる。


「苦えっ」


バネッサは山の幸がお気に召さなかったようだ。


「白のスパークリングワインってある?軽めの奴がいいんだけど」


と、いつもは赤ワインだが違うのを注文してみる。


「おっ、このワイン、ほろ苦と合うぞ」


「本当かよ?不味かったら口から出すからな」


そんな事をしたらシスコにまたゴミを見るような目で見られるぞ。


バネッサはマーギンに進められたスパークリングワインを飲む。


「おっ」


「な、ほろ苦と合うだろ?」


「まぁまぁだな」


そんな事を言いながら山菜をひょいぱくしてスパークリングワインを飲みだした。


そこそこ高く着いた飲み代はマーギンがお支払い。飲み代ぐらいしか使うことがないのだ。


いつの間にか飲んで潰れたアイリスをおぶって宿にお泊り。ロッカ達は4人部屋、マーギンは1人部屋だ。宿代はロッカ達が払ってくれた。


翌朝、ちょろちょろと店を覗くが王都と売っている物があまり変わらなかったので、とっとと帰ることに。


領都を出ようとしたら大隊長が待ち構えていた。


「あれ?みんなと帰らなかったんですか?」


「途中の町で落ち合うから構わん。少し話がしたい」


と、大隊長は馬を曳きながら歩く。


「マーギン、お前は一人でも姫様を誘拐することは出来るか?」


「まぁ、なんでもありなら可能ですね」


「攻撃魔法は無しだぞ」


「攻撃しなくても可能ですよ」


「何人ぐらいまで可能だ?」


「今日ぐらいの人数なら問題ないです」


「そうか、それは訓練所でも可能か?」


「訓練所だと退路が難しいですね。拐った後をどうするかによります。訓練所を出て王都を出るとすると…」


「いや、そこまでは考えなくて良い。訓練所を出る所までで大丈夫だ」


「なら可能ですね。騎士達の体力万全でもう一度やるんですか?」


「いや、第一隊とやってもらいたい」


「第一隊?」


「別名近衛騎士隊だ。王族警護の隊だな」


「今回は第二隊だったから一番上の隊を出すということですか?」


「第一隊はちょいと特殊でな。腕もさることながら爵位も関係してくるのだ」


「高位貴族出身しか配属されないって、ことですね」


「そうだ。隊長の爵位が俺より上の侯爵家のものだ」


「部下の方が爵位が上だとやりにくいですね」


「そうだな。命令権は俺にあるが心情的にはややこしいのだ」


「その隊長は腕が立つのですか?」


「第三隊の小隊長程度だな。実際にはオルターネンの方が強いだろう。あいつは隊長に上げてやるべきなのだが爵位がな…」


「バアム家は男爵ですからね、ほとんどの部下の方が爵位が上になってしまうのですね」


「そうだ。騎士隊は護衛が主な任務だ。実戦で戦う機会はそうそうない。騎士隊に魔物討伐とかの任務を受け負うような隊があればそこの隊長に適任なんだがな。完全に実力がものを言う隊がないのが現実だ」


「まぁ、その辺は理解はしますが体制を変えるのは難しいでしょうね」


「そこでだ。第一隊をコテンパンにやっつけてくれはしまいか?」


「俺がですか?」


「そうだ。今回の任務失敗は姫様が内緒にしてあげるとかおっしゃられたのだが、そうはいかん。まずい報告ほど迅速に詳細にせねばならんのだ」


「そうですね。陛下はそのような報告を咎めるような方ですか?」


「いや、陛下は隠し立てする方がお怒りになる。今回の事は何らかの処罰があるだろうが、クビや降格といったような事はされないと思う。まぁ、3ヶ月の減給といったところか。俺は半年ぐらい減給になるだろうがな」


多分、大隊長は半年、隊長は3ヶ月、小隊長は1ヶ月の減給になるだろうとのこと。


「誘拐を失敗したほうが良かったですね」


「いや、あれはあれで良かったのだ。マーギンがオルターネンに伝えた事が全てだ。責任者である第二隊長が応援を呼ぶというのが正解だな」


「それでもなんとかしてましたけどね」


「それだと、王族が移動する時は軍隊も編成せねばならなくなる」


と、大隊長は笑った。


「で、第一隊と訓練をしてコテンパンにする意図は?」


「あやつは小うるさいのだ。俺にはそこまで言わんが、第二隊長と第三隊長は死ぬほど嫌味を言われるハメになる。今回の苦労を知らないやつに死ぬほど嫌味を言われるのはたまらんだろ?」


「確かに。それなら訓練を2種類しますか?街道で実戦形式の訓練するほど持ち場を離れられないでしょうから、誘拐の訓練と、ロッカ達と戦闘訓練とかしてはいかがでしょう?」


「なるほど、守れず戦えず両方の屈辱を与えるのだな?」


屈辱を与えるって…


「ご自身の実力を把握してもらうってことですよ。人に嫌味を言う前に自身を鍛えろというところですかね」


「うむ、それで行こう。これも指名依頼で良いか?」


「ロッカ、話は聞こえてた?」


「あぁ。こちらは構わんぞ。マーギンの鬼畜作戦を知らない者に今回の騎士達もごちゃごちゃと言われたくはあるまい」


鬼畜作戦とか言うなよ。


「ということなので指名依頼宜しくお願いします」


「分かった。早々に依頼を出すから頼んだぞ」


と、言い残して大隊長は馬に乗って皆を追いかけたのだった。


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