シスコン
さすが貴族街のレストラン。ワインが旨い。
「大隊長、今回の雪熊討伐と蛇討伐の話を伺っても宜しいでしょうか」
話を切り出したのはオルターネン。
「雪熊討伐はマーギンの策がとても上手くハマった結果だな。騎士隊だけで討伐しろと言われたら無理だっただろう。どこにいるからわからん雪熊をきっちりと呼び寄せた作戦は見事だった」
「騎士やハンターを餌に使った策ですか?」
「マーギン、あれは本来作戦に必要だったのか?」
「何日も待つ気があれば不要でしたよ。雪熊が襲いやすい状況を作ってやればそのうち来ますから。寒い所で待ち続けるのが嫌だったので餌がいてくれて助かりましたよ」
「嘘つけ。あいつらがいなければ自分で呼び寄せるつもりだっただろうが」
と、大隊長が笑う。
「まぁ、そうですね。やりようは色々とありますので」
「お前は餌にした騎士をローズが迎えに来ると分かってたのだな?」
「彼女は嫌な奴だったとしても仲間を見捨てませんよ」
「ふむ、それを見越して他の餌を捕まえてきたのだな?」
「はい、どこかに必ず火事場泥棒がいると思ってましたから。罪の重さは普通の泥棒と火事場泥棒も同じでしょ?少し牢に入って終わり。それだと同じ事をまたやりますからね。お灸を据えるのにちょうど良かったんですよ。火事場泥棒は人のやる犯罪じゃない。魔物よりタチが悪いと俺は思います」
「なるほどな。騎士の件はお灸を据える意味があったのか?」
「まぁ、貴族で構成されている騎士は平民の住民と触れ合う機会もないでしょうから、騎士がどれだけ信頼されて憧れられている存在なのか知らないんですよ。だから身を持って味わってもらったまでです」
「ローズへのお灸ではないのか?」
「それもありますね。ローズは強くなりましたが現場を知らない。自分が組織の上に立って動く時の事も知らない。本番で失敗したら取り返しが付かないのであのような事をさせて頂きました。次の機会があればやり方も変わって来るでしょう」
「それだけか?」
と、建前を話したマーギンに突っ込む大隊長。
「ローズに舐めた事をした騎士にムカついたので死ぬほど怖い目に合わせてやろうと思いました。すいません」
と、本音で答えるとクックックッと大隊長は笑った。
「ということだオルターネン」
ん?
「オルターネンはローズの事が心配なのだ。あれからずっと沈んだ顔をしているからな。何があって、マーギンがどういうつもりで酷い事をしたのか知りたかったのだ」
「お見通しでしたか大隊長」
とても気まずそうな顔をするちい兄様。
「お前はシスコンだからな。当然だ」
シスコン呼ばわりされたオルターネンは赤くなった。
「兄馬鹿でお恥ずかしい限りです。恥ずかしい思いをしたついでにマーギンに聞きたいことがある」
「何でしょう?」
「お前はバネッサとどういう関係なのだ?」
「どういう関係?知り合いよりかは近い存在ですね。仲間というには遠いです。自分はパーティメンバーでもありませんし」
「いや、その、男女の仲というかだな、そのなんだ」
と、オルターネンは言葉尻を濁す。
「俺とバネッサが?ないないのないですよ。それにバネッサはちい兄様に憧れてますから。バネッサは俺からしたら手の掛かる子供みたいなもんですよ。確かに可愛いとは思いますけどね。ほら、馬鹿な子供ほど可愛いって言うでしょ。そんな感じです」
「その、なんだ… ローズには魔物に殺られたら敵(かたき)を取るといったが、バネッサの事は身体を張って守ったのだろ?それに二人でテントの中でイチャイチャしていたそうではないか」
「は?なんですかそれ?」
誰がバネッサとイチャイチャしてただって?なんて人聞きの悪い事を…
「マーギンがバネッサの膝に顔を埋めていて、頭を撫でてもらっていたそうではないか」
「確かにそんな態勢になってはいましたが、ふらついて倒れて動けなくなっていただけですよ。なんで俺がバネッサに甘えなきゃなんないんですか。ローズにしてもらうならともかく」
「ほぅ、貴様はローズにそんなふらちな事をするつもりなのか」
めっちゃ怖い顔をするオルターネン。
「い、いや。例えばの話ですよ」
「ローズがしてやると言ったら?」
「喜んで」
「殺すっ」
しまった。条件反射で言ってしまった。
「オルターネン、こんな所で剣を抜こうとするな。シスコンも度が過ぎるぞ」
「も、申し訳ありません」
オルターネンに呆れた顔をした大隊長はマーギンには真剣な顔をする。
「マーギン、お前が望むなら北の領主の養子にでもなって、ローズを嫁に貰う事も可能だぞ。今回の蛇の件で領主に貸しが出来ただろ。俺も口添えしてやるが」
「大隊長、ありがたいお話ですが、俺は庶民ですし、そんなだいそれた考えはないですよ。ローズは由緒正しい貴族の娘さんです。もっとふさわしい方がおられると思います。自分は高嶺の花を眺めるだけで十分です」
そう大隊長に答えると、オルターネンが口を挟む。
「マーギン、ローズが他の奴の嫁になっても平気か?心憎からず思ってくれているのではないのか?」
「はい、ローズの事は好きですよ。立場とか俺の過去の事がなければ恋に落ちていたと思います」
「ならば…」
「オルターネン様。自分はローズに見合うような男ではないのですよ。それにまだやり残した事があるかもしれません」
「やり残した事があるかもしれない?しれないとはどういうことだ?」
「アイリスを故郷に連れて行った後にそれを確かめに行きます」
「どこに確かめに行くのだ?」
「それはまだ言えません。後5年ぐらいしたらはっきりすると思うのですが」
「5年後?」
「はい。ちなみにオルターネン様は俺の年齢がいくつかご存知ですか?」
「ん?ローズと同じぐらいではないのか?」
「いえ、自分は多分この国の数え方でいうと31歳なんですよ」
「は?俺より歳上だと?」
「はい。俺は呪いに掛かってるんです」
「呪い?」
「不老という呪いです。やり残した事があるかもしれないという、かもしれないの意味はそれです」
「意味がわからんぞ」
「成すべきことを成せば呪いが解けて普通に歳を取るはずなんです。が、今の自分が歳を取っているのかどうかがわからないのですよ。流石に後5年経てば何か変わって来てわかるとは思うのですが」
「お前は20歳位から歳を取っていないというのか?」
「25〜6歳までは歳を取ってましたよ。元々俺の生まれた国の人間は幼く見えるみたいなのでその影響もあるかもしれません。そして仲間に飛ばされてから4年弱。その4年間で歳を取ったかどうかが分からないのです」
「お前の成すべきこととはなんだ?」
「それは申し訳ありませんがお話し出来ません。この国に反乱を起こすとかそんなものではありませんのでご安心を」
「不老の呪いなんてあるのか?」
「正直自分でも分からないのです。不老の呪いは不死ではないようなので、蛇にやられた時に治癒魔法が使えなければ死んでいたでしょうし」
「本当の話なんだな?」
「恐らくとしか今は言えません。だから恋愛とか結婚とかそんな話はそれが解決するまで自分には無縁の話なのですよ。ローズの事は眺められただけでも自分には幸せな出来事なのです。仮にローズが自分の事を心憎からず思ってくれているのなら、バネッサとの事は勘違いさせたままにしておいて下さい。所詮、自分は何も成せていない中途半端な男ですからローズには似合いませんよ」
「それで本当に良いのだな?」
「はい。今回の事で嫌われていないと分かっただけで僥倖です」
「解った」
オルターネンはそう答えるしかなかった。
「訓練はいつ頃可能か?」
大隊長が重くなった空気を変えるかのように話題を元に戻す。
「いつでも良いですよ。春の出発前まででも、帰って来てからでも」
「では、早々に予定を組む。2月下旬で良いか?」
「はい。ではロッカ達にも伝えておきます。内容はどのように?」
「要人を乗せた馬車を護衛するからそれを襲って貰う。通常の街道を使うがこの時期だと他の通行も少ないだろう」
「かしこまりました。多少の怪我は覚悟しておいて下さいね」
「治癒師を連れて行くから問題ない。それにマーギンも治癒魔法が使えるのだろう?」
「使えますけど、治癒魔法の多用はオススメ出来ませんよ。治癒魔法が原因で病気になることもありますから」
マーギンは免疫暴走の話をする。
「そのような事が起きるのか?」
「はい、小さな怪我程度なら大丈夫ですけど、大きな怪我を治す事はリスクを伴うという事を理解しておいて下さい。今後の人生に影響が出ますので」
「そのような事は誰も知っておらんぞ」
「医者も知りませんでしたからね」
オルターネンはヘラルドとの会話を聞いて知っていたので黙ってこの話を聞いていたのであった。
護衛訓練はいくつかのチームに別れて数度行う事になり、その都度、反省会という名の宴会をするらしい。大隊長は焼き肉のタレをいたく気に入ったようだった。そういえばガインも好きだったなあれ。
ここで話は終わり、マーギンは家に戻ったのであった。、
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