防衛戦の後日談
ーリッカの食堂の閉店後ー
「お前、死にかけたらしいな」
大将のダットと飲みながら話す。
「大袈裟だよ。怪我したのは確かだけどね。自分でも知らぬ間に鈍っていたみたいだ。それは反省だね」
「自分が強いからって過信してっからそんな怪我すんだよ」
「そうだね。人に言ってる場合じゃなかったわ。でももう大丈夫かな」
「本当か?」
「うん、攻撃魔法が使えるのもバレたけど、騎士隊の大隊長から俺のことを国がどうこうするつもりも無いと言ってくれたから、当面この国から出て行かなくて済みそうだよ」
「なら良いけどよ。それよかハンター組合から依頼が増えるんじゃねーか?」
「どうだろうね。俺の事はヤバイ奴だと認識されただろうから腫れ物扱いになるんじゃないの?」
「盗みしてやがったハンターを魔物の寄せ餌にしたってやつか?」
「そう。あの後解除するの忘れてたんだよね。なんか下から掘り進めて出してやったみたいだけど」
「下まで強化してなかったのか?」
「そうなんだよ。雪熊がカマクラを持ち上げてたらヤバかったね」
「お前なぁ…」
本当にヤバそうならプロテクションを掛けるつもりだったのだが。マッスルパワー達は助け出された後に牢屋に入れられているが、雪熊の恐怖でボーッとしたままになっているらしかった。
「ロドが組合に顔出せと言ってたぞ。白蛇の事を詳しく教えろだってよ」
「そうだね。ちゃんと説明してないからな。明日にでも顔出してくるよ」
「おぉ、そうしてやってくれ」
翌日、ハンター組合に顔を出す。
俺の顔を見るとビクッとするハンター。あの討伐に参加していたやつなのだろう。人を平気で生贄に使うヤバイ奴だと知れ渡っているようだ。
「組合長に顔だせと言われて来たんだけど」
「お、お待ち下さい」
青い顔をした受付がロドリゲスを呼びに行き、部屋まで案内される。
「よお、タヌキ」
「こんにちはキツネ様」
そう返事するとフンッとされた。
「まずはお前の報酬だ。山分けしたから少ねぇぞ」
渡されたのは200万G近い金だった。
「皆受け取ったんだろ?」
「聡い奴は当初の報酬だけ受け取って、蛇の分は辞退したぞ」
「へぇ、そいつ等はちゃんと生き残れるハンターだね」
「お前と一緒に魔狼を追い払ったパーティの奴らだ。お前の企みに巻き込まれたくないんだろうよ。大物討伐できても生贄にされちゃ敵わんと思ったのか、お前が領主に言った言葉の裏に気付いたかどっちかわからんがな」
「ま、俺の事をパーティに誘おうと思わなくなってくれただけで十分だよ」
その後、白蛇の事を説明した。
「そんなのがいやがったんだな」
「あれ結構レア物なんだよね。俺も2〜3回しか見たことなかったからすっかり忘れてたよ」
「しかし、とんでもねぇ化物だな。他のハンターだと討伐出来んだろ?」
「討伐するには複数のパーティが必要になるね。毒が無いだけマシかもしれない。他の強い蛇は強酸を吐きかけて来たり、強毒を撒き散らかしたりするから」
「は?」
「なんだよ?大型の蛇系の魔物は色々と種類がいるんだよ。あいつら気配を掴みにくいからやっかいなんだ」
「他にも種類がいるのか?」
「今回、白蛇が出たんだから他のも出るだろ。それに備えてパーティ同士で連携の訓練しといた方がいいと思うよ。今回の魔狼討伐でパーティ同士の連携の重要性を理解したと思うけど」
「そう仕組んだんだろ?」
「俺にそれをやらそうとしてたよね?」
「いつから気付いてたんだ?」
「なんかおかしいと思ってたんだよね。ロドはやり手のハンター上がりで、頭も切れる。それがあまりにもボンクラ指導者だったんだから」
「やり過ぎたか?」
「商業組合を手玉に取ったりしたのを俺に見せたろ?あれもわざとだろ?それに騎士隊に応援依頼かけたのもロドだろ?」
「どうしてそう思う?」
「マッコイが騎士隊来るの知らなかっただろ?領主も悪い人じゃないみたいだけど気の回らない人だったからね。そうなるとロドしかいないじゃん」
「はぁ〜、お前が騎士隊の大隊長と知り合いだったのは誤算だったわ」
「あの日たまたま会っただけだよ。あっ、そのうち星の導きに騎士隊との訓練で指名依頼が入るかもしれないよ」
「騎士隊との訓練?」
「そう。ロッカ達が賊役になって実戦さながらに訓練しようかと言ってたよ」
「護衛の訓練か…」
「そう」
「外でやんのか?」
「うん。どっかの街道か山道とかでやるんじゃない?」
「そうか… ならこいつをやろう」
と、ロドリゲスが何やら持ち出してきた。
「なにこれ?薬かなんか?」
「魔物寄せの薬だ。ボアが好む実があってな。そいつの臭いでおびき寄せる為のものだ。ちょいと興奮するから暴れボアになるけどな」
「何でこんなもんがあるんだよ?」
「鼻が伸びてきた奴らにちょうどいいんだよ。魔物を舐め出した頃に使う愛のムチってやつだ」
「なるほどね。今回死んだ奴らには使ってなかったのか?」
「あいつらは伸びた鼻が突き抜けちまったやつだな。俺もまさか魔狼にやられるとは思ってなくてな。他の奴らがヤベぇと気を取られたときに飛び出して行きやがった。完全に俺の判断ミスだ」
ロドリゲスは見殺しにしたわけじゃなかったんだな。
「ま、今回は俺もヤバかったからな。魔物討伐には危険が付き物だ。ロドのせいじゃないよ」
「お前はバネッサを庇ってやられたんだよな。あんなに泣いてるバネッサを初めて見たぞ」
「バネッサがいなかったら普通に食われてたかもしれんからバネッサのせいじゃないよ。俺の慢心が原因だ」
「それにあの女騎士も随分と心配していたぞ。お前が死にかけたと聞いて泣きそうな顔をしていたからな」
「そうか、ローズにも心配掛けたんだな。あの後会わなかったから、俺がやられたの知らないかと思ってたよ」
「まぁ、今度会ったら詫び入れとけ」
「うん、そうする」
ー時は少し遡り、マーギン達が北の街観光をしていた時の騎士宿舎ー
「ローズ、小隊長のテスト任務はどうだった?」
まだ今回の出来事を何も聞いていないオルターネン。
「ちい兄様、私は人の上に立つような資格はありませんでした」
「ん?上手くいかなかったのか?」
「住民と家畜に被害はありませんでしたが…」
そこまで言ったローズはポロポロと泣き出した。
「どっ、どうしたっ」
どんなに辛い事があっても泣き顔を見せないローズがいきなり泣き出した事で慌てるオルターネン。
ローズはオルターネンの胸で大きな声でしばらく泣いた後に何があったか初めから話した。
「マーギンが騎士を魔物の餌にしようとしたのか?」
「はい、餌になる前にこちらで助け出しましたが、次に盗みを働いたハンターを餌にしました」
「で、誰か死んだり、怪我したりしたのか?」
「いえ、怪我をしたのはマーギンだけです。餌にされていたハンターは怪我こそありませんでしたが心が壊れたように見えました」
「マーギンに怪我を負わせた魔物はどんなやつだ?」
「見たこともないとてつもなく大きな蛇でした。バネッサを庇って怪我を負ったとの事です。マーギンは治癒魔法も使えるらしく、大事には至りませんでしたが…」
「そうか、あいつなら治癒魔法が使えてもおかしくないな」
マーギンが大事に至らなかったというのに浮かぬ顔をしたままのローズ。
「まさか、後遺症が出そうなのか?」
「そうではありません。無事ではありましたがマーギンはバネッサの膝の上で…」
そこまで言ってまた涙をポロポロと流すローズ。
ローズのやつ重症だなこれは…
ちい兄様はこれ以上聞くのは止めて、現場はどうだったのか大隊長に聞く事にしたのであった。
ー北の街から戻った一週間後ー
家に手紙が届いている。差出人はオルターネン。
<大隊長より雪熊の引渡し日と訓練の打ち合わせをしたいと伝言を受けている。3日後に迎えを寄越す>
内容はこんな感じ。こっちの予定はお構い無しな所が実に貴族らしい。しかし、ロッカ達との訓練の打ち合わせを俺にしてくるのはなぜだ?
とか思いつつ、呼び出しに応じないとダメなんだろうなと自分に言い聞かせた。
ー大隊長室ー
今回はバアム家でなく、騎士隊の施設にある大隊長室に来ている。ここに来るまでに仲間を魔物の餌にしようとしたやつと知れ渡っているらしく、皆から睨み付けられたのは当然だろう。
「オルターネンです。マーギンを連れて参りました」
「入れ」
オルターネンと大隊長室に入るマーギン。中にいる騎士からも憎悪に似た目で見られる。
「大隊長様、雪熊の引き渡しに参りました」
「来てもらってすまなかったな」
中にいる騎士達は大隊長がマーギンに詫びの言葉から入った事に驚く。
「いえ、こちらから連絡方法がなくどうしたものかと思案しておりましたのでお呼びたて頂き助かりました」
と、すっかり雪熊の事を忘れていたマーギンはしれっと嘘を付いた。
「では訓練所に出してもらおうか。ここで出すと運び出すのも手間だからな」
と、訓練所に移動する。
「ここで宜しいですか?」
「うむ」
マーギンはマジックバッグから雪熊の死体を出した。
「うわっ」
それを見ていた騎士達から驚きの声が上がる。
「マーギン、雪熊とはこんなにデカいのか?」
オルターネンが雪熊を見て驚く。
「そうですね、大きい部類に入ります」
「この首の切り口はお前がやったのか?」
「雪熊討伐には手出ししていませんよ。目を貫いたのはシスコ、止まらなかった雪熊を牽制したのがバネッサ、そこから大隊長が風攻撃でのけ反らせて、首を斬ったのはロッカです」
「ほう、大隊長の風の刃でも斬れない魔物をロッカが斬ったのか」
「はい、見事な一撃でした」
オルターネンは雪熊の死体をよく見る。マーギンは淡々と説明したが、死んでも尚威圧を放って来そうな魔物をよく討ち取ったものだと感心した。
「マーギン、これは買い取り金額だ」
大隊長が他の騎士に指示をして革袋を渡す。
「はい、ありがたく頂戴致します」
「これは山分けでなくても良かったのか?」
「これはロッカ達の成果ですから勝手に山分けの中に含めるのもどうかと思いましてね。他の皆は蛇の分で十分でしょう」
「お前の取り分はいくらだったのだ?」
「元の報酬と合わせて200万Gに届かずって所です」
「1億Gから随分と減ったな。あれをオークションに出したら10億Gくらいになったと思うぞ」
10億G?とオルターネンは驚く。
「そのうち珍しくもなんともなくなりますよ。素材としての価値はあるでしょうけどね」
「嫌な事を言うな。あんな化物がバンバン出て来られたら兵力がいくらあっても足らん」
と、大隊長は笑ったが、マーギンは本気で言っているのである。
渡されたのはお金の入った袋が5つ。星の導き3人とアイリス、そして俺の分に分けて渡してくれたのか。大隊長はこういう気遣いの出来る人なんだな。1人100万Gって所か。魔結晶が入っているだろうからそれ込みだなとマーギンは思っていた。しかし、中に入っているのは大金貨。一人当たり一千万Gなのである。
「大隊長、自分の分はお返し致します。俺は口だけ出して討伐には参加していませんので」
「お前の指示でこいつを倒せたのだ。遠慮せずに受け取れ」
「では、これは訓練後の反省会の費用に当てて下さい。自分はハンター登録はしましたが本業は魔法書店ですので報酬は不要です。その分良い肉を期待しています」
「ふっ、そうか。ならこの金は肉と酒に使わせてもらおう」
「はい。タレと炭はこちらで準備しておきます」
その後、訓練の打ち合わせを兼ねて飯を食いに行こうと誘われてしまい、オルターネンと3人で貴族街のレストランに行くハメになってしまったのであった。
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