防衛戦その2

ー星の導き達のテントー


「ロッカ、うちらが行かねぇと他の奴らもヤバイんだろ?アイリスを置いて先に行ってりゃいいじゃねーかよ」


「バネッサ、マーギンはお前のそういう所を心配してくどいほど出るなと言っていたのがわからんのか?」


「確かにマーギンは強ぇよ。でもな、うち等も今まで力を付けてここまで来たんだ。他の奴らが出る中でまだ行きませんとか言えんのかよ?この後ずっと臆病者とか陰口叩かれんだぜ」


「確かに臆病者と言われるかもしれん。しかし、マーギンがあれほど出るなと言ったんだ。必ずまずい事になる」


「じゃあいいよ。うちだけでも行くからよ。うちはな、今までゴミを見るような目で見られて生きてきたんだ。それを見返すのにハンターをやってここまで強くなったんだ。今さら臆病者呼ばわりされてたまるかってんだ」


ロッカは悩む。バネッサの気持ちも理解出来るからだ。


……

………


「アイリス、マーギンが来たら先に行ったと伝えてくれ」


ロッカはバネッサの気持ちを優先するしか無かった。これ以上止めてもバネッサは勝手に行ってしまうと判断したからだ。


「ロッカさん、マーギンさんとの約束を破るんですか?」


「アイリスの安全が担保されていれば大丈夫だろう。我々もそう簡単に死にはしない」


アイリスはロッカにそう言われて引き下がるしかなかったのであった。


取り敢えず寝るぞとなるが、防寒対策をしてきたとはいえテントの中でも震えるほど寒く、あまり寝られないまま夜が更けていく。



ーその頃のマーギンー


しまったな。ちゃんと場所を聞いておくべきだった。領主邸の広場ってどこだよ?人に聞こうにも誰もいないから弱ったな。


北の領地は大きな街だった。壁に囲われたこの街が領都だろう。門番もいないので気配を消して壁をよじ登って中に入ったのだ。


さっみぃぃぃ。こりゃ走って探し続けんと凍え死ぬな。


温熱ベストを着てきたとはいえ、寒いものは寒い。アイリスとか凍え死んでんじゃねぇだろうな?あいつは特に寒さに弱いからな。


そして夜明け前にようやく領主邸と思われる所に到着した。


「こんな時間に何をしている?」


領主邸の門番に不審がられるマーギン。


「ここで魔物討伐の打ち合わせしてた?俺もハンターなんだけどね。用事があって到着するのが遅れたんだよ」


と、ハンター証を見せる。


「王都からの応援か。どこからこの街に入った?」


「ゆ、夕方に到着したんだよ。ちょっと寝てたらこんな時間になっちゃってね…」


と、苦しい言い訳をする。


「ったく、応援はありがたいが遊び半分で来られちゃ迷惑だぞ」


「すいません…」


「中に入れ」


怒られはしたものの中に入れてくれたのだった。



おっ、いたいた。あれ?もう出るのかよ?


「ロッカっ」


ロッカを発見したマーギンは声を掛ける。


「マーギンっ、どうしてもう着いたのだっ」


「夜通し走って来たに決まってんだろ。もし出発が早まったら絶対に行くだろうなと思って急いだんだよ」


「お見通しだったのか?」


「どうせ、ロッカが止めてもバネッサがうちだけでも行くとか言ったんだろ?」


「うるせえっ」


図星のバネッサはマーギンに怒鳴り返した。


「ロドリゲスは?」


「向こうで北の街の組合長と話している。アイリスも組合長に預けた」


「わかった。ちょっとここで待ってろ」


マーギンはロッカ達を待たせてロドリゲスの元に。


「マーギン、早かったな」


「どうせ無謀な作戦を押し通すんだろうなと思ったからな。予定を教えてくれ」


マーギンは作戦をロドリゲスから聞く。


「悪手だな。分散させたらどこも守れんぞ」


「仕方がないだろう。家畜を守れんかったら人が助かっても生活が出来なくなるんだぞ」


「そんなの解ってるよ。村から村までそんなに距離があんのか?」


その問いかけに北の街の組合長が答える。


「歩いて1時間程の距離だ」


「なら、3個所単位でまとめた方がいい。皆が集まってくれていたほうが守りやすい。そして人はこっちに避難させろ。守るのは家畜だけにしておけばいざという時に退避出来る」


「誰が避難誘導するんだ」


「騎士隊が今日の夜か明日に到着する。こっちは今日は住民と家畜をまとめる事に時間を使って住民は明日避難させる。避難誘導は騎士隊にやってもらえばいい」


「王都の騎士隊が来るだと?」


驚く北の組合長。


「あれ?応援要請を受けたと言ってたぞ。今朝出発するって言ってたから間違いない」


「なぜお前が騎士隊の予定を知っているのだ?」


「騎士隊に知り合いがいるんだよ。昨日たまたま会う約束をしてたからそこで聞いたんだ」


「お前、まさか貴族か?」


「貴族に見える?」


「いや、見えんから驚いているのだ」


「俺の本業は魔法書店。騎士隊の知り合いってのはお客さんだよ」


「魔法書店か… ということはお前は魔法使いなのだな?」


「そ、生活魔法全般使える。ここにいる連中を見た所皆ちゃんと飯も食ってないだろ?これだけ寒いと薪にもちゃんと火がつかなかったんじゃないのか?」


「あぁ。うちの奴らは寒いのに慣れてるいるから問題ない」


「ロドリゲス、王都のハンターは無理だろ。せめてお湯ぐらい飲ませてから出発したほうがいいぞ。ロッカ達も目の下に隈が出来てたから寒くて眠れてないだろ。このまま出ても使い者にならん。時間が無いのは理解したが、コンデションを整えてやるほうが先だ」


「しかしだな…」


「死なせたいのか?」


「そんな訳あるかっ」


「ならお湯ぐらい飲ませろ。俺が出してやるから。鍋とコップくらいあんだろ?」


と、マーギンは王都のハンターを強引に集めさせることに。


「マーギンさん」


「アイリス、お前も寒くて寝れてないだろ?」


「私はマーギンさんに貰った奴を着て寝ました」


「それ着て寝たら低温火傷すんぞ。まぁいいわ。薪出すから火をつけろ」


「はい、わかりました」


「外で薪に火がつかんと…」


北の組合長が何か言おうとしたのを無視して薪をドサドサと出すマーギン。燃えやすいように組むとアイリスはそれにヒュボーっと火をつけていく。


「組んだ薪の中に炎を出して温度を上げてそのままキープ」


「はい」


組んだ薪の中に炎を飛ばし、赤い炎から青白くなった所でキープするアイリス。


パチパチパチと薪が燃える音がし始めた。


「よしもういいぞ。俺が風を送って火を回すから、何箇所か同じように着火していってくれ。ロドリゲス、薪を運んで皆が暖を取れるようにしてやって」


「お、おぉ」


ボーッと見ているロドリゲスにも手伝わせる。


「アイリス、ロドリゲスが薪を組んでいる間に出発しようとしているやつを呼び戻せ。ロッカ達もあっちにいるから呼んで来てくれ」


「わかりましたっ」


「北の組合長、鍋とコップを用意してくれるか?」


「俺はマッコイだ。さっきの少女が使った魔法はなんだ?」


「着火魔法だよ。ウチの魔法書店で売ってるやつだ。まぁ、あいつは火の適正が高いから他の奴が使うより威力は上だけどな」


「あんな着火魔法があるのか?」


ヒュボーっ


と、マーギンは指先から着火魔法の炎出す。


「普通はこれぐらいの炎だね。50万で売ってるから欲しかったら王都まで買いに来てね。まぁ、最近は店開けてないけど」


「かなり高いな」


「高いか安いかは需要による。ここなら重宝するとは思うけどね。ま、無理強いをするつもりはないから」


と、ここの薪には完全に火がついたので早く鍋とコップを用意してと頼んだ。


「マーギンさん、呼んで来ました」


「じゃ、あっちの奴に火をつけていってくれ」


「はーい」


アイリスかてててっとロドリゲスの方に走っていく。


「マーギン、出発を遅らせたのか?」


「このまま出発しても使い者にならないからな。お前らも飯とか食ってないんだろ?」


「時間もなかったしな。干し肉を齧って湯を飲んだぐらいだ」


「お前らはロッカがお湯出せるからな。他の奴らはそうじゃないと思うぞ。コップを出せ、スープを入れてやる」


「出発を本当に遅らせてよかったのか?」


「ロドリゲスから作戦変更の指示があると思うぞ」


ロッカ達にインスタントスープを渡した後にロドリゲスから作戦変更の話があった。他のハンター達は配給された湯を飲んで一息付けたようだ



「マッコイ、ここって領主邸だろ?領主は挨拶したとか、何か差し入れとかしてくれないのか?」


「そんなものあるわけがない。庭を使わせてくれているだけでありがたいと思え」


「なんでだよ?ハンターは国に属していないとはいえ、北の街の防衛をするんだぞ?」


「貴族が俺らのことなんか気にするわけがない。依頼金を払って仕事を依頼した。俺達はそれを受けた。それだけの関係だ」


それはそうなんだけど、今って非常事態なのにな。領主も気の利かない奴だ。温かい朝飯でも支給して、皆に宜しく頼むと言うだけで士気も上がるだろうに。



その後、割当られた村に行き、家畜を連れて一箇所に集まるように伝える。


「なんで俺達が移動しなきゃいけないんだよっ。向こうが来ればいいだろ。俺達は動かんからなっ」


と、当然文句を言う人が出てくる。ハンター達も自分達だけでも防衛出来ると自惚れているのか今回作戦に疑問を持つ者もいるので話がまとまらない。ハンター達に任せておいたら何も進まないなこれ。


「解った。反対の者は来なくていい。言うことを聞いてくれる人達だけ来てくれ」


「なんだとっ」


「俺達は依頼を受けて来たが、死にに来たわけではないからな。やり方に不服があるやつまで守る義務もない。家畜を置いていけと言わないだけマシだと思ってくれ。ハンターも残りたいやつは残っていいぞ。だが後で応援が来てくれるとは思うな。各地で被害が出るだろうけど人数が少ないところから襲撃されるのを覚悟しとけよ。ロッカ、こっちの言うことを聞いてくれる人だけで移動するぞ」


「残る奴を見捨てるのか?」


「しょうがないだろ?もう時間がないんだよ。それにここが先に襲われてくれれば他の奴の逃げる時間を稼げる。自ら生贄を希望してくれるなんてありがたいじゃないか」


移動に反対した住民を生贄呼ばわりするマーギン。他のハンター達から白い目で見られるけどこれは事実なのだ。


「バッキャロー、そんな事が出来る訳無いだろうがっ。うちはここに残るからなっ」


バネッサがマーギンに反対する。


「パラライズ」


バネッサを説得するのは時間の無駄なので強めに麻痺させて担ぎ上げた。


「移動した翌日には王都の騎士が皆を迎えにくる。家畜は俺達ハンターに任せて皆は騎士の誘導に従って領都に避難しておいてくれ。食料は一日分だけ持ってきてくれればいい。荷物は最小限で頼む」


王都の騎士が迎えに来ると聞いて住民達はざわざわしだす。


「騎士が迎えに来るのは集まってもらう村だけになるからな。ここには来ないから期待すんな。じゃ、30分後に希望者は集合してくれ」


「本当に王都の騎士様達がワシらを迎えに来てくれるのか?」


「騎士の役目は国を守るのが仕事だ。国とは国民のことだからな。有事に来てくれるのは当然だ。皆もそれぐらいヤバイ状況だと理解したほうがいいぞ」


騎士が本当に迎えに来てくれるということが皆の決断を後押しして全員で避難する事になったのだった。


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