職人街の手伝い

翌日も職人街で打ち合わせ。


「上手くいってないの?」


ゼーミンとリヒトは樹脂の実験をずーっとやっているみたいだ。


「マーギン、こいつの作り方はわかるか?」


道具屋のハルトランがパン焼き機に使われているボールベアリングを持ってきた。


「これは手作業で作るの難しいだろうね。ボールを数作らないとダメだから、ボールを作る機械から作らないとダメなんだよ」


「やはりそうか。手作業で同じ大きさのこの玉を作れるとは思えんからな。どんな機械かわかるか?」


「玉の型を作ってプレスして作ってたよ。で、プレスだけだとガタガタだから、こんな形のやつでバリ取りをしていって」


と、マーギンも昔はどうやって作ってるんだろうと動画で調べた事があったのだ。それを再現して作ってもらったのがボールベアリング。錬金魔法で作ろうとしても難しかったものだ。


「結構大掛かりになるな」


「うん。でもこれを作れたら色々な物がスムーズに動くようになるし、大型のものなら馬車の車軸とかにも使えるんだ」


「なるほどな。回転するもの全てに有用なわけか」


「そう。だから時間掛かっても作れるようになったほうがいいと思うんだ」


「わかった。何とかするわい。が、春までには無理だぞ」


「そうだろうね。パン焼き機の奴はボールベアリングが出来たら交換出来るようにしといて」


と、これは持ち越しだな。


「樹脂のヒントはないか?」


と、リヒトが聞いてくる。


「樹脂以外になんか混ぜてたんだろうね。でも何かわからんなぁ」


「そうか、ノーヒントか…」


「間に布かなんか挟んでみる?それなら割れにくくなるかも」


「布を挟む?」


「ガラスでも鉄線入ってるやつって割れにくいだろ?」


「鉄線が入っててもガラスが割れるのは同じだ。単に飛び散らんとかだけでな」


「そっか、なら違うね」


「いや…」


と、ゼーミンが何かを思いついたような感じで呟く。


「なんかわかった?」


「土壁とかでも麦ワラを混ぜ込むと割れにくくなるんだ。これもひょっとして…」


と、ゼーミンは何かの素材を取りに家に走って行った。


「魔道具の改良とかは無理か?」


と、違う職人が扇風機を持ってきた。


「これ、羽を回すのはモーター?」


自分が作るのは風の魔法陣だけど、羽が付いているということはモーター式なのだろう。


「そうだ。結構魔石食いでな。需要はあるんだが魔石代が高く付くからあまり売れんのだ」


「ちょっとバラしていい?」


「ああ、構わんぞ」


と、バラし方を教えてもらいながら各パーツに分けていく。


やはり魔力を電力に変換して動かすのか。風の魔法陣なら扇風機程度の風ならほとんど魔力は使わない。電力への変換は効率がかなり悪いのだ。


マーギンはモーターを色々と調べてみる。


「この磁石弱いね」


「磁石ってこんなもんだろ?」


「もしかして天然の磁石?」


「それ以外にあるのか?」


あー、なるほど。天然の磁石なら磁力にバラ付きもあるから回転が安定しないとかがあるのかもしれん。


「磁石は作った方がいいよ。その方が磁力も安定するし、もっと磁力の強いものが作れる」


「どうやって作るんだ?」


マーギンは磁力の作り方を教えていく。


「そんなので出来るのか?」


「そう、だから品質不良も減ると思うよ。回路師に言えば回路も今の知識で作れるはず」


「おお、なら実験してみるわ」


今回職人街の人達と色々と知り合って意外だったのがモーター職人というのがいたことだ。家電魔道具は結構モーターが使われている。回転させる魔法陣もあるけど、それを教えるとモーター職人が軒並廃業になるから教えるのやめた方がいいな。


あと改善しても問題なさそうなのは魔導インクか。


「ジーニア、魔導インクはどこで作ってるか知ってるか?」


「貴族街のインク工房だ」


「貴族街?」


「そう。製法も秘匿されてるし、インクも高いから、どうしても回路も高くなるんだ」


値段を聞いてびっくりする。ジーニアに見せてもらったのは銅が使われている一般的なもの。それがこんな値段になるのか。少し使わせてもらうととても簡単な作りだ。単にインクに銅粉を混ぜたもの。それにこんな値段を払うのかと思うと馬鹿らしい。


「魔導インクを勝手に作っちゃダメとかの法律はあるか?」


「製法が秘匿されてるのは知ってるだろ?魔導インクは専門の工房が作ってる」


「じゃ、法律はないんだ?」


「だから作れないって言ってるだろっ」


質問と回答で噛み合わないが、秘匿されているだけで法律で縛られているわけではなさそうだ。


「法律がないなら問題ないか。リヒト、こんな容れ物作れるか?」


マーギンはウォータージャグのような物を作れるかリヒトに聞く。


「それなら商品であるぞ。酒をいれるやつだがな」


「あぁ、それでいいよ。一つ持ってきてくんない?あとハルトラン、銅のインゴットかなんか持ってる?」


「あぁ、あるぞ。どれぐらい必要だ?」


「1キロもあれば十分なんだけど、出来れば細かくなってる方がいいな」


「屑銅でもいいのか?」


「形は何でもいいよ」


ということでハルトランには銅を、ジーニアにはインクを大量に買ってきてもらう。



「買ってきたぞ。まさか魔導インク作るつもりか?」


「そう。この魔導インクはあまり質がよろしくないからちゃんとしたやつを作ってやるよ」


リヒトが持ってきたジャグは2リッター程の容量のもの。ここに錬金と鑑定の魔法陣をセットしていく。ジャグに直接魔法陣を描き込むのだ。


「何やってんだ?」


ジーニアがマーギンの作業を見ているが魔力で直接魔法陣を描いているのでジーニアにはマーギンがジャグを撫で回しているようにしか見えないのだ。


「おまじないだよ、おまじない」


と答えるとジーニアの顔に???が浮かんでいるように見えた。


ハルトランが持ってきてくれた銅線を魔法陣に繋ぎ、そこに魔結晶をセットするように加工していく。


えーっと、インクが2リッターだから銅は600グラムだな。


マーギンは手持ち秤で銅を計る。


「それは秤か?」


「そうだよ」


「ちょっと見せてくれ」


ハルトランはマーギンの秤、つまりデジタルスケールのような物を見て驚く。


「これはどうやって作った?」


「中に魔法陣が組まれてるんだよ。原理はバネ式秤と同じだよ。作り方は教えないからジーニアに考えさせて。ジーニア、魔導炉で教えた事を思い出して考えろ」


「えっ?」


「この回路はそんなに難しいものじゃない。バネ式秤と似たような仕組みだから、それを回路で組めばいいだけだ。まぁ、バネ式秤でも問題ないけどな」


そう、秤なんか別に魔道具である必要もないのだ。


マーギンは計った銅をジャグに入れてスイッチオン。お、ガラスの容れ物だとインクが回転し始めたのが分かりやすくていいな。


しばらく回った後に回転がストップした。簡易の鑑定魔法で魔導インクが完成すると自動的に止まるように回路を組んであるのだ。


「ジーニア、魔導インクが出来たぞ。無くなったらまた作れ」


「え?」


「回路師の皆で使えばいいだろ?これでボッタクリ価格のインクを買わずに済む。それにこっちのインクの方が性能がいいはずだ。ライトかなんかの回路をこれで描いて明るさを確かめてみろよ」


そう言われたジーニアは早速ライトの回路を描いて実験をしだした。


ぶるっ


冷え込んできたのでマーギンは暖炉を見ると火が小さい。


「しかし寒いよな。薪をもっと燃やせよ」


と、店の人に注文を付ける。


「今どこも薪不足なの知ってるだろうが」


「ぜんぜん足りないのか?」


「おぉ、まったく足りねぇな。このままだと飯作るのもヤバくなるかもしれねぇから暖房はこれぐらいで我慢してくれ」


「薪小屋はどこだ?裏か?」


「そうだけど何するつもりだ?」


「薪持ってるからやるよ。案内して」


と、マーギンは職人街の食堂の薪小屋を満タンにしておいた。


「こんなに持ってたのか?」


「行きつけの食堂の薪が足らないって言うから取ってきたんだよ」


「マーギン、後どれぐらい持ってる?俺等にも売って欲しいんだがよ」


と、他の職人達も聞いてきた。暖房用というより作業にも使うらしい。


「どれぐらいあればいい?全員欲しいなら明日、薪取りに行ってくるけど」


「いいのかっ。しかし、この時期に薪なんか取れるのかよ?」


「魔法で加工するからすぐに使えるよ」


と言うと我も我もとなったので明日は薪を取りに行くことになったのであった。




ー夜のリッカの食堂ー


食堂に着くとリッカがまた不機嫌だ。今日はシシリーも連れて来てないし、ほっぺに口紅を付けて来たわけでもない。


「毎日不機嫌だな?シワだらけのブスになるぞ」


いらぬ言い方をするマーギン。


「うっさいわねっ。ぜんぜん萌キュンセットなんて売れないじゃないっ」


「まだ売れてないのか?」


「一回も売れてませんっ。何よっ、ウハウハになるんじゃなかったのっ」


まだ一回も出てないのか。


「で、どこに座んのよ?相席しか無理よ」


いつもより遅い時間に来たので店はほぼ満席だ。星の導き達もまだ来ていないようだ。


「じゃあ、あそこでいいわ」


と、若いだろう3人組のテーブルを指差すと、リッカが相席してもいいかと聞きに行った。


「しょーがないからいいってよ」


と言われたのでそのテーブルにお邪魔した。


「で、何注文するのよ」


「萌キュンセットを一つ」


「え?」


「聞こえなかったのか?萌キュンセットだ。ちゃんとやらんと1000Gしか払わんからな」


「やっ、やるわよっ」


まさかマーギンが萌キュンセットを頼んでくれるとは思ってなかったリッカは驚きつつもちょっと嬉しそうな顔をして厨房に走っていった。


「おい、お前。あんな理由のわからん拉割高なやつを頼むのか?中身は普通のセットと変わらんだろうがよ」


相席をさせてもらった奴らが驚く。


「そうか?俺は5000G以上の価値はあると思うぞ」


そう返事をすると、は?という顔をされた。


「お、お待たせ…」


モジモジしてセットを持ってくるリッカ。


「ほら、早くやれよ」


「わ、分かってるわよっ」


リッカはマーギンに急かされて真っ赤な顔をして萌え萌えキュンをやった。


成人したての美少女が恥ずかしそうに萌え萌えする姿は破壊力抜群だ。相席している若手ハンターらしき奴らもボーッとなってやがる。


「おっ、ちゃんと旨くなってる」


「あっ、当たり前でしょっ」


照れたリッカは真っ赤になって奥に引っ込んで行ってしまった。


相席している3人は旨くなったという酒とリッカのモジモジ萌キュンに興味津々だ。


「そ、それ本当に旨くなってんのか?」


と、一人が聞いてくる。


「一口飲んでみるか?」


「お、おぉ」


と、少し飲むと。


「なんだよこれっ。ぜんぜん違う酒じゃねーかよ」


「リッカの萌キュンが入ったからな。お前等の飲んでる酒とぜんぜん違うだろ?この酒だけでも5000Gの価値はあると思うぞ。それに加えてリッカがお前の為だけに萌え萌えキュンをしてくれんだ。こんなチャンスは中々ないと思うんだがな」


リッカは看板娘。値段と飯の旨さだけでなしにリッカがいるからここの常連になっているやつも多い。


「リ、リッカちゃん。俺も萌キュンセット頼むっ」


「えっ?あ、はい」


こうして相席の3人も萌キュンセットを頼んで、リッカにポーっとなった後に旨い旨いを連発したことで、他の客も萌キュンセットを頼みだしたのだった。


アイリスを連れた星の導き達が到着したけど、座る場所もなかった事で家に帰ることに。ガキ共は女将さんが送って来てくれるとのことになった。


アイリスと星の導き達は他の店で食ってくるとのことで、マーギンは久しぶりに少しの間、家で1人ゆっくり出来たのであった。

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