植物素材

クスクス


マーギンが職人達から暴力を振るわれているのを笑って見ているシシリー。


「はい、もうおしまい。マーギンが設計図を描くから頑張って作ってね」


と、シシリーにウインクされると、早く設計図を描けとまた責められるのであった。


「マーギン、あのパン焼き機は売らんのか?」


「あれを?回路とかどうすんだよ?」


「お前が描いてジーニアにでも教えれば良かろう。特許というのが出来るのなら問題あるまいのでないのか?」


「それはそうなんだけどさ…」


「他の魔道具もマーギンが回路を教えてあげた方が良くなくて?その方が早いわぁ」


「シシリー、そういう問題じゃないんだよ。俺が全部教えたらその先の発展がなくなるだろ?」


「じゃあ、ヒントを教えてあげればいいじゃない。まったく何も無いところから作るのは無謀だと思うわよ」

 

うーむ、確かにここの魔道具回路はかなり時代遅れだ。これを昔の知識で何世代も飛ばして進化させていいものだろうか?


初期の魔道具回路は魔力を電気のように使って物理に変換して成り立っているものが多い。しかし、自分が組むのは魔力をそのまま魔法として使うものだ。これには魔法の知識が必要になってくる。ここまで進化した間の魔道具ってどんなのだったんだろうな?ジーニアの組んだ回路も魔法発動の回路だったけれども効率がかなり悪いものだしな。


マーギンはどうしたものかと考える。ヒントを出すにしても皆の技術とか知らないからな。取り敢えず魔導インクで綺麗に描けるようになってもらうだけでも違うかな?


「マーギン、マーギンってば」


シシリーに話しかけられていたのも気付かずに考え事をしていたマーギン。


「ごめん、何?」


「で、何から始めるのかしら?」


「そうだね、道具関係を作る人と回路師に別れて打ち合わせが必要かもね」


と話しているところにヒョロガリメガネの人がご飯を食べに来た。


「あれ?なんの集まりですか?」


「よう、ゼーミン。お前ちゃんと飯食ってんのか?相変わらずヒョロヒョロじゃねーかよっ」


「あははは、金も無いし、調べ物をしてるといつの間にか時間が過ぎちゃってまして」


「リヒト、この人は?」


「あぁ、職人じゃねぇのに職人街に住んでる変わりもんで植物の研究をしてやがんだ。ったく、金にならないことしてやがるからこの有り様だ。ゼーミン、今日は奢ってやるから好きなだけ食って帰れ」


植物の研究?


「ゼーミン、始めまして。俺は魔法書店をやってるマーギンというんだけど、どんな研究してんの?」


「魔法書店の人がここで職人達と何をしてるんですか?」


「こいつは魔導回路も組めてな、それに色々な知識を持ってやがんだよ。で、職人達が共同で店をやる予定にしててな、それを手伝ってもらってる」


「へぇ、個人でやってた人達が共同で店をするんですか。それは進歩ですね」


「で、どんな研究してんの?」


「植物が何か良い素材にならないかと研究してるんですよ。まぁ、どれも一長一短でなかなか良いものはないんですけどね」


へぇ、この国の庶民にもこんな人がいたんだ。


「何か面白そうな素材とかある?」


「今やってるのは軽くて丈夫な素材に取り組んでいるんですけど、成形が難しくて上手くいかないんですよ。簡単な形には出来るんですけど、防具にするには強度も足りなくてですね…」


「素材の元は何?」


「樹液です。何種類かあるんですけど」


と、色々と説明してくれる。


「塗る奴は触るとかぶれるやつ??」


「そうですそうです。良くご存知ですね」


「多分ウルシだよねそれ。木の器とかに塗って乾かしてをしていくと耐水性も優れるから食器に適してるよ。軽くてとても良い食器になる」


「そこまでの効果は…」


「一度塗っただけじゃなしに、何度も塗って乾かしてを繰り返していくらしいよ。何ヶ月もかかるし、職人の腕も必要だから売り物になるには難しいかもしれないけど」


「本当ですか?」


「うん、金箔とか使って装飾すれば貴族とかに売れるかもね。そういうの無いだろ?」


「え、ええ。本当にお金になりそうですか?」


「職人の腕次第かな。リヒト、そういうの出来そうな職人はいる?」


「おお、いるぞ。今度声を掛けといてやる」


「で、他には何がある?成形が難しいって言ってたけど」


「ある樹木の樹液を熱して溶かした物を固めるんですけど、固まるまで形を維持するのが難しいんですよ。で、一度固まるともう一度熱を加えても柔らかくならない。かといって防具に使えるほど強度もないんですよね」


昔の樹脂みたいなやつか?


「それ、固めたらこんな感じになる?」


と、マーギンは炊飯器を出す。


「この周りの部分なんだけどね、樹脂ってのが使われていて俺は作り方を知らないんだよ。でも防具みたいな強度はないけど、魔道具には十分な強度なんだよね」


ゼーミンに炊飯器を見せると、目を丸くして触ったりしながら確かめている。


「これはどうやってこんな綺麗な形になっているんですか?」


「金型があるんだよ。一つ一つ作ってるわけじゃない。この素材はある程度の熱で軟化するからシート状に加工する、で、そのシートを金型でプレスして高温にしてたと思うよ。それでいくつかのパーツを作ってあとから組み立てるって感じなんだ」


「なるほど…、一気に熱して作るわけじゃないのか」


と、ブツブツと言い始めるゼーミン。


「マーギン、なんかいいものが出来そうなのか?」


「ゼーミンが研究している素材が上手く使えたらね。魔導具って全部鉄とかで作ると重いだろ?この素材を使えばもっと軽くなるし、多分鉄より安く出来るんじゃないかな?」


「おぉ、いいじゃねぇかよ。ゼーミン、素材持って来い。皆で色々と試そうぜ」


「あ、あの先に飯を…」


「いいから早くから取ってきやがれっ」


と、飯も食わせて貰えないゼーミンは素材を取りに帰らされてしまった。


「じゃ、後は頼むね」


「もう帰るのか?」


「もうすぐアイリス達が帰ってくるところだからね。実験は皆でやっててくれよ。また明日来るから」


と、マーギンは星の導き達に預けているアイリスが戻ってくる時間なのでその場を後にした。


「じゃあ、私も帰ろうっと」


と、シシリーもマーギンに腕を組んで帰るのだった。



ー帰り道ー


「家に帰らないのかしら?」


「リッカの食堂で待ち合わせているんだよ。ガキ共は夜の手伝いも始めてるしな」


「じゃあ、私もそこでご飯食べて帰ろうっと」


リッカの食堂前でシシリーにいい加減腕を離せと言ってるのに離さない。で、皆にも見付かる事に。


「シシリーさん、お久しぶりです」


「あらぁ、アイリスちゃん。少し大きくなったかしら?」


「変わってません…」


「そうなのぉ」


とクスクス笑う。


「いらっしゃーい…… 何よそのほっぺたは?」


リッカが出てきていきなり不機嫌に。


「ほっぺがどうした?」


「マーギン、ほっぺに付いているのは口紅だろうか?」


ロッカがそう言う。


「あーーーーっ」


シシリーにほっぺにチュされたの忘れてた。俺はキスマークを付けたままシシリーと腕を組んでここまで歩いて来たのか…


「サイッテーっ」


と、リッカは不機嫌な顔でロッカ達だけの注文を聞いて奥に引っ込んだ。


「お前、よくそんな面で街を歩いてやがったな?」


バネッサからのツッコミと同時に洗浄魔法で顔を綺麗にする。


「あ、消えた…」


「なんか付いてたか?」


「何やったんだよ?」


「買うなら教えてやるぞ。500万だけどな」


「たっけぇぇぇ」


「これを買えば汗臭い事もなくなるぞ」


「誰が臭いってんだよっ。うちは臭くなんてねぇっ、ほら嗅いでみろよっ」


公衆の面前で臭いを嗅げと叫ぶ女。バネッサはどんどんヤバいやつ認定されていくな。


「そんなに言うなら嗅いでやらぁっ」


「ばっ、ばかっ 本当に嗅ぐ奴があるかっ」


マーギンは逃げ惑うバネッサを捕まえてくんかくんかするフリをする。


「やめろぉぉぉ〜 嗅ぐなぁっ」


びしゃしゃしゃしゃ〜


バネッサを捕まえてくんかしているマーギンの頭に安酒がリッカの手によってかけられた。


「サイッテー」


マーギンはGを見るような目でリッカに見られたのであった。



「お前のせいだろうが」


マーギンはブスッとした顔でバネッサにお前のせいだと言う。


「お前がうちの事を臭いとか言うからだろうがっ」


「マーギン、そんなに女の匂いを嗅ぎたいなら私のを嗅げばいいのにぃ」


と、シシリーが髪を上げてうなじを見せる。


「誰も嗅ぎたいなんて言ってないだろうが。一般の食堂で色気を振りまくのをやめろ」


他の客がシシリーの匂いを嗅ごうと鼻をスンスンしているのが気持ち悪くて仕方がない。


「もうっ、マーギンは面白みがないんだからぁ」


「シシリーもまだ男にチヤホヤされたいなら現役に戻ればいいだろ?」


「そういうのじゃないのよ」


そう言ってふんっと横を向くシシリー。こいつは何を考えているのかよくわからん。


「マーギン、これ食ってみてくれよ」


と、騒がしい店内をかき分けてカザフが煮込み料理を持ってきた。


「ん、これを食えばいいのか?」


と、煮込みを食べるといつもと味が違う。


「これ大将が作ったのか?いつもと味が違うぞ」


「旨いか?」


「んー、不味くはないっていったところかな。味がはっきりしすぎてて深みがないな」


「そうかぁ、やっぱりマーギンには違いがわかるんだな」


「もしかしてカザフが作ったのか?」


「タジキだ。あいつは大将の手伝いしてんだよ。上手く出来てると思ったんだけどなぁ」


「へぇ、タジキが作ったのか。大将の味にはまだまだだけど、よく出来てるぞ」


「だよな、他の客は気付かねぇみたいなんだけどよ」


「大将の料理は毎日食べられる味なんだよ。タジキの味付けは毎日食べると飽きてくる味なんだよ」


「どう違うんだ?」


「うーん、これ以上の説明は難しいなぁ。試しにこれからのお前らの賄はタジキに作ってもらえよ」


「わかった。そうしてみるけど俺らは食いもんに飽きるとかないぞ」


それはそうかもしれん。


「じゃぁ、リッカに食ってもらえ」


じゃあそうしてみるとカザフは他の注文を取りに行った。トルクは女将さんとレジというか支払いの受取を手伝っている。トルクは文字とか覚えるの一番早かったからな。地頭が良いようだ。


マーギンはロッカ達が帰った後もガキ共の仕事が終わるのを待って一緒に帰ったのだった。



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