ロドリゲスその2
「もうっ。私は大人になったんだからねっ」
「知ってるよ。だからプレゼントをやったんじゃねーかよ」
「なっ、何をくれたのよ?」
「食器洗浄魔法だ。高いんだぞこれ」
「何よっ お手伝い魔法じゃないっ。あんたが来てやりなさいよっ」
指輪かと思って肩透かしを食らったリッカは気に入らないようだった。
「ダッド、食器洗浄魔法ってなんだ?」
初めて聞く魔法にロドリゲスは頭が???になりダッドに尋ねた。
「マーギンがうちの手伝いをする時に使う魔法だ。普通にやったら1時間以上掛かる洗い物が5分ぐらいで終る」
「そんな魔法があるのか?」
「マーギンオリジナルだ。300万Gの魔法書だ」
「ずいぶんと高いな」
「水も全部魔法で出るからな。うちみたいな店は十分に元が取れるだろ」
「なるほどな…」
「心配すんな、お前は特別だからもう一つ用意してある」
「えっ?」
「手を出せ」
特別だと言われて嬉しくなり再び手を出すリッカ。さっきはいきなり左手はまずかったかなと今度は右手を出すと、マーギンはすっとその手を取る。
ドキドキ
すーっ
先ほどとおなじ動作をするマーギン。
「何よっ。また魔法じゃないっ」
「なんだと思ったんだよ?」
「うるさいっ」
プンスカと怒るリッカ。
「あのなぁ、これは非売品の魔法なんだぞ」
「非売品って何よ?」
「店では売ってない魔法だ。使い方はこれを読め。お前専用だ」
自分専用と言われるとちょっと嬉しいリッカ。
「えーっと… お酒が美味しくなる魔法?」
「そうだ。安い酒でも旨い酒に変わる」
「そんな魔法が… あーーっ、あんたいつもお酒を飲む前にくるって指を回していたのはその魔法使ってたのっ」
「御名答。俺は天才だから詠唱も不要だが、お前は初心者だからな。本来の詠唱と動作が必要になる。やり方はそこに書いてあるだろ」
リッカはもう一度魔法書を読む。
「何よこの呪文」
「酒が美味しくなる呪文だ。試しに大将にやってやれよ」
と、ダッドに安酒を入れてリッカに詠唱をさせてみる。
「えーっ、これ本当にやるのー?」
「嫌なら使わなくてもいいけどな。大将、いつもの1000Gセットの酒はこれだよな?」
「そうだ」
「リッカ、1000Gセットがお前の魔法で5000Gで売れたらどうする?」
「えー?そんなに高く売れる訳ないじゃない」
「俺は売れると踏んでる。大将、1000Gセットが5000Gで売れたら差額はリッカの取り分で良いか?」
「リッカの取りすぎだ。本当に売れるなら2000Gやる。あれは利益ねぇんだからな」
「ということはリッカの魔法で店もお前も2000G儲かるわけだ。これが1日に10人、1か月で240人頼んだらどうなる?」
「えーっと、えーっと…」
「月に48万Gがお前の懐に入る。これは給料とは別にだぞ。ま、いらないっていうなら、今の魔法陣消しとくわ」
「いる」
「ん?聞こえなかったぞ」
「いるって言ってんのよっ」
「じゃあ大将に魔法の効果を試してもらえ」
「わ、わかったわよ」
「お、美味しくなーれ…美味しくなー…」
「あー、ダメダメ。そんなのじゃ発動せんそ。手はこうして」
マーギンの直接指導が始まる。
「もーいやよっ。こんな恥ずかしいの出来る訳ないじゃない」
「このほんの一瞬で2000Gが手に入る。お前の2時間分ぐらいの給料だろ?それが数秒で手に入るのになぁ」
「やっ、やるわよっ」
「美味しくなーれ、美味しくなーれ、萌え萌えキュンっ」
「ダメダメ、もっと笑顔で。キュンっの時に手をこうやって酒の上に持ってくるんだ。ウインクと片足を上げれば旨さ倍増だ」
「美味しくなーれ 美味しくなーれ…」
マーギンの特訓は続き、ようやく吹っ切れたリッカはやり遂げた。
「どう?父さん?」
「旨い… 一番上等な酒と変わらんぐらい美味い」
「ダッド、お前も親バカになったもんだなぁ」
今のを見て笑うロドリゲス。
「なら、この安酒を飲んでみろ」
ダッドは安酒をついでロドリゲスに渡す。
「おお、駆け出しの頃良く飲んだ味だな。嫌いじゃないが今は飲もうとはおもわん」
「リッカ、ロドにやってやれ。で、旨くなったら金を取れ」
「よーし、やってやるわよ。美味しくなーれ美味しくなーれ萌え萌えキュンっ」
「ほら、ロド。飲んでみろ」
「ハッハッハ、こんな事をせんでも小遣いくらいやるっての」
少し小馬鹿にしながら萌キュン酒を飲むロドリゲス。
「なっ…」
驚きのあまり声が出なくなるロドリゲス。
「マーギン、リッカも魔法使いになったみてぇだな。こいつぁすげえ。ミリーもやってもらえ」
今のロドリゲスの表情を見て、親バカで旨いと思ったのでないと確信したダッドは女将さんと星の導き達にもやってもらい、リッカはそれぞれ2000Gずつ請求したのであった。
「ロドおじさんもお金払ってよね」
「わかった、これは萌キュン代だ」
ロドリゲスは銀貨2枚ではなく、小金貨1枚を払った。
「こんなにいいの?」
「味だけじゃなく、いいもん見せてもらったしな。まるでミリーの若い頃にやってもらったみたいだ」
「娘じゃなしに本人が同じようにやってやろうか?」
「いや、もう飲み過ぎだからな。遠慮しておくわ」
「まだ1〜2杯しか飲んでないだろっ」
ロドリゲスは女将さんにヘッドロックを食らってギブギブしていたが少し嬉しそうだった。
「アイリス、お前には家に帰ったら非売品の魔法書を祝いにやるからな」
「私にもくれるんですか?」
「あぁ、楽しみにしとけ」
そして、飲めや騷げやの宴が始まった。
「マーギン、あんた貴重な魔法書をリッカにやって良かったのかい?食器洗浄魔法って300万Gと言ってたじゃないか」
ワイングラスを持った女将さんがマーギンの横にドカッと座る。
「いいよ。俺もあちこち出掛けるかもしれんから洗い物に困るだろ?」
「帰ってくるのかい?」
「何言ってんだよ。春にアイリスの故郷に行くとかそんなんだよ。向こうの領地は広いみたいだからしばらく滞在して来ようかと思ってんだよ」
「なんだ、そういうことかい。土産を楽しみにしてるよ」
「珍しい食い物とかあるといいね。果物とかこっちとは違うだろうし」
「だろうね。結局あたしらもあちこち行った割には南の領地には行かず終いだったからね」
「なんか理由あったの?」
「ダッドが船とかダメなのさ」
「あの顔で船酔いすんの?」
「あの顔は余計だ」
ダッドはロドリゲスと話してたはずなのになぜ聞こえた?
「マーギン、お前本当に何者だ?」
ロドリゲスが酔ったふりをして聞いてくる。
「魔法書店やってるって言っただろ?」
「魔法書店か、ずいぶんと変わった魔法を売ってるんだな」
「オリジナルには自信あるよ」
「お前が売ってるのは魔法書じゃなくて魔法だな?」
「え?」
「お前、直接リッカの手に見えない魔法陣を描いてやがったな。あんなの見たことねーぞ」
しまったな。誰も突っ込まないから、転写するふりを忘れてたわ。
「あれは秘匿技術だ。見なかった事にしてくれ」
もうこう言うしかない。
「お前、攻撃魔法も使えるだろ?」
「強力な着火魔法は使えるぞ」
マーギンは嘘を付かずに真実ではぐらかす。
「こらロド、人の過去や能力を探るのはハンターのマナー違反だろ?」
「そういやそうだったな、いや悪い。気にせんでくれ」
気にするなは俺のセリフだ。
「マーギン、明日からどうすんだ?」
さりげなく話題を変えてくれるダッド。
「それがさぁ、イードンって魔道具店知ってる?」
「イードン?なんだ知らんぞ」
大将は知らないようだ。
「イードンか、急成長している魔道具店だな」
「ロドは知ってるんだ。なんかそこのやり口が酷いみたいでね、職人達が困ってるのに巻き込まれてんだよ。で、その仲裁に組合に入ってもらう事にしたんだけど、その交渉をやらされるんだ。個人工房の職人達は契約とかに疎くてさ」
「どんな問題が出てんだ?」
と、ロドリゲスが興味を示すので、何があったか説明する。
「で、その話を商業組合に持って行くんだな?」
「そう」
「何時だ?」
「明日の昼過ぎだけど」
「付いてってやる」
「何で?」
「お前、商業組合の上の奴と面識あるか?」
「ないよ。別に窓口でいいじゃん」
「その件、商業組合が絡んでたらどうする?」
「え?」
「組合全体ってわけじゃねぇよ。そうだな中間… 絡んでるとすれば主任とかそのあたりだ。絡んでないなら俺は何も言わん。が、絡んでそうなら俺も一枚噛んでやる」
「いっちょ噛みしてハンター組合になんかメリットあんの?」
「まぁ、そこはなんだ、商業組合の上の奴に貸しが出来る。で、お前と職人達は問題が解決する。一石二鳥だろ?」
「まぁ、そっちにもメリットがあるならいいけど」
「昼過ぎだな。向こうで落ち合おうか」
なぜだかロドリゲスまで職人達の問題に絡んで来ることが決まったのであった。
こちらで話し込んでいる間に子供達は腹パンで動けなくなっており、リッカとアイリスは酔いつぶれていた。
流石に4人を抱き抱えて連れて帰るのは無理だな。
「ほら帰るぞ。自分で歩け」
「マーギン、おぶってくれよー。口から肉が出る」
本当に学習せんなこいつら。
アイリスは揺すっても起きないので仕方がなくおんぶする。
「アイリスだけずるいぞっ」
「うるさいっ お前らマジックバッグに詰め込むぞ。ほら、さっさと歩け」
マーギンはいつものごとく父親をしながら帰るのであった。
「ダッドさん、ご馳走様でした。私等も帰るよ」
「おう、気を付けてな」
女将さんはリッカを部屋に連れていき、ダッドはロドリゲスともう少し飲むことに。
「で、あのマーギンって奴はなにもんだ?」
真剣な顔をするロドリゲス。
「凄腕の魔法使いだ。あいつは訳ありで一部記憶がない。どこかの国からふらっとやってきたのか3年半ぐらい前か4年近くなるかそれぐらいになるが、どうやってこの国のそばまで来たか記憶にねぇんだよ」
「ほう、記憶が無いねぇ。あいつの服のボタンに付いてた紋章は魔法書店の紋章じゃねぇだろ?どこかで見たことがある気がするんだが…」
「確かに魔法書店の紋章じゃねぇが、俺も知らん」
「ま、どこかの国の魔道士だったことは確かだろうな」
「どうしてそう思う?」
「あいつがリッカに使った魔法は付与魔法ってやつだ。あんな伝説的な魔法を使える奴が普通の魔法使いなわけあるか。それにオリジナル魔法ってのは、魔法を生み出す知識と力を持ったやつでな、この国にはおらんのだぞ。俺にすら無理だ」
「お前の知識はやはり侮れんな」
「何言ってやがる。俺に会いに来たのはあいつを紹介するためだろうが。何を企んでる?」
「マーギンはそのうち国のゴタゴタに巻き込まれる可能性が高い。そうなれば俺は何もしてやれん。お前の力を貸してやってくれんか」
「あいつは力を隠しているようだが?国にバレたのか?」
「マーギンは3年間ほどの間は大人しくしていたが、あのアイリスを拾ってから地が出て来たって感じだ。人の事をほっておけないタチなんだろうな」
「バレるような事をしだしてんだな?」
「あぁ。貴族とも関わりを持った」
「どの貴族だ?」
「バアム家って言ってたな」
「男爵家か… 古参ではあるがあいつを守る力はないな。せめて伯爵家あたりと繋がりがあればいいが、それはそれで面倒な事になるだろうな」
「ま、身分はハンターになったんだ。お前の管轄だろ?」
「はぁ、まったく。いくら独立しているハンター組合とはいえ、国と揉めんの得策じゃねぇんだぞ」
「そう言うな。あいつを守れなかったらこの国を出て行っちまうからな」
「なんだ、あいつが出て行ったら寂しいのか?」
「そうだな… 出来ればこのまま家族付き合いが続けばいいと思ってる」
「ずいぶんと惚れ込んだもんだな」
「あいつはいい奴なんだ。俺も現役だったら一緒にあちこち行きてぇと思えるぐらいにな」
「そうか… なら微力ながら出来る事はするがあんま期待すんなよ」
「おぉ、せいぜい期待しとくぜ」
そして二人はもう少し飲むかとお互いに酒を注ぎ合うのであった。
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