ロドリゲス
ーハンター組合ー
「ずいぶんと大勢で来られましたね、ロッカさん」
「よう、今日はこいつの正式登録とこいつらの見習い登録に来た。見習いの後見人には星の導きがなる」
「えっ?」
「おい、今日はロドリゲスはいるか?」
星の導き達がいきなり見習いの後見人になると言った事に驚く受付嬢。それに加えていかついおっさんが組合長を呼べと言い出した。
「あの…どちら様で…」
「この人はダッドさんだ。元凄腕ハンターだから気を付けろよ」
ロッカがダッドを紹介すると慌てて頭を下げる受付嬢。
「ロッカ、昔の話だからそんな風に言ってやるな。引退してから15年が経つんだ。俺の事を知らんでも仕方がない」
「し、失礼を致しました。組合長を呼んで来ます」
マーギンもダッドがここの責任者を呼びつけるぐらい凄かったんだなと驚いていた。
「よぅ、ダッド。なんだ現役復帰しにきたのか?歓迎すんぞ、おっ、ミリーも来たのか。相変わらず美人だな。しかし昔とちっとも変わんねーじゃねーかよ」
右目に黒い眼帯をしたロドリゲスという男性。細マッチョだけどダッドに負けず劣らず強面だ。それと女将さんに昔と変わらず美人か… 左目も相当悪いようだ。
ゴスッ
「な、なんだよ。何も言ってないだろうが」
「心の声が聞こえてきたんだよっ」
心の中でいらぬ事を思ったマーギンは女将さんにげんこつを食らう。
その横で、
「しかし、お前、本当に変わんねーな?」
と、リッカに目をやるロドリゲス。
「ロド、何ふざけてんだい。その娘は娘のリッカだよ。ミリーはこっちだ」
「おっ お前がミリーか? いったいどうしちまったんだ?呪いでも食らったか?」
ドゴンっ
マーギンよりいらぬ事を言ったロドリゲスはかち上げを食らったのであった。
「おーいちちち、お前現役時代より強いじゃねーかよ」
ふっ飛ばされたロドリゲスは顎がなくなっていないか確認しながら立ち上がる。
「そうか、お前がリッカか。ずいぶんと大きくなったな。昔のミリーとそっくりだ」
やっぱりリッカはそのうち女将さんになるのか。さっき美人になったなと思った事は心の中にしまっておこう。
「おじさん、私の事を知ってるの?」
「あぁ、ダッドらが引退して子供が生まれた時に見せて貰ったきりだ。俺もしばらく王都を離れてたからな」
話を聞くとどうやら、このロドリゲスという組合長は昔のダッド達とパーティを組んでいたらしい。
「ロド、リッカが今日成人の儀でな、夜に祝いの宴会をすることになってる。お前も顔を出せ」
「そうか、おめでとうさん。俺も誘ってくれるのか?」
「たまにゃ良いだろ。仕事も早く終えろ」
「おう、ありがたく行かせてもらうぜ。で、今日は娘を登録しにきたのか?」
「リッカはハンターにはさせん。登録はこのアイリスとマーギン、それとこの子供らが見習い登録だ。子供らの後見人には俺達とロッカ達がなる」
「ほう、星の導きとダッドらが後見人か」
「あーーーっ」
びくっ
いきなり大声をあげる受付嬢。
「なんでいっ。いきなり大声だしやがってびっくりするだろうが」
「この人、雪の花の人ですね。どこかで見たことがあると思ってたんです。服装がまったく違うから気が付きませんでした」
「ほう…、あの依頼を達成した見習いか。ダッドの言ったアイリスとマーギンってのはお前か?」
さっきまでのひょうきんさが消えたロドリゲス。
「マーギンは俺だけど?」
「お前、どこの国の魔道士だ?いや、宮廷魔道士か」
「俺はしがない魔法書店をやってるだけだ。うちの魔法書は高いからこういう服を着ているとハッタリがきくだろ?」
「ハッタリねぇ…」
ロドリゲスはカウンター越しにグイッとマーギンの胸ぐらを掴んだ。
「お、おいロド」
「この紋章はどこの国のもんなんだろうなぁ?」
あ、しまった。ボタンにはアリストリアの紋章が入っている。うっかりしてたわ。
「魔法書店の紋章だよ。なかなかイケてるだろ?」
そういうと、ふんっと笑って手を離した。
「魔法書店の紋章か。よく出来てやがる。その紋章を作ったやつを紹介して欲しいもんだ」
「今度、機会があったらね」
「で、お前も登録するんだな?」
「身分証代わりにね」
「よっしゃ、組合長直々に登録してやるから名前を書け」
ということで全員登録をしたのであった。
「登録金はそのアイリス嬢の成人祝いで俺が払っておいてやる。リッカのは夜にでもなんか持っていくわ」
ということで無事登録完了。3スタンはラッキーと喜んでいた。
ーマーギン達が組合を出たあとー
「組合長、いいんですか?」
「何がだ?」
「内部登録をAにしてしまって。あのマーギンって人はなんの実績もない人ですよ。ロッカさん達でもBなのに」
表向きはハンターにランク分けはない。が、内部では実績別にランク分けを行っており、それに応じた依頼を渡しているのだ。これはダッドも知らない組合内の秘密事項である。
「ま、ダッドが見込んでんだ。問題ないだろう。活躍してもらわにゃならん日が遠くないうちにくるってことだ」
「ロッカさんたちからも話はありましたがやっぱり出ますかね」
「間違いなく出る。もう北方ではオーキャンが消えやがったからな。さて、鬼が出るか蛇が出るか… うちのハンター共で対応出来りゃいいがな」
「大丈夫ですよきっと」
「だと、いいな。俺はちょっと出掛けて、その後ダッドの所に行ってくるわ」
「え?ちょっと、組合長っ。まさかサボるつもりなんじゃ… 組合長っ」
ロドリゲスは受付嬢が叫んでいるにも関わらず、手をヒラヒラと振っていなくなってしまったのだった。
ーマーギンの家ー
「疲れたなぁ」
何にもしてないのにぐったりしているマーギン。アイリスも服を脱いで普段着に着替えてホッとしたようだ。
マーギンはアイリスの服と自分が着ていた服に洗浄魔法をかける。この手の服は洗うのが難しいのだ。
星の導き達も自分たちの家に戻って夜にリッカの食堂に来るとのこと。
ー衛兵本部ー
「ようっ」
「ロドリゲス、なんの用だ?」
ハンター組合の組合長の突然の訪問に不機嫌そうな表情を隠さない衛兵本部長。
「ご機嫌伺いって奴だ」
「嘘つけっ。そんな下らん事でわざわざ来るのかお前は」
「そうだ。わざわざ来てやったんだよ。感謝しろよ」
「で、本題はなんだ?お前が来るとろくな事がない。どうせ嫌な知らせだろ?」
「御名答!さすがは衛兵本部長様だ」
「茶化すな。本題を早く言え」
「今年、来るぞ」
「何がだ?」
「まだ分からん。が、下手すりゃ北部のどっかの領がなくなるぞ」
「魔物か?」
「あぁ、各地でオーキャンが姿を消している。特に北部だ」
「今年は特に寒いからじゃないのか?」
「その寒さの原因が魔物だったらどうする?」
「何っ?この寒さが魔物の影響だと?」
「まだ分からん。が、可能性があると俺は踏んでいる」
「何か情報を掴んでいるのか?」
「まだオーキャンが姿を消したって所までだ。が、去年の秋から魔物が増えている。ライオネルへの街道にオオカミが出たとの報告もある」
「街道にオオカミだと?」
「去年の秋頃から増えだした魔物、出るはずのない場所でのオオカミ、例年にない寒さに加えてオーキャンが姿を消した。俺はこれが全部繋がっていると見たね」
「で、ハンターで対応出来るのか?」
「無理かも知んねぇからここに来たんだろうが」
「ほら見ろ、お前が来るとろくでもない知らせだ。ハンターで対応出来ん魔物を衛兵がどうにか出来ると… ちっ」
途中まで言いかけて衛兵本部長は舌打ちをする。
「まさか、軍か騎士隊を動かせとか言い出すんじゃないだろうな?」
「それは国に属するお前らが考えるこった。ハンター組合は国や領を守る義務は負ってないからな。依頼主から依頼を受けて動く、それだけだ。その依頼も受けてくれる奴がいなけりゃどうすることも出来ん。ま、頑張ってくれや」
「貴様っ…」
「そこは貴重な情報ありがとうございましたって言う所だろ?ま、俺とお前の仲だ。礼も不要だ。じゃな」
ロドリゲスはそれだけを言い残して衛兵本部長に手をヒラヒラと振って部屋を出る。ま、不思議とこういう時にはなんとか出来る奴が現れるもんだけどなと、呟いたのは本部長に聞こえてはいないのであった。
くそっ…
衛兵本部長は偉いさんとはいえ庶民。軍または騎士団に嫌な話を持っていくのは気が重いのだ。
「しかし、ロドリゲスがわざわざ来たと言うことは本当に可能性が高いのだな…」
本部長は部下に少し出掛けて来ると言って貴族街に向かったのであった。
ーリッカの食堂ー
〈本日貸し切り〉
入口に貸し切りの札が掛けられている。
「来たぞー」
ドアを開けるとまだ誰もいないので大きな声をあげるマーギン。
「厨房に来てくれーっ」
中から大将の声がするので、アイリスと子供達をテーブルにつかせてマーギンは中へ。
「ほれ、運ぶのを手伝え」
大将が作った料理を女将さんがせっせと盛り付けている。
「リッカは?」
「あんた主役を働かせるつもりかい?」
「そりゃそうか。ガキ共にも手伝だわせるか?」
「デカい皿使ってんだ。ひっくり返すかもしんねぇからお前がやれ」
「へいへい」
大将が作って女将さんが盛り付けてマーギンが運ぶ。まるで婿養子のように使われるマーギン。
大方運び終わった所に星の導き達参上。お前ら仕事が終わるの外から見てたんじゃねーだろうな?
「何か手伝おうか?」
「もう終わったよ」
「マーギン、アイリスを着替えさせたの?」
「成人の儀は終わったからな」
「祝いの宴するならそれにも着るものよ」
え?
「どうせ持ってるんでしょ。早く着替えて着替えて」
もう、せっかく洗浄魔法掛けて畳んでおいたのに。
アイリスはシスコに連れられてリッカの部屋へ。そして着替えが終わって二人が参上した時にロドリゲス参上。
「おっ、いいねぇ。さ、おじさんがエスコートしてあげよう」
一番いいところを持っていく他人のロドリゲス。二人が主役席に座った所で乾杯だ。
「リッカ、アイリス、成人おめでとう」
星の導き達は二人にバッグをプレゼントしていた。お揃いではないがお出かけ用だ。おそらくチョイスはシスコだろうな。
「俺からはこれだ」
ロドリゲスが渡したのはお酒。高そうな蒸留酒だ。
「これの味がわかるようになるまではまだまだ掛かるだろうが、毎年ちょっと飲んで試してくれ」
ロドリゲス曰く、旨いと思った時が本当に大人になった時らしい。
そしてリッカはチラッとマーギンを見る。マーギンは後でこっそりプレゼントしようかと思っていたが、リッカがなんかソワソワしているから今渡そうか。
マーギンがすくっと立ってリッカの元へ。
「リッカ、おめでとう。俺からのプレゼントだ。手を出せ」
「えっ?」
マーギンはリッカが差し出した左手を手に取った。
ドキドキするリッカ。
そしてマーギンはリッカの手を取った後にスーッと手の甲に何かを描いていく。
「何してんの?」
「俺からのプレゼントって言ったろ?」
「え?指輪じゃないの?」
「何でお前に指輪をやらにゃならんのだ?」
そう言うと、さっきまで嬉しそうに顔を赤らめていたリッカは怒りで赤くなるのであった。
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