マジックドレインペンダント

「ちい兄様、準備はいいかな?」


「いつでも構わんぞ」


マーギンは開始の合図として石を上に投げる。落ちたら開始だ。


ぼとっ


石が地面に落ちた瞬間にバネッサが低い姿勢でダッシュ。オルターネンがそれに目をやった時にロッカもオルターネンが避けるであろう方向へススッと動く。シスコはバネッサで隠れるように矢を放った。


「くっ、速いっ」


オルターネンは剣を下段に構えてバネッサの攻撃に備える。


バネッサは片手に持った短剣で攻撃をする素振りを見せながら、パッと横に移動。オルターネンは剣で攻撃を受けようと動いた瞬間に矢が目の前に来ていた。


「うおっ」


間一髪その矢を剣で斬り上げて凌いだ時に横に飛んだバネッサからクナイが飛んでくる。


振り上げきった剣ではクナイを受けられないと思ったオルターネンは身体を転がせて回避。そこへロッカの剣が振り下ろされた。


ギィンッ


転がった体制から両手で剣を持ちロッカの攻撃を防ぐ。ロッカは深追いせずにその場をパッと離れた。


ストトトッ


そこに上部からシスコの矢が降り注いだ。シスコは上に向って複数の矢を放ち、初撃と時間差で落ちて来るように放ったのだった。


「はい、ちい兄様の負けーっ」


「くっ、ローズの言った通りだな。ハンターとはこれほど強いのか…」


「こいつらはかなりやるけど、他のハンターはどうだか知らないんだよ。ロッカ、お前ら王都のハンター組合の中でどれぐらい強いんだ?」


「どうだろうな?対人戦を直接やったことがないからよくわからん。が、魔物を狩る能力なら上位にいるのは確かだと思うぞ」


「まだ上がいるのか?」


「ハンターには色々なタイプがいるからな。パワーでゴリ押しするやつもいれば、罠を張って狩るやつもいる。一概に比べられるものではないのではなかろうか。ハンターが対人戦をする時は賊の討伐の時ぐらいだからな」


「賊の討伐はどのようにやる?」


「護衛任務で商人に付くことはあるが、ハンターがいればほとんどは襲撃してくることはない。賊のアジトが発見された時は組合から直接依頼をされた他のハンターと合同で討伐に向かう。大体は入念に準備をして周りを囲み、降伏を促すから戦闘になることは少ないのだ」


そうなのか。俺とミスティは賊を見つけたら突っ込んで行ってたけどな。まぁ、あれはミスティのパラライズで一網打尽に出来たからこそかもしれん。


「ならば今の対戦作戦はなんのためだ?明らかに対人戦の作戦だろう?」


「いや、大型で単独の魔物相手なら似た作戦をとる。複数の時はまた違うけれども」


「そうか、魔物を狩るというのも色々とあるのだな」


「今のはちい兄様に取ってあまりにも不利な戦いだったから負けた事は気にしないで。騎士同士の試合とは全く違うし」


「いや、俺は以前から疑問に思っていたのだ。騎士同士の訓練だけで足りるのかと。おそらく俺の部下が3人で今の試合をしても負けている。小隊長クラスが3人いてなんとか互角って所か」


「ちい兄様なら何度かやれば一人でも対応出来そうだけどね」


「実戦だと本番は一回しかないからな。今ので死んで終わりだ。戻ったら隊長と大隊長に訓練方法の進言をしておく。ロッカ達、とても参考になった、礼を言うぞ」


オルターネンに3人の実力を褒めて貰い、星の導き達は満足気だった。


「次は1対1でと言いたいところなのだが、お前、ヘラルドと約束をしていたのではなかったか?」


「あーっ、そうだった。早く戻んないと。家まで走るけどいい?」


「構わんぞ。皆も俺がいないと門が閉まって中に入れんだろうから一緒に走ることになるが…」


「私達は大丈夫だ。走るのには慣れている」


「じゃ、急ごう…」


このメンツだとアイリスだけ付いてこれなさそうだな。


「ほら、乗れ」


「はい」


なんの抵抗も無しに背中にのるアイリス。


皆は走って門に向かった。


門の横にある詰所にオルターネンが向かう。


「バアム家の者だ。通せ」


これだけで済むご貴族様の威光。流石である。



門を通った所で星の導き達と別れ、家に向かうとオルターネンも付いてくる。


「帰んなくていいの?」


「明日までに戻っていれば問題ない」


いや、そういう意味じゃないんだけどな…


そして家の前でヘラルドは怒りの湯気を立てていた。寒くなさそうで何よりだ。


「ごめん、遅くなって」


「構わん」


なんとか爆発を我慢したヘラルド。


家の中に入るとオルターネンも当然のごとく付いてきた。今さら帰れとも言えない。


暖房を入れて、アイリスにお茶を出してもらった。


「お前はなぜここにいる?」


「興味本位だ。こいつが関わったややこしそうな貴族絡みの案件は知っておく必要がある」


ヘラルドはちらっとこちらを見た。


「オルターネン様は信用しているから話を聞かれてもいいよ」


マーギンがそう言うとフンッと鼻を鳴らして話を始めた。


「あのお守りは魔道具ではないのか?」


んー、もう誤魔化すのは無理だろうな。


「そう。ヘラルドの話を聞いて、熱が下がらない子供の病気は魔力暴走じゃないかと思ったから渡した」


「いつから気付いておった?」


「なんとなくそうじゃないかなとは思ってた。お守りとして渡した時に確信したってところ」


「なぜ初めに話した時にその可能性を教えてくれなかったんじゃっ。間に合わなくて死んでてもおかしくなかったんじゃぞっ」


ここで爆発したヘラルド。


「ヘラルドは魔力暴走って病気は知ってた?」


「初耳じゃ」


「だろうね。俺がいた国も一部の貴族しか知らない病気なんだよ。早産、死産、赤ちゃんや子供が熱を出して死ぬのは様々な原因があるけど、そのうちの1つが魔力暴走なんだよ」


「魔力暴走とはなんじゃ?」


身体が多すぎる魔力に耐えられない病気。元々の魔力が多すぎると早産、死産に繋がる。これは助けてあげられない。赤ちゃんの場合は元々魔力が多く生まれたか、魔力の成長が早すぎるから。子供の場合は魔力の成長が早すぎるからだと思う」


「元々の魔力の多い少ないはわかるが、成長は人によってそんなに違うのか?」


「魔力は伸び方にタイプがあってね、一定の量が増えていくのが一般的なんだけど、掛け算的に増えていくタイプもいる。例えば普通の人の魔力が毎年10ずつ増えていく所を5、10、20とか増加量が増えていくんだよ。で、増えすぎた魔力が熱を出す原因になり、身体が耐えられなくなったら死ぬんだ」


「今まで原因不明の病気で死んでいった子供は…」


「全部じゃないとは思うけど、魔力暴走の可能性はあるね。魔力量の多さとか増え方は突然的な事もあるし、遺伝しやすいとも考えられている。これを見られる人はごく僅かだったから検証数が少なくて多分の話になるけどね」


「なぜお前はそんな事を知っているのだ?」


「俺に魔法の事を詳しく教えてくれた人が魔法と魔物、魔道具の回路の研究をしてたんだよ。その人に教えてもらった。あのペンダントもその人が作ったものだよ」


「そんな凄い奴がいたのか。今どこにいる?」


「どこにいるんだろうね?俺も知らないんだよ」


「マーギン、それはお前を…」


オルターネンはピンとくる。


「そう、俺を転移させた人」


「転移魔法じゃと?それは御伽話の魔法ではないのかっ」


「転移魔法は本当にあるよ。俺は転移したら転移酔いってのになるから嫌いだったけど。で、俺は他の国からそいつにこの国の近くに飛ばされて来たんだよ。だから帰り方も分からない。この事はオルターネン様にも話した内容だけど、秘密にしていてくれるとありがたい」


「医者は守秘義務があるが、そんな義務がなくても話さん」


「ありがとうね。だからあのペンダントを渡した貴族にも会いたくないし、礼もいらないんだ。俺はたまたま持っていたペンダントを渡しただけだ」


「お前の状況はわかった。しかし、死ぬかもしれないのにギリギリまで知らぬ顔をしたのはなぜじゃ?それに自分の事がバレたくなければ最後まで黙っておればいいものを、ワシにペンダントを渡したのはなぜじゃっ」


「葛藤があったんだよ」


「葛藤?」


「昔、俺が作ったペンダントで魔力暴走を起こしていた子を助けた事があるんだよ」


「それがなぜ葛藤に繋がる?」


「あのペンダントを作るのは難しくてね、数も作れない。だから全員を助けるのは無理だろ?でも眼の前の命を助けられるなら助けたいと思ったんだ」


「それは当たり前じゃろうが」


「俺に魔法の事を教えてくれた人には魔力暴走は病気の一種だから諦めろと。そして俺は魔力の多い人間であって神ではない。全員の命を救えると勘違いするなと言われてね、それでも眼の前で苦しむ子供をなんとかしたかったんだよ」


「それはお前が正しい」


「でもさ、それが原因でその子供の生命だけでなく、両親の命まで奪う結果になった」


「なんじゃと… 何があった?」


「そのペンダントを価値の高い宝石だと思った賊に皆殺しにされたんだよ。ペンダントを渡した一ヶ月後に様子を見に行ったら家が荒れててさ、で、理由を聞いたらそんな事になってたんだよ… 俺にペンダントを渡すなと言った人はこうなるかもと予測をしていたから止めたみたいなんだ。ペンダントを渡さずに魔力暴走で死ぬ子供は俺のせいじゃないけど、両親まで巻き込んで死んだのは俺のせいだってね…」


「お前のせいの訳があるかっ。悪いのは賊じゃろうがっ。そいつもはなからからそう教えればよかったのじゃっ」


「俺も初めから分かってたなら教えろよって怒鳴ったよ。でもさ、俺はその一件だけじゃなしに色々とやらかしてて、そいつの忠告をほとんど聞いてなかったんだよ。だから、忠告を聞かなかったらどのような結果を招くか自分で知れと言われて何も言い返せなかった。人の生命が奪われて初めてわかったんだ」


「それまでにも色々やったのか…」


「俺は14歳の時に突然魔法の才能が開花したっていうのかな。突然使えるようになったんだ。それまではこうだったらいいなとか妄想の世界に逃げ込んで何も努力をしてこなかった人間なんだよ。それがいきなり魔力値もめちゃくちゃ高くて、全適性があるのがわかったんだ。だから楽しくなっちゃって色々とやらかしたんだよね。遊び半分で森を燃やし尽くしたり、自分がいきなり強くなったもんだから、国に批判的な態度をとったりとかさ。俺に魔法を教えてくれた人が、俺はそのうち気に入らないという理由だけで魔法で人を殺すような奴になるって言われたよ」


「人は殺したのか?」


「いや、直接的に殺した事はないけど、間接的には殺した事があるかもしれない。賊とかを麻痺させてその場に放置したこともあるからね」


「賊は人じゃないから構わん」


「俺もそう思ってたけど、俺に人を裁く権利はないよ」


「まぁ、それはいい。しかし、ペンダントを渡した結果でその親子が死んだのはお前のせいではないと断言してやる。お前は悪くない。心に傷が残ったのは理解するが、断じてお前のせいではないっ」


ヘラルドの言葉に少しだけマーギンの心の重りが軽くなったような氣がしたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る