ちい兄様は所望する
親父さんはオルターネンから刀を渡されて、傾けたり、片目を瞑って集中して見ている。仕事になると貴族がいても大丈夫なんだな。
「マーギン」
「何?」
「これの使い方を見せてくれ」
「なら居合抜きでもしようか?」
「待てマーギン、俺がやってみよう」
「さっき見ただけなのに出来る?」
「どうだろうな?しかし、さっきのイメージはちゃんと残っている」
オルターネンが居合抜きをやってみるというので試してもらうことに。
「本来は藁とか竹でやるんだけど、丸太でやろうか。魔鉄なら問題ないと思うよ」
斬るのは丸太。ロッカは身体強化2倍で真っ二つにした。オルターネンはどうだろうか?
「よし、では行くぞ」
オルターネンの構えはマーギンとは少し違うが妙にしっくり来る。これは足の長さの違いだろうか?
「フンッ」
シュパっ
おぉ、一発で成功させやがった。剣の下地があるとはいえ、一回見ただけで自分のスタイルに取り入れてやってのけるとは凄いな。まるでマーベリックを見ているようだ。
少し間をおいてから斜めに斬られた丸太がごとんと落ちた。
「マーギン、こいつは気持ちがいいな」
オルターネンも満足そうだ。
「いや、本当にお見事。凄くいいものを見させてもらったよ」
「そうか?」
フフンと自慢気なオルターネン。
親父さんは斜めに切り落とされた丸太の切り口を見る。
「ロッカ、お前が昨日斬った丸太の切り口と見比べてみろ」
皆で丸太の切り口を見比べる。
「刀で斬った切り口は滑らかだな」
ロッカは見た感じそのままを言った。
「それより、刃が入り始めた部分を見ろ」
親父さんに言われないと気付かなかったが、ロッカのは初めに押しつぶしたような感じで刃が入った形跡があった。それに対してオルターネンのは刃先の入り始めからスッパリと斬れている。
「使い手の腕前の違いも当然あるが、やはりその反りが影響しているのだろう」
そして親父さんはうーむと唸りながらぶつぶつと言っていた。
「グッラマン殿、これと同じような物は作れそうか?」
ロッカの親父、グラマンは緊張してどもったグッラマンとしてオルターネンに認識されている。
「オルターネン様、正直すぐに出来るとはお約束が出来ません。が、作りあげてみせます」
「そうか、ならば来年になっても構わないので、もう少し短めの奴を頼みたい。料金は言い値で構わん」
「ん?脇差しでも作ってもらうの?」
「脇差しとはなんだ?」
「短めの予備の刀っていうのかな?それとセットで持ってたりするんだよ」
「いや、自分のではない。弟の刀を頼みたいのだ。もしかしたらロングソードかショートソードを希望するかもしれんが、今度の剣技会で自分とローズのを見たら欲しがると思うのだ」
「弟さんも騎士だっけ?」
「そうだ。バアム家の家宝という話にするのだから弟だけが無いというのもどうかと思ってな。それを思案していたのだ」
「なるほどね。で、功績を上げるかなんかして家から貰えたという事にするんだね」
「そうだ。ローズは今回昇格異動したからそれでもらった事にする。俺は今まで持ってはいたが使っていなかったという感じだな」
「上手く誤魔化せるとありがたいけどね」
「隊長クラスには大丈夫だろうが、大隊長にはバレるだろうな。後は問題にならないことを祈っとけ。俺にはもうここまでしかできん」
「いや、嘘つかせる事になって申し訳ない」
「そのうちこの刀がバアム家の家宝になるだろうから嘘にはならん。時代が少しズレるだけだ」
やっぱりローズの兄貴だな。初めは警戒していたけど気持ちの良い人だ。刀を渡した人がこんな人で良かった。
「えっと、ロッカだったな」
「はい、オルターネン様」
「星の導きパーティーと一度手合わせを願いたいのだが、どうだろうか?」
「えっ?」
「いや、ローズが自分では対処出来ないと言っていたのが気になってな。どれほどのものか知りたいのだ」
「しかし…」
ロッカは躊躇する。確かにやるとしてもここじゃ狭いのだ。
「ここじゃちょっと難しいかな。1対1で立ち合うくらいしか出来ないよね」
「そうか、ここでは広さが難しいか」
「そうだね、ちい兄様は頻繁にこれないだろうから、これからまた森に行く?」
「森でやるには時間が遅くて暗くなるぞ」
「明かりはなんとかするけど、門が閉まっちゃうよね」
「門か、それなら問題はない。開けさせる」
ソウデスカ…
ということで、親父さんとお母さんに挨拶をして森に向かうことになった。
「マーギンさん、寒いです」
道中でアイリスがブルブルと震えている。
「しょうがねぇなぁ。本当は成人の儀の祝にやろうと思ってたんだけど、今渡してやる」
「えっ?お祝いまでくれるんですか?」
「取り合えず上だけ着とけ。下はここでは着替えれんだろ」
「大丈夫ですよ。マーギンさんのコートを借ります」
アイリスは先に温熱回路入りのベストを着て上着を着直し、その上からマーギンのコートを着て、パンツ型の温熱回路をはいた。
「ね、問題なかったでしょ?」
「お前、成人したんだから見えないとはいえ、人前で着替えんな。ちい兄様が赤くなってんぞ」
「え?でも着替えてるかどうかもわからなかったですよね?」
こいつは…
「もういい。さ、行くぞ」
ブルッ 寒っ
「アイリス、コート返せ」
「えーっ」
「えー、じゃない。スイッチ入れたら暖かくなってきてんだろうが」
「これ着てるともっと暖かいですよ」
「俺が寒いんだよっ。それにお前が着て歩いたら裾をずるだろうが」
「えーっだったら、マーギンさんがこれを着ておんぶしてくれればいいじゃないですか」
「そんなに寒いなら走れ」
今のやり取りを見ているオルターネン。
「マーギン、お前、本当にこいつとなんにもないんだよな?」
「ありません。俺は保護者みたいなもんです」
「子供が親に甘えるようなものか?」
「そうかもしれませんね」
アイリスの境遇を考えたらそうかもしれないとマーギンも思う。一緒にいる時間が長くなってきて、アイリスも遠慮がなくなってきてんだろうな。まぁ、気を使ってくれとも思わないからいいけど。
「アイリス、ほらとっととコートを返せ」
「嫌でーす」
と言って走り出しやがった。
「ほらずってる、ずってるっ。服がダメになるだろうが」
こうしてマーギンはアイリスと軽い追いかけっこするような感じで門の外に出たのであった。
「はぁ、あっつ。はい、返します」
こいつ…
走って身体が温まったアイリスはもうこれは不要と返してきやがった。後から来たオルターネンはバネッサとシスコに絡まれて戸惑いながらこちらに付いてきて合流。森の広場に来た所で準備を開始した。
「ちい兄様、本気でやる?」
「俺が女を斬りつけるってのも何だから、防御のみでかまわんぞ」
「せっかくだから、ロッカ達にも強い人と本気でやらせてあげたいんだよね。だからちい兄様も本気でやってほしいな」
「真剣だぞ?危ないだろうが」
「そこは俺が魔法でなんとかする。斬れる事はないから安心してくれていい。剣にもダメージを与えたくないからソフトタイプにするよ」
「なんだソフトタイプって?」
「練習用の防御魔法。試しに丸太にかけるから斬ってみてよ」
と、丸太を用意してソフトプロテクションを掛ける。
「さ、斬ってみて」
「フンッ」
ゴンっ
丸太は斬れずに吹き飛ぶ。
「斬れはしないけど、こうして吹き飛ばされるぐらいのダメージは残る。怪我まではしないと思うからやってみて」
「凄いなその魔法は。剣技会でも使えたらもっと本気でやれそうだ」
「ちなみにこの魔法を使える奴は俺以外にいないから秘密ね」
「そうだろうな。斬ったような手応えがあったかと思ったら斬れてないとか信じられん」
「刃先も守れるから練習用の魔法なんだよ。やられた方は本当に斬られたと思うから実戦訓練並に使える」
「マーギン、私も試していいか?」
ロッカも試したいといったので丸太を斬らせる。
「はっ」
ドゴッ
真上から斬りつけたロッカ。しかし、ソフトプロテクションで防御され、丸太も地面にグッと押し付けられぐらいだ。
「うむ、これなら遠慮なく出来るな」
「うちはオルターネン様に攻撃なんてできなーい」
バネッサが妙なぶりっ子をしてクネクネする。
「バネッサ、ならお前ははずれろ。代わりに俺が入る。お前は仲間外れだ」
「なんでそんなイジワル言うんだよっ。イケズかてめぇはっ」
「お前がクネクネして、できなーいとかふざけるからだろ?」
「冗談じゃねーかよっ。うちにもアイリスみたいに優しくしやがれっ」
はたから見たら俺はアイリスを甘やかしているように見えるのだろうか?
「うるさい。それより、ちい兄様はお前の強さを見せた方が興味を持ってくれると思うぞ」
「本当かっ?」
「普通は貴族様が庶民の女に興味を持つ事はない。しかし、ちい兄様は騎士だ。強さを見せれば興味を持ってくれるかもな」
「よーし、なら本気でやってやんぜ」
ちょろい。
しかし、バネッサの身体能力を見ればオルターネンが興味を持つのは確かだ。ただし、生き物としてだがな。
マーギンは心の中で呟く。
今の話を聞いていたシスコもやる気が出たようだ。まぁ、シスコなら結婚相手として見てくれる可能性は無きにしもあらずってとこか。ロッカは単純に強い相手とやれるのを楽しみにしているようだが。
「ロッカ、作戦は任せるから好きにやってくれ。その代わりノーマル状態でな」
「無論そのつもりだ」
「シスコも魔法は使うな。付け焼き刃じゃ自分たちの攻撃も阻害する恐れがある」
プロテクションは相手の攻撃を防ぐが、こちらの攻撃も通さない。アニメや漫画のように相手の攻撃は防ぐが、こちらの攻撃は通すというようなご都合主義ではないのだ。
バネッサがロッカに色々と話をして作戦が決まったようだ。
「もう暗くなりだしてるから明るくするよ。目が慣れたら開始だ」
マーギンは明かりの魔法をたくさん出して、ナイター設備のように広場を照らしたのだった。
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