星の導き達の過去
「おっ、お待たせイタスマスタ」
大将、どこの方言だそれ?
ローズに緊張する大将自ら料理と酒を持ってきた。
「店主殿自ら給仕してくれるとは申し訳ない」
「ソダナコトイッテモラッテきょうすくダス」
大将って、強面なのに権威に弱かったんだな…
ガチガチに緊張したまますぐに厨房へ引っ込んでしまった大将。
「面白い御人だな」
「俺も笑わせてもらったよ」
ロッカ達もクスクスと笑っている。
「マーギン、年明けから顔も見せずに何してたのよ?」
「年末に酒無くなってただろ?それに昨日まで休みだったじゃないかよ。こっちはアイリスの特訓をしてたんだ」
「ふーん」
興味がないなら聞くなよ。
「ロッカさん達も特訓してたの?随分とお疲れみたいだけど」
「そうだ。新年だし新しい事に挑戦しようと思ってな。そうだ、リッカちゃん今年成人の儀だったよな。何かお祝いしようか?」
「そんなのいいですよー」
リッカよ、その棒読みセリフはなんだ?
「儀式用の服はあるだろうし、アクセサリーとか準備してあるか?」
儀式用の服?そんな物が必要なのか?
「服だけでいいかなぁって。どうせ私には似合わないし」
そう言ってチラッとマーギンを見るリッカ。
「ロッカ、成人の儀に着る服ってなんだ?」
「そんな事も知らないのか?男はまぁちょっと余所行きの服を着るぐらいだが、女は着飾るんだ。その服を嫁入りの時に加工して着るってのが多いな」
ゲッ、そんなのまったく知らなかったぞ。
「アイリス、お前はその服を持ってる…わけないよな」
「私は荷物を盗られた時に着ていた服があるので大丈夫ですよ」
「確かにあれも悪くはないけど、嫁入りに加工出来るような服なのか?」
「それは無理かもしれませんねぇ。でもいいんですよ」
「ならよー、うちが成人の儀に着た服をやろうか?」
「えっ?嫁入りの時に加工するんですよね」
バネッサが自分の服をアイリスにあげようかと言ってきた。
「どうせもう入んねーからいいんだよ」
バネッサは小柄で華奢だ。出る所は出ているが。
「入らないんですか?太ったわけじゃないですよね?」
「ここだよ、ここ。アイリスならピッタリじゃねーか?」
バネッサは自分の胸を親指でトントンとした。
「あんたのボロなんか着るわけないじゃない」
シスコは酷い言い方をする。
「ボロって言うなっ。お前と違ってこっちは自分で必死に金を貯めて買ったんだからなっ」
「ん?バネッサは親がいないのか?」
「いねーこたぁねーけどよ、あんなのクズだよクズ。飲んだくれて仕事もしねークズだ」
「そうね、娘に服ひとつ用意してやらないようなクズ親父」
「なんだとーーっ」
「自分で言ったんじゃない。それに今はどこにいるのかわからないんでしょ?」
「うるせーっ。その通りだけどよ、人に言われちゃ腹が立つんだよっ」
「シスコとバネッサは昔から知り合いなのか?」
「いいえ、成人の儀の時にきったない貧相な娘がいるなと思っただけよ」
「なんだとテメーっ」
「二人ともやめろ。シスコも身内だからといって失礼が過ぎるぞ」
「だって本当の事だもの」
「シスコ、いい度胸だ。明日もべしべし当ててやるからな」
「私は最初から弓を使うわよ。せいぜい死なないことね」
「なんだとテメーっ」
「二人ともやめろっ」
口喧嘩を始めた二人をロッカが叱る。
「みなすまないな、こいつらは昔からすぐに喧嘩するんだ」
「それでよく一緒に住んでるな?」
「まぁ、それはに訳があってな。寝室は別だからそれなりに上手くいっている」
「そこにアイリスが増えたら部屋足りるのか」
「倉庫代わりの部屋がもうひとつある。今はバネッサのガラクタでいっぱいだけど片付けさせる」
「片付けるというより、全部ゴミなんだから捨てればいいのよ」
「ゴミじゃねーっ いつか使えるかもしんねーだろっ」
「壊れた魔道具とか、訳のわからないものだらけじゃない。あんなのゴミよ、ゴミ」
バネッサは捨てられない人だったか。
「バネッサが貧乏人だったのは理解した。もしかしてシスコはいい所のお嬢さんなのか?」
貧乏人ってはっきり言うなよなとバネッサはぶつぶつと言っていた。
「シスコは大きな商会の娘だ」
「ならなんでハンターしてんだよ?」
「だって家に居たら面倒じゃない。従業員は変に媚びてくるし、出世しようと必死な人は私のことを好きでもないのに口説いてくるし。商会は弟が継ぐから私がいなくても問題ないのよ。それにハンターなら私に遠慮する人はいないもの」
と言ってバネッサをチラッと見た。
なるほどね、喧嘩はするけど居心地は悪くないってわけか。
ーバネッサとシスコが参加した成人の儀ー
随分と汚い娘もいたものね。
シスコはバネッサを見てそう思った。
ケッ、金持ち風を吹かせた嫌味な女が居たもんだ。
バネッサはシスコを見てそう思った。
そして、二人はハンター組合で再会する。
「よう、今日から見習い卒業だぜ」
「そうか、バネッサもようやく成人したか。そのわりには…」
受付の男はバネッサの胸を見た。
「なんだよ?」
「いや、成人したとはいえ、まだ子供だなと思っただけだ。ほら、見習い卒業して本物のハンター資格だ。頑張って稼げよ」
「任せとけっ」
12歳で見習いハンターになったバネッサが組合の人達と受付で話していると、
「新規登録お願いします」
「あーーーっ てめーーっ!!」
「何よ、うるさいわね… あら、汚い娘じゃない」
「きっ、汚いってなんたよっ。服はちゃんと洗ってるわっ。それより、お前金持ちなんだろうがっ。そんなお嬢様がハンターに登録すんのかよっ」
「あら?誰がなってもいいのがハンターよ。あなた知らないの?」
「ばっ、ばっ、バッキャローっ!うちは12歳から見習いやってきたんだ。知らねーわけねぇだろうが」
「あなた見た目も汚いけど、口も汚いのね。それより登録料は1万Gだったわよね、はい登録料」
「てっ、てっ、てめーっ!」
「なんだ喧嘩か?」
そこへやってきたのはロッカ。二人より2つ歳上だ。
「あ、ロッカ。聞いてくれよ、こいつナマイキなんだよっ。今登録したばかりのド新人の癖に」
「お前もやっと見習い卒業だろうが。ハンターとして新人じゃないか」
「うちがもう3年も見習いやってきたの知ってるだろうが。見習い期間を入れたらロッカより経験者だっ」
「あっはっは、そうだったな。じゃ、ようこそハンターの世界へ、先輩」
「ぐぬぬぬぬっ」
すでにハンターとして活躍していたロッカはバネッサをからかった。
「で、お前は今日登録か?」
「はい、シスコといいます。宜しくお願いします」
「う、うちに対する態度と全然違うじゃねーかよっ」
「当然でしょ」
そう言ってフンッと横を向くシスコ。
「もうあいつはほっといてよ、ロッカはうちが成人したらパーティーに入れてくれるのを考えるって言ってたよな?」
「すまん、それは無理になった」
「はぁぁぁぁっ?うちを騙したのかよっ」
「あんたを仲間にしたら汚れるからじゃない?」
横からいらぬ口を挟むシスコ。
「うるせえっ、外野は黙ってろ。ロッカ、どういうことなんだよ?本当にうちを騙したのかっ」
「違う、私は今のパーティーを抜けたんだ」
「えっ?」
「まぁ、男の中に女一人のパーティーは色々とあってな」
「てことは今は一人かよ?」
「そうなるな」
「じゃ、うちと組もうぜ。これから魔物討伐してバンバン稼ぐんだからよっ」
「しかし、なぁ…」
ちょっと渋るロッカ。
「うっ、うちが不満なのかよ…」
「いや、そうではなく、今の私と組むと稼がせてやれん。安定したパーティーじゃないと稼げないのはお前も分かるだろ?」
「そ、そりゃそうかもしんないけどさぁ、うちが一人だと、見習いと変わんねぇ仕事しか受けられないじゃんかよ…」
「あら、威勢が良かったわりに情けないことを言うのね。私は一人でも稼いでみせるわよ」
「はっ?お前ハンター舐めてんのかっ。稼げるのは討伐系の依頼なんだぞっ。お前は魔物を殺せんのかよっ」
「私は小さな頃から弓が得意なのよ。離れた場所からでも倒せるに決まってるじゃない。あなたは丸腰みたいだけど、もしかして石でも投げて倒すのかしら?それはそれで凄いわね」
「てっ、てっ、てめーーーっ」
「バネッサ、やめろ。で、お前シスコだっけ?弓が使えるとは本当か?」
「えぇ、お父様と狩りに行ったりしてましたから」
「ならこの3人でパーティー組んでみるか?バネッサの武器は親父に頼んでやる。シスコは自分の弓を持ってるのか?」
「ありますよ」
「うちに武器くれんのかよ?」
「親父がお前を気に入ったらな。ま、多分大丈夫だろう。支払いの代わりにしばらくうちに寝泊まりして親父の仕事を手伝え」
「それだけでいいのか?」
「そうでもしないと武器買う金なんてないだろ?」
「そ、そりゃあな…」
「で、お前はどうする?パーティーを組むか?」
「ロッカさんみたいな人と組ませてもらえるのは嬉しいんですけど、そのゴミみたいな娘と一緒というのが…」
「てんめぇぇーっ」
ゴミと言われてバネッサがキレてシスコに殴りかかる。シスコも応戦し、組合の事務所で取っ組み合いの喧嘩となり、組合の副組合長からこっぴどく怒られたのであった。
「ロッカ、パーティーを組むかどうかはお前に任せるが、しばらくコイツらの面倒を見てやれ。その方がマッスルパワーの奴らも手だししにくいだろ」
マッスルパワーとはロッカが組んでいたパーティー名である。
「まぁそうかもしれん。シスコ、お前は家に帰るのか?」
「帰りたくないわ、あんな家」
「だったらお前もうちに来て仕事を手伝え」
そして、二人は1年ほどロッカの家で手伝いをして、今の家を借りたのであった。
ーリッカの食堂ー
「まぁ、私達がパーティーを組んだのはこんな経緯だ」
「ロッカ、お前苦労してきたんだな」
「そう理解してくれると助かる。もし良ければアイリスがうちに来るのと交換にバネッサをやろうか?マーギンも一人じゃ寂しいだろ?」
「なっ、ロッカ何言ってやがんだっ こんなうちの胸をこっそり楽しむようなスケベ野郎と暮らしたら子供が出来ちまうかもしんねぇだろうがっ」
グシャッ バリンッ
会話を聞いていたリッカがグラスを握り潰した。こいつ、身体強化を自然と使っているんじゃないだろうな?
マーギンは似てはいないけど、やっぱり大将と女将さんの子供なんだなと思ったのであった。
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