合同訓練

ー1月3日ー


朝ご飯を食べて星の導き達と待ち合わせている門へ向う。


「寒いですっ めちゃくちゃ寒いですっ」


アイリスの言う通りめちゃくちゃ寒い。やはり危惧していた大寒波が来るのだろう。貧民街の連中で死ぬ奴が出てくるのではなかろうか?


アイリスにさっさと歩けと言うマーギンの足取りも重い。こんな日はコタツでぬくぬくとしていたいのだ。


ガコガコガコガコ


ん?バアム家の馬車か?


前に見た馬車がこちらにやってくる。


近くまで来るとドアがバンッと開いてローズが飛び出してきた。


「マーギンっ」


ガバッ むぎゅーーーっ


いきなりローズに熱い抱擁を受けるマーギン。なぜこうされているのか意味がわからないが取り敢えず同じくぎゅうと抱きしめ返す。役得役得♪


「フェアリーローズお嬢様、公然ではしたない真似はお止めください」


後から出てきたメイドのアデルに怒られるローズ。


「すっ、すまない。つい嬉しくてお礼を一刻も早く知らせたかったものでな」


顔を赤くしながらもとても嬉しそうなローズ。


「何があったんだ?」


「聞いてくれっ。昇進した上に今度の剣技会に出られる事になったのだ。これもすべてマーギンのお陰だっ」


「俺の?」


ローズの話によると、温熱服のお陰で皆が震える中、それに平然と耐えて騎士らしく振る舞えていた事が大隊長の目に止まり、昇進を言い渡されたとのこと。


「そりゃおめでとう。でも、それだけで昇進したんじゃないと思うよ。きっと今までの頑張りをちゃんと見ててくれたんだよ」


「そっ、そうか。私の努力が認められたということか。しかし、あの温熱服のお陰なのも間違いないっ」


「そんな大げさな。でも役に立って喜んでくれたようで何よりだよ。アデルさんも一日で作ってくれるとは思わなかった。無理させたみたいでごめんね」


「いえ、フェアリーローズお嬢様の事は私も心配しておりましたので。マーギン様のお心使いを早く届けねばと思った次第でございます。あとこちらはお弟子様の分でございます。どうぞお納め下さいませ」


「アイリスの分ももう作ってくれたの?ありがとうね」


「いえいえ、礼には及びません。あの報酬からすれば安い物でございます」


簡単なものとはいえ、ローズとアイリスの分をすぐに仕上げてくれたアデルには感謝だ。


「あと、申し訳ないのですが、その温熱服の事をオルターネンぼっちゃまにも知られてしまいました。つきましては5日にお伺いさせて頂きたく伝言を賜りました」


「ちい兄様がここにくるの?」


「はい、温熱服の回路の作成依頼と、他にも用件があるようでございます」


刀の件かな?


「了解です。これぐらいの時間で待ってればいいかな?」


「はい、そのようにお伝え致します」


ちい兄様用の温熱回路を作って渡せば、生地はバアム家で用意するらしいので問題はない。あの回路はとてもシンプルなのですぐに出来る。


「では、5日にお待ちしておりますとお伝え下さい」


「かしこまりました」


「マーギン、また訓練に向うのか?」


ローズはこれから出掛ける様子だったマーギンに尋ねる。


「そう。今日は他のメンバーも交えて訓練するんだよ」


と言っている時におーーいとバネッサが走ってきた。


「昨日は悪かったな。もうすっかり元気だぜ」


「悪かったというのはケツ丸出しの事か?」


「ちっ、違うわっ」


バネッサが真っ赤になって怒る。


「と、すまない私は邪魔だったな」


今日は自分が部外者であることを悟るローズ。


「あぁ、ごめん。わざわざ知らせに来てくれてありがとう」


「ん?誰だ?」


見知らぬ女性がマーギンといた事を不思議に思うバネッサ。


「この人はローズ。お客さんで王国騎士団の人だよ」


「騎士っ?」


「騎士とはいえ、まだ下っ端の身分だから気にしないでくれ」


「お貴族様かよ…」


バネッサが貴族と聞いて怯んだ時にロッカとシスコもやってきたのでローズを紹介しておく。


「そうか、アイリスがこの者達と組むのか」


「その予定。で、今日は合同訓練ってところだね」


「魔法を使った訓練か?」


「そのつもりだよ」


「もし、可能であれば見学をさせてもらえないだろうか?何か剣技会の参考になるかもしれん」


今日はプロテクションとか使うけど、ローズならいいか。


「ロッカ、構わないか?」


「マーギンが問題ないと言うなら私達は問題ない。その人を信用してるのだろ?」


「そうだね」


「それはありがたい。皆の邪魔をせぬよう見学させてもらう」


ローズはアデルに先に戻っておいてくれと伝え、一緒に来ることになった。




ーいつもの森ー


「じゃ、プロテクションを実演するから、好きに攻撃してきてくれ」


いきなりマーギンが自分を攻撃しろと言ってくる。


「マーギン、お前は強いのかもしれないが流石に丸腰相手に攻撃するのは…」


ロッカは戸惑う。


「俺に攻撃が当てられるものなら好きにしてくれ。一人一人じゃなく、全員で連携して攻撃してくれていいぞ」


「マーギン、本当に遠慮なく弓を射っていいのかしら?この距離で外すほど下手じゃないわよ」


「シスコはそれより矢がダメになることを心配した方がいいぞ」


「マーギン、あんま舐めんなよ。うちのショートソードはめちゃくちゃ速いぇんだぞ」


「刃こぼれしたら研いでやるよ」


星の導きのそれぞれがマーギンの言い方にカチンときて本気でやる気になったようだ。



マーギンと離れて対峙する星の導き達。まずバネッサがスピードを活かして突っ込んでくる。それをシスコの矢が援護した。


おー、良い連携だな。これやられたら大抵の奴は対処が難しいだろうな。


マーギンは大きめのプロテクションを全面に出せばすべて簡単に防げるのだが、シスコに教えるには最小限のプロテクションをピンポイントで出す所を見せねばならない。


突っ込んできたバネッサをひょいと交わしつつ、飛んで来た矢もひょいひょいと交わす。


「甘いっ」


マーギンがすすっと移動して躱した所にロッカの剣が振り下ろされた。


本当に良い連携だな。これなら安心してアイリスを任せられる。


「プロテクションっ」


キィン


ロッカの振り下ろそうとした剣は光の盾のような物に弾かれる。次は這いつくばるぐらいの低さからヒュンヒュンっとバネッサが斬り上げてきた。


キィン キィン


そして時間差で頭上からシスコの放った矢が降り注ぐ。それも傘のように上部に張られたプロテクションが全て弾いた。


「なっ、何だ今のは…」


ローズはマーギンの使用した魔法に目を疑う。そして、星の導き達の戦い方を自分がされたら対処出来ないと確信する。


「まだまだーーっ」


バネッサはなんど剣を弾かれても諦めない。四方八方に飛び跳ねて、予測出来ない方向からマーギンを攻撃する。


キィンッ キィンッ キィンッ


「くそっ。こうなりゃマジの技を見せてやる」


バネッサは下から攻撃をすると見せかけて目の前から消えるように飛び上がり、回転しながら左右の攻撃を仕掛けた。


ビタンッ


「キュウッ」


バネッサは勢いを付けた攻撃で身体ごとプロテクションにぶつかり気絶した。


「おい、大丈夫かよ」


顔をプロテクションにぶつけたようで、鼻の頭が真っ赤になっているが問題はなさそうだ。このまま寝かせておこう。


マーギンは毛布を下に敷き、自分の着ているコートを脱いでバネッサに掛けておいた。


「シスコ、今のでわかったか?これがプロテクションって魔法だ。全面に出したり自分達を包んだりするのは難しくないが大量の魔力を使う。魔力をセーブしながら使うには今のようにピンポイントで瞬間的に使用する訓練が必要だ。どうする?これにするか?」


「使いこなせれば凄いわね。私に出来るかしら?それより、弓の威力を上げる魔法とかあればそちらの方がいいかもしれないわね」


「弓の威力の事は心配すんな。魔法でなくても何とかなる」


「え?」


「お前にこれをやるよ」


マーギンは見たことがない変わった弓を出してきた。


「これは何かしら?」


「コンパウンドボウって奴だ」


マーギンは使い方を説明する。


「今使っている弓と扱い方が違うから慣れが必要だけどな、試しに使ってみろ」


シスコはマーギンの言われた通りにコンパウンドボウの弦を引く。


「こんなに軽くて威力が出るのかしら?それにここまで引くと力がほとんど必要ないわ」


「狙いを付けて、リリーサーのトリガーを切れ」


パシュ


「えっ?」


「な、威力十分だろ?それお前にやるよ。矢も追加で用意しておいてやる。プロテクションの魔法はどうする?」


「それも頂くわ」


シスコはしたたかな上に潔いぐらい遠慮がない。


シスコの手にプロテクションの魔法陣を描いていく。


「詠唱はプロテクションだけで大丈夫だ。使い慣れたら詠唱も必要なくなる。初めは好きに出してみてくれ。バネッサが起きたらゆっくりと石ころとか投げて貰って練習しろ」


「分かったわ」



で、次はロッカだな。


「次はお前な」


「マーギン、お前相当強いな」


「まぁ、俺は無敵だ」


と冗談めかして言うマーギン。でも笑ってくれずに悔しそうにするロッカ。


「そんな顔すんなよ。今からもっと強くしてやるから」


「私は何をすればいいのだ?」


マーギンは背丈ほどの丸太を持ってくる。


「よいしょっと。これを斬りつけてくれ」


「流石にそれを一刀両断にするのは無理だぞ」


「お前の剣筋なら出来るようになるさ。じゃ、ノーマル状態でやってみろ」


ロッカは言われた通りにフンッと斬りつける。が、剣は丸太に食い込み1/3程の所で止まった。丸太を倒して踏みつけながら剣を抜くロッカ。


「な、無理だろ?」


「じゃ、今から10%ほど威力を上げてやるからもう一度やるぞ。丸太を立てろ」


マーギンは少しだけバフを掛ける。


「フンッ おっ…」


「今ので10%アップだ。次は20%アップするから気を付けろよ」


そして50%アップした所で丸太を一刀両断にした。


「流石だな、今のは俺の魔法でお前の力を上げたが、これを自分の魔力で出来るようにするのが身体強化魔法だ。どうする?水のオプション代を払ってこれにするか?」


「代金は分割でもいいか?」


「いいよ」


ということでロッカには身体強化魔法を付与した。


シスコはコンパウンドボウをいたく気に入ったらしく、ひたすら木に向かって射っている。


さて、アイリスの特訓も… こいつ…


アイリスは気絶しているバネッサとマーギンのコートをコタツ代わりにしてぬくぬくとしていたのであった。

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