注意を聞かないバネッサ

「で、なんの魔法がいいんだ?」


魔法書を強請られたマーギンは星の導き達に魔法書を選ばせていた。



「私はアイリスと同じように温度調節が出来るようにようにしてほしい」


「氷と炭酸は?」


「それも追加してもいいのか?」


「手間は同じだからな」


「では全部で頼む」


「シスコは?」


「んー、私はもうちょっと考えさせて」


棚に並べてある魔法書を見て返事をする。


「バネッサは?」


「え?うちにもくれんの?」


「ついでだからな。パンツがずり落ちない魔法とかにするか?」


「ずっ、ずり落ちたことなんてねーしっ」


まだ考えているみたいだからロッカの魔法陣を書き換えて、温度別のお湯で調整具合をインプットしてやる。


「ねぇ、マーギン」


まだ決めかねているシスコ。


「前に来てた人に鑑定ってのをしてたわよね?」


「そうだったな」


「私も見てくれない?」


「それだけでいいのか?」


「それだと口が滑るかも…」


したたかなシスコ。


「しょうがねぇな。ほら、この玉に手を置け」


シスコの手を取ると、意外と指先が硬い。


「何よ?」


「いや、別に。えーっと…」


げっ、こいつは光属性がCだと?それと風属性がB。しかし腕力がDか。


「シスコって弓使いだっけ?」


「そうよ」


「コントロールは良いけど、パワー無いだろ?」


「そんなの分かるの?」


「あぁ。普通は見えても教えないんだけどな」


「結構遠くまでは飛ばせるんだけど、威力はないのよね」


「だろうな」


「で、何の魔法書がいいかしら?」


「お前、秘密は守れるか?」


「え?」


「だから秘密は守れるかって聞いてんだよ」


「私は口は硬い方よ」


「シスコ、特別な魔法書をやる事も出来るが条件がある」


「何かしら?」


「一つは絶対に秘密を守ること、もう一つはアイリスをパーティーに加えてやってくれないか?ド新人が足でまといなのは理解している。そしてお前らが力のあるパーティーだということも理解している。お前らの役に立てるように俺が鍛えておくから」


「えっ?それは私の一存じゃ…」


「いいよ。アイリスは私達のパーティーに入りたいか?」


「えっえっ?」


「こっちの受け入れは了承だ。バネッサもシスコもいいよな?」


「いいわよ」


「いいぜ」


「だってよ、アイリスどうする?星の導きなら女のお前も安心だ。それに3人ともまともなハンターだと俺は思う」


「なんだよまともなハンターってよ」


「ハンターって誰でもなれるんだからろくでもない奴とか結構いるだろ?」


「まぁな」


「ということだ。後はお前が決めろ」


「えっえっ、あの… 宜しくお願いします」


「おうっ、宜しくな」


改めてお互い挨拶をしてアイリスは星の導きのメンバーとして加わることになった。


「シスコ、お前は覚悟があるか?」


「なんの?」


「お前は光属性の適正がある。これは非常に珍しい適正でな。俺が使えるようにする魔法は激レアなんだ」


「どんな魔法?」


「プロテクション」


「なにそれ?」


「防御魔法だ。仲間を守る力というやつだな」


「えっ?」


「星の導きには盾役がいない。アイリスも盾役は無理だ。そのうちもっと強い魔物が王都近辺に出始めるんじゃないかと俺は思っている。そうなりゃ盾役が居た方がいい」


「私が皆の盾役をするって訳?」


「通常の盾役は大盾とかで魔法使いや治癒士などの後方担当の守りを担う。もしくは真っ先に魔物の前に飛び込んで先制攻撃をガードするのが役割だ。これには体力と体格に恵まれてないと無理だ。イメージとしてはダッドだな」


「じゃあ私は無理ね」


「それを魔法で可能にする。が、シスコの魔力値は人並み。ピンポイントでプロテクションを使わないとすぐに魔力が切れる」


「えー、想像が付かないわ」


「そうだな。プロテクションは見たことがない奴の方が多いからな。明日予定が空いてるなら実演してやる」


「マーギンはその激レア魔法を使えるってわけ?」


「使えないと付与出来んだろうが」


「付与?」


「そこは気にするな。ならシスコの魔法は持ち越しだな。バネッサはどうする?」


「うちも見てくれよ」


ということで鑑定。


「ん?」


「な、な、な、なんか変なもんが見えてんのかよっ」


「お前、小さくて可愛い手してんのな」


「なっ なっ なっ 何言ってやがるっ」


「照れんな馬鹿。お前を可愛いと言ったんじゃない。小さくて可愛い手だと言ったまでだ。勘違いすんな、自意識過剰かお前は」


いらぬ言い方をするマーギンに真っ赤になって怒るバネッサ。


「てんめぇーーっ」


「えーっと、お前は魔法の適正がバランスよくあるが、どれも並だな」


「並とか言うなっ」


「敏捷性はかなり高くて、体力と腕力はいまいち。持久力はそこそこって所だ」


「で、何がオススメなんだよ?」


「暗視魔法(ナイトスコープ)だな」


「何だそりゃ?」


「暗闇でも昼間のように見える魔法だ。夜にしか咲かない花とか、暗い所に隠された罠とか見やすくなるぞ。それに灯りを点けていたら魔物が寄ってきたりするからな。灯りなしで見えるというのは斥候のお前にピッタリだと俺は思う」


「そんな魔法売ってるのかよ?」


「非売品だ。これは暗殺者や盗賊向けの魔法だからな」


「なるほど… じゃ、うちはそれにする」


ということでバネッサの手に直接魔法陣を描いていく。


マーギンにずっと手を握られてなんか恥ずかしいバネッサは手汗をかいていく。


「緊張すんな。もう終わるから」


「きっ、緊張なんかしてねーし」


「嘘付け、手がびしゃびしゃになってきてんじゃねーかよ」 


そしてマーギンが魔法陣を描き終わった瞬間にズボンで手のひらをゴシゴシと拭いたのであった。


「むぅ…」


難しい顔をするロッカ。


「なんだ?」


「私のだけ金を出したら買える魔法というのが…」


「なら、水を出す魔法のオプション代を払え。お前向きの非売品の魔法書を代わりにやる」


「オプションはいくらだ?」


「温度調整、氷、炭酸。それぞれ100万だから300万だ。セット価格で200万にまけてやる」


「200か… 流石に手待ちでは…」


「なら借金ということにしておいてやるぞ。別に利子までとらないけどな」


「代わりにくれる魔法書はなんだ?」


「身体強化。バフって魔法だ」


「身体強化?」


「多分説明してもよくわからんだろうから

、明日体感させてやるよ。朝飯食ったら門前に集合でいいか?」


「分かった。では明日また会おう」


ここでお開きとなり、今日は酒が入っているので魔法の注意点とかの詳しい話は明日にするから今日は使うなということにして星の導き達は帰って行った。



帰り道にバネッサはまだ使うなと言われていた暗視視魔法をさっそく使う。


「すっげぇーーーっ 昼間みたいに見えんぜっ」


「まだ使うなって言われてたでしょ?でもそんなに違うの?」


「まるで昼間みたいだ。こりゃいい魔法だ。先に帰っててくれ、あちこち見て回ってくるぜ」


バネッサはすっげぇ すっげぇと言いながら一人で街中に走っていき、暗視魔法を解除しないまま使い続けた。


「あ、あれ… なんか力が入んねぇ…」


ドサッ


「キャァァっ バネッサ、バネッサ。ロッカ、マーギンを呼んで来てっ」


やっと帰ってきたバネッサは家の中で倒れた。ロッカは慌ててマーギンの所へ。


「マーギンっ マーギンっ バネッサがバネッサがっ」


もう寝かけていたマーギンは寝入りっぱなを起こされて機嫌が悪い。


「なんだよーっ、明日朝飯食ったらって約束だろ?」


「バネッサが倒れたんだっ」


「もしかして帰りに暗視魔法を使ってたのか?」


「そうだ。凄い凄いとはしゃいでいて、一人であちこちうろちょろしてきやがったんだよ。で、家に帰って来たら倒れたんだ」


「なら、魔力切れだ。そのまま寝かしてりゃ回復する。お休み」


マーギンはまた寝に帰ろうとするところを無理矢理ロッカに連れていかれたのだった。



「もっと片付けた方がいいぞ」


女だけで暮らしているとこんなにぐちゃぐちゃになるのか?服とか脱ぎっぱじゃねーかよ。下着とか干してやがるし…


「それよりバネッサをちゃんと見てくれっ」


「見るまでもないっていったろ?魔力切れだよ。単に魔力を使いすぎて気を失っただけだ。普通こうなる前に疲れて魔法が使えなくなるもんだ。まったく、子供かこいつは」


アイリスもまったく同じ事をして倒れやがったからな。


「注意点を聞かないままに魔法を使うなと言っておいただろ?魔力が完全に無くなったら死ぬんだぞ」


「えっ?」


「バネッサは死ぬ一歩手前だ」


「そっ、そんなにヤバいのか」


「心配すんな。魔力が完全に切れる前に魔法は発動しないようにしてある。本来なら気絶する前に脱力感でめっちゃ疲れたようになって、立てなくなって気絶するんだ。普通は疲れて来た所で魔力切れに気付くんだよ」


「そうなのか…」


「魔法に関してはちゃんと俺の言うことを聞け。聞けないなら使えないようにすんぞ」


「わ、分かった。バネッサが目を覚ましたら十分言い聞かせておく」


マーギンはぷんぷんと怒って帰っていった。



「ねぇ、ロッカ」


「おぉ、魔法って怖いんだな」


「それより、マーギンに干してある下着を見られてたけどよかったのかしら?」


「あっ…」


「あなたもバネッサの事を言えないわね」


ロッカも柄にもなく真っ赤になっていたのであった。


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