責任を取らされる
ご飯をにするかとなり、鍋の準備を始める。5人だと鍋が手軽だ。
マーギンは作り置きの鶏ガラスープとカツオ出汁を混ぜて塩で味付け。
そこに野菜やら鶏つくねを入れて煮込み、ボアの薄切りは別盛りで。ちょいとニンニクをすりおろして入れておこう。今晩の飯はちゃんこ鍋風だ。
「ロッカ、シスコ、ここの風呂すんげぇぞっ」
風呂から出てきたバネッサはバスタオル姿だ。
「バネッサ、ここは家じゃないんだぞっ。そんな格好で出てくるなっ」
「あ、いっけね。オホホホホ」
どうやら星の導き達は女3人で暮らしているらしい。いつもは女しかいないからあられもない姿でも問題ないようだ。しかし、バネッサはバスタオル姿でも解る良いものを持っていた。うーむ眼福眼福。マーギンはうんうんと一人で頷いた。
「バネッサの奴がはしたなくてすまないな」
代わりに謝るロッカ。
「いや、目の保養が出来たから気にすんな」
シスコはこういうネタはあまり好きではないらしく、ゴミを見るような目でマーギンを見ていた。
「さ、食おうか。肉は食べたい人が適当に入れてくれ。酒はこれでいいか?」
マーギンの出したのは麦焼酎。お湯割りでも水割りでもロックでも好きに飲んでくれ。
「ん?これはまったく癖の無い酒だな」
ロッカ達はかなりいけるタイプのようでロックで味見をした。
「飯の味をジャマしない酒だ。氷や炭酸が欲しければアイリスに頼んでくれ」
「は?アイリスも水を出せる魔法というか、氷や炭酸とかまで出せんのか?」
「フルオプション付きの水を出す魔法を使えるようにしてやった。ま、借金だよ、借金。こいつはハンターになる予定だから稼げるようにして払わせるつもりだ」
「アイリスがハンター… そうだっ。雪の花の依頼を達成したのはアイリスなんだよなっ。こんな時期にどこで採取したんだ?」
「採取したんじゃなくてマーギンさんがたまたま持っていただけです。私は何もしてませんよ」
「マーギン、マジックバッグとはそんなに鮮度が長持ちするものなのか?」
「どうだろうね?たまたま持っていた奴がそうだっただけじゃないか」
マーギンは鶏つくねを食べながらはぐらかす。
「ところでマーギン、雪の花で900万も稼いだんだよな?」
バネッサがチラッと上目遣いで聞いてくる。
「それがバレてリッカの食堂で客全員に奢らされたわ。店の酒樽全部飲みやがったんだぜ」
「いくら払った?」
「200万」
え?とアイリスが驚く。
「こいつが金持ってるとバラしたんだよ」
自分のせいで200万も払ったと驚くアイリス。しかし食うのはやめない。
「随分と気前がいいな」
「泡銭だからね。本当はアイリスに全部やろうと思ったけど受け取らなかったんだ」
「いらないなら残りはうちが貰ってやろうか?」
バネッサがマーギンに腕を組んで上目遣いで聞いてくる。
「さっき、バスタオルも巻かずに風呂から出てきたならやっても良かったんだがな」
「えっ?そしたらうちもう一回風呂に入って来るっ」
「嘘だバカッ。嫁入り前の娘が簡単に脱ぐなっ」
「えー、見せるぐらいで700万貰えるなら脱ぐのに」
なんちゅー奴だこいつは?
「そういうのに抵抗ないなら遊女で稼げ。お前なら高く買うやつがいるだろ」
「遊女かぁ。気に入らん相手に見せるのはしゃくだよなぁ」
「バ、バネッサさんなら高く売れるんですか…?」
おずおずとアイリスが聞いてくる。
「そんなことを聞いてどうするんだ?」
ロッカはなぜアイリスがそんな事を聞いてくるか訪ねた。
「3万…」
「何がだ?」
「私が遊女に売られた時の買取価格です」
「3万?だーはっはっはっ。そりゃそうかもな」
ロッカはアイリスの身体を見て大笑いする。女性同士の会話とはこんなものなのだろうか?なかなかに容赦がない。
「しかしマーギン、お前は口では脱げとか言うくせに、本当は女に慣れてないだろ?」
「うっ、うるさいなっ。どうしてそう思うんだよっ」
ロッカはニヤニヤと笑ってマーギンを見る。
「男に襲われかけたアイリスがこれだけ警戒してないんだ。まったく何にもしてねぇみたいだしな。ここで一緒に住んでんだろ?」
「そ、それはこいつがまだ子供だから…って、男に襲われかけた?いつだ?」
「お前が置いていった所でノコノコと飯につられて男に着いてってたんだよ。で、私達が救出したってわけさ」
「お前、そんな事は言ってなかったじゃないか」
「い、言えませんよ…」
「あのなぁ、世の中にはお前のような子供みたいな女を好む奴もいるんだ。だから誰かのそばでテントを張れと言っておいたんだ」
「ご、ごめんなさい…」
「まぁ、無事だったんだからもう怒ってやるな。あんな怖い思いをしたんだからもう大丈夫だろ」
ロッカがそう言ってもマーギンは本当になんかあってからじゃ遅いんだぞと、アイリスを叱っていた。
「マーギンって、まるで父親ね」
「本当。アイリスはいい奴に拾って貰ったもんだよ」
シスコとロッカは二人を見てそう言ったのであった。
ちゃんこ風鍋も酒も好評で完食。皆がもう少し飲みたいというので、エイヒレを炙っておつまみに。
「これ、旨いな。何から出来てるんだ?干物のようだが」
「エイって魚のヒレだよ。そこそこ大きい平べったい魚だけど、主に食べられる部位がひれしかない。尻尾のトゲに毒もあるし、貝を好んで食うから厄介者扱いだね」
麦焼酎と干物の相性はすこぶる良い。アイリスには飲まさないが、星の導きのメンバーは結構飲んでいる。
「アイリスぅ〜、お前ここにマーギンと住んでるんだよなぁ」
アイリスに胸を押し付けるように絡むバネッサ。
「は、はい。寝泊まりさせて貰ってます」
「どこで寝てんだ?」
「あっちの寝室です」
「マーギンと一緒にか?」
「ちっ、違いますよ。マーギンさんはそこのソファで寝てます」
「は?家主をソファで寝かせて、居候のお前がベッドを使ってんのかよ?」
「は、はい…」
「バネッサ、別にいいんだよ。俺はソファでも寝れるから」
座って半畳寝て1畳。このスペースがあれば問題はない。エアコンも効いているのでそのまま寝ていたが、アイリスが気を使うので毛布は使うようにしているが。
「寝室見てこよーっと」
なんの興味があるのかわからないがバネッサが寝室を見に行く。
「うわっ、なんだこのベッドと布団。ふっかふかじゃねーかよっ」
バネッサはベッドにバスンと飛び込んだようだ。
「何やってんだあいつは?」
呆れるマーギン。
「すまん、バネッサは興味を持ったものに遠慮がないんだ。身体は大人だが中身が子供なんだよあいつは」
「バネッサはパーティー内で斥候担当か?」
「どうして分かる?」
「いや、罠に掛かったのがバネッサだったし、色々な物に興味を持つ奴は斥候に向いてんだよ。他の奴が見ていないような所でもよく見てんだろ?」
「その通りだ。移動中もすぐになんか拾ったりしやがるからな。あいつの部屋はガラクタでぐちゃぐちゃだ」
そんな感じだな。勇者パーティーにいたベローチェも似たタイプだった。
「アイリスーっ、お前はロッカ達と住め、代わりにうちがここに住むーー」
寝室から叫ぶバネッサ。
「何言ってんだお前は。さっさとこっちに来い。そのまま寝るなよ」
しかしもう返事がない。
「あいつ寝たみたいだぞ」
「ったく、バネッサは… 後で連れて帰るからちょっと寝かせておいてやってくれ」
「本当にちゃんと連れて帰れよ」
本当はここに捨てて行くんじゃないだろうな?と心配になるマーギン。
そしてしばらく色々とハンターの話を聞いてるとバネッサが起きてきた。
「トイレ…」
「こっちです」
トイレに起きてきたバネッサは目を擦りながらアイリスにトイレに連れていかれる。
そして…
「うっひゃぁぁっ スライムにケツ舐められたぁぁぁっ」
アイリスはウォシュレットの説明をしたはずだが、寝ぼけ眼のバネッサは聞いていなかったようで、パンツを下げたままこちらに走ってきた。
さすがに目を背けるマーギン。
「ば、バネッサさん。あれはお尻を洗う奴です。さっき説明したじゃないですか」
「でっ、でもよぉー」
「バネッサ… パンツぐらい履いて出てきてくれるかしら?流石に私達でもそんな姿で出て来られたら嫌よ」
バネッサの姿を見て呆れるシスコ。
「えっ?あーーーーっ」
ビュンっ バタンッ
バネッサは顔を真っ赤にしてトイレに再び入ったあと、中々出てこなかったのであった。
「みっ見たのかよ?」
しばらくして出て来たバネッサはマーギンに真っ赤な顔をしてそう聞く。
「み、見てない…」
「ならなんで顔を背けんだよっ。本当は見たんだろっ。責任取れっ」
「なんで勝手にケツ丸出しで出てきた奴の責任をとらにゃならんのだっ」
「やっぱり見たーーーっ マーギンのすけべーーーっ」
ゴツっ
「あんたが悪いんでしょっ。例えマーギンがあんたに恋していたって、あんな姿を見たら100年の恋も覚めるわよ」
呆れてそういうシスコ。
「だっ、だってよぉ、ここに来た時もスライムに襲われたかと思って怖かったんだ。またスライムかと思ってもしょうがねーだろ」
「それも自業自得でしょ?私達は勝手に鍵を開けようとするのも反対したのに言うことを聞かなったあんたが悪いの。見苦しい物をみせたあんたが謝るべきなの」
良かった。シスコはまともな人のようだ。
バネッサは見苦しいもんってなんだよ、自分ではケツの形も良いし、綺麗だと思ってんのにとかブツブツと言っていた。
「で、マーギン」
「なんだよ?」
「嫁入り前のお尻を見た責任はどう取るつもり?」
「は?」
「これが他の人にバレたらバネッサは嫁に行けなくなるわ。そうなったら貰ってあげるの?」
「なっ、なんでだよっ」
「それが王都の常識。でもここには私達しかいないでしょ?私達が黙ってたらバレずに済むと思うんだけど、どうかしら?」
こうしてしたたかなシスコにマーギンは魔法書を強請られる。
まるで当たり屋じゃねーかよ…
マーギンは渋々と了承をしたのであった。
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