マジックドレインペンダント

家に戻るとタジキが倒れてアイリスがあわあわしている。


「どうした?」


「あのねー、アイリスお姉ちゃんがタジキの頭をついたの」


こいつ…


「ほら、タジキ、大丈夫か?」


マーギンは頭を見るふりをして治癒魔法を掛ける。


「おー、いちち。マーギンが川の向こうで手を振ってやがったぜ」


ごすっ


「誰が川の向こうで手を振ってるてんだよっ」


三途の川の話は閻魔様が天国と地獄に振り分けるとかの話と一緒にしたことがある。よく覚えてたな。


「アイリスお姉ちゃん、僕もつきたいから代わってね」


「う、うん…」


トルクも次の犠牲者が出ない間に自分がついたほうがいいところ判断したようだった。




すべての餅がつき上がり、お腹が落ち着いた所を見計らって雑煮タイム。


「餅って、柔らかくても焼いても旨ぇよな。何で王都に無いんだろ?」


「米すら売ってないからな。餅米があるわきゃないだろ」


「これはお米から出来てるんですか?」


「そうだ。普通に食べる米と種類が違う。俺も手持ちが少くなって来たから誰が栽培してくれるといいんだけどな」


「米と同じならうちの地元で栽培出来るかもしれませんねぇ」


「そうかもな。一度お前の地元に行ってみてもいいかもしれんな」


「そうですねぇ。私も成人した報告をお母さんにしたいです」


そうか、そういう事も考えてやらないとダメなんだな。


「ねーちゃんの地元ってどこなんだ?」


「私の地元は船で南に下ったタイベという領地ですよ」


「船で行くなら島か?」


「いえ、違いますよ。陸路で行くには深い森と山を超えないとダメなので船でしか行き来が出来ないんですよ」


なるほどな。


「じゃ、春になったら行くか?」


「えっ?」


「お母さんの墓に成人の報告をしたいんだろ?ハンターになってパーティー組んで行動を始めたらなかなか行けなくなるぞ」


「そうかもしれません」


「いいなぁ。俺達も他所の土地に行ってみたいぜ」


「なら連れてってやろうか?」


「えっ?いいのか?船代とか掛かんじゃねーのかよ?」


「それぐらい出してやる。ハンターになるなら色々な場所を知っておいた方がいいからな」


「やったーーっ!」


「マーギン、本当にいいのー?」


「あぁ。旅の心得とかついでに教えてやる。こいつみたいに旅を舐めて死んだら嫌だからな」


「ありがとうーっ、マーギン大好きっ」


男の子からでもこうまっすぐと大好きと言われると照れるな。


「私も大好きです」


「アイリス、お前はもう成人なんだから男の人にそんな事を簡単に言うものでありません」


「ほら、私はその点マーギンさんの妻ですから」


ごすっ


「お前なぁ、冗談でもそんな事を言ってたら本当に嫁に行けなくなるからな」


その後、3スタンとアイリスはもう食えんと言いながら、砂糖醤油で餅を香ばしく焼いていたら吐きそうになりながら食ったのであった。




元日も過ぎた次の日。


「ここはマーギンの店か?」


店は閉めてあるのに大声で叫ぶ声がする。コタツでぬくぬくを楽しんでいるってのにもうっ。


「アイリス、しつこいから見てきてくれ」


「無理です。出たくありません」


「いいから見てこいっ」


マーギンはコタツにしがみつアイリスを蹴りだした。これはコタツを出してると訓練に行かなくなるな。名残惜しいけどしまってしまおう。マーギンはアイリスが外を見に行った間にコタツをアイテムボックスに収納した。



「マーギンさん、ヘラルドさんです」


え?


アイリスは西門の医者、ヘラルドを家に連れて来た。


「新年早々すまん。雪の花を分けて欲しい」


「もう無くなったの?」


取り敢えず話を聞くためにリビングへ。アイリスは消えたコタツを探しているが、それはもうアイテムボックスの中だ。



「高熱を出している子供は段々と解熱剤が効かぬようになってきて服薬量が増えておるのだ」


「ヤバいじゃん」


「そうじゃ。このままだとどうしようもなくなるが、もう解熱剤しか手の打ちようがないのじゃ」


「本当に病気の見当もつかないの?」


「つかん… ワシの知りうる病気のどれにも当てはまらんのだ…」


やはり魔力暴走かもしれんな。


「その子は長い間子供が出来なんだ貴族の跡取りでな。どうしても助けないとダメなのじゃ」


「跡継ぎがいないと取り潰しになるんだっけ?」


「そうじゃ」


「養子取ったりは?」


「無理じゃろうな。この国の爵位は常に足らん。報奨として爵位を渡さねばならぬものが順番待ちしているような状況じゃ。養子をとっても跡継ぎとは認めないように働き掛ける者がおるじゃろ」


その子供が死ぬ事を望んでいるものがいるって事か。嫌な世界だな。


「呪いを掛けられてるとかない?」


「呪いなんぞ御伽話の中の事じゃ。呪術師なんぞおらん。馬鹿げた事を言うな」


昔はいたんだけどな…


「雪の花は欲しいだけ渡すけど、もう無駄なんじゃないの?あの解熱剤はあまり飲ますと身体に異変起こすと聞いた事があるけど」


「それでもじゃ」


「その貴族に義理かなんかあるの?余計な事かもしれないけど、街医者が貴族の診療をするってあまりないよね?」


「貴族向けの医者はとっくに匙を投げておる。その貴族は良い奴で、昔からの知り合いでもある」


「友達?」


「そんな所じゃ。ワシが医者になれたのもその貴族のお陰と言っても過言ではない」


なるほどね。


「じゃ、雪の花は100でいい?」


「助かる」


「お金はいいよ」


「そういう訳には…」


「これで助かるというならお金をもらうけど、多分こんなに使う前にいらなくなるでしょ」


「…………」


マーギンの言う言葉に反応せずに家を出ようとするヘラルド。


「これ、気休めかもしれないけど、その子供に着けてあげて」


ヘラルドに渡したのはミスティが作ったマジックドレインのペンダント型魔道具。身体が耐えきれない魔力だけを吸い取る高性能の物だ。




ー勇者パーティー時代ー


「ミスティ、何であの子供にこれをやっちゃダメなんだよっ」


「馬鹿者っ、マジックドレインの魔道具は貴重なものなんじゃっ」


「命より貴重なものなんてないだろうがっ」


「いいかマーギン、庶民の間に生まれた魔力過多の子供は死ぬ運命にあるのじゃ。下手に手出しをするなっ」


「何でそんな冷たいことを言うんだよっ。貴族も庶民も生れが違うだけで命の重さは同じだろうがっ」


「マーギン、よく聞け。魔力過多も病気の一種じゃ、お前は病気で亡くなる子供をすべて救えるのか?お前は神ではないのだぞ、分をわきまえんかっ」


「全部助けられられないのはわかってるよっ。でも目の前の救えそうな命ぐらいは何とか出来るじゃんかよっ」


「何度言えばお前はわかるのじゃっ。お前は勇者の補助役であって困っている人々を救って回るのは役目ではないっ」


「ミスティ… そんな事を言うなよ… あの子はこれがあれば助かるじゃんかよっ…」


「くっ… ならば好きにせいっ。その代わりどんな結末が待ってようと私は知らんからなっ」


マーギンは庶民の子供が魔力暴走の熱で苦しんでいるのを自作のペンダント型マジックドレインを親に渡した。


「お父さん、お母さん、このペンダントをお子さんのどこでもいいので当てて下さい」


親がマーギンの言われた通り、子供のおでこに当てると少しずつ真っ赤な顔から赤みが引いていく。


「ま、マーギン様っ これはっ…」


「良かった。効いてくれたようだね。これは熱を吸い取る魔道具なんだ。これからも度々熱を出すと思うから熱を出した時はおでこに当ててあげて。でも常に身に付けてちゃダメだよ。熱が下がりすぎて死んじゃうから」


「わっ、わかりました。ありがとうございますっ ありがとうございますっ」



何度も涙を流しながらお礼を言う両親に別れを告げてミスティと合流した。


「私はどうなっても知らんからな」


「大丈夫だって。熱が出た時だけ使うように言って来たから」


ミスティが作ったマジックドレインは常に身に付けていても魔力過多、つまり暴走した分だけ吸い取る優れもの。マーギンにはそこまでの性能の物は作れず、常に魔力を吸い続けるものだ。それを知らずに身に付けていると死ぬまで魔力を吸ってしまうという危険な物であった。



1ヶ月後、再び同じ村を訪れたマーギンとミスティ。


「あの子、元気になってるかな?」


「知らん」


元気になった子供を想像してニコニコ顔のマーギン。それに対して渋い顔のミスティ。



「あれ?」


魔力過多の子供がいた家が荒れている。


マーギンは近くを歩いていた人にこの家はどうしたのか聞いてみる。


「その家ですか。本当に酷い事をする者がいたものです…」


「なんかあったの?」


「賊が入って親子共々皆殺しですよ。何やら貴重なペンダントを持っていたのを狙われたらしくてね」


「えっ?」


お、俺があのペンダントを渡したから…?


その場でガクッと膝を落とすマーギン。


「う、嘘だろ… お父さんもお母さんもあんなに喜んで… 子供の顔も赤みが引いて楽そうになって…」


「だからどういう結末を招くかわからんぞと言ったのじゃ」


「ミ、ミスティはこうなることがわかってたと言うのか…」


「かも知れんと思うただけじゃ。もしくは言いつけを忘れてそのまま身に付けたまま魔力不足で死ぬかのどちらかじゃろうの。あの子の運命はあそこで尽きるはずじゃったのじゃ。お前が余計な事をしたせいで両親も巻き添いじゃ」


「俺が悪いってのかよ…」


「そうじゃ。お前は魔力値が高いただの人間じゃ。すべてを救える神ではないと言うたはずじゃ」


「ミスティはこうなる予想を何で教えてくれなかったんだよ…」


「何度言うてもお前が理解せずに私の言うことを聞かぬからじゃ。それならば自分で経験せんと理解出来ぬじゃろうと思ったのじゃ」


マーギンはミスティの胸ぐらをがっと掴んだ。


「人が死ぬかもしれないってことぐらい先に教えろよっ」


「私を殴ってその者たちが生き返るなら殴れ。それに私はいつもお前に教えておるじゃろうが。それを聞かないのは誰じゃ?いつも考えなしに力を使うのは誰じゃ?」


「そ、それは…」


「あの子が死んだのはお前のせいではないが、両親を殺したのはお前じゃ。その事をしっかり胸に刻んでおけっ。お前が良かれと思った事が人を不幸にすることもあると知れっ」


「俺は… 俺は…」


「お前の成すべきことはチマチマと目の前の命を救う事ではない。一刻も早く魔王を倒す手伝いをする事がもっと多くの命を救う事になるのじゃっ」


ミスティの言う言葉はマーギンの耳には届かず、俺は…俺は…といい続けるのであった。



その後、マジックドレインのペンダントを宝石だと思い強盗した賊達が原因不明で亡くなり呪いのペンダントとして闇に消えて行った事をマーギンが知るよしもなかった。



ーマーギンの家ー


「何じゃこれは…」


ペンダントを渡されたヘラルドはなぜこのような物を渡す?というような顔をする。


「気休めのお守りって言っただろ?神頼みもしないよりマシだ」


「分かった」


ヘラルドはペンダントを受け取って帰って行ったのであった。


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