アイリスは回復が早い

「んん、お父さん…」


誰がお父さんだ。


マーギンがおんぶしているアイリスが意識を取り戻しマーギンの事をお父さんと呼んだ。


しかし、もう意識を取り戻したのか。アイリスを鑑定すると魔力がもう20%まで回復している。異常に回復力があるな。もしかして俺から魔力を吸ってんじゃないだろうな?


「気付いたか?」


「あれ?ここは?」


「魔力切れでぶっ倒れたんだよ。倒れる前に疲労感と感じなかったのか?」


「いえ、なんかボウボウ火が出るのが楽しくなっちゃいまして…」


小さな子供がはしゃぎまくっていきなり電池切れを起こすような感じか?


「倒れるまでやってるのに気付かなくて悪かった。意識が戻ったなら自分で歩け。もうすぐ王都に入るから人目に付く」


「歩けません。このままおぶってて下さい」


「お前なぁ…」


「すっごく暖かくて気持ちが… なんですかっ、この温かさは?」


はたとアイリスがマーギンの着ている服が体温以上に温かい事に気付いた。


「暴れるなら下ろすぞ」


「いっ、嫌ですっ」


アイリスはマーギンの首にしがみつく。


マーギンもアイリスが親に甘えるようなもんだろうとそのままおぶって帰ることに。


そしてマーギンは門で入国料を払う。


「毎回払っているのか?」


「俺は異国人だからね。しょうがないよ」


「ここに住んでいるのに必要なのか?」


「そういう決まりらしい。」


「そうか…」


門を通って王都内にはいるともう日が沈んだ。閉門前に入れて良かった。


「ローズ、ここから歩いて帰るのか?」

 

「そのつもりだが」


「宿舎は門限とかある?」


「非番の日はない。が、日付が変わる前に宿舎にいなければならないので、門限が12時ということになるな」


「家でご飯食べて帰る?そんなに大した物はないけど。インスタントスープとかも渡したいし」


「そ、そこまで世話になるつもりは…」


「マーギンさん、ハンバーグが食べたいです」


おぶられたアイリスからハンバーグのリクエストが入る。


「だって、ハンバーグで良かったら食べていって」


「本当にいいのだろうか?」


「いいよ。2人前も3人前も作るの変わらないから」



ということで店ではなく家にローズをご案内。


「風呂入ってく?」


「風呂?」


「マーギンさんの家は湯船があるんですよ。ボタン一つでお湯も張れるし、すっごく便利なんです」


「家に風呂があるとは珍しいな」


「ローズの家は風呂がないのか?」


「家にはあるが宿舎はシャワーで身体を洗うだけだ。湯船まではない」


「なら、浸かって行きなよ。アイリス、使い方を教えてあげて」


「はーい」


「あ、あの、私は入るとは…」


「ローズさん、こちらです」


アイリスがローズを連れて風呂場に行った。流石に大人の女性に服を洗っておくとは言えない。まぁ、今日は寒い外でずっといたから服も汚れてないだろ。


アイリスがローズの世話をしてくれている間に作りおきのハンバーグを焼いていく。フライパンだと追いつかなさそうなので、フライパンで両面を焼いたら仕上げはオーブンに入れておこう。寒いからスープはポタージュ系だな。野菜はポテトサラダでいいか。


ローズは酒飲むかな?飲むとしたら風呂上がりだし軽めの赤ワインにするか。


テキパキとご飯の用意をするマーギン。


「ご案内完了です」


「ご苦労」


「マーギンさん」


「なんだ?」


「ローズさんの事を好きなんですか?」


「馬鹿いえ、ローズは貴族のお嬢さんで騎士だ。俺とはまったく釣り合わん」


「えっ?」


「見るからに庶民と違うだろうが」


「確かに気品がありますねぇ。とってもかっこいいです」


「かっこいい?美人の間違いだろ?」


「いえ、背が高くてかっこいいです。もし男性なら惚れちゃいます」


「俺は美人だと思ってるんだがなぁ。女から見たらかっこいいのか?」


「はいっ。とっても素敵です」


マーギンは料理を作り、アイリスが食器の準備をしながらかっこいい、いや美人だとそんな会話をしている。


「ふ、風呂までご馳走になってしまってすまない」


ローズが真っ赤な顔でこちらに来た。今の会話を聞いていたのか風呂のせいなのかわからない。


「もうすぐ焼き上がるからそこに座ってて」


ローズは赤くなりながらテーブルに着いた。まだ乾き切っていない濡れた髪が悩ましい。


「わぁ〜」


「ど、どうした?」


アップにしていた髪のローズを見たアイリスが見惚れた。


「マーギンさんの言った通りですねえ」


「な、何がだろうか?」


「すっごい美人です」


「なっ…」


アイリスにまで美人と言われてもっと顔が赤くなるローズなのであった。


 

「これ旨いな。ハンバーグとやらもパンも、じゃがいものサラダでさえ信じられないほど旨い。それにこのスープはカボチャか?」


「そう。甘いスープは嫌いだったかな?」


「いや、カボチャのスープはモサモサしていてあまり好きではなかったのだが、このスープは非常に滑らかで旨い」


「モサモサするのは裏ごししてないからだよ。一気に加熱せずにゆっくりと加熱して程よい温度をキープしながら茹でると甘くなるんだ。それを裏ごししてスープにしていくとこんな感じになるんだよ。これが好きならインスタントにしておくよ。30日に渡せると思う」


「これも出来るのか?」


「スープ関係はほとんど出来る。出来たてよりは味は落ちるけど、外で食べるには十分だよ」


「それはありがたい」


アイリスとローズもハンバーグをお代わりして楽しく夕食を食べたのであった。



「本当に色々とありがとう。料理もとても旨かった。家のシェフが作るより旨い飯だった」


「そりゃどうも。もう外は真っ暗だから貴族門まで送って行くよ」


「いや、私は騎士だし送ってもらうほど心配してもらう必要はないのだが…」


「この辺は治安が悪いからね。騎士とはいえ帯剣してないんだ。普通の女性と変わらんよ」


「そ、そうか… ならお願いしようかな」


普通の女性と変らないと言われて赤くなるローズ。


アイリスは腹パンになり、魔力切れから回復したとはいえ風呂も入らずに寝てしまったので、洗浄魔法を掛けて寝かせてきた。



貴族門に向かって歩く二人。


「アイリスを独りで家に残して大丈夫なのだろうか?あの辺りは治安が良くないのだろ?」


「うちの家はボロいけどセキュリティは完璧なんだよ。俺の知らない奴が侵入したら罠に捕まる」


「罠?」


「そう。殺傷能力は持たせてないけど拘束は出来る」


「どんな罠なのだ?」


「スライム地獄」


「なんだその物騒な名前は?まさかスライムをけし掛けるのか?」


「実際にはスライムは使わないけど、スライムに襲われたと勘違いするだろうね」


「どの様な仕掛けなのだ?」


「侵入出来そうな所に罠の魔法陣を刻んであるんだよ。侵入者を罠に掛けるだけなら魔法陣も簡単なんだけど、近所のガキ共が勝手に入って来ることがあるから対象者を識別する必要があるんだよね。それが結構難しくてさ。血とかで登録するやり方もあるんだけど、それだと知り合いでも登録していない人が来たら罠に掛かっちゃうしね」


「かなりの複雑な術式なのだな?」


「そう。俺一人の時は罠も仕掛けてなかったんだけどね、アイリスが来たから作ったんだ」


「あの娘は本当に弟子なのか?それとも婚約者か?」


「婚約者って」


マーギンは呆れて笑う。


「あいつもちょいと訳ありでね、春まで面倒を見たらハンターとして独り立ちさせるよ」


「そうか、あの着火魔法を使えるならハンターでもやっていけそうだ」


「そうだね。戦闘職が無理でも補助役として引く手数多にしてやろうとは思ってる」


「そうか。アイリスは果報者だな」


「ま、俺との出会いが幸か不幸かはわからないけどね。魔法書代を貸しにしてあるからあの歳で大きな借金を抱えて返済しないとダメだからな」


「それは頑張って稼がないとダメだな。マーギンの魔法書は高いからな」


「そう。簡単に手に入る魔法書と思ってもらったら困る」


「全くだ。私も購入するかどうか悩みまくったぐらいだからな」 


「次は着火の魔法書を買いに来るのを楽しみにしているよ」


「あぁ、冬こそあの様な魔法が必要だ。来月にはなんとか」


ローズはお金の算段をしながら少し寒そうだ。


「無理矢理風呂に入らせて悪かったね。かえって湯冷めさせてしまったようだ」 


「いや、あの様な喋る風呂には驚いたが、とても心地が良かった。あれも魔道具なのだな?」


うちの風呂の魔道具は喋る。


「お風呂の栓はしましたか?お湯張りを開始します。設定温度は42度です」


とか言われてアイリスはびっくりしていたからな。


「そう。魔法でも身体は綺麗に出来るけど、湯に浸かると心の汚れも落ちるような気がするんだよね」


「確かに。今度はもう少しゆっくりと入りたいもの…」


とローズは言い掛けてコホンと咳払いした。大人の女性が男の家の風呂に入りたいとか言うものではないと気付いたのだろう。


「また入りたかったらいつでもどうぞ」


「い、いや…」


マーギンは赤くなるローズを見てクスクスと笑った。


「あと、一つ聞いてもいいかな?」


「いいぞ」


「貴族って専属のお針子さんいたりする?」


「服を作る職人か?専用というわけではないが、懇意にしている服屋はあるぞ」


「そこまで本格的な物じゃないんだけどさ、簡単な服を作りたいんだよね」


「簡単な服程度ならうちのメイドでも可能だが、何か作りたいのか?」


「そう。秘密をきちんと守れそうな人を知らなくてさ」


「そうか、魔道具絡みなのだな。わかった。うちのメイドに声を掛けてみよう」


「30日の時に連れて来れたりする?」


「そうだな… 馬車も使うし大丈夫だと思う」


「了解。無理そうなら無理でも構わないからね」


「あぁ、わかった」


では30日に又といって貴族門の近くで二人は別れたのであった。


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