魔剣とは
アイリスは焚き火でぬくぬくとしてなかなか訓練を始めない。まぁ、ローズの話を聞いてからでもいいか。
マーギンはコップを3つ出し、固形スープを入れてお湯を注ぐ。
「これ飲んだら訓練始めろよ」
「ふぁい」
アイリスは寒さに弱いようだな。
「マーギン、お湯は魔法なのは理解しているが、なぜスープになる?もしかしてスープを出せる魔法もあるのか?」
「スープは魔法じゃないよ。俺が作ったやつ。スープから水分を抜いて作るんだ。お湯を入れてかき混ぜたら元のスープに戻る。1度にたくさんのスープを作ればこうして後から簡単に飲めるから便利だろ?」
「これは遠征時に便利だな。携帯用のスープは販売しないのか?」
「俺は魔法書の販売許可しか得てないからね。それに食品は手間暇がかかる割には儲からないし面倒なんだよ」
「それは残念だ。とても旨いし、便利だし言うことがない」
「そんなに気に入ったなら何食分かあげるよ」
「本当かっ」
「いいよ、まだたくさん残ってるから」
そう言うとローズはとても喜んだ。
「さ、アイリス。飲み終えたら訓練しろ。立てなくなるまでやれよ」
「え?」
「え?じゃない。自分がどれぐらい魔法を使ったら魔力切れになるか感覚で覚えておく必要がある。倒れるより先に疲労感が出るからそれを覚えるんだ」
「し、死にませんよね」
「着火魔法で死ねるなら死んでみろ」
マーギンはそう言ってアイリスに着火魔法の自主訓練をさせた。
「ローズ、なんか聞きたい事があったんじゃないのか?」
マーギンはローズが話し始めるきっかけを作ってやる。
「う、うむ。マーギンからもらった剣の事なんだが」
と気まずそうに話し始めるローズ。
「もしかしてもう折っちゃった?」
「と、とんでもないっ。すこぶる元気だ」
剣が元気って。
「なら何?」
「実はあの剣を兄に見つかってしまってな」
「まぁ、見つかる云々じゃないよね。持ってるだけでロングソードじゃないとわかるから。ロングソードじゃないから怒られたとか?」
「いや、あの、」
「ん?」
「あっ、あの剣は魔法剣なのだろうか?もし、魔法剣なら国宝的な価値があるらしくてその…」
「魔法剣って魔剣の事かな?」
「そ、そうだ。魔剣とも言うらしい」
「その剣を俺から貰ったと誰かに話した?」
「それは言っていない。ある人から貰ったと兄に言わざるを得なかったのだ。マーギンの名前は出してはいない」
なるほどね… ずっと監視されてんなと思ってたけどローズの関係者だったか。
「話したのお兄さんなんだよね?」
「うむ、長兄は跡継ぎで、話したのは同じ騎士の2番目の兄だ」
「で、俺はどうしてそんな国宝級の剣をあげたか疑われてんだね」
「す、すまない…」
「実はこの剣は…」
マーギンは勿体付けて間を取る。
「この剣は…」
ゴクッと唾を飲み込むローズの真剣な顔が可愛い。もう少しこのままに黙ってみようか。美人の顔をこんなに遠慮なくマジマジと見つめられるチャンスは滅多にないのだ。
マーギンはむむむむっと息を止めて赤くなっていくローズの顔に笑いがこみ上げてくる。
「ぶわっはっはっはっ」
マーギンは耐えられなくなって笑い出した。
「な、何がおかしいのだっ」
「いや、あれが魔剣だとか真剣な顔をして言うからだよ。魔剣なんて危なっかしい物を渡すわけないじゃないか」
「ちっ、違うのか?しかしちい兄様は…」
「ローズは2番目のお兄さんをちい兄様って呼んでるんだ。子供みたいだね」
そう言って笑ったマーギンにローズは真っ赤になる。
「ちっ、違うっ。いつもはちゃんと次兄と言ってるのであって、先程はつい地が出てしまって…あわわわわわ」
あわあわと慌てるローズも可愛くて宜しい。
「いや、ちい兄様でいいよ。そのちい兄様はあの剣を持って魔剣だと思ったんだね。ローズは何か感じた?」
「い、いや。とても手に馴染むとしか感じないのだ」
「なるほど、かなりのあの剣を気に入ってくれたんだね」
「う、うむ。見ていると笑顔がこぼれて… あわわわわわ」
剣を持ったローズがどん感じになっているか手に取るようにしてわかるな。
「剣を持ってる?」
「いや、人に見つかるなと言われて自室に隠してある」
「そっか。じゃこいつで試そうか」
マーギンは違う剣というか刀を出した。
「片刃の剣…」
「そう。こいつは斬れ味に特化した剣とでもいうのかな?めちゃくちゃ武器職人にお願いして苦労して作って貰ったけど俺には使いこなせないんだ。多分実戦で使ったら折るだろうね」
そう言ってマーギンはローズに刀を渡した。
「何か感じる?」
「なんだろうか… 何か力を吸い取られるような…」
「お兄さんはあの剣を持った時に同じような感覚を感じたんだと思うよ。あの剣もこの刀も魔力が流れやすい素材が使われているから微量に魔力を吸われるのかもしれないね」
「魔力を吸われる?あの剣もか?」
「剣って不思議でね、素材は同じでも鍛冶屋の打ち手によっても変わるのは当然なんだけど、使い手によっても変わるみたい。ローズがとても手に馴染むと感じることで勝手に魔力が剣に流れているのではなく、自分で流してるんだと思うよ」
「私が魔力を?」
「恐らく身体強化魔法。身体を鍛えている人は意識せずに自然と使っている場合が多いんだよ」
「信じられん…」
マーギンはローズの手を取る。
「ここまで努力してきたんだ。身体もそれに答えるはずだよ。剣もローズの魔力で強化されると思うから、他の人が使うよりきっといい剣になる」
「マーギン…」
「で、この刀を使って魔剣みたいになるか見せようか?」
ローズと少し甘い雰囲気になりかけた事に気付かぬマーギンは刀で実験してみようと言い出した。
「魔剣のように?」
「そう。こいつに着火魔法と同じ要領で火魔法を纏わせるんだ」
ブォンッ
マーギンの振った刀が炎を纏い弧を描く。
「うおっ」
驚くローズ。
「やはり魔剣ではないかっ」
「違う違う。こんな炎を纏った所でなんの効果もない。相手が驚くか、少し火傷するぐらいだ。本物の魔剣だと今の魔力を込めたぐらいでも樹木とか焼き切って両断するからね」
「どういうことだ?」
「ローズにあげた剣とこの刀は魔力を通すだけ。つまり使う本人の力が宿るだけだ。魔剣は剣そのものが力を持っている。本人の力と剣の力が合わさって途轍もない威力を出すんだよ。ま、使い手に力がないと魔剣もただの剣としてか性能を発揮しないけどね。魔剣は気難しいんだよ」
「なるほど… そのような事をマーギンはなぜ知っているのだ?」
「俺の昔の知り合いに魔剣の使い手がいたんだよ。そりゃあ見事なもんだったよ。俺は努力しても絶対に追い付けないなと思って剣の訓練をやめちゃったんだけどね」
「そうだったのか」
「ローズは魔剣に興味ある?」
「ま、まぁ、拝める物なら拝んではみたいな」
ローズがそう言ったのでマーギンは魔剣を出した。
「うっ…」
マーギンが出したのは赤黒い色をした剣。見ているだけで剣に飲み込まれそうな重い威圧を放っているような気がする。
「存在感に圧倒されるだろ?これは魔剣ではあるんだけど、妖剣とも呼ばれるものなんだ」
「妖剣?」
「そう、こいつは妖剣バンパイア」
「バンパイア?まさか血を吸うのか?」
「名前にバンパイアと付いてるけど血を吸うわけじゃない。使い手の魔力を強制的に大量に吸う魔剣なんだ。その分威力は申し分ないけどローズが使うと多分死ぬまで魔力を吸われる」
「なっ…」
「持つだけで魔力を吸われるわけじゃないけど、魔剣として使おうとすると一気に魔力を持っていく。手にした者は次々と死んでいくから元々は呪われた剣だと思われてたんだよ。で、俺は魔力が多いから持ち主として認められたって所だね。しかしながら俺を持ち主と認めたのはこいつの見込み違いだ、俺はこいつを使いこなしてやれないからね。でも使えるやつもいない。可哀想な剣なんだよ」
「それはどこ…」
「入手先も秘密だし、誰かに譲渡するつもりもない。この剣は威圧感が凄いけど、妙に惹きつけられる何かがあるだろ?これに魅入られたら危険だとわかっていても欲しくなるんだ。まるでバンパイアが餌にチャームを掛けるようにね」
「な、なるほど。確かに危険な剣だ」
マーギンは少し妖剣に魔力を流して、ここから離れた樹木を斬りつけた。
シュンッ
下からの斬り上げ、ローズはマーギンの抜いた剣が見えなかった。
「今何を…」
ズズんっ
「あの木を切ったんだよ。凄い威力だろ?」
「マーギン… お前剣の腕はないと…」
「そう、今のは剣の力で俺の力じゃない。魔剣とはそういうものなんだよ。まぁ、対人相手に使うものではないね。鎧とか紙切れと同じぐらいに切れるから」
「それでは…」
「そう、俺がこのバンパイアを使って暴れたら人は防御する術がない。恐ろしいだろ?」
「う、うむ」
「だからこの剣は帯剣せずにしまってある。これを使わないといけない魔物もここにはいないから無用の長物ってやつだね。それに剣を使わなくても魔法でも王都を滅ぼす事も可能なんだよ」
「攻撃魔法も使えるのか?」
「俺が使えないと思う?」
「い、いや…」
「これがバレるとこの国には居れなくなるかもしれないんだよね。だから秘密にしているし、俺は決して人に対して攻撃魔法を使うことはない。これはある人との約束なんだ」
「国に仕える気は…」
「あればとっくにアピールしに行ってるよ。もう国の使命とか負わされるのは勘弁して欲しいから秘密にしている」
「そうか…」
「だから地図を見たいと言ったのは国に対して害を与えるようなことからじゃない。本当にこの大陸の地形を見たいだけなんだとちい兄様に言っといてくれる?俺がその気になったら地図を見ようが見てまいが関係ない事を理解してもらえただろうし」
「それはどういう意味…」
「帰ったらわかるよ。さて、アイリスは頑張ってるかな…」
げっ、いつの間にか倒れてるじゃんかよっ。
「おい、アイリスっ。大丈夫かっ」
ローズと話し込んでいる間にアイリスが魔力切れで倒れていた。鑑定すると残存魔力が10%切っている。恐らくコントロール出来ずに炎が出続けたのだろう。
「倒れたのかっ」
「大丈夫だ。魔力切れで倒れただけだ。明日には復活している」
マーギンはよいしよっとアイリスを抱き上げておんぶをする。そしてアイリスの冷え切った身体に気付き、自分のコートを上から着せておぶり直したのだった。
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