過去にやらかしたことを思い出す

「えっ?あっ、はい。どうもお疲れ様でした…」


ハンター組合の受付担当はマジで?というような感じだ。


達成金1千万Gのうち、1割が組合の取り分となり、アイリスには残りの900万Gが支払われた。


受付担当はまさかこの時期に雪の花採取依頼が達成されると思っておらずポカンとしていた。


「ほらアイリス、これはお前の金だ」


「ちっ、違いますよっ。私は登録しただけで、実際にはマーギンさんのものじゃないですかっ。達成金なんか受け取れませんっ」


「いいのか?この金があったらいい宿屋にも泊まれるし、暫く生活にも困らんぞ」


マーギンがそう言うとアイリスはじっとマーギンを見つめた。


「わっ、私がマーギンさんの所に住み込んでいたら迷惑でしょうかっ」


「迷惑っちゃ、迷惑だな」


はっきりと言うマーギン。


迷惑だと言われてがっくりとうな垂れるアイリス。


「やっぱりそうですか…」


「ま、独り立ち出来るようになるまでは暫く居ていいぞ」


と言うとパァッと顔が明るくなった。


「はいっ、宜しくお願いしますっ」


「ちゃんと稼げるようになれよ」


「もちろんですよっ」



マーギンは数日掛けてアイリスに着火魔法の使い方を教えていく。火をつけるだけなら簡単だが、大きめの火をコントロールするのは訓練が必要なのだ。


「ええーと、バーナーっ!」


ブフォォォッ ゴウッゴウッ


「ばっ、馬鹿っ。抑えろ抑えろっ」


「はわわわわわっ」


「いいから魔力を流すのやめろって言ってんだよっ」


ゴツンっ


「痛っ」


マーギンにゲンコツを食らってようやく炎が止まったアイリス。


「危うく火事になるところじゃねぇかよ」


「ご、ごめんなさい…」


アイリスはなまじ火の適性が高いのでコントロールが難しいようだ。


「こりゃ、室内で訓練するのヤバいな。こんな所で火事を出したら色街まで燃えるだろうが」


「はひ…」


「明日から外でやるからな」 


「さ、寒いです」


と答えたアイリスはマーギンにゲンコツを食らっていた。



ーリッカの食堂ー


「お待たせしましたー」


冬本番が始まり、仕事が減ったハンター達で連日賑わっているリッカの食堂。しかし、リッカは毎日不機嫌だった。


「困ったもんだねぇ」


「あぁ、マーギンが来たら怒りが爆発するだろうし、来ないなら来ないで不貞腐れてるからね」


大将と女将さんはどうしたもんかと悩んでいた。




火事になりかけた翌日、マーギン達は王都の外に出てアイリスの特訓をしようと店を出た。


「さっ、寒いですぅぅっ」


アイリスが身体を縮こめてブルブルっと震える。


アイリスの言う通り確かに寒い。冬だから当たり前の話なのだが、去年や一昨年に比べても寒いのだ。


「王都ってこんなに寒くなるんですねっ」


耳と鼻が真っ赤になっているアイリス。


「いや、今回の冬は去年よりだいぶと寒いな。お前の住んでいた所は寒くないのか?」


「寒くはなりますけど、この服装だと震える程にはなりません」


この前アイリスに買った服は冬のコートとかもあったから服が悪いわけではない。確かにかなり気温が低いのだ。これは年が明けたら大寒波が来るかもしれんな。


「お前の魔力コントロールが悪いから外でやることになったんだろ。我慢しろ」


「マーギンさんは平気なんですか?」


「いや、寒いぞ」


「嘘ですっ。全然平気そうじゃないですかっ」


「そうか?」


マーギンはしらばっくれた。実は中に温熱ベストを着ているのだ。誰かがアイリス用のベストを作ってくれたらヒーター部分は簡単に作れるのだが、あいにく裁縫が得意な知り合いはいない。服屋に頼むと、これはなんだ?と聞かれたら困るのだ。


「寒いのが嫌ならさっさとコントロールを身に付けろ」


「わかりましたっ。わかりましたっ。やるなら早く行きましょうっ。寒くて死んでしまいそうです」


じゃ走るぞと言った時に


「マーギンっ」


と呼び止められた。


「あ、ローズ」


「出掛けるところだったか、すまない」


「いや、いいよ。どうしたの?」


「だ、誰ですか?」


アイリスは背の高い大人の美人がマーギンを呼び止めた事に驚いた。


「この人はローズ。お客さんだよ」


「あ、お客さんでしたか。初めまして、妻のアイリスです」


バキッ


「何ふざけた事を抜かしてんだっ。人聞きの悪いっ」


結構本気のゲンコツを喰らったアイリス。ちょっとした冗談なのにこんなに怒られるとは思わなかったのだ。


「で、弟子のアイリスです」


「弟子?」


キョトンとするローズ。


「違う。俺は一時的な保護者だ。まぁ、気にしないでくれ」


「う、うむ、なんかよくわからんが私はローズだ。よろしくな」


ローズはすっと手を出して握手を求めた。


「あっ、はい。宜しくお願いします」


その手をとって赤くなるアイリス。


「で、どうしたの?」


「どこかに出掛ける前で良かった。この前約束をした図書館のことだが」


「ダメだった?」


「いや、大丈夫だ。次の非番が30日になるのだが構わないだろうか?」


「年末に図書館開いてる?」


「問題ない」


「じゃあお願いするね。ちゃんとした服を着ていくだけでいい?」


「それで頼む。30日の朝に迎えにくる」


「了解。お手数掛けて悪いね」


「いや、とんでもない。あと少し聞きたい事があるのだが構わないだろうか?」


「いいけど…」


マーギンはちらっとアイリスの方を見る。これから特訓の予定なのだ。


「急ぎで何処かにいく予定なのか?」


「いや、急ぎではないんだけど、こいつの訓練を外でやろうと思ってね」


「訓練?」


「そう。着火魔法の訓練。こいつは火の適性が高くてさ、その分コントロールが難しいんだよ。家の中でやったら火事になりそうだから外でやることにしたんだ」


「着火の魔法とは訓練が必要なもなのだろうか?」


あー、どうしよっかなぁ。バーナーの魔法は攻撃魔法とも取られかねないから非売品なんだよな。


「こいつは特別かな。火の適性の高さがかなりのものなんだけど魔力コントロールが下手でね」


と、非売品の魔法の事は一応伏せておいた。


「その訓練に付き合いたいと言ったら迷惑だろうか?」


「いや、別に良いけど寒いよ?」


「問題ない。鎧を着て夜の警護に当たることを思えばな。今はコートも着ているから大丈夫だ」


「了解。アイリス、ローズを連れて行くけど巻き込むなよ」


「ひ、人に向かってなんかしませんっ。行くなら早く行きましょうっ」


ローズにも走るよと伝えて門の外へ。あまり他の人には見られたくないので森の中へ進んで行く。



「森の中でやるんですか?」


「そうだなぁ、あっちが明るいから開けてそうだな。そこでやろう」


木も冬支度で葉をすべて落としている。枯れ木ではないが、乾燥していると燃えるかもしれない。マーギンは自分のやらかした事を思い出した。



ー勇者パーティー時代ー


「よし、今日は火の攻撃魔法を…」


ミスティが訓練内容を説明しようとする言葉をさえぎるマーギン。


「知ってるぜ、ファイアボールとかだろ?」


「話は最後まで聞けっ」


「あんなの初級魔法って呼ばれてるんだぜ、せっかくならマーギンオリジナル火魔法とか使いたいよな」


「馬鹿物っ。お前は補助担当と言っておるじゃろうがっ。攻撃せねばならんときだけつかえればいいのじゃ。それに火魔法は気を付けて使わねば…」


「ミスティ、見てろよっ。いでよフェニッーークスっ!」


マーギンがフェニックスと唱えると空中に浮かんだ炎が火の鳥となる。


「きさまっ、何を?何をするつもりじゃっ!」


「焼き払えっ」


マーギンがアニメ映画で見たことがあるセリフのようなものを唱えると火の鳥が森の上を飛び回り炎を撒き散らした。


「ふははははっ フェニックスよ、この世をすべて焼き尽くすがいい」


悪乗りするマーギン。


バキッ


「何をやっとるんじゃ貴様はっ。早く消さぬかっ」


確かに燃え盛る森を見て少しまずかったかなぁと感じたマーギンはミスティと共に水魔法で鎮火していくのであった。


無事に鎮火したあと、ミスティのみならず国の偉いさんからもしこたま怒られ、森の大切さを朝までこんこんと聞かされたのであった。



ーアイリスの特訓開始ー


まだ木が邪魔だな。こいつらを切ってもいいか。薪になりそうだし。


開けた場所に枯れ木が何本か残っている。まるでここだけ酸性雨が振って剥げたみたいだ。


「アイリス、その辺の枯れ枝を拾って焚き火でもしてろ」


「マーギンさんは何をするんですか?」


「この枯れ木が邪魔だから切り倒す」


「マーギン、斧はあるのか?」


「いや、魔道具で切るほうが早いよ」


マーギンは魔道具のチェーンソーを取り出した。エンジンではないのでブァーーーンという音はしない。


バリバリバリっ


「これは凄まじい魔道具だな」


ローズは関心して木を切るマーギンを見ている。


「危ないから離れてて、失敗したらどこに跳ねるかわからないし、向こう側へ倒すつもりでも変な方向に倒れるかもしれないから」


「う、うむ」


近寄ってきたローズに離れろといった後に木を倒す。そして倒れた木を。


ガコンっ


一瞬で木が全部薪になる。


「い、今のはなんだっ」


驚くローズ。


「これは木を薪にする魔法。結構魔力を使うから販売しても使える人少ないだろうね」


マーギンはいくつか拾ってアイリスが火をつけた焚き火に薪をくべる。残りはマジックバッグの中へ。アイテムボックスへいれる方が便利なのだが。


「マーギン、先程アイリスが使った着火魔法は特別なものか?」


「アイリス、お前何使った?」


「ただの着火ですよ」


「だってさ、普通に販売しているやつだよ」


「値段はいくらだっただろうか?」


「着火は50万だよ。それより上と違う種類もあるけどオプションになるよ」


「むむむむっ 少し検討させてくれ」


「はいよ」


きっとお金用意して買いに来るんだろうなぁとマーギンは笑っていた。



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