喧嘩の後始末

「そういうことかい。リッカ、あんたもこっちに来なさい」


自分が原因で父親とマーギンが殴り合いの喧嘩をしてしまったのでとても気まずいリッカはおずおずとこちらにやって来た。


「リッカ、店がこんな事になった原因は自分だと理解しているのかい?」


「だ、だってマーギンが…」


「マーギンが怒ったのはあんたがダッドの料理を粗末に扱ったからだろっ」


「だってマーギンが…」


言い訳をしようとするリッカをギロリンと睨む女将さん。


「ごめんなさい…」


「マーギン、あんたの言ってくれた事は正しい。でもね、成人もしてない子供に怒鳴る事はないだろう。自分の機嫌が悪いからって人に当たるもんじゃないよっ」


「それはリッカが…」


ギロリン


「ご、ごめんなさい。リッカ、怒鳴って悪かった」


「うん…」


「で、ダッド」


「は、はひ」


「あんたは後で別に話しをするから覚悟をおし」


「ま、マーギン…」


マーギンに助けを求める大将。しかしマーギンはツーンと横を向いた。いきなり殴られた恨みは強いのだ。


「で、あんたらはどうしてマーギンに興味をもったんだい?」


「実はですね…」


ロッカは狼に襲われそうになった娘をマーギンが助けた事から話した。


「呆れた。そんな子供にまで手を出そうとしたのっ」


リッカは話を聞いてマーギンは下心があって少女を助けたと早とちり。


「リッカ、人の話の途中で口を挟むんじゃないっ。それにマーギンはお前のなんなのさ?恋人かい?それとも婚約者だとでもいうのかいっ?」


近頃の思春期真っ只中のリッカは傍から見ているとわかりやすくマーギンに対してヤキモチを焼いていることをミリーは理解をしていた。マーギンはリッカを子供としてしか見ていないのが幸いだ。


「そっ、そんなんじゃないわよっ。マーギンの癖に綺麗な女の人が訪ねて来たり、こうやって女の人と待ち合わせたりするからっ」


「マーギンが誰とどうなろうとあんたに関係あるのかい?」


ギロリン


「な、無いけど…」


「なら黙ってなっ」


「お、おいミリー、まさかリッカの奴マーギンの事を…」


ギロリン


「す、すいません…」



「で、ロッカ達はマーギンに興味を持ったと。本当にそれだけの理由かい?違うだろ」


ロッカ達は顔を見合わせる。


「実は、マーギンは収納魔法使いなんじゃないかと思って。どうやったら収納魔法が使えるか知っているなら教えて貰えないかと思ったんです」


「収納魔法?マーギン、あんたそんな伝説的な魔法も使えんのかい?」


ミリーはマーギンが収納魔法を使えることを知っているのに聞いてきた。これは誤魔化せという意味だ。


「使えるわけないだろ」


マーギンはしらを切る。


「ならばどうやって物を収納していたのだ?」


食い下がるロッカ達。


「ちっ… 絶対に人に言うなよ。こいつに入れてたんだよ」


マーギンは背中側に回してあるベルトに付けるタイプの小さなポーチを見せた。


「それはマジックバッグなのか?」


「そう。携帯食とかが入っている」


「他の荷物もなしにライオネルまで行っていたのか?」


「俺の職業知ってるだろ?水とか持つ必要がないんだよ。洗浄魔法も使えるから着替えも不要。あの娘(バカタレ)の荷物を入れると魔結晶の減りが早くなるから本当は預かりたくなかったんだよ」


「そういうことか…」


「絶対に人に話すなよ。俺の店の場所がどこか知ってるだろ?あの辺りでマジックバッグを持っている事がバレたら想像付くだろ」


「確かに。そうか、やはり収納魔法を使える方法はないのだな」


ロッカはとても残念そうな顔をしたがバネッサがマーギンにひょいと顔を近付けてくる。


「な、なんだよ?」


「それどこで手に入れたか教えろよ」


「これは俺の親から受け継いだ物だ。どこで手に入れたかは知らん」


「そっかー、ならマーギンの故郷に行けば入手先わかるか?」


「俺も帰り方が分らんから無駄な考えだと思うぞ」


「あ、そっか」


「もう話はこれで済んだか?」


「あ、あぁ。今回は本当にすまなかったな」


「もう済んだ事だからいいよ。女将さん、店壊しちゃったから片付け手伝うよ」


「当たり前さねっ」


話は一通り済んだということで、星の導き達を帰らせて、マーギン達は店内を片付けるのであった。


片付けが終わった後に大将と少し飲む事に。このまま寝室に戻ると女将さんの説教が待っているので女将さんが寝てしまうまで一緒にいてくれと頼まれたのだ。


「おいマーギン」


「なんだよ」


「悪かった。お前が俺の作った料理の為に怒ってくれたと聞いた時は嬉しかった」


「なら、初めから話を聞け。いきなり殴られたらこっちもムカつくだろうが」


「だから悪かったって。それよかお前、俺が腹を殴った時に何しようとした?まさか俺を殺すつもりだったんじゃねーだろうな?」


「俺が本当に殺すつもりなら魔法でズドンと一発で殺れるんだぞ」


「なら、あれは何をしようとしたんだ?」


「あれはバフ、つまり身体強化魔法ってやつでね、身体能力を何倍にもする魔法だ。あのまま殴られたらたまらんと思ったから身体を強化したんだよ」


「ほう、そんな魔法もあるのか」


「大将は現役の頃、極限まで集中した時に相手の動きがゆっくりに感じたりしたことはなかったか?」


「おぉ、あるぞ。少しでも気を抜くと殺られると覚悟を決めた時はそんな感じになることがあったな」


「それがバフだよ。無意識に身体強化魔法を使ってんだよ」


「何っ?」


「人はみな魔力を持ってるから魔法は使えるんだよ。やり方がわからないから発動しないだけで」


「本当かそれ?」


「例えば力が無くても剣で硬い木をスパッと切れる人とかいるだろ?」


「剣豪とか呼ばれる奴はジジイになっても出来るな」


「同じ剣を使って素人が同じように出来るか?」


「そんなもん無理に決まってんだろうが」


「それと一緒。俺はそれなりに剣も使えるけどそんな芸当は出来ない。だけど剣の扱い方を正しく知っていれば出来るようになるかもしれない。魔法も同じだよ。魔力値の高い低いの違いはあれど魔力そのものは皆同じものだ。どうやって使うかがわかんないだけなんだよ」


「それを可能にするのが魔法陣の転写ってことか?」


「そう、魔法陣を通して使えるようにするんだ。それと魔法適性ってのは運動能力みたいなものだね。ダッシュは得意だけど長距離を走るのはダメとかあるだろ?」


「なるほどな…」


「但し、光属性と闇属性は適性、つまり才能が無いと発動しない。こればっかりは努力云々でどうにかなるもんじゃないんだ」


「光属性の魔法ってなんだ?」


「治癒魔法と防御魔法」


「お前使えんのか?」


「一応ね。ただ俺は病気を治す事は出来ない。病気を治すにはどんな病気か、その病気は何をどうすれば治るのかを知ってないとダメなんだよ。だから俺はタバサを救えなかった…」


「そうだったのか…」


「そう。病気を治癒するには医術の勉強が必要だね。その肝心の医術もあまり発達していないから俺にはどうしようもないんだ。俺に出来るのは怪我の治癒と痛み止めとか熱を下げるとかだけだ。熱を下げるのも良くない場合もあるからやらないけど」


「なるほど。闇属性はなんだ?」


「デバフと空間操作。さっき言ったバフは身体能力向上だけど、デバフは身体能力を下げたり、状態異常を引き起こす魔法。敵に麻痺や強制睡眠とか相手を不利にさせるものだ。ちなみに収納魔法も闇属性になるし、その中でも一番高度なのは転移魔法」


「転移魔法だと?お伽噺の魔法が本当に存在するのか?」


「する。転移する距離に応じて膨大な魔力が必要になるし、転移する場所を知っていてそこを指定する必要があるけど」


「まさかそれも使えんのか?」


「使えなくはないけど使わない。俺は転移すると転移酔いするんだよ」


「転移酔い?」


「乗り物酔いのもっと酷いやつ。転移した後、暫く動けなくなるぐらい。転移した先に敵がいたらどうしようもなくなるからね」


「そりゃぁダメだな」


「でもね、平気な人もいるんだよ。他のメンバーは皆平気だったからね。」


「さすがは勇者パーティーってことか」


「そうだね。みんなそれぞれ凄かったよ」


「で、お前も凄かったと」


「そ、俺は天才だからな」


「はん、その天才様も無知なのはいただけねぇけどな」


「無知?何がだよ」


「お前がマジックバッグだといったポーチの事だ」


「なんかおかしかったか?」


「マジックバッグてのはな、元になるバッグの2〜3倍しか入らんものだ。そのポーチだと3倍入っても知れてるだろ?」


「そうなの?でもこのポーチでも店にあるテーブルとか全部入るぞ。というか倉庫一つ分ぐらい余裕で入るんだけど?」


「は?」


「これに入れたら取り出すのにゴソゴソ探さなきゃならんからマジックバッグとしては使ってないけどな」


「おっ、おまっ、そんな代物どこで手に入れたんだっ」


「どこでって… 俺が作ったに決まってんじゃん」


「は?」


「あれ?言ってなかったっけ?俺は魔道具開発とかもやってんだぞ。便利魔道具を仲間と一緒にあれやこれや開発してたんだよ。仕事というより趣味に近かったけど」


「お前そんな事も出来やがるのか… 誰かそのこと知ってんのか?」


「どうだろ?大将が知らないなら言ってないかも。欲しい魔道具があるなら作ってもいいけど魔結晶の確保とか大変だよ」


「魔石じゃダメなのか?」


「ミキサーとか簡単な魔道具ならいいけど、食器洗浄機とかは複数の属性を混ぜて使うから魔結晶じゃないと頻繁に交換しないとダメだから面倒臭いよ。それとマジックバッグは純度の高い魔結晶じゃないと使い物にならない。この時代の魔物は魔結晶の純度も低いし小さいからマジックバッグにしても容量は限られてくるよ」


「昔の魔物とそんなに違うのか?」


「今の魔物肉って血抜きしたら普通に食べられるだろ?」


「当たり前じゃねーか」


「俺がいた時代の魔物って、瘴気を抜かないと食えなかったんだよ」


「瘴気?」


「濃度の高い魔素といった方がいいかもしれない」


「魔素ってなんだ?」


「魔力の元になるものだよ。空気の中に含まれてる。魔素は魔力を持つものにとって必要なものなんだけど、濃度が高すぎると毒になるんだ。特に魔力値の低い人ほどその影響が出る。魔物の弱点に魔核ってあるの知ってる?」


「おぉ、強ぇ魔物にはあるな」


「魔物が死ぬとその魔核が魔結晶になるんだよ」


「そうなのか?」


「そう。だから魔核を潰して魔物を殺すと魔結晶が取れなくなるし、魔核が壊れることによって瘴気を放って毒になるんだよ」


「知らなかったぜ…」


「知らないのも当然かも。昔の魔物は肉にも瘴気を溜め込んでいたからね。だから魔結晶も純度が高いし大きかった」 


「そんなに違うのか?」


「例えばこの魔結晶は何から取れたか分かる?」


マーギンが取り出したのはゴルフボールぐらいの魔結晶。黒に近いような赤色だ。


「なんだこの色は…」


「高純度の魔結晶はこんな色をしてるんだよ。ここから魔力が減っていくと見慣れた色になっていくだろ」


マーギンは魔結晶から魔力を抜いていくと段々とルビーの様な赤色に変化していく。


「な、何をしたんだ?」


「この魔結晶から魔力を抜いたんだよ。マジックドレインって魔法。元々は魔物肉を食肉にするのに使う魔法なんだけどね」


「何っ、その抜いた魔力はどこいった」


「魔素となって空気の中」


「つまり魔力を捨てたってことか?」


「まぁ、そうだね」


「こんな希少な魔結晶をなんて勿体ないことをしやがんだ…」


「こんなの死ぬほど持ってるから気にすんなよ」


「は?」


「これ魔狼の魔結晶なんだよ。魔法を覚えたての頃は魔結晶が取れるのが嬉しくて、魔狼を討伐したら全部集めてたんだ。そのうちキリがないから集めなくなった。もっとデカイのは取るようにしてたけど」


「もっとデカいのもあるのか?」 


「見る?」


マーギンはアイテムボックスからドスンと両手で抱えきれない程の魔結晶を取り出した。


「すげぇだろ。これは魔族領にいたデカいトカゲの魔結晶なんだよ。こいつにウジャウジャ囲まれてさ…」


「待て待て待て待て待てっ。デカいトカゲってなんだ?こんな魔結晶を持つようなデカさのトカゲがいてたまるかっ」


「いや、居たんだよ。デカいくせに動きも結構速くてね、初めは一匹ずつ倒してたんだけど、囲まれた時に雷魔法でビッシャーーんってやってやったんだよね。それでも死ななくてさ、マーベリックとガインが動けなくなったトカゲをバッサバッサ斬っていったんだ」


その時の事を楽しそうに話すマーギン。


「これもいっぱいあるけど欲しい?」


「いや、いらん…」 


王族でも持っていないような魔結晶をゴロゴロ持っているマーギンに大将はなんとも言えない気分になるのだった。



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