マーギン怒鳴る

ローズと別れた後、20時にリッカの飯屋に向った。


「綺麗所が3名お待ちでーす。あちらの席にどーぞー」


やって来たマーギンにつっけんどんなリッカ。


「なんだよ?」


「別にー、あちらにどーぞー」


なんだよリッカのやつ?

無愛想なリッカにブツブツ言いながら星の導きが待つテーブルへ。


「おっ、ちゃんと来てくれんだな」


「来ないとお前ら付き纏うつもりだったろ?」


「はははっ、正解だ。詳しい話は後にして先ずは飲もう。リッカちゃん、一番高い飯と酒を持ってきてくれ」


「ん?リッカの事を知っているのか?」


「この店はハンターならみんな知っている。私達も駆け出しの頃はよく来ていたからな」


確かにここは大将も女将さんもハンター出身だから客もハンターっぽいやつが多いんだよな。


「マーギン、あんたロッカ達と知り合いだったのかい?」


取り敢えずのつまみを持ってきた女将さんはマーギンに知り合いがいたことに驚く。


「いや知らん」


「はははっ、ミリーさん。私達が無理やり誘ったんだ。これから知り合いになるところだよ」


「へぇ、マーギンなんかになんの用があるんだかねぇ」


マーギンなんかとか酷い言われようだ。


「お酒どーぞー」


ドンッ


リッカは持ってきた一番高いワインを無造作にロッカの前に置いた。


「リッカちゃん、どうした?随分とご機嫌斜めだな。私達が久々だから怒ってんのか?」


「怒ってなんかいませーん」


ドスッ 


次にびちゃっとこぼれるぐらいの勢いでマーギンのまえにコップに入った安酒を置いた。


「おいおい、マーギンに安酒なんて頼んでないぞ」


「この人にはこれで十分なんですー。お金持ってない人なのでー」


「いや、支払いは私達が…」


「俺はこれでいいから。そっちのボトルはお前たちで飲んでくれ」


「しかし…」


「気にすんな。俺はこれが好きなんだよ」


「そ、そうか。なら私達はこれを飲むとしよう」


シスコが二人に注いだ後にロッカがシスコに高級ワインを注いだ。


「では、出会いに乾杯」


ロッカが乾杯の音頭を取り3人は乾杯したがマーギンは乾杯に参加せずに、コップの上でくるっと指を回して口を付けた。


「そんなに警戒しないでくれると有り難いんだが…」


乾杯にも参加せずに無表情で安酒に口を付けるマーギンにロッカ達は顔を見合わせる。


「お前、さっきコップになんかしたよな??」


バネッサがマーギンの仕草を見て気になったようだ。


「別に、俺の生まれた故郷だと日々の糧に感謝してこうするんだよ」


「故郷ってどこ?」


「お前の知らない国だ」


「へぇ、なんて国?」


「遠く離れた島国だよ」


「どうやってこの国に来たんだ?」


「お前なぁ、そんなの知ってどうすんだよ?」


「ほら、うちら異国に行った事がないからさ、なんか興味があんだよ」


「俺みたいな黒髪黒目が普通にいる国だよ。ここにどうやって来たかはあまり記憶がない」


「マジで?記憶そーしつってやつ?なんかに襲われて頭を打ったとか?」


「だから覚えてないんだよっ。お前らそんな話を聞く為に俺を誘ったのか?」


どんどん不機嫌になるマーギン。


「バネッサ、人の過去を検索しないのはハンターの常識だろ?いい加減にしな。マーギン、悪かったね。バネッサに悪気は無かったんだ。単にお前に興味があっただけだ」


「その、俺に興味があるってどういうこったよ?俺が何かしたのか?」


マーギンと星の導き達のやり取りを見ていた女将さんは大将に報告をしに行く。



ー厨房ー


「は?あいつらマーギンに絡んでんのか?」


「いや、あの娘達は普通に話している感じなんだけどさ、マーギンがいつにもなく不機嫌なんだよ。なんかあったんじゃないかと思ってね」


「そうか、ちょいと様子を見ておいてくれ、こっちが一段落したら見に行くからよ」


「そうしておくれ。そのうちマーギンが怒鳴りそうな感じだよ」


「わかった」



ー店内ー


「あーーっ、これ安酒じゃねぇっ。めっちゃ旨ぇ」


女将さんが大将にマーギン達の事を話している時に事は起こった。バネッサがマーギンのお酒を奪って口を付けたのだ。


「返せよっ」


「なぁ、これどうやったんだ?指でくるっと回してたのが関係してんのか?魔法?なぁ魔法か?これも販売してんのかっ?」


マーギンが酒を奪い返した後にバネッサがマーギンの腕に手を回してしつこくこれはなんだと聞いていたのだ。


「ご注文のお料理でーす」


ドンッドンッドンッ


その時にリッカが料理を運んできた。


ドンッ ビチャッ


「おいリッカ、こぼれただろうがっ」


マーギンにだけいつもの賄を出したリッカ。酷い置き方をした為にビチャッとこぼれてマーギンに掛かったのだ。


「あら、すいませーん」


「おいリッカ」


「ふんっ、あんたならすぐに綺麗に出来るじゃないっ」


「馬鹿野郎っ」


マーギンは大声をあげた。


それまで騒がしかった店内がシーンとなる。


「なっ、何よっ謝ったじゃないっ」


初めてマーギンに怒鳴られて涙目になるリッカ。いつも怒らせるような事を言っても叩いたりしても怒る事はなかったのだ。


「服が汚れるとかで怒ったんじゃないっ。賄とはいえ大将が丹精込めて作った料理を粗末にすんなっ」


「なっ、なによっ。マーギンの癖に偉そうにっ」


そう捨て台詞を残したリッカは目に涙を一杯溜めて奥へ走り去ってしまった。


「なんか悪かったな…」


その様子を見ていたバネッサが謝る。


「何がだよ?」


「ほ、ほら。うちがあんたにくっついてたからリッカちゃんが誤解しちゃったんじゃねぇかなーって…」


「誤解?お前がしつこくこれは何だと聞いてきたこの状況を何と誤解すんだよ?」


意味が分からないマーギン。


「マーギン、私達の事は後でいいからリッカちゃんの所に行ってあげなよ」


ロッカがマーギンにリッカの所に行けと促す。マーギンも怒鳴るつもりはなかったが、リッカの悪い態度と興味があるということだけで呼び出された事にイラ付いていたのもあり、つい怒鳴ってしまったのだ。


「悪いのはリッカだろ?」


「いいから行ってあげなよ」




厨房に駆け込んだリッカは大声で泣き出した。


「ちょっと、どうしたんだいっ」


「マーギンの癖にっ、マーギンの癖にっ」


そう言いながらうずくまって泣くリッカ。女将さんがリッカをなだめている間に大将がマーギン達のテーブルの所へ。


「やい、マーギン。お前ぇリッカに何しやがったっ」


バキッ


有無を言わさずマーギンを殴る大将。


「ちょっ、ちょっ ダッドさん。リッカちゃんが泣いたのには理由が…」


慌てて止めようとするロッカ達。


「やりやがったなてめぇーっ」


ボクッ


いきなり殴られたマーギンは大将を殴り返した。


「はんっ、そんな甘っちょろいパンチが効くわけねぇだろ。リッカを泣かす奴はマーギンだろうと容赦はしねぇ。死にやがれっ」


目に入れても痛くないほど娘を可愛がっている大将。マーギンが謝るならならまだしも泣かしておいてその上反撃してきたことにブチ切れた。


大将にボコンボコンに殴られ、殴り返そうと暴れるマーギン。どっちゃんがっちゃんと店内は大荒れだ。


「死にやがれっ」


ドスンっと強烈な一発を腹に食らったマーギンははぁぁぁっと自分にバフを掛けた。


「ダッド、えんめぇぇっ覚悟しやがれっ」


まるでマーギンからオーラが出ているようなものに気付いた大将。


「てっ、てめぇ」


大将は今のマーギンが強烈に強い魔物と同じ様な殺気を放っていると感じて後退りをした。


バシャッ


「あんた達っ、店の中で何やってんだいっ。いい加減におしっ」


あわやという所で女将さんが二人に水をぶっかけた。


「ミ、ミリー、こ、これはマーギンがリッカを泣かせた癖に反撃してきやがって…」


ミリーに怒鳴られて戦意喪失のダッド。


バキッ


「お黙りっ」


それを見て我に返るマーギン。


「ちょ、ちょっと女将さ…」


バキッ


「あんたも何やってんだいっ。やるなら外でやりなっ」


マーギンもダッドも女将さんに殴られて騒動は収まった。リッカ食堂バトルのウィナーは女将ミリーだった。



店内がグチャグチャになってしまったので他のお客さんにはお詫びとしてお代は不要だと伝えて帰ってもらうことにしたのだった。ここに来ているのはハンターやハンター崩れが殆ど。この様な騒ぎに怒る者はいない。それどころかダッドを後退りさせた奴すげぇなとか楽しそうに話し合い、今日の飲み食いが無料になったことを喜んで帰って行った。


星の導きパーティー以外全員帰った後に、マーギンと大将は女将さんに正座させられてガミガミと怒られていた。


水を掛けられたマーギンは寒さのあまりこそっと魔法で乾かそうとして反省してないと尚も怒られる。


女将さんのお怒りが少し静まったのを見計らってロッカが事の顛末を話したのであった。

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