フェアリーローズその2

ローズは身の上話を始めた。


「私の家は元々木こりの家系だったようでな。王国建国の際に材木提供で大いに貢献したらしく貴族として取り上げて貰ったようだ」


「そんな昔からある家系だと名門だね」


「ふっ、名門か… 確かに古くから貴族ではあるが領地を持たない貧乏男爵家であるのは間違いない。ハンターがぽんと払える100万Gも私に取っては大金だからな」


「貴族ってみんな金持ちって訳じゃないんだな」


「そうだな。貴族給という家に支払われる金はそこそこあるのだが、出ていく金も多いのだ。それに爵位を継がぬ者はそれぞれ職に付いて働かねばならん。支払われる給金も上に上がらねば庶民と差ほど変わりはない」


「へぇ、そうなんだね」


ミスティと俺以外の勇者パーティーは貴族だったからめちゃくちゃ金持ってたけど、皆がそういうわけでもないのか。


「生業であった材木も各領主が扱うようになり、我家の存在意義はすでに失われてしまっていてな、その代わりにと言ってはなんだが、斧の代わりに剣の扱いに長けた者が多く出た事から騎士の職に就くものが多いのだ。私の2番目の兄も弟も騎士職に付いている」


「で、ローズも騎士になったのか」


「私は15歳から騎士見習いになり、同期や後から入った男の見習いがどんどん正騎士になっていくなか、私は見習い期間が長かったのだ。そして去年ようやく正騎士になった」


「実力で同期に抜かされたのか?」


「いや、女だからという理由だと思う…」


「そりゃ悔しいな」


「だが、私はやっと騎士になれたのだ」


「良かったじゃん」


「しかし、実際に騎士になってみると、やはり男の騎士にはなかなか敵わなくてな… 女だから騎士になれないのだと思っていたのだが、やはり実力が足りなかったのかもしれん…」


自分が女だからと差別されて来たと思っていたのが男の騎士との差を実感したのか、ローズは目を伏せた。


「まぁ、同じように努力している男と腕力で勝負したら分が悪いのは確かだね」


「やはりそうか…」


「でも勝負は腕力だけで決まるもんじゃないからな。騎士の武器ってロングソードしかダメなのか?」


「いや、槍持ちもいるし決まりはないが、剣はロングソードが一般的だ」


「他に女性騎士はいる?」


「いるが、どちらかと言うと女性貴人の警護というか世話係みたいな役目に就く。後は見目の良い物は庶民へのイメージアップとかだな」


騎士の広報担当みたいなもんか。


「ローズはお飾り騎士ではなく、本当の騎士になりたいんだな?」


「そうだ」


ローズは美人だ。恐らく仲間からマスコットになれと言われても拒否してきた影響でなかなか騎士になれなかったのだろうと推測される。


「別に武器に決まりがないなら、レイピアかサーベルでもいいじゃん」


「店主は武器にあまり詳しくないようだから言っておくが、レイピアでロングソードの攻撃を受けるのは無理だ。それに長い分扱いが難しいのだ。敵が鎧を着ていると刃が立たない事も考えられる」


「ローズは騎馬に乗る?」


「いや、騎馬隊は別だ。私の目指す部隊は要人警護になる」


「なら、こういう武器はどうだ?」


マーギンは少し変わったレイピアの様な剣をアイテムボックスから取り出した。


「い、今のどこから…」


「それは詮索なしね。で、これを騎士隊の中で使ってもいいならあげるよ」


「こ、これは…」


「昔俺が使ってたやつ。重心が手元にあって実際の重さより軽く感じるやつでね。剣先だけ両刃で殆ど片刃なんだよ。これを使う時は相手の攻撃は受けずに避けるか流すのが基本なんだけど、どうしても受けざるを得ない時は刃の無い側で受ければいいんだ」


「軽い…」


「だろ?で、特性の違う鉄を組み合わせて打ってあるからよく斬れるし折れにくい。」


これは勇者パーティー時代に作ってもらった剣だ。魔法の方が攻撃力が高く、剣が扱えなくても欲しくなるのは厨二病の性(サガ)だ。


「美しい剣だな…」


「そうそう、刃紋ってやつなんだけどね、鍛冶師によって異なる刃紋が出て…」


マーギンは昔鍛冶師から得た知識をさも、持論のようにベラベラと得意げに話す。


「店主よ」


「あ、俺の名前はマーギンね」


「うむ、ではマーギン、このような高価そうな剣を貰うわけにはいかない」


そう言ってローズは返してくる。


「高いとか気にしなくていいよ。他にもあるし、それは俺がまだ大人の身体になる前のやつだから。ちょうどローズと同じぐらいの身長の時のやつだからぴったりだろ?」


「しかし…」


「いいのいいの、こいつもずっと仕舞われているより、ちゃんと使ってくれる人に持っててもらうほうが嬉しいだろうから。それが美人なら尚更だね」


「本当にいいのか?」


「いいよ。ローズの努力に対してのご褒美だ」


マーギンは分野こそ違うとはいえ、馬鹿にされながらも自分の夢に向って努力をし続けているローズにミスティと同じようなものを感じていた。


ローズは渡した剣で軽く素振りをした。


「まるで私に誂えたような剣だ… 凄く馴染む」


「武器には相性ってのがあるからね。あとこの鞘には洗浄魔法と研ぎ魔法が付与されているからいつでも斬れ味バツグンだよ」


「なにっ?そんな事が出来るのかっ」


「それは内緒ね。洗浄魔法と研ぎ魔法は販売しているけど、付与した道具は販売していないから」


「マーギン、お前は一体…」


「で、水を出す魔法のオプションはどうする?」


何か突っ込まれる前に仕事の話に戻すマーギン。


「あ、あぁ、そうだったな。温度調整機能は是非欲しいところなのだが…予算がな」


「俺のお願いを聞いてくれるなら無料にしてもいいけどね」


「お願い?」


「そう。無理にとは言わないし、剣をあげたからといって無理強いするつもりもない」


ローズは閉めた店で二人きりなのを思い出し少し身構えた。


「べ、別に脱げとか言うつもりはないから」


それを察したマーギンは慌てて両手を振る。


「ま、まぁ、私のような可愛げの無い女にそのような事を言うわけがないな」


「いや、脱いでくれるなら喜ぶけど…」


そう訂正したらキッと睨まれた。


「じょ、冗談だよ。実は貴族なら地図を持ってないかなと思ってね」


「地図?王都のか?」


「いや、近隣というか大陸というか大きな地図。庶民街の図書館とか探したんだけど、地図って置いてないんだよね」


マーギンはここがどこなのか位置を知りたかったのだ。石化してからどう移動したのかまるで分からない。大まかなもので良いから大陸の形と位置が分かればいいなと思っていた。星の位置からすると召喚された場所とあまり変わらないはずなのだ。


「大陸地図か… 貴族街の図書館にはあるが軍事機密にも当たるので持ち出しは禁止だ。閲覧にも保証人が必要となってくる」


「そっかぁ、なら難しそうだね」


「マーギン、私が保証人になって地図を見られたらオプションは無料になるか?」


「俺は異国人だけど大丈夫?」


「家の馬車で迎えに来れば貴族街には調べられずに入れる。ただ…」


「あと何かある?」


「もう少し正装というか、身なりの良さそうな服は持っているか?」


マーギンが着ているのはド平民の服だ。


「貴族っぽい服ならあるよ。昔のだけど」


「流行は気にしなくてよい。身なりがきちんとしていれば怪しまれずに済むから問題はない」


「迷惑掛けない?」


「バアム家の客人ということにするから問題ないだろう」


「わかった。じゃそれでお願い。オプション付けて100万Gでいいよ」


「ではこれで頼む」


ローズは大金貨10枚で支払いをした。大金貨なんて庶民は持っていない。やはり貧乏とはいえ、貴族なんだなとマーギンは思っていた。



「はい、完了」


「これで温度機能も付いたのだな」


「そう。ちゃんと使えるようになるのに下準備がいるから」


マーギンはそういって、5つのコップに温度別に水を注いでいく。


「これが熱湯、熱い湯、湯、ぬるま湯 冷水。それぞれに指を漬けて温度を実感して。熱湯は火傷するかもしれないけど大丈夫だから」


ローズに冷水から順番に水に指を漬けさせる。


ローズが最後の熱湯に指を漬けた時に


「熱いっ」


と叫んだ。マーギンは即座に火傷したかもしれない指先に治癒魔法を掛けた。


「これで完了。それぞれ温度別に水が出せるから」


水を出す魔法の詠唱がソフトウォーターに対して、熱湯とかが英語でないのは中2で召喚されたマーギンの語学力の無さを露呈していた。


「凄い…」


「だろ?ついでに氷水も炭酸も出せるようにしておいたからな」


「え?」


「フルオプションにしておいたよ。手間は同じだからね」


「い、いいのか…」


「今日だけで水を出せる魔法が2つ売れたからね。これ以上今年の売上が上がると税金が高くて大変なんだよ」


「そ、それならばありがたく…」


「ちなみに水コップ一杯分は魔力を1使う。熱湯や熱い湯は魔力値を2使う。魔力の回復力は人によって異なるけど、24時間あれば魔力が枯渇していても殆どの人が全回復する。魔力が残り2割を切ると疲労困憊で立てなくなり、1割を切ると気絶するからね。だから1度に出せる水はコップ80杯、熱湯なら40杯かな」


「そうなのか。前の店で買った水を出せる魔法も同じぐらい出せたのか?」


「いや、1/10以下だったと思うよ」


「旨い上に10倍以上たくさん出せるのか?」


「そ。それを考えると10倍の値段でもお得だったろ?」


「勿論だ。勇気を出してこの店を訪ねて良かった」


「勇気?」


「えっ、あぁ、場所が場所だけにな… っと、すまない」


「そりゃそうだ。しかし異国人の俺には居心地の良い場所だからな。こうしてたまーに魔法書が売れてくれるだけで生活が出来る」


「マーギンならもっと稼げるのではないのか?何なら私が仲間にも宣伝を…」


「いや、宣伝してくれなくていいよ。あんまり目立つと厄介な事に巻き込まれるだろ?」


そう、一目で異国人だと分かるものが潤っているとやっかみを買いやすいのはローズにも即座に理解が出来た。


「わかった。しかし、誰かにこの魔法の事を聞かれたらどうすれば良い?」


「信頼出来る人なら教えても問題ないよ。但し、割引はしないけどね」


「わかった。私も割り引いてもらえた事は秘密にしておこう」


「俺もローズの名前は秘密にしておくよ」


そう笑うと真っ赤になってぽかぽかと頭を叩いて来たのであった。



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