馬鹿者との出会いその3

「お前、もうへばったのか?走ってないぞ」


「走ってますっ。もう無理です。休憩させて下さい」


ゼーハーゼーハーしながら休みたいと言い出した少女。


マーギンにとっては早足で歩いたスピードでも少女にとってはマラソンのようなスピードだ。走り続けて1時間程過ぎた頃に少女は音を上げたのだった。


「ちっ、しょうがねーなー。5分休憩な」


「むむむむ無理無理無理ですっ。5分だけなんて無理ですっ」


「あと少しで町だろうが」


「無理なものは無理なんですっ」


マーギンのあと少しは10キロ程ある。このペースで行くと夜明けぐらいに到着するのだ。


しかしマーギンはここから急いでもそんなに変わらないかと思い、ゼーハーが収まらない少女を休ませる事にした。


ゴクゴクゴク


休息の時にマーギンはコップに水を出して飲む。


「私にもお水下さい」


「水筒出せばいいのか?」


マーギンは預かった荷物から水筒を出そうとすると、


「もう私の水筒には水は入ってません。全部飲んじゃいましたから」


は?


「お前、俺が居なかったらどうするつもりだったんだ?」


「朝起きたらどこかで水場を探そうと思ってたんです」


「お前なぁ… 野営していたところから次の村まで街道に水場なんてないんだぞ。あるとすれば森の中まで入って探さにゃならんだろうが」


「み、水場ぐらいすぐに見つかりますよ」


そうニッコリと笑う少女。


ダメだこりゃ… 俺がたまたま通り掛からなかったらあそこで狼に食われていたか森でなにかに襲われて死んでたかの違いじゃねーかよ。


「じゃ、すぐに見付かりそうな水場を探して来い」


マーギンはそう言って取り出した水筒をポイッと投げて渡した。


「えっ?」


「え?じゃない。水場なんてすぐに見付かるんだろ?さっさと探しにいけ」


「こんな暗いのに見付けられるわけないじゃないですか」


「ならこいつを貸してやる」


マーギンは手に持つ魔道ライトを渡した。


「今から本当に探しに行けって言うんですか?」


まさか本気で行けと言ってるんじゃないよね?ときょとんとした顔の少女。


「すぐに見付かるんだろ?それ、魔結晶が残り少ないかもしれんから途中で消える可能性もあるからさっさと行った方がいいぞ」


それに対して真顔のマーギン。


「ほ、本当に行けって言ってます?」


なんか本気で言われているような気がしてきて青ざめる少女。


「お前がすぐに見付かると言ったんだろ?俺は水場があるかどうかも知らん場所でそんな無謀な賭けは怖くて出来ないけどな」


マーギンは本気の顔でそう答えた。


「私に死ねって言ってるのと同じことですよそれっ」


「あのなぁ、お前が一人での移動を舐め腐ってるからだろうが。安全と水の確保は移動の基本中の基本だ。それにお前はすでに死んでてもおかしくなかった事を理解してんのか?」


「しょ、しょうがないじゃないですか… 馬車に乗るお金も足りなかったし、知らない道だったんですから」


ブスッとそう答える少女。


「ならライオネルで馬車代稼ぐとか、王都までの道程を調べてどの時間に出たら大丈夫かぐらい調べられただろうが。王都に着けばなんとかなるっていうのも甘い考えなんじゃないのか?人生舐めすぎだお前」


「な、舐めてなんかいませんっ。何よっ、私がこれまでどんな思いをしてここまで来たのか知らないくせにっ」


「そりゃ、知る気もないからな。それにどんな思いをしてこようがお前がどれだけ愚かな旅をして来たかには関係がないだろうが」


「そんな冷たい言い方をしなくてもいいじゃないですかっ」


「冷たい云々じゃない。ライオネルから王都までの馬車代って1万Gぐらいだろ?その金すら持ってないお前が次の町に到着しても食物とかどうすんだよ?王都に着くまでの食料持ってんのか?」


「ほ、干し肉ならあと少し残ってます…」


「なら、大事に食うんだな。お前の足じゃ王都まであと最低でも2日は掛かる。それまでに餓死しなきゃいいな」


冷たく言い放ったマーギンの言葉に少女はボロボロと泣き出した。


「だってしょうがないじゃないですか…」


ったく…


「500G」


泣いた少女にマーギンはそう言った。


「グスっ グスっ 何ですか500Gって…」


「水代だ」


「た、高いですっ」


「嫌なら一か八かで森の中に水場を探しに行け」


少女は森の方へチラリと目をやる。ここでも十分に暗いのに森側は深紅の闇だ。少女は鼻をズズッとすすって銅貨5枚をマーギンに投げつけた。


失礼な払い方をするやつだ、まったく。


「ほれ、500Gの水だ。心して飲め」


コップを渡され、高い、ボッタクリだとブツクサ言いながら水を飲む少女。


「これは自分で持っとけ」


マーギンは水筒に水を満タンにして渡した。


「あ、中身が…」


「飲んだら行くぞ」


「も、もう行くんですか」


「このままじっとしていたら身体が冷えて動けなくなるだろうが」


季節は12月初旬。夜はかなり冷え込んでいるのだ。


そしてマーギンは有無を言わさず、先程より少しスピードを落とした早足で歩くのだった。



結局、昼前に町に到着。


「いいか、今日はここの広場でテントを張って寝ろ。他にもテントを張る奴がいるからその近くで張れ。それも男だけのテントのそばじゃなく、女がいるテントの近くだ。なるべく人目の付く場所がいい。そして明日になれば王都行きの商人の馬車に荷降ろしを手伝うから乗せてくれと頼め」


「え?」


「え?じゃない。お前の足じゃ朝に出発しても日暮れまでに次の村に到着出来るとは限らんだろ。出発前に水の確保はしとけよ」


マーギンは少女にそう言い残して荷物を返した。


「あなたはどうするんですか?」


「俺はもう出発するんだよ」


「わ、私を置いて行くんですか?」


「当たり前だろ?もう安全確保の目処は付いて俺が一緒にいる必要がないんだからよ。じゃな」


「あっ…」


マーギンはとっととこの町を離れたのであった。今日中に次の村でじゃがいも農家の爺さんの所に干物とかのお土産を持って行きたいのだ。



マーギンはその日の日暮れ前にじゃがいも農家の老夫婦の家に到着。


「すいませーん」


「おやおやおや、もう帰って来たのかい」


出迎えてくれたのはおばあちゃんだ。


「欲しいものは手に入れたからね。お土産たくさんあるから食べて」


「まぁ、こんなにいいのかい?」


「漁師の頭と知り合いでね。たくさん分けてもらったんだよ。一人じゃ食べ切れないからおばあちゃん達で食べて」


「ありがとうよ。干物も買うと高いから楽しみに食べるよ。今晩は泊まっておいき」


「じゃ、そうさせてもらおうかな。じっちゃんは?」


「王都に納品に行ってるからもう帰ってくるよ。ささ、中にお入り」


おばあちゃんに今晩のご飯は俺が作るよと言って鴨鍋の準備を始めた頃に爺さんが帰ってきた。


「おおー、来とったのかね。お帰りお帰り」


マーギンの訪問をニコニコと喜んでくれる爺さん。


「納品お疲れ様。今晩は鴨鍋だよ」


「そりゃぁ、豪勢だのう。ばぁさん、ワインを出してくれんか」


「はいはい、いいですよ」


「酒なら持ってるやつがあるからそれを飲もうか。今日の鍋にはワインより合うと思うから」


マーギンが作るのは鴨のすき焼きだ。醤油を使うとワインにはあまり合わない。勇者パーティー時代にミスティと一緒に酒の開発もしていたので芋焼酎とかがあるのだ。


芋焼酎をお湯割りにして二人に渡す。


「ほう、癖もあるが病みつきになるような風味じゃの」


「この鍋と合うと思うよ。さ、食べて食べて」


二人は黒い鍋に戸惑いながら口にする。


「おほーっ、旨いのぅ」


「ほんに、甘じょっぱくて鴨の風味とネギが美味しいのぅ」


二人は大喜びだ。鴨は旨いが買うと高いし、狩るのも結構難しい獲物なのだ。



その後、マーギンも食べ始めて3人で旨いねぇと言いながら夜ふかしをしたのであった。



ー前の町に残された少女ー


他の人のテントの近くでテントを張れとか偉そうに言ってましたけど、他の人から離れていた方が気楽じゃないですか。


ブツクサ言いながら他の人のテントから離れて設営していた少女はテントの前で焚き火をしてお湯を沸かし、夕食に残り少ない干し肉を口の中でふやかして食べていた。


全然食べ足りません…


育ち盛りの少女は名残惜しそうにごくんと干し肉を飲みんこんだ後にお腹がぐーっと鳴ったのであった。


「随分と寂しい飯食べてるじゃないか」


そんな時に男が声を掛けてきた。


「何か用ですか?」


「まだ腹減ってるなら俺達の所で一緒に食うか?」


「え?」


「煮込み料理で良かったらまだあるぞ」


「あ、あの… 私お金持ってません」


マーギンに水下さいと言ってお金を取られた少女は料金を請求されると思ってそう言った。


「ばっか、金取れるような飯じゃねぇから支払いなんかいらねーよ」


「い、いいんですか?」


「はははっ、いいっていいって。袖すり合うも他生の縁ってやつだ。若い女の子が侘しい飯を食ってたのが可哀想になってな。ほら付いて来い」


「はいっ」


何か食べさせてくれると聞いて喜んで付いていく少女。


離れた所に設営されたテントからは賑やかな声が聞こえてくる。


「俺ら騒がしいからよ。他の奴らから離れた所にテント建ててんだよ。ほれ、入った入った。おい連れて来たぞ。飯残ってただろ。食わせてやってくれ」


「お、お邪魔しまーす」


「おー、入れ入れ。ほら、これ食って温まれよ」


中に居たのは男二人。酒を飲んでご機嫌のようだった。


「はー、温かくて美味しいです」


「だろ?ほれ食え食え」


遠慮せずに食べろとお代わりを入れてくれる。さっきまでの冷たい男とは違って優しい人達だ。少女はすっかり気を許して楽しくおしゃべりをしだした。


「寒いだろ?これ飲めよ」


進められたのはお酒だ。


「私、お酒はちょっと… まだ未成年ですし」


「なーに、俺らなんか10歳の頃には飲んでたぞ。別に未成年だからって飲んじゃダメって法律もねぇんだからよ」


少女は3人から飲め飲めと勧められて、ちょっとだけならと酒を口にした。


「なんかふわふわします」


「な、酒っていいもんだろ」


「ふへへへ、そうれすね…」


初めて飲んだ酒にフラフラになった少女。


「じゃ、そろそろお楽しみと行くか」


「お楽しみってなんれすか?」


「男と女がいりゃ、そりゃ決まってんだろ?」


今まで優しかった男達が自分の服を脱がせようとしてきた。


「な、なにするんれすかっ」


「いいから暴れんなよ。すぐに気持ちよくしてやっからよ」


「嫌れすっ。さ、触らなひでっ」


酒のせいで呂律が回らない上にふらふらとして上手く力が入らない。服を脱がされまいとジタバタ抵抗する少女の頬をバシンと男がビンタした。


「暴れんなって言っただろうがっ」


「ヒッ」


男に暴力を振るわれた少女は恐怖で固まった。


「連れて来た俺が一番だからな」


「ちっ、早く済ませろよ」


ガタガタと恐怖で震える少女をよそに誰が一番か順番を決める男達。


「いやーーーーっ」


男に覆い被されて少女は大声を出した。


「何やってんだお前らっ」


間一髪の所でテントを空けたのは見知らぬ女性。


「何だてめぇは?せっかくのお楽しみを邪魔すんじゃねぇよ。それともお前も参加してぇのか?」


「うるさいっ。その粗末な物を斬られたくなければその娘を離せ」


女性は剣を抜いた。男達は応戦しようと思ったが、後にも短剣と弓を構えた女が二人いる。それに酔っているこっちの方が分が悪い。


「ちっ、わかったよ。言っとくけどな、こいつにはタダで飯を食わせてやった礼をしてもらおうと思っただけだからな」


少女は助けてくれた女性に震えながら抱きついた。


「馬鹿だねぇあんた。ほらこっちに来な」


女性3人は少女を自分達のテントに連れて行ったのであった。


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