馬鹿者との出会い
マーギンは復活してから自分がなぜ石化されなければならなかったのを何度も考えた。初めはミスティに裏切られたと思っていたが、最後に見たミスティの顔は苦しく悲しそうな顔であった。
「あんな顔するぐらいならやるなってんだよな…」
いくら考えても答えの出ない疑問。それに千年以上前に起った出来事なのだ。いくら長寿だったミスティとはいえ、真意を聞こうにももう生きてはいまい…
マーギンは自分で思った「ミスティがもう生きてはいない」ということに心をがチクリとする。それを朝食と一緒に腹に流し込み、テントを収納して漁港街へ向ったのであった。
[ようこそ交易と漁業の街ライオネルへ]
ここは大きな街だが看板があるだけで門番もおらず誰でも入れる。漁港街といっても他領との交易も盛んなのでかなり栄えており、商人の出入りも多く物価が安い。それに王都では見かけない獣人がいるのが特徴だ。
勇者パーティーの一員だった時代にも獣人はいたが野性的で森の中で自然と共に暮らし、もっとケモノケモノしていた。ここにいる獣人達は人とそれほど変わらない。ケモミミや尻尾があるくらいだ。石化していた間に進化したのか人と交じりあった結果なのかは分からない。
マーギンは地引網漁をしている所まで移動する。
「お、やってるやってる」
小型の船で網を沖まで広げ、その網を力自慢の獣人達が砂浜で引き揚げるのだ。
「どっせー どっせー」
皆で掛け声を掛けながら網を引き揚げている。
「よー、いい魚捕れてる?」
「はぁー?なんだてめぇ」
魚は多く捕れてるものの内容は毒魚、所謂元の世界のフグとほぼ同じ魚が多く、漁師の獣人達は機嫌が悪い。毒魚は売物にならないのだ。
「俺はマーギン、魚を仕入れに来たんだよ。その毒魚捨てるんだよね?いらないなら頂戴」
「はっ、こんな厄介な魚をどうすんだてめぇ。まさか毒を集めて良からぬことを考えてんじゃなかろうな?」
「毒なんて集めるかよ。こいつを食うに決まってんじゃん」
「は?やめとけやめとけ。こいつを食って死んだ奴が多いの知らねぇのかてめぇ」
「大丈夫、大丈夫。ほら、魚仕分けるの手伝うからさ」
「やめろっ、素人が手ぇだすな。痛い目にあわねぇうちにあっちに行きやがれ」
こいつが大声を上げて威嚇するもんだから他の漁師たちも集まってきた。
「なんじゃ、騒がしいと思ったらお前か」
その中の指揮役の老人が声を掛けてきた。
「よっ、じっちゃん。今年ももらいに来たよ」
「頭(かしら)、知り合いですかい?」
「こいつはマーギンといってな。毒魚を食う変わりもんだ。今年も来たって事は死んでおらんかったということじゃな。マーギン、毒魚は全部くれてやるから仕分けを手伝っていけ」
「い、いいんですかい?こいつは素人じゃ…」
「新人は黙って見てろ。すぐに終わる」
「は?」
「よっしゃ、じゃ仕分けるよ。分け方は去年と同じでいいよね?」
「分け方なんぞ毎年変わらん」
マーギンは魚種別及び大きさを揃えて仕分けしていく。勿論魔法でだ。
「な、なんだこりゃ…」
去年も見ていたものはこの光景を初めて見て驚く新人をニヤニヤして見ている。
「おい新人、すげぇだろ。こいつは魔法使いなんだぜ」
「魔法使いってこんな事が出来るのかよ…」
大声を上げて威嚇してきた獣人が興味深そうに聞いてくる。
「興味があるなら魔法書売ってやるぞ」
「魔法書?」
「そう。俺は魔法書店をやっていてね、魔法を売ってるんだよ。この魚仕分け魔法は300万だけど買うか?そこそこの魔力を使うから魔力値が低いと使えないけどな」
「さ、300万だとっ?そんな高ぇもん買えるかっ」
「ま、手でやるのとそんなに時間が変わらんからもったいないのは確かだね。じゃ、じっちゃん、毒魚とこいつを貰って行くわ」
マーギンは売物にならないフグとエイを貰うことに。
「マーギン、エイのヒレはワシの分も残しとけ。後でワシの家で飲むぞ」
「はいよ」
一昨年初めてこの街を訪れ、今のようにじっちゃんこと地引網漁師の頭と一悶着したのだ。その時に仕分け魔法と解体魔法を披露した後にエイヒレを作ってマーギンは気に入られたのだった。
ー 頭(かしら)の家 ー
「じっちゃん、毒魚増えてんの?さっきの網は売物になるような魚少なかったよね」
頭の家で乾燥させたエイヒレを炙り、それに加えて唐揚、肝との煮付けにしたつまみで酒を飲みながら話を聞く。
「毒魚は毎年こんなもんじゃが、エイは年々増えとるな」
「あー、なら貝も減ってるだろ?」
「そうじゃ。こいつら売物にはならんくせに売物を食い尽くすから困ったもんじゃ」
手に持ったエイヒレを睨みながら頭は渋い顔をする。
「エイもこうして食えば旨いのにな」
「干した奴はまぁ売れるじゃろうけど、この煮物は無理じゃな。お前の持ってる醤油があってこそのもんじゃろ?こいつはやっぱり売らんのか?」
「やだよ。売物にする程作ってないからね。じっちゃんが使う分くらいはあげるけどさ」
「はぁ〜、困ったもんじゃの」
エイは処理するのが手間な割に食べられる所が少なくてヒレしか利用出来る部位がない。しかも素早く処理しないとアンモニア臭くなる厄介な奴だ。
「残った所は乾燥させて粉にすれば肥料になるんだけどね」
「それは前にも言うておったな。そいつは本当に売れるか?」
「試しに畑作って野菜作ってみたら?他所の野菜より旨い野菜が出来るようになったら売れるんじゃない?畑経験がないなら知り合いの農家に頼んで試してもらうといいと思うよ」
「農家の奴と連携か…」
「失敗しても大丈夫なように別畝で試してもらいなよ」
「そうじゃな。なんか新しい事を始めんと若いやつらを食わしていけんようになるからの」
「じっちゃんとこは魔石か魔結晶は手に入りやすい?」
「魔石なら問題無しじゃ」
「なら、魔道挽臼はプレゼントしてあげるよ。干した魚を肥料にするのには粉にしないとダメだからね」
「魔道挽臼が余ってるのか?」
「いや、作るんだよ。材料は持ってるから」
その後、マーギンは3日程掛けて漁の手伝いと魔道挽臼を作成した。
「ここがスイッチね。今日は魔法で乾燥させるけど、これからは天日干しで乾燥させてくれ」
漁師の奥様達に肥料の作り方を教えていく。乾燥させた魚のアラをある程度小さく砕いて魔道挽臼の投入口へ。
スイッチを入れるとゴロゴロと魔道挽臼が動き出し、乾燥した魚のアラが粉になって出てくる。
「この出た粉が肥料になるからね。効果がちゃんとわかるのはまだずっと先になるけど、実のなる野菜にあげるといいと思う」
「へぇ、なんかこのまま食べられそうな匂いだね」
獣人の奥さんは猫系だろうか?俺には旨そうな匂いとは思えないけど。
「毒は入ってないから食べても問題ないだろうけど、食べられるちゃんとした魚もたくさんあるだろ?」
「そりゃそうだね」
あーはっはとお互いをバンバン叩き合いながら笑う奥様方。世界や時代が変わっても奥様方は変わらんな。
マーギンは魔道挽臼のお礼だということでたくさんの魚の干物をもらったのであった。
その後は街で大量にお土産と自分のお楽しみのお買い物をして王都に帰ることに。
「気を付けろよ。最近魔物が増えとるみたいじゃしの」
「旨そうな魔物なら狩るから大丈夫。じゃあ、じっちゃん、また来年の今頃に来るよ。その時まで生きててね」
「縁起でも無いことを言うなっ」
今すぐにも頭の血管が切れそうだなと思いつつ漁港街を後にしたのであった。
帰りは少し寄り道する。街道から逸れて川がある方面に向かった。狙いは鴨だ。流れが緩やかになったワンドに水鳥が溜まるのを捕獲して帰ろう。
「お、いるいる」
マーギンはそっと近付き、辺りに人がいないことを確認した。
「よし、誰もいないなっと。パラライズ!」
鴨に向って麻痺魔法を放ち、動けなくなった所を風魔法で手元まで引き寄せた。
魔法で頭を撃ち抜き苦しむ間もないように〆めて解体魔法で処理をした。
これでてっちりと鴨鍋の具材をゲットしたので目的は完了した。来る時に寄った農村で野菜を買って帰るか。マーギンは夜になるのを待ってから街道を走る。寄り道した分、歩いて帰ると街道沿いで野営をする羽目になるのだ。
タタタッと馬車よりもずっと速いスピードで走っていると辺鄙な所で野営をしている馬鹿者がいる。比較的安全な街道とはいえ、魔物もいるかもしれないし、下手したら盗賊もいるかもしれないのに…
気にはなったが全ては自己責任だ。面倒事に巻き込まれ無いうちに走り抜けるか。と思った矢先に気配を探ると魔物が寄ってきているではないか。
「あー、やっぱり狙われてんな。この気配は狼か魔犬って所だな」
助ける義理も無いが声だけでも掛けておいてやるか。
マーギンはテントの外から声を掛ける。
「おい」
「キャーーーっ」
ったく、中にいるのは女かよ。
「驚かせてすまん。狼か魔犬に狙われてるぞ。戦闘態勢を取っとけ」
「えっ?」
「えっ、じゃない。こんな所で野営をしているなら魔物が来るのは覚悟の上だろうが。5匹程度の小さな群れだが逃げるには分が悪い。頑張って戦って生き残れよ。じゃな」
「まっ、待って」
テントからひょいと顔を出したのはまだ幼さの残る女の子だ。
「なんだ?俺は急ぐから用があるなら早く言え」
「むっ、無理です」
「何がだ?」
「狼や魔犬が5匹もいるなら勝てっこありませんっ」
「はぁ?こんな所で野営をしてんだ。これぐらい蹴散らせる余裕があるからじゃないのか」
「無理なものは無理なんですっ」
テントから顔を出して叫ぶ少女。
「そうか… 仕方がないな」
「助けてくれるんですか」
仕方がないとのマーギンの言葉にパァーっと表情が明るくなる少女。
「短い人生だったな。次生に幸あれっていうやつだ。では…」
「なっ、何よそれっっっ あんた男でしょっ!!こんな可憐な少女を見捨てるなんてどういうつもりよっ」
少女は必死だ。
「あのなぁ、男だからといって、なぜ見ず知らずのお前を俺が助けにゃならんのだ。それに魔物が近付いて来ているのを教えてやっただろうが。こんな事になるなら声掛けずに行くべきだったわ」
「そんな事言わないで助けて下さいぃ」
「俺を良く見てみろ」
暗闇の中で目をこらしてよくマーギンを見る少女。
「俺が丸腰なのがわかったか?戦おうにも武器は無いし、あったとしても得意ではない」
「自分だけならどうするつもりだったんですか?」
「走って逃げるに決まってるだろうが。足の速さには自信があるからな。じゃあ、来世で会えたら挨拶ぐらいはしてやるよ」
「そっ、そんなぁぁぁ」
少女がマーギンに冷たくされて半泣きになった時
グルルルルっ
ちっ、こいつにかまっていたせいでこんなに近くまで来やがった。
今のやり取りをしている間に、テントから顔を出す少女とマーギンを狼達が周りを囲んだのであった。
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