第六留

 次の日の早朝、僕は龍ヶ崎(二留)に呼び出され、空き教室にやってきた。

 六時半、一限より二時間も前の時間だ。

 いい迷惑である。


「……昨日は、ありがとう」


「あ、ああ……」


 宮沢一瑠も出席している。

 きっと僕と同様に呼び出されたのだろう。

 ちゃんと起きている。相変わらずとろんとした表情と姿勢だけど。


「その様子だと、仲良くなることができたみたいだね、マナブくん」


 龍ヶ崎(二留)が僕に耳打ちする。


「仲良く……?」


 別に、仲良くなどなってはいない。

 不法侵入と餌付けで親交が深まるものか。


「それで、一瑠ちゃんのことはわかった?

 お世話をする気になったかい?」


「……お前の言いたいことはさっぱりわからん。

 わかったことは、あの宮沢とかいうやつが少し有名人で、お前らよりもちょっとばかし頭が良いというくらいだ……」


 宮沢一瑠に食事を食べさせ終えた後。

 まず、僕は彼女が小学校の時に圏論を勉強していたということを疑った。

 疑いの思いから、色々な質問をふっかけまくった。

 彼女はぼんやりとした口調で、それでも全て的確に答えた。

 

 僕の知らないことまで。

 くそ、思い出すとまた悔しくなってきた……


「あとは、いつもぼーっとしていて、よく寝ているということくらいか……」


 小一時間ほどムキになって知識勝負を仕掛けた(認めたくはないが、彼女の知性は本物だった)のち、彼女は再び急に眠ってしまった。

 まるで、いきなりスイッチが切れたかのように。

 あれは一体なんなのだろう。不思議な女だ。


「ふぅん……ま、そのくらいわかっていれば大丈夫さ。これから頼んだよ」


「待て待て! もう少し説明を先にしろ! あいつは一体何者なんだ!」


「あー、そうだね。私としては、直接聞いてくれた方が嬉しいんだけど……ま、あとで詳しく説明するよ、彼女の事情についてね」


「事情……?」


「じじょう、じじょう、じょうじ……くふふ」


 え、急に何?

 龍ヶ崎(二留)は不敵な笑みを浮かべていた。

 相変わらず気味が悪い。


「っと、その前に……『留年部』についての説明が先だよ。今年の留年部の新入部員は、『いまのところ』君たち二人ということになってるんだ。他のメンバーは今日はいないけど……まあ、おいおいよろしくね」


 そう言って、龍ヶ崎(二留)は僕と宮沢に一枚の紙を手渡した。

 カラフルなイラストが散りばめられており、年間行事予定、と書かれていた。


【留年部 年間行事予定

 四月 新入生歓迎会(お花見)

 七月 合宿(花火もあるよ!)

 十月 もみじ狩り

 十二月 クリスマス会

 一月 初もうで

 ……


 ※その他、随時イベント開催! 】


「……なんなんだよこれはっ!」


 僕は怒り、腕を机に叩きつける。

 結局お遊びサークルと同じじゃないか!


「留年した人を集めて遊ぶことになんの意味があるんだ!?」


「そりゃ……楽しいからだろう?」


「楽しいことをしている場合じゃないと言っているんだよ!」


「だって、楽しいことをしないとまた留年しちゃうじゃないか」


「どういう理屈だ!? あーもうわからん!

 こんな甘ったれた活動、やってられるか!?

 宮沢もそう思うだろう!」


 宮沢一瑠は……もう寝てる!?





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留年って、勉強できないからするよりも、友達がいないとか、人生が楽しくないとか、そういう理由からしちゃうと思っています

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