第四留
よく考えたら、どうして僕が行かなくてはならないんだろう?
そう思いながらも、とりあえず足を進め、指示された住所へと向かった。
大学から徒歩20分、田んぼと田んぼの間にあるボロアパート。
すぐ隣には「世界人類が平和でありますように」と書かれた棒が刺さっている。
どうやら、ここが宮沢一瑠という子の家らしい。
昼間、龍ヶ崎(二留)と夏実に時間を奪われたせいで、すでに辺りは薄暗い。
くそ、僕から時間を奪いやがって、あいつら。
僕の四時間は、君たちの四時間の何倍も価値があるんだぞ!?
古びたインターホンを鳴らす。
昨今のハイテクなものとは違い、アナログなチャイムの音がちゃりんと鳴る。
反応はない。
もう一度鳴らす。
やっぱり反応はなかった。
「留守か? いや……」
窓からは灯りが漏れている。
おそらくだが、在宅だろう。
試しに玄関のドアノブに手をかける。
玄関の鍵はかかっていなかった。
「女の子の一人暮らしなんだから、もっと用心しないとダメじゃないか?」
そんなふうに独り言を言って、扉をわずかに開く。
殺風景な六畳程度の部屋だった。
ほとんどものの置かれていないその部屋の真ん中に……
人が横になっている。
もしかして、倒れている!?
だからインターホンにも応答できなかったのか!?
焦る僕。
焦るあまり、知らない人の家の中に入り込む僕。
どたどたどたと足音を立て、靴も脱がずに家の中を歩く。
そして僕は、部屋の真ん中にいるその人間の顔を覗き込み……
めちゃめちゃ可愛い女の子だった。
それまで自分が何を心配していたか、完全に頭から吹き飛んだ。
そもそも何しにきたのかも忘れていた。
「すぅ……すぅ……」
わずかに寝息が聞こえることに気付く。
そこでやっと、自分が彼女を心配して顔を覗き込んだことを思い出す。
「よかった、とりあえずは無事みたいだな……」
安堵しながら、改めて彼女……宮沢一瑠さんを見つめる。
やっぱり、可愛すぎる。
しばらくの間見惚れてしまった。
とはいっても、決して長い時間じゃない。
たった20分だ。
艶やかなストレートロングの髪や、長いまつ毛や、白い肌、中学生のような背丈をそれっぽっち眺めていただけである。
その、一瞬のような20分の直後。
「んむ……」
眠っていた彼女から、初めて音が鳴った。
そこで急に僕は我にかえる。
あれ、ひょっとして今の僕って不法侵入者?
途端に冷や汗が流れはじめる。
「ちょ、ちょっと待て!
僕は決してやましいことをしているのではなく……」
言い訳を始める僕を無視し、彼女は寝ぼけ眼のまま口を開く。
一体何を言われるのだろう。
だらだらと汗が流れる中……
「ごはん、ちょうだい」
それが、一瑠が初めて僕に喋った言葉だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます