第二留

「あーマナブくん紹介するね、この人が……」


「なるほど、全て繋がった……」


「は?」


 昔の知り合いからの連絡。

 カフェへの呼び出し。

 知らない第三者の同席。

 不適な笑み。


 導き出される答えは、一つしかない。


「……夏実、お前は入学式の時に配られた全ての書類に目を通したか?」


「いや、あんな大量の書類、誰も全部読んでなんかないと思うけど」


 やはりそうだった。なんて愚かな奴なんだ。

 頭が悪いからこそ、教養や常識を身につけなければならない、そんな単純なことも夏実はわかっていないようだ。


「書類の中に注意喚起があったはずだ。マルチで儲かるというのは幻想だ。ネズミ講は理論が破綻している。今すぐにこの美人の先輩と縁を切るんだ!」


「………………は?」


 僕はすぐさま席を立つ。

 このままでは夏実の人生が危ない!

 夏実の腕を掴み、強引に店を出ようとする。


「ちょ待てバカ! 話聞けよっ! 詩亜さんはそんな悪い人じゃないし、あたしだってそんなの引っかからないしっ!」


「ふざけるな僕はバカじゃないっ!」


「そこだけ拾うな!」


 無理やり腕を振り払った夏実。服の皺を直してから座り直す。


「あのさ……あたしも詩亜先輩も、そういう怪しいマルチ商法だとかネットワークビジネスとかマルチレベルマーケティングとか組織販売ビジネスとかリレーションビジネスとか連鎖販売取引とかじゃないからね?」


「やけに詳しいな……」


 そもそもそれらは全て同義語だったはずだ。羅列させたところでなんの情報量も生まれない。


「初めまして、私は龍ヶ崎詩亜。『留年部』の代表を務めているよ」


「詩亜……さん」


「ああいいよ敬語じゃなくて」


「同級生か?」


「いや、二年だから」


「ああ……」


 つまり、実質的には僕と同じ歳、というわけか。

 それなら確かに敬語を使う必要も……


「四年次二年だよ」


「めちゃめちゃ年上じゃないかっ!」


 結局、敬語は使わなかった。

 二留もするバカに敬意は必要ない。

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