第2話 慶一の巻 南方より弾を込めて(2)
「クソぉ、クソぉ…!なんでこんなことになるんだっ!」
司令室で一人敵軍からの猛攻を受けたことによる被害の報告書を読み、贅肉がつき鏡餅のような顎を震わせながら腹の底からでた野沢の叫ぶ声は虚しくも壁に吸い込まれていった。
帝国軍は48万人で連合軍22万人が守る第一首都を包囲していた。帝国軍は属国や第2、3軍の職業軍人が布陣する中、連合軍は全体の7割以上を民兵に頼っていた。
人数や兵の質、更に兵站や物資を見れば帝国軍の圧勝は約束されたも同然であった。だが、早期的に決戦を計画していた連合軍は首都近辺に無数の塹壕を掘らせ、首都には頑強な防壁が建てられていた。
「案の定苦戦しているな。」
慶一は敵軍から奪い取った塹壕内で呟いた。第38師団は作戦通り首都陥落を目指して猛攻を食らわしていたがそれと引けを取らない手痛い反撃を喰らい作戦開始から2週間後には両者睨み合う展開が続いていた。
そんな中慶一にとっては吉凶併せ持った伝令が届く。
第2首都にて第2連隊と第40、44師団が連合軍2個連隊相当との戦闘に入ったとのことだ。
しかも第40、44師団の団長らとその参謀や他の上級将校がその戦闘による砲撃により死亡、他にも弾薬庫にも砲撃が着弾したことにより弾薬の補給作業中であった第2連隊が大損害を被った。
これにより首都内の帝国軍は大混乱に陥り、まとまった指揮が取れない状況での戦闘が行われているとのこと。
幸いにも物量に勝る帝国軍が第2首都で小隊〜中隊規模で戦闘をしている連合軍を各個撃破しているらしい。
この情報は一部の将校にだけ明かされたものであり、前線での混乱は免れた。
「ここまで手痛くやられるとは予想していなかったな…。」
未だに頻度は落ちたとは言え砲撃が続く戦場の真ん中で慶一は目の前のことよりもこのことがどう影響してくるのかを何パターンもシミュレーションしていた。
「考えていても仕方がないか…。」
そう漏らすと慶一は自分の持ち場で煙草に火をつけた。
「随分と苛立っているようで。」
彦太は慶一の目の前に立つと相変わらずの笑みを見せる。
「……黙っていろ。」
「おぉ、怖い怖い。」
その殺気に本当に身震いしながら彦太はその場から去っていった。
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