第1章 第9話

 なにかトリックがあるに違いない、と店主は語る。


「直接見る方が早いかもしれやせんね。裏通りを角まで行って右に直進すると、やつらのテントがあるはずです。毎晩、ショーをやってますからきっとご覧になれやすよ」


 店主に礼を言い、テントのある方角を進む。見えてきたのは本当にサーカス小屋と見まがう、というかおそらくサーカス小屋の舞台装置を買ったのだろうテントが建設されていた。入り口近くでは、聖書らしき本を配る灰色のケープを着た女たちがいる。


「どうぞ!」

「……どうも」


 おっかなびっくりに、二人は薄っぺらい聖書をもらいテントの中へと入る。五十人ほどの観客が入れる空間、奥の段差の上にステージがあった。ステージには書き物机が、椅子には少年が腰かけていた。さらさらと何かを万年筆で紙に書いている。


 もしかして、あの男の子が教祖様?


 教祖が手紙を書くという情報が正しければ、この怪しげな組織のリーダーはまだ十歳くらいの少年ということになる。黒髪に利発そうな顔の少年は熱心に筆を書き進める。


「あの少年、実は凄腕の魔術師だったりするんですか?」


 魔術には気配があり、同じ魔術師同士なら近くにいるだけで魔術が発動しているか識別できると授業で習ったことがある。

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