第1章 第10話


「魔術の気配はない……」


 アシスタントと思わしき、顔に仮面をつけた燕尾服の男が言う。


「では本日はあなたの願いを聞きましょう!」


 燕尾服の男が手を差し出したのは最前列にいるろうばだった。腰の曲がった老婆は感激した様子で男の教祖である少年に礼を言う。


「私の願いは死んだ夫ともう一度話すことです。天国にいる夫は楽しくやれているのかお聞かせください」


「なんと美しい夫婦愛でしょう!」


 仰々しく燕尾服の男が両手を広げて観客に訴えかける。


「この海のように広い愛に、果たして答えることができるのでしょうか!?」


 たしかに演出だけを見ると、宗教の集会や説法を解く場というよりも。マジックショーが行われているような感覚だ。周りにいるのも信者というより観客という目線でこのショーを観覧している。


「それでは教祖様。よろしくお願い致します」


 燕尾服の男が恭しく少年に礼をする。少年はこくりと頷くと目を閉じ大きく息を吸って、それからかっと目を見開いた。それから怒涛のスピードで羊皮紙に文字を書き連ねていく。

 ヴィンセントは何も言わず視線だけローランに送る。今は魔術は使われているのか問いかけようと思った。しかしローランは首を横に振る。魔術は使われていない、という判断だった。

 燕尾服の男が書かれていく文章を読み上げる。

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