第16話 手当

(何でしたっけ...サヴマ?あれ使った影響で記憶が一部思い出せない...1回死んだっぽいですね...)

 モルテは他人の致命傷を肩代わりできる。ミディ達は確かに絶命したはずだがモルテのサヴマにより生き永らえることができた。だがそのしわ寄せはモルテにやってくる。モルテが代わりに致命傷を負ったことで死に、蘇生の際に記憶が一部消えたのだ。

「モルテ?ぼーっとしてるけど大丈夫?どこか怪我したの?」

「何でもないです。早く帰りましょう」

「それなんだけど...ナハトの怪我酷いしフィロのとこ寄らないか?」

 ミディはナハトの身を案じていた。

「寝れば治る...から...だいじょぶ...」

 苦しそうに言葉を紡ぐナハト。

「ナハトに賛成です。あまりフィロに借りを作らない方がいいし、あまり外を出歩かない方がいいです。どこで誰が見てるかわかりませんからね」

 モルテは神界の敵だ。ナハトとミディは神に狙われている。それに炎神と関わりがあるセイラに勇者の力を持ったマレク。いずれも危険視されている。それにフィロは悪人ではないが善人でもない。実験が好きで珍しい種族や体質の者、珍しい症状などにしか興味を示さない。

 ナハトやモルテはとある条件と引き換えに治療を施されてはいるがあまり頼りすぎてはいけない。

「……わかった」

 ミディは渋々納得した。ナハトのことをとても大切に思っているようだった。


「遅かったな」

 帰るとステラとレーベンが待っていた。こんな時間まで家を守ってくれていたようだ。

「ひどい怪我を…すぐに手当します」

「ステラ、いいのか?」

「目の前の怪我人を放っておくことなどできません。以前あなたと出会った時もそうです」

「…そうか。なら俺は止めない」

 レーベンは納得したようだ。それを一瞥するとステラは回復魔法を使用する。

「回復魔法!?使える人が滅多にいない魔法だ…初めて見たよ」

 マレクは目を見開いて驚いている。

「これでも魔王ですから」

 微笑むステラ。その実力は凄まじくナハトの怪我のほとんどを治してしまった。

「と言っても怪我の全てを治すのは難しいですね。特に腹部の大穴。これはしばらくかかるかと」

 心配そうに傷口を眺めるステラ。無理もない。狙撃銃の銃弾が貫通したのだから。常人では即死である。

「ナハト…ごめんな俺のせいで」

 俯くミディ。そんなミディの頭を乱暴に撫でるナハト。

「わ」

「な〜にしょげてんの。むしろこんな危険な弾がミディに当たんなくて良かったよ」

「ナハト〜〜〜うう」

 目に涙を浮かべるミディ。

「泣くな泣くな」

 笑うナハト。二人は本当に良き相棒のようだ。

「俺はもう休むね。早く怪我治さなきゃ」

 そう言って自室に消えていくナハト。

「では我々もそろそろお暇しますね。長居してしまい申し訳ございません」

「いやいやすごく助かりましたよ。ありがとうございます」

 頭を下げるモルテ。

「お力になれたのなら良かったです。それとモルテさん」

「あまりそういったはなさらぬよう」

 にこりと微笑むステラ。冷や汗をかくモルテ。この魔王はどこまで見透かしているのだろか。恐ろしい限りだ。

「モルテ?」

 様子のおかしいモルテにマレクは疑問符を浮かべる。

「…俺も少し疲れたみたいです。もう休みます」


「…っ!!ぅ…ぐ…あ゙」

 苦悶の声を漏らさぬよう必死に耐えるナハト。ナハトは痩せ我慢をしていた。大切な相棒に悟られぬために。マールスの弾丸は相手を苦しめることに特化しており激痛をもたらしていた。更にナハトは常人より痛みを感じやすい。到底耐えられるわけがない。しかし必死に耐える。大切な人のために。心配をかけないために。彼は優しい嘘つきだ。


 今回のダンジョン攻略はマールスの妨害により失敗した。だがそれだけで諦める彼らではない。今日はひとまず休もう。時には休息も必要なのだから。

 

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