第15話 マールス
ダンジョン。それは何故できたのか、いつできたのか全く不明の遺跡。地上に存在するものと地下のあちこちに根のように張り巡らされているものがある。その文明は現在文明よりも高度とされており、謎が多い。分かっているのは危険な魔物が大量にいることと、貴重な遺物が多く存在することだけだ。
「地下ダンジョンか〜〜〜そんで何回層?」
「43階層ですね」
「はあ!?ふっか!!というか人間の最高到達点超えちゃってるし...」
ダンジョンは果てがなく、未だに最下層に到達できた者はいない。しかし一度到達した層には同じパーティーに属するものなら自由に行き来ができる。それ故モルテさえいれば43階層に行くのは容易だった。
「そんなことよりナハト」
満面の笑みのミディがナハトに迫る。
「俺に嘘付いたな?危険な場所から遠ざけるためだな?」
「あっはいすみませんでした...」
ナハトはミディにだけは弱い。
「モルテ。聞いていい?」
「なんですか?」
「勇者様は人類の味方なのになんで神に捕まったの?」
「...人類を守るために禁忌を犯したからです」
「禁忌?」
「まさしく神業、とでも呼ぶのでしょうか。それが気に入らなかったんでしょうね神界は」
「そっか...」
禁忌とはなんだったのか。詳しく聞きたかったがマレクはそれ以上追求しないことにした。モルテが言いたくないのを察したからだ。
道中は非常に快適だった。時間こそかかるもののモルテとナハトがいるため魔物など脅威にすらならなかった。
「最深部ですね。ボス倒してから探索しましょう」
43階層の一番奥に到達した。各階のボスを倒せば次の階層に行くことができる。
ボスは大きな翼に硬い表皮。最強の種族であるドラゴンだった。
「馬鹿な...」
目を見開き衝撃を受けるモルテ。
「そんなに強いの...?」
不安になるマレク。
「いやドラゴンとかいう大物が43とかいう中途半端な階層のボスなの信じられないでしょ!」
「めちゃくちゃどうでもいいね。硬そうだから俺やるわ」
呆れつつも臨戦態勢を取るナハト。モルテは戦えないマレク達の側にいて守っている。これでナハトも満足に戦えるだろう。剣を抜くナハト。
力強く踏み込んだナハトが――消えた。否、視認できない程のスピードでドラゴンの背後に回り込んでいた。ドラゴンが背後にいるナハトに気づいた頃には。
「遅い」
ドラゴンの首が両断されていた。ドラゴンの表皮は硬い鱗で覆われているためまともに刃が通らない。だがナハトは相手の防御に依存することなく一切合切を無視して切ることができる能力を持っている。それはどんなに硬い相手でも、概念でも、能力や魔法でも。何でも切ることができる。
ドラゴンの絶命を確認するとモルテたちの元に戻ろうとするナハト。だが様子がおかしい。左目を抑えて苦しそうにしている。
「逃げろ!!」
ナハトがそう叫んだ瞬間、モルテ達の周りに夥しい量の銃が出現する。
「ば〜ん」
呑気な声が聞こえたと思えば銃がモルテ達の元に撃ち込まれる。ナハトはこれを咄嗟に予見していたのだ。
(ミディ達は...!!いや、モルテがいるから大丈夫だ。俺は大元を叩く――)
目を閉じるナハト。感覚を研ぎ澄ませる。
「そこ!」
剣を投擲する。金属音と共に剣が撃ち落とされる。
「わあ」
男が姿を現す。黒い髪に黒い目、黒い身なりをした怪しげな男だった。
「うわ...まだこんなことしてたんだ...マールス」
マールスと呼ばれた男は妖艶に笑う。
「ナハトか〜君には興味ないんだよね。ご退場願おうか」
ナハトに大量の銃が襲いかかる。
「げほっ」
瓦礫の山をどけるモルテ。モルテは咄嗟に氷の壁を作ってみんなを守った。だがマールスの攻撃はそれで防げるほど生易しいものではない。幾度と戦ってきた彼はモルテに効く攻撃を的確に繰り出してくる。それ故モルテは無効化能力である程度の銃弾を消す必要があった。この銃はマールスの能力で作られたものだ。モルテの能力なら消すことができる。だが量が多すぎる。負荷が大きかったのかモルテの口から血が滲む。
「モルテ!?何が起こったの!?」
状況が把握できていないマレク。
「マールスですね...俺の同期の魔族で何かと俺にちょっかいかけてくるめんどくさいやつです」
「大丈夫...?」
モルテの血を心配そうに覗き込むセイラ。
「平気です。それより俺もナハトに加勢します。結界を貼ったのでここから動かないでくださいね」
そう言ってマールスの元へ駆けて行くモルテ。それを悔しそうに眺めるマレク。
(勇者様の力を受け継いだのに...ただ見てるだけしかできないなんて...強くなりたい...)
「あ〜〜〜!!もう!!しつこいな!!不死身ってほんと厄介!!」
苛立つマールス。
「俺もそう思うよ。でも君に何度でも立ち向かえるのなら不死っていうのも悪くないね」
ナハトの体にはいくつもの穴があった。マールスに撃たれたのだ。普通なら死んでいる傷だがナハトは死なない。痛みはあるがナハトは長年痛めつけられてきた経験から、ある程度の痛みには慣れている。
マールスの実力は圧倒的だがナハトは何度でも立ち上がる。それによりマールスは少しずつ消耗させられていた。ナハトの剣がマールスの頬を切り裂く。
「チッ...ん?」
マールスは気づいてしまう。ナハトを心配そうに見ているミディの姿を。勝ち誇ったように笑みを浮かべるマールス。能力で作り出したのは巨大な狙撃銃。その銃口の先にあるのは――
「っ!!ミディ!!」
いち早く狙いに気づいたナハトはミディの方に駆け出す。だが間に合わない。
パンッ!
その勢いに煙が舞う。結界が一撃で破壊されたが銃弾の勢いは止まらない。煙のせいで無事が確認できない。
煙が晴れたところには無傷のミディ達がいた。
「ん?確実に撃たれたはずなんだけどな」
疑問符を浮かべるマールス。
「まあもう一発撃てばいい話だよね」
すかさず2発目を撃つ。
パンッ!!
「っ...よかった...今度は間に合っ...た」
ナハトの腹部に大きな風穴が開いている。
「ナハト...!!バカ!!」
ミディは泣きそうになっている。
「その人間を守って怪我するなんて。本当に愚かだねナハト。戦える君が怪我したら意味ないのに」
ため息をつきながらナハトに追撃しようとする。
「意味はある...よ...」
「だって俺は一人じゃないから」
息も絶え絶えのナハトが苦しみながらも言葉を紡ぐ。
その瞬間――
「は?」
マールスの体に穴が空いていた。
「おっそ...」
「色々あって遅くなりました。ナハトの分、お返しします」
「モルテ...!!!会いたかったよ!!!!やっと俺と殺し合いしてくれるの!?」
負傷しながらもモルテと戦えることに喜びを隠せないマールス。
「毎度毎度本当にキモいですね...残念ながらあなたに構ってるほど俺は暇じゃないんですよ」
氷の壁をマールスの周りに張り巡らせるモルテ。
「今のうちに!」
ナハトを担いで出口へと駆け出すモルテ。マレク達も後へ続く。
「待ってよ!!死ぬまで殺し合おうよ!!どうしていつも最後まで戦ってくれないの!?」
激昂するマールス。
「嫌がらせです」
下を出すモルテ。その瞬間ダンジョンの転送装置が起動し離脱に成功する。
「間一髪でしたね。仕方ないので今日はもう帰りましょう」
マレクが言いづらそうにモルテに語りかける。
「モルテ...結界が壊された時確実に僕達撃たれたと思うんだけど...一体何が...?」
モルテは人差し指を首元に当てる。
「ナイショです」
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