ナハト編:サヴマ

 痛い。痛い。こんなにも痛いのに死ねない。つらい。みんな死んだ。自分だけまた生き残ってしまった。これがいつまで続くのだろうか。


 また視えてしまった。昨日話した人間の死を。周りの人の死を。もう見たくない。こんな目はもう隠してしまおう。


 ナハトは焼け落ちた村の前で呆然としていた。昨日ここにはたくさんの人間がいた。それなのに。未来を視ていれば救えただろうか。自責の念がナハトを襲う。



 ナハトの精神は限界に達していた。近くの木の幹にもたれかかる。

(もう疲れたな...でも死ねないし...どうするか)

「大丈夫?」

 そこにはいつの間にか人がいた。ナハトにはただの人間に見えるのだが明らかに異質の存在だった。ただ者ではない。

「誰?」

「僕はアーディ。君を助けてあげようと思ってね」

「はあ...」

 あまりにも胡散臭いため警戒するナハト。

「まあそう警戒しないでよ。この世にはね、強い意志を持った生物が強く願いを持ったときに発現する力があるんだ」

「俗に言う奇跡、みたいなものかな。僕はサヴマって呼んでる」

「君の願いは何?」

「俺の願い...願いは...」

「死にたい。俺は長生きしすぎた。死ねないまま周りの人の死を見ていくのにもう疲れた」

「...そう」

 悲しげな目をするアーディ。

「僕もサヴマを持ってるんだ。だから君の力になれると思うよ」

 そう言うとナハト両手を握りしめる。

「さっきのを強く願って」

 改めてナハトは願う。思えばこの数千年間、その途方も無い長い年月はナハトに苦痛しかもたらさなかった。ナハトより長生きできる生き物など滅多にいない。それによりどうしても周りの生き物の死を視てしまう。死にたくても死ねない。どんな怪我をし苦しみを味わっても死ぬことができない。そんな日々はもう散々だ。早く楽になりたい。

 そう願うと、ナハトの体が光り始める。光は次第に収束し、ナハトの体内に入ってきたような感覚を覚える。

「これは...?」

「やっぱり僕の見込んだとおりだ。君のサヴマが目覚めたようだね」

 アーディはナハトから手を離し、今度はナハトの体に手をかざして何かを読み取ってるように見える。

「なるほど...これは面白い能力だね」

「分かるの?」

「うん。これは簡単に言うと何でも斬れる能力だね。概念や回復能力、防御力を無視して斬ることができるまさしく必殺の刃だ。たぶん不死身の力も無視して斬れると思うよ」

「そっか...これでやっと死ねるんだね...ありがとう」

 嬉しいような悲しいような表情を見せるナハト。

「僕は何もしてないよ。君の力だ。それをどう使うかは君次第だ。君の幸せを願ってるよ」

 そう言い残すとアーディは始めからそこにいなかったかのように消えてしまった。

 この後ナハトは死のうと試みるがまさか一人の人間に邪魔されることになるとは思っていなかっただろう。


「おい。干渉しすぎだ」

「いいじゃんラズル〜彼の力は役に立つからね。発現されないと困る」

「これもお前の計画の内か?」

「うん。彼と違って僕は死にたくないからね」

 そして2人は今日も世界を敵に回す。

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